京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『産褥期 ~産んだらなんとかなりませんから~』

2015年07月17日 | KIMURAの読書ノート
『産褥期 ~産んだらなんとかなりませんから~』
吉田紫磨子 著 吉岡マコ 編 ブックウォーカー 2015年4月

妊娠期間中に関する書籍は多様に書店で見つけることができる。そればかりか、新聞や雑誌などのあらゆる記事でも取り上げられ、現在では「マタニティーマーク」のキーホルダーも母子手帳と一緒に配布されるようになった。それだけ、「妊婦」が病気ではないにしろ、身体に大きな変化を及ぼすということが認知されてきたとも言える。

しかしながら、産後の体について書かれているものというのは余り見かけることがない。著者は、第1子を産んだ後、「産後うつ」となり、そこから産後の女性の心身をリハビリするクラスに出会い、ついにはそのインストラクターとなっている。そして、本書は第2子出産直後から書いた自分の心と体の変化を日記として記したものである。

実際に私も20年近く前に子どもを産んでいるが、本書を読んで初めて知った事実がたくさんある。例えば出産後1か月間。この時期は基本家事も一切せずに横になっていなければならないと言われている。しかし、一般的な自然分娩の場合、傷口があるわけでなく、案外動けてしまうものである。私自身、退院した直後から最低限の家事どころか、買い物にも行っていた記憶がある。そして、月日が経ち、原因不明の体調不良に襲われることになった。その体調不良が「産後の肥立ちが悪いため」と診断が下りたのは、なんと出産から10年後のことであり、それでもその要因は我が子の長期間続く「夜泣き」だと本書を読むまで思っていた。しかし、ここには1か月完全に横になっていなければならない理由が簡潔に書かれていた。「妊娠・出産で体の内部が傷ついているため、それを回復させるのに1か月かかる」と。今更ながらに合点した次第である。「産後の肥立ちが悪い」というのは、子宮をはじめとした体の内部の傷が治っていないということなのである。そもそも、妊娠・出産で体内が傷ついているという発想すらなかった。

あとがきに、著者はこう綴っている。

「当時の痛々しい産褥期について、恥を忍んでさらしたのは、現代日本で『産褥期の養生』が根付かないカラクリが見えてくるからです。産褥婦自ら、家事、育児を抱え込み、夫にすら遠慮するメンタリティー。頼るのは血縁のみで、第三者を頼るという発想すらない家族観。妊娠・出産・育児は女性の仕事ととらえる社会認識……。」(p138)

子どもを出産するということは、妊娠期間中だけでなく、その後の養生がどれだけ大切なのか、そしてその時期をどのようにして乗り切っていくのか、とてもゆるい日記のように見えるが、多くの重要事項が盛り込まれた内容になっている。これから子どもを授かりたいと思っている人だけでなく、すでに子育てが終わった人たち、何よりも少子化対策に力を入れている(のか?)政府の方々に是非とも読んでもらいたい1冊である。  【文責 木村綾子】

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KIMURAの読書ノート『ヘンな本大全』

2015年07月01日 | KIMURAの読書ノート
『ヘンな本大全』
井上裕務 編 洋泉社 2015年3月

図書館や書店の棚を巡っていると、思わず手にしてみたくなるタイトルの本に出会う。もちろん、自分が興味のある分野のものが多いが、中にはタイトルそのものが妙で、好奇心にそそられ手にするものもある。本書もまさにそれ。『ヘンな本大全』タイトルがすでにへんてこである。が、ページをめくって驚くべきことを知る。ここ10年くらいだろうか。「本屋大賞」や「新書大賞」など、これまでの文芸に対する権威ある賞とは異なる、もっと読者に身近な賞が数々設立された。その中に、なんと「珍書大賞」なるものも創設されていた。本書に掲載されている受賞本がまさに第1回の受賞作品である。

この賞は日々、ツイッターで珍書速報を流し、『本の雑誌』で珍書新刊を紹介し続けているハマザキカクが、その年に刊行された新刊の中から特に珍書度の高いものを各部門別に選んだものである。しかし、珍書として認定された本の著者が必ずしも喜ぶとは言えない上、スポンサーもいないので、表彰や賞品などは一切ないようである。これに選ばれた本の著者はありがた迷惑な賞ということになろう。

各部門はかなり細かい。「珍写真集大賞」「珍図鑑大賞」「珍デザイン大賞」など21部門。それに加えて全体的に「珍」ということで「珍書大賞」が最上に掲げられており、トータルで22部門となっている。

それでは、各部門ではどのような本が選ばれているのか。私が個人的に目を惹いたのが、『珍ノンフィクション大賞』。受賞作品は『殉愛』。昨年亡くなったシンガソングライターのやしきたかじんさんの晩年を作家百田尚樹氏が綴り、ちょっとした騒動になったあの作品である。認定理由もまさに「もっとも物議を醸しだした本」とし、それ以上の説明はいらないとしている。「物議を醸しだした」という理由もさることながら、認定者の心のうちは、この騒動からもしや「ノンフィクション」ではなく、著者の「妄想・脚色」が多く含まれた疑いを持ったため冠に「珍」をつけて、受賞させたのではないかと私は勝手に想像している。

また、本書は更にコラムニストやフリーライターなど、本に関わる方々に上記の賞とは別に「ヘンな本」を数冊取り上げてもらい、それについてコメントしている。本書の多くがこちらに多くのページを費やしているが、これがまた面白く読み応えがある。例えば、コラムニストの石原壮一郎さんが選んだ「ヘンな人生相談本」。ここには元幕僚長で何かと話題になる田母神氏の『田母神俊雄のそうだったのか自衛官のホンネ~自衛官のお悩み相談~』を紹介している。現役自衛官の悩みをあくまでも真面目に応えているのであるが、どうも今の国民感情を逆なでするような回答もあるようである。と思えば、田母神氏の著書のお隣は『悩める日本共産党員のための人生相談』だったりする。右か左かと偏りすぎている両者を「珍」として受け止めず、比較して読むのが楽しく、正しい読み方のような気がする。

同じくフリーライターの石原たきび氏が選んだ「ヘンな酒本」には『こどものためのお酒入門』というのがある。冗談半分で刊行したものではないようで、現在中・高生にしばし読まれている「よりみちパン!セ」シリーズ(イースト・プレス社)の一つであるというから驚きである。

また「ヘンな哲学本」には折口信夫の『死者の書 口ぶえ』が紹介されている。このように見てみると、名著・有名著と言われるものも見方によっては「珍書」ということになるのだろうか。もしかしたら、「珍書」と思わずに真面目に読書していた作品が本書に紛れているかもしれない。それを発掘するのも本書の醍醐味となるであろう。
               (文責  木村綾子

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