京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート フィンランド育ちと暮らしのダイアリー

2017年12月23日 | KIMURAの読書ノート


フィンランド育ちと暮らしのダイアリー』。
藤井ニエメラみどり 著 解説 髙橋睦子 かもがわ出版 2017年8月10日
 
今年も残すところ半月ばかりとなった。今年の読書を振り返ってみると、少しだけ興味の幅が広がったことと、かつて読んだ大掛かりなシリーズ物の小説を読み直し始めたことだろうか(小説は読みっぱなしで、余り再読することはない。しかもシリーズとなっては皆無である)。読書の幅が広がったという理由は間違いなくフィンランドという未知の国を訪れる機会に恵まれたことにある。それまでフィンランドは私の中では、ステレオタイプの「福祉の国」「サンタクロースの国」「ムーミンの国」というだけであった。しかし、このような機会が与えられたということで、訪問前の事前学習という名の関連本をむさぼることで、より具体的な福祉の制度を知るばかりか、建築の世界においても名だたる国であ
り、おかげで世界各国から視察団が訪ねてくる図書館も見学することができた。帰国後も旅の余韻を消すことなく、書店や図書館に行けば「フィンランド(もしくは北欧)」と冠のつく本を当たり前のように目にするようになり、世の中にはこんなに関係する著書が出版されているのかということを今も目の当たりにしている。そのような訳で、今年を締めくくる読書ノートもフィンランド関係にしたいと思う。
 
本書はフィンランド人との結婚を機会に夫の地で生活することになった著者のフィンランドでの日々を綴ったものである。本書のタイトルは「ダイアリー」となっているため日記のように日付入りで記されているが、ただの日記ではなく各項目にまとめられていて、重なる内容はほぼない。著者が見聞き・体験したフィンランドの姿であり、それがフィンランドという国全体を表すわけではないが、少なからずステレオタイプのフィンランドを脱却することはできるのではないだろうか。
 
著者自身が3人の男の子の母ということ、そしてフィンランド国内で「学習支援員」という資格を取得し、現地の学校で働いているため、内容的には教育や福祉の割合が本書では多くなっている。しかし、それだけでも興味深いことが多く書かれてあった。
・筆記試験の入試はないものの学校での成績で進学先を振り分けられること。
・公教育に母語教育が保障されていること(フィンランド公用語以外を母語にする人達に対して)。
・義務教育の間は、ノートや鉛筆1本に至るまで無償であること。
・授業は現場の教師の采配に任されていること。
・18歳から立候補権あるため、10代の市議会議員も比較的多いということ。
などなど。
 
 そして何よりもあえて特記しておきたいことが一つ。ここ何年か日本では「待機児童問題」つまり、保育園が足りないことが問題となっている。しかし、フィンランドでは共稼ぎが当たり前でありながら、「待機児童問題」はない。それは「保育園」がたくさんあるからではない。3歳まで、育児休業が夫婦で取れること、それに対して給与(生活)が保障されているため、0歳児から入園は可能であるが、あえて3歳までは「保育園」入れないのである(そのため、フィンランドでは「保育園」という概念はなく、全て「幼稚園」と言われている)。この件に関しては、著者の綴ったことに併せて第3章で、フィンランドの社会の仕組みや歴史を分かりやすく説明されているので是非目にしてもらいたい。「保育園」と
いうハードなものを増やせばいいのか、それ自体視野が狭くなっていないか、考える余地はないだろうか。 日本とは歴史的・社会的背景、そして自然も風土も全く異なるこの国から、様々なことを日本に取り入れるのは難しいことだと正直思う。しかし、他のことはともかく、今日本は「働き方改革」として政府は様々な取り組みをしている。「働くこと」と「生活すること」は直結してくる。生活の保障さえあれば、あっという間に「働き方」も改革されるのではないだろうか。それは国が変わっても同じ事だろう。
 
12月6日にフィンランドは建国100周年を迎えた。わずか100年で人々が暮らしやすい国の上位にランクインされるほどとなった。しかし、それでもフィンランドは著者の言葉を借りれば「改革と検証がこれからも続く」とある。今後フィンランドがこの「改革と検証」を進めて、どのような国に変わっていくのか、私自身もう一度訪れてこの目で確認したい。そのような思いをさせてくれる1冊であった。

文責 木村綾子

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KIMURAの読書ノート [皇室ってなんだ!?]

2017年12月03日 | KIMURAの読書ノート
『皇室ってなんだ⁉』
竹元正美 著 扶桑社 2017年9月30日

日本の皇室は世界最古の「王朝」であると、ギネスブックに登録されているという。日本人にとって「皇室」は「皇室」であって、「王朝」というとあまりピンとこないというのが本当のところではないだろうか。大辞林によると「王朝」とは「同じ家系に属する国王の系列」とあり、確かに「日本」の場合、教科書や、日本史の書籍でお馴染みの「天皇系図」で一代目神武天皇から現在の125代今上天皇まで2600余り途切れることなく続いているのを目にすることができる。本書は、まずこのような「皇室」とは「天皇」とはという形式的なところから始まり、皇室の「公務」について、「伝統」、更には天皇陛下が「祈って」いることまで、36のQ&A方式で構成されている。

筆者は現在の天皇陛下が皇太子時代に東宮侍従を務め、後に宮内庁式部副長、また外交官としても海外で天皇陛下をはじめとする皇室の方々のお手伝いをしていた経歴を持っている。私達国民が知らない皇室の素顔を間近で見守っていた一人であり、文章の間には皇室に対する敬意と、親しみをより感じ取ることができる。だからこそ、天皇陛下が昨年の夏に発したお言葉に対しても、陛下のお気持ちをくみ取った上で、本書ではその説明を記している。それは、この「お言葉」だけではなく、全般を通して、きちんとした時代背景を伴うものであり、分かっているようで分かっていない「日本史」としての「皇室」や、「天皇」の立ち位置についても記述している。

前述したように、本書はQ&A方式で構成されているが、その中でも私がお勧めする項目は、
Q8……諸外国の「王様」と、「天皇」はどう違うの?
Q11……ニュースでよく聞く「ご公務」って、なんのこと?
Q15……皇室の伝統行事を教えて
Q25……国事行為の宮中祭祀が少ないのはなぜ?
Q27……今上陛下の皇室外交に特徴はある?
Q32……今上陛下はどうしてそこまで危機感をおもちなの?
Q36……国民は天皇に対してどうあるべき?
 
Q32は分かりづらい質問となっているが、これは昨年夏の天皇陛下がお言葉を述べられたのには「危機感」があるからであるという筆者の指摘とその考察になっている。このQ32の項目を読むだけでも今上天皇が、これまでの天皇家2600年の歴史の重みを感じつつ、今を生きている国民のことをただ一途に考えていらっしゃることが分かる。「天皇」と言いながらも、一人の人間である。それを独りで背負われているのかと思うと、Q36の筆者の問いかけは読者として、日本国民としてきちんと受け止めなければならないだろう。

まもなく、天皇陛下のご退位の日が決定される。本書を読むと、それまでより一層天皇陛下にはご自愛頂き、現皇太子殿下は今上天皇をはじめとする歴代天皇や皇室の培ったものを無事に引き継いで欲しいと願うばかりである。国民の誰もが無意識のうちに感じていることかもしれないが、それが恐らく「日本」そのものなのだと思う。

文責 木村綾子

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