京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

蓮華寺の雪

2014年02月18日 | KIKUの庭


                      KIKUの庭の椿


数日前京都に今年3度目の雪が降り、私は昔目にした心に沁みるような蓮華寺の美しい雪の風景を想い出しました。
その日近所の友達から電話でお誘いがあり、タクシーを頼んでわざわざ雪を見に八瀬の蓮華寺(京都市左京区)まで出かけて行ったのでした。

門の前に人ひとり分、雪かきがしてあり、扉がひっそりと開いていたときの嬉しかったこと。
八瀬の地の雪の深さに、もしや閉門しているのでは、とちょっぴり不安でしたから。

痛いほどに冷たい縁側に正座して、きりりと冷えわたる庭の空気にふれながら、私たち女3人、声もなく数十分を過ごしました。
おもいおもいの形に雪を頂いている木々、遠くに白く煙る比叡の山並み、シャーベットを溶かしたような池の面、時折り吹く風とともに南天や竹からささっと舞い落ちる雪の花、白い綿にくるまれてところどころに顔をのぞかせている真っ赤な椿、池の端にはかすかに赤い万両の実・・・。

視野の右端では、私たちのために、渡り廊下の雪を掃いてくださっている作務衣の竹箒がせっせと動いていて、まるで夢の世界のようでした。
寂しいほどにしんとしている雪の風景が、ひとたび日差しを浴びるとたちまち華やかに輝いて、雪の大きな不思議を見つけたような気もしました。

歳を重ねてこの頃、あまりに美しい自然の光景を見るとき、感動のあまり、なにか“哀しみ”と表現したいような気持になることがあります。
若いころには無かったことです。

感情の成熟なのか、単なる老化なのか、見極めにくいところですね。



       


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『3・11を心に刻むブックガイド』

2014年02月18日 | KIMURAの読書ノート
『3・11を心に刻むブックガイド』(一般書)
草谷桂子 著 子どもの未来社 2013年11月

東日本大震災からまもなく3年を迎える。あの震災後、さまざま関連する図書が出版された。
それを1冊にまとめ、紹介しているのが本書である。

第1章 絵本で伝える3・11
第2章 児童文学からみる3・11
第3章 科学の本から3・11を検証する
第4章 マンガで読む3・11

章立てから子どもたちに伝えるための本を集めていることが分かる。
しかしそれはもちろん子どもだけのものではなく、大人が読んでも、いや大人が読むからこそ向き合える本が数々含まれている。
例えば、長谷川義史が描いた『東北んめえもんのうた』(佼成出版社 2012.03)は表紙からもページをめくってもおちゃらけた雰囲気のもつ絵本である。
しかし、背景の細部には東北ゆかりの宮沢賢治や柳田国男、伊達政宗、野口英世などの人物が描かれており、それがその人物だと理解するにはかなりの知識が必要であり、また彼らを描いた作者の意図と心のうちは大人でなければ理解するのは難しいであろう。
本書は決して子どものために「役立てる」というわけではないことをここに強調しておきたい。

本書の多くは震災後に関連本として新刊として刊行されたものというのは当然であるが、震災以前に出版されて、震災後に新たに復刊・重版となったものも含まれている。
つまり、震災とは関係のないところで、出版されたはずなのに、震災が起こり、改めて手にすると、震災後だからこそ、そこに本当の重要性に気がついたと言うわけである。
その中より2冊を引用しながら紹介する。

『うみねこいわてのたっきゅうびん』
(関根栄一・文 横溝栄一・絵 小峰書店 2012・05復刊)
うみねこに依頼された卵を、八戸から宮古まで運ぶことになったキツネのたっきゅうびん屋さん。卵はていねいに包装されて、三陸鉄道で運ばれます。道中で、いろいろな人間に化けたキツネが次々に飲み込み、タマゴはリレー方式で大切に目的地に運ばれます。1990年10月初版の本ですが、東日本大震災で被災した三陸鉄道復旧支援のために復刊されました。震災前の三陸リアス線の自然の美しさが味わえます。(p15)

『いのちの時間』
(ブライアン=メロニー・文 ロバート=イングペン・絵 藤井あけみ・訳 新教出版社 1998.11)
あとがきによると、訳者はヒューストンでチャイルド・ライフ・スペシャリストになるための研修を受けているとき、エイズ末期の五歳の男の子がこの絵本を読んでいる場面に出あい、リアルな生物たちの絵とタンタンとした語り口に圧倒されます。この絵本は、短い美しい詩と、ていねいに描かれた絵で、さまざまな動物たちの、それぞれの「いのちの時間」について静かに語りかけています。 ~中略~ 3・11以降重版されて、注目されている絵本としてご紹介しました。(p34)

