京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURA の読書ノート『あなたの日本語だいじょうぶ?』

2023年12月02日 | KIMURAの読書ノート

『あなたの日本語だいじょうぶ?』
金田一秀穂 著 暮らしの手帖社 2023年7月10日

祖父が金田一京助、父親が金田一春彦で著者も言語学者というのは、誰もが知っていることである。その著者のエッセイが本書。但し、エッセイと言っても書かれている内容はすべて「日本語」についてである。

第1章から第3章まではコロナ禍においての「日本語」及びAIについて書かれてある。不要不急の日常となり、大学の講義や仕事はリモートとなり、日常が大きく変わった時、言葉はどのようにリモートの中で変化していったのか、そして改めて日本語の持っている本質というのが浮き彫りになっていることが綴られている。更にはAIが発展する中で外国語教育は必要なのかというところまで言及している。そして第4章は巷で見聞きする日本語について綴られている。

その中で印象的だったが幾つかあるが、その1つが若い人が創り出していく言葉についてである。まず、どの言葉に関しても著者はそれを肯定しているという点で驚き、更にそれらの幾つかを分析し、結論に至っている。その方法というのは、とても筋道のたったもので、特例があるものの現在構築されている文法に基づいて言葉は変化しているということを改めて知ることとなった。またコロナ禍において頻繁に耳にした「不要不急」という言葉。この言葉に対して、テレビのコメンテーターたちが『「不要不急」の定義を示せ』と言っていたが、このような発言は「愚か」だと著者は一蹴している。日本語は日本の文化の上に成り立っていて、その曖昧さが秩序として保たれてきた伝統があると語る。更には自分の行為がどうなのか、自分で判断できなくてどうする、自分で考え、自分で判断し、自分で表現できるような人になることが教育の目的と言及している。

本書を読んで日本語に限らず言語は流動的だということを改めて感じた。「今の若い者は」と今も昔も流行りの言葉を使うと大人はついそのようなことを言いがちであるが、それを言う事自体がナンセンスでその流行り言葉がその時代を作り、新たな言葉の形成の役割を担っていることを知った。著者の軽快な文章に躍らせられるように読みがちになってしまうが、どの項目も一旦立ち止まってその言葉と今の社会の状況を照らし合わせざるを得ない内容となっている。

そして、最後の項目は「卒業」についてである。テレビを観ているとアイドルグループの1人がそのグループから「卒業」するというのをしばし目にする。これに関して著者は「終わることを卒業と言い換えている」とし、卒業は何らかの学業を終えてこれから先は一人前になるという節目だとしている。それだったら、これまでのアイドルグループの活動は練習か、もしくは半人前の修業期間だったのか、そのような状態に自分たちは付き合わされていたのかと疑問を呈している。そう思われないためにも政治家は「卒業」とは言わないと言う。なるほど、政治活動中、うっかりと暴言や差別的な発言をした人でも確かに辞める時だけは「引退」と言う。そこを間違えたら、もっと叩かれることを無意識に知っているのだ。このことは、「終わりよければ全て良し」ということが身に付いてしまっているとも考えられないだろうか。この考えが政治家の中に植え付けられているとしたら、「引退」という言葉さえきちんと言えれば、活動中は何を発言しても構わないということであろう。そんなことをつい思ってしまった。そして、気持ちは暗澹となるのである。

             文責 木村綾子

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