『卒業の歌』
本田有明 作 PHP研究社 2010年
校内放送で職員室に呼び出された6年生の翔太。「おばあちゃんが入院した」ということを聞かされ、その足で病院に向かう。骨折しただけであったが、七夕の日が誕生日のおばあちゃんは病院でその日を過ごすことになる。そこで翔太と姉のマオはおばあちゃんに誕生日プレゼントのリクエストをしたところ、「歌がいい。翔ちゃんの作った」と答えるおばあちゃん。歌を作ったことのない翔太は気が重いまま病室を後にしたところ、病院の受付に同じクラスの細川さんがいることに気づく。その日は彼女の姿を遠目に帰宅の途についたものの、後日おばあちゃんのお見舞いに行った時、再び彼女に出会う。そこで翔太は彼女におばあちゃんからのリクエストのことを話すと翔太が作った詩に彼女が曲をつけてくれるという。実際に出来上がった歌はおばあちゃんが「子守歌」として気に入ってくれる。同じ頃、学校では2学期に行われる合唱コンクールの曲を決めていた。翔太のいる3組はまとまりがなく、合唱コンクールも全体的に士気が下がっていた。しかし、翔太と細田さんがおばあちゃ
んのために歌を作ったことを耳にしたクラスメートが自由曲を創作曲で挑戦してはどうかという提案をしてから、クラスが徐々にまとまっていく。テーマは「卒業」。そして、2学期の初め歌が出来上がり、更にクラスが一つになっていこうとしている最中、細川さんが、合唱コンクールを待たずしてアメリカに引っ越すことがクラスに告げられる。
この作品はわずか160ページの児童書であるが、思わずハッと考えさせられる場面が随所に織り込まれている。とりわけ、翔太と細川さんの家族構成とその背景。子ども達に分かるように平易な言葉で描写されているため、さらっと読んでしまうとその作者の真意を読み過ごしてしまいそうになる。しかし、そこにある言葉は決して簡単に片づけることのできない、今の日本の直面している家族の形というのをしっかりと示してくれている。
そして、テーマとなる「卒業」。学校を卒業するということが大きな意味となるが、それだけでなく、そこに至る過程で更に一回り成長する子ども達の姿が丁寧に描かれている。誰もが迎えたことのある「卒業」であるが、自分自身を振り返ってみてもなかなか渦中にいる時は客観的にその姿を捉えることができない。それをこの作品を読むことで、もしかしたら自分にもこのような成長があったのかも知れないと思わせてくれる安堵感に包まれる不思議な作品でもある。
この作品で翔太と細川さんが作った歌は合唱コンクールのために作ったものであるが、あくまでも自分たちの「卒業」に向けて作っている。3組のメンバーはもちろん、卒業式でも歌う気満々。しかし、作品は合唱コンクールの場面で終わっている。この後、卒業式で3組はどのような形でこの歌を歌うのか、いやその前に3組はどのように卒業式を迎えていくのか。その姿を読者にゆだねられているのもこの作品の醍醐味である。そして巻末には翔太と細川さんが作った歌2点が楽譜で掲載されている。この楽譜により、更にこの作品の世界に浸れる粋な計らいとなっている。
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文責 木村綾子
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本田有明 作 PHP研究社 2010年
校内放送で職員室に呼び出された6年生の翔太。「おばあちゃんが入院した」ということを聞かされ、その足で病院に向かう。骨折しただけであったが、七夕の日が誕生日のおばあちゃんは病院でその日を過ごすことになる。そこで翔太と姉のマオはおばあちゃんに誕生日プレゼントのリクエストをしたところ、「歌がいい。翔ちゃんの作った」と答えるおばあちゃん。歌を作ったことのない翔太は気が重いまま病室を後にしたところ、病院の受付に同じクラスの細川さんがいることに気づく。その日は彼女の姿を遠目に帰宅の途についたものの、後日おばあちゃんのお見舞いに行った時、再び彼女に出会う。そこで翔太は彼女におばあちゃんからのリクエストのことを話すと翔太が作った詩に彼女が曲をつけてくれるという。実際に出来上がった歌はおばあちゃんが「子守歌」として気に入ってくれる。同じ頃、学校では2学期に行われる合唱コンクールの曲を決めていた。翔太のいる3組はまとまりがなく、合唱コンクールも全体的に士気が下がっていた。しかし、翔太と細田さんがおばあちゃ
んのために歌を作ったことを耳にしたクラスメートが自由曲を創作曲で挑戦してはどうかという提案をしてから、クラスが徐々にまとまっていく。テーマは「卒業」。そして、2学期の初め歌が出来上がり、更にクラスが一つになっていこうとしている最中、細川さんが、合唱コンクールを待たずしてアメリカに引っ越すことがクラスに告げられる。
この作品はわずか160ページの児童書であるが、思わずハッと考えさせられる場面が随所に織り込まれている。とりわけ、翔太と細川さんの家族構成とその背景。子ども達に分かるように平易な言葉で描写されているため、さらっと読んでしまうとその作者の真意を読み過ごしてしまいそうになる。しかし、そこにある言葉は決して簡単に片づけることのできない、今の日本の直面している家族の形というのをしっかりと示してくれている。
そして、テーマとなる「卒業」。学校を卒業するということが大きな意味となるが、それだけでなく、そこに至る過程で更に一回り成長する子ども達の姿が丁寧に描かれている。誰もが迎えたことのある「卒業」であるが、自分自身を振り返ってみてもなかなか渦中にいる時は客観的にその姿を捉えることができない。それをこの作品を読むことで、もしかしたら自分にもこのような成長があったのかも知れないと思わせてくれる安堵感に包まれる不思議な作品でもある。
この作品で翔太と細川さんが作った歌は合唱コンクールのために作ったものであるが、あくまでも自分たちの「卒業」に向けて作っている。3組のメンバーはもちろん、卒業式でも歌う気満々。しかし、作品は合唱コンクールの場面で終わっている。この後、卒業式で3組はどのような形でこの歌を歌うのか、いやその前に3組はどのように卒業式を迎えていくのか。その姿を読者にゆだねられているのもこの作品の醍醐味である。そして巻末には翔太と細川さんが作った歌2点が楽譜で掲載されている。この楽譜により、更にこの作品の世界に浸れる粋な計らいとなっている。
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文責 木村綾子
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