本書1冊に紹介された本だけでは語りきれない震災。しかし、ここを再度起点にしてまだまだ終わりを迎えない震災について深く見据える必要があるだろう。 

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『子どもの貧困と教育機会の不平等』

2014年02月01日 | KIMURAの読書ノート
『子どもの貧困と教育機会の不平等~就学援助・学校給食・母子家庭をめぐって』(一般書)
鴈咲子 著 明石書店 2013年

2012年にユニセフが発表した先進35カ国での子どもの相対的貧困率において、日本はワースト4位の14.9%であり、日本における貧困層が拡大されていることはかなりメディアでもとりあげられるようになった。しかし、まだまだその認知度は低いように思われる。本書では現在の日本の子どもたちが置かれている現状を様々なデータから報告している。

本書の特徴としては「様々なデータ」が著者におけるアンケート調査ではなく、厚労省や文化省そして、各自治体のものを使用している点である。そこから何が見えてくるのかという分析とともに、今の日本には何がかけているのかという指摘にまでそれは至っている。

まず最初に、このデータを見て気がついたことがある。国や自治体はこのようなデータを得ていながら、国民はその数字やデータというのをあまり知らないということである。インターネットや役所などに行けばきちんと公表されている。しかし、それはあくまでも意識してそれを見に行かなければ届かない距離のように感じる。そもそも、どのような内容のものが統計として取得しているのかすらわからない。実際本書には東京都福祉局が、ひとり親世帯に生活保護制度利用の有無を調査しているが、「制度を知らない」という回答が年収100万円未満では7.8%となっている。しかし、「その他・無回答」は「制度できない理由がよく分からない」(つまり、申請はしたものの却下され、それ以後していない)というのが含まれているという。結果的にこれは「制度を知らない」のと同じであると著者は指摘している。また、全国の自治体に「就学援助に関する教職員向け説明会」を行ったかどうかを調査したところ(回答率60%)、「行っていない」という自治体が約70%にのぼっていることが分かる。これらからだけでも、いかに国民にデータや制度などをアナウンスしていないか分かるが、本書ではこれ以上に赤裸々な状況が綴られている。

また、第6章では、「母子家庭の母にとってのパートタイム労働」について取り上げられている。ここは、正直母子家庭だけの問題ではなく、パートタイム労働をしている家庭全てにあてはまる内容となっている。実際、私も今年、このパートタイム労働の年収においてとても腑に落ちない出来事に遭遇しあたふたしてしまった。本来ならセーフティーネットとなるはずの社会保障が、社会保障となっていないだけでなく、生活に不可欠な「収入」の足をひっぱり、更には生活保護からの脱出(自立)の機会すら奪ってしまう結果となっていることがここでは思い知らされることになる。

本書は昨年刊行されたということもあり、これまでない内容が一つ盛り込まれている。それが、第7章「災害と子どもの貧困」である。東日本大震災からまもなく3年が経つ。あの時その地域の避難所にとどまった人たちは、映像にてかなり映し出されたが、首都圏を避難の場所として移動した人たちの様子がここでは記されている。子どもを抱える家庭では首都圏の避難所で何が起こっていたのか、著者の言葉を借りれば「子どもの剥離状態」がそこにあったのである。「剥離状態」とは何かは本書を実際に手にして、理解してほしい。

日本は1994年「子どもの権利条約」に批准した。これは法的拘束力を持つ国際法として、国連加盟国が共有すべき原則、即ち国家や文化、時代背景に関係なく、人類社会に生まれたすべての子どもに適用されるべき原則が成文化されたものである。しかし、批准後3回の勧告を国連子ども権利委員会から受けている。著者は、子どもは「今」置かれた状況を大人になった時に「当たり前」と思ってしまう。だからこそ、「今」子ども達が置かれた状況を改善しないことには、次世代を担えないと伝えている。

先日、東京都知事が辞任した。5000万円をめぐる問題であった。その額は、給食費(1年間分)を支払えない子、約1250人分となる。この日本で給食だけが命綱の子もかなり多くいるのが現実である。つまり、この額で1250人の東京都の子どもが救えるのである。次回都知事になる人はこの人数の重みを考えて欲しい。

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