『神仏のなみだ』
桜井識子 著 ハート出版 2017年
本書を知るきっかけとなったのはかれこれ半年ほど前の新聞広告。詳細は覚えていないが、その紹介文に「東日本大震災の津波到達ラインにあった寺社」という感じの文言があり、興味惹かれたのは記憶にある。図書館で検索してみたところすでに多数の人が予約をしており、そんなに人気本だったのかと正直驚かされた。とりあえず、「右に習え」ではないが私もそのまま予約し、半年後の今となって手にしたわけである。
「はじめに」の冒頭で、著者はこれまでも「神仏のありがたさ」について書いてきたと記しており、民俗学を学んでいる人だという印象を受けた。しかし、ページをめくると「東日本大震災が起こったあの日、神様や仏様はどうされていたのか……」「亡くなられた方が多くいたのはどうしてなのか、助けることはできなかったのか……」という文章が目にとびこんでくる。そして、第一章では、国内の小さな神社を巡ったことを綴っているのであるが、訪れた神社の紹介をした後、(私にとっては唐突に)「手を合わせて祝詞を唱えてみると、出てきたのは、月代を剃ったお侍さんでした。半裃を着ていますから、江戸時代の武士だと思います」とある。思わず、前の文章に戻り、この文章がどこから出てきたのか思わず読み返し、更に著者の略歴を調べるために、奥付にページをとばす。著者の祖母は霊能者、祖父は審神者でその影響を受けて育つとある。一般的に言われるスピリチュアル系本であったことにこの時初めて気が付いたのであるが、それでも「東日本大震災」時の寺社については気になったため、読み進めていった。
第二章がその「東日本大震災」に関わる内容となっている。本書によると、この津波到達ラインには多数の寺社があり、津波がこの寺社の直前で止まったり、境内は浸水しても社殿は被害を受けずにすんだというところが多かったようである。著者は実際その津波到達ラインに沿って建っている寺社を巡り、彼女の力により、神様と交信し当時の様子を聞いたものを寺社ごとにまとめている。正直、著者と神様の対話についてはどう捉えていいのか私自身は迷うところである。しかし、それ以外の寺社の現在の様子や当時の状況、そしてその背景というのは、小さな寺社であればあるほど、表に出てくることはなかなかないので、興味深く読むことができた。また、神様の力かどうかは別として、先人たちがここに寺社を建てたという事実は、それ以前からの歴史的、自然的背景や伝聞があったと考えられる。今よりも科学技術は発達していなかったにしろ、その科学的根拠は何某かあったわけで、先人たちの教えや語り継がれたことを決してないがしろにしてはいけないということを本書はそっと伝えてくれているような気持ちにさせてくれる。
本書では13の寺社を廻っているが、もっとここにスポットを置いた構成であれば、民俗学的な内容に関しても更に掘り下げられたのではないかと感じた。もちろん、この感想はあくまでも私の個人的な趣味の領域であるが。
本年も残すところ後半月。新しい年を迎えると多くの人が初詣に行くことになる。そこに科学的根拠を求める人は多くないだろう。日本の習慣と言えばそれまでだが、今年最後の「読書ノート」が半年待ちの本書であったことを素直に「縁」と受け止め、初詣では少しばかり神様との対話にチャレンジしてみるのも悪くないと思った。
======= 文責 木村綾子