京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

『ネット選挙~解禁がもたらす日本社会の変容』

2013年10月21日 | KIMURAの読書ノート
2013年10月定期その2
『ネット選挙~解禁がもたらす日本社会の変容』(一般書)
西田亮介 東洋経済新報社 2013年6月13日


今年の4月に「公職選挙法」が一部改正され、選挙に関わるネットの活用が解禁となった。そしてこの夏にはその法律のもとで参議院選挙が行われた。

ヘビーユーザーとまではいかないにしても日常的にネットに依存した生活をしている私がこの法律改正によって候補者の情報収集が変わったかと言えば、実はまったくそのようなことはなく、今までと何も変わらない選挙であった。自分を中心に考えてはいけないが、もしかしたらこの解禁によっても何も世間の状況は変わっていないのではないかという漠然とした疑問が終わってみて脳裏をかすめたのは事実である。かと言ってその答えを追い求めるわけでもなく、時間が過ぎていっているところに、ひょっこりと私の目の前に本書が現れた。

先に各章立てを紹介する。

序章:「ネット選挙」とは何か?
第1章:間違いだらけのネット選挙論
第2章:ネット選挙解禁の土壌、日本の事情
第3章:2012年までの日本のネット選挙の歴史
第4章:2012年衆院選から2013年の動向
第5章:ネット選挙を考えるためのヒント
第6章:日本の議員達とソーシャルメディア
第7章:ネット選挙解禁がもたらす変化
終章:ネット選挙が日本の民主主義をよくするには?

この中で、まさに私のいちばん知りたかった「一般の人は候補者の公約をネットでじっくりと見たのか」ということ。これが意外な形で記述されていた。

第1章「(4)ネット選挙で日本の政治環境が変わる?」では人口ボリュームと投票率のことが書かれているのであるが、そもそも2010年の人口統計によると、20歳代の人口は約1391万人。60歳代は1838万人。投票率は60歳代だと84.15%。20歳代だと49.45%ととなり、仮にネット環境になじんでいる20歳代が100%ネットにより候補者を選び投票に行ったとしても、60歳代より多くの投票数にならないという計算になるのだ。

また、第5章には、いち早くインターネットに興味を持ちHPを立ち上げた加藤紘一氏がジャーナリストの津田大介氏と語ったコラムが掲載されており、そこでは津田氏に、ネットの支持が自分の行動を後押ししたのではなく、サイトを立ち上げたことがテレビ報道で取り上げられ大きな反応となったと応えている。つまり、ネットの反響はテレビ報道によって左右されるというわけである。
そうなると、本当の意味でのネット解禁は何なるのだろうかという新たな疑問が生まれてくる。もちろん、著者はそこにもきちんと言及している。それを要約すると政治家がネットを活用することにより、政治家自身が情報の流れやスピードを把握し、またその情報は国内だけでなく世界にもつながっていることをまず実感することというわけである。

もっともな話である。政治家の中でもネットを活用する人とそうでない人の格差が素人目にもくっきりと浮き彫りになっている。ましてや政治は国内にとどまるものではない。世界を相手にしていかなくてはならないのである。現在の世界各国の状況をリアルタイムで知ることはネットのいちばん得意とするところであろう。まずは政治家がそれを認識しろというのが、この選挙法の改正の意図であったとするならば、率先して政治家がネットリテラシーを身につけるべきであろう。
と同時に私たち国民は、テレビや新聞などの既存の報道というものを一歩引いた形でこれまで以上に捉えていかなければならない。ますますメディアリテラシーの必要性を実感する1冊となった。

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『こおり』(児童書)

2013年10月03日 | KIMURAの読書ノート
2013年10月 その1
『こおり』(児童書) 福音館書店 前野紀一 文 斉藤俊行 絵
2012年

これまでもたくさんの絵本を手にしてきましたが、それを読むたびに読者対象は子どもではないのではと思う作品に出会ってしまいます。今回はそのような作品をご紹介します。

それが「こおり」。福音館から刊行されている「たくさんのふしぎ」のシリーズなのですが、こちら示している対象者は小学3,4年生。

「冷凍庫の氷には、きまってこんなふうに白いところやちいさなあわがはいっています。これはなんだと思いますか?(p3)」

という投げかけから始まるのですが、6ページの冒頭になると「水の分子たち」という見出しになっています。「分子」という言葉って中学校で始めて出てくる用語ではないでしょうか。この見開き1ページは丸ごと「分子」の説明です。このような記述もあります。

「分子のかたちは分子の種類によってちがいます。水の分子は、まっすぐにのびた2本のうでと2本の葦をもっています。両手を高くひろげて、足を前と後ろに大きくひらいたかっこうをしています」(p7)

ここでの絵は、左上の水道の蛇口から水がでたものとなっており、その中に色とりどりの風船と両手両足を広げた女の子がたくさんちりばめられています。これが、分子のイメージとしての絵なのでしょう。

続いて次のページは「水から氷へ」。前ページでちりばめられていた女の子が手足を使って、正六角形を呈したつながりを持つ絵となっています。「氷のジャングルジム」という表現で文章は表されています。

また、興味深い話題も提供しています。「色のついた氷はできる?」とここでは書かれています。氷は透明もしくは白(少々不透明)が当然と思っておりましたが、この作品を読んでそういえば色のついた氷って見たことないなとようやく気がつく次第。作品中では水の入ったグラスに透明な赤や青、黄色、紫などの氷が描かれています。「夏の日はもっとたのしそうです」とあるように、確かにちょっとこのようなグラスを見るとあの猛暑の中の清涼剤になることはまちがいないでしょう。しかし……。

そしてこの話題は、グラスの中から一気に海へ、更には北極海、そして深い海の底にまで広がっていきます。

「こおり」と一口に言っても、私たちが目にする氷は「こおり」の世界のほんのわずかであることを思い知らされます。目の前の氷が深海と結びついているなんて大人でも早々結びつくことはできません。

またこちらは、今年度の全国青少年読書感想文小学校中学年の部の課題図書ともなっております。小学生には少々難しいとも感じるこの作品を、子どもたちが何を発見して、それをどう語ってくるのか、とても興味が沸いてきます。

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