『東京六大学のススメ』
東京六大学研究会 著 カンゼン 2016年
大学をカテゴライズして示す言葉として、「関関同立」「MARCH」「日東駒専」などあるが、これらは全て同じような偏差値を基準としてまとめられている。その中で、唯一偏差値でカテゴライズされていないのが、東京大学・慶應大学・早稲田大学・立教大学・明治大学・法政大学を一括りにした「東京六大学」である。本書はこの東京六大学を目指す人、いや、目指したくなる様に仕向けている進学ガイドブックである。
そもそもこの偏差値を超えた「東京六大学」は一体何なのか。私自身、この言葉を聞くと、大学野球をイメージするのだが、まさにこの言葉の出発点は学生野球リーグに由来するらしい。しかも、本書によると、この野球リーグは創設からすでに90年を超えるとのことである。1903年に行われた早慶戦が起点となり、その後に、明治、法政、立教、東大の順に加盟し、1925年に現在の六大学の体制で試合が行われ、現在に至るようである。このような経緯により、日本の野球を引っ張って来たという自負があり、そのまま六大学のブランドを刷り込んだと本書には明記してある。
さて、本書はこの六大学をそれぞれの視点から比較して、偏差値とは異なる六大学の魅力を語っている。第1章では前述した「六大学とは」ということも含め、それぞれの大学を個別に紹介。第2章は「数字で見る六大学」。偏差値はもとより、就職率や生涯賃金、犯罪報道まで、多種多様な数字が散りばめられている。第3章は「くそbot」として、自ら通っているそれぞれの大学のSNSにあげた自虐ネタを拾い集めている。在学生やOB、OGが自校をどのように捉えているのか垣間見ることができ、なかなかに面白い。そして、第4章は後述するとして、第5章。六大学以外から見る六大学。偏差値的には他大学(六大学以外)が高い大学と比較し、それでも六大学の方が勝てるという強気な理由がそこに述べられている(ex:慶應の商学部が京大に負けない理由)。……というような形で第11章まで本書は綴られている。第6章以降もなかなか一般的な進学ガイドブックでは取り上げられない内容となっており、ガイドブックというよりは、読み物としてかなり楽しむことのできる構成である。そして、第4章。もし、この章立てがなければ、私は本書をここで取り上げることはなかったであろう。ちょっと面白おかしい読み物的なガイドブックで済ませていたはずである。
その第4章のタイトルは「LGBTから見る六大学」。第4章以外の章立ても他のガイドブックではなかなか取り上げられることがないとは言え、それでも、どこかしらの雑誌の企画ページなどではありそうなテーマである。しかし、この章だけは、他の章とは異なるオーラを放っている。なぜ、あえてこのテーマをしかも、第4章という場所に取り込んだのか。それは著者が学生時代に経験した出来事に関係するようである。まず章の初めにその経験が5ページ半に渡って綴られている。そして現在の六大学のLGBTに対する活動や支援についての取り組みが紹介している。著者の調査によると、早稲田大学ではすでに1991年にLGBTのサークルがあったそうで、これらのサークルや団体は今や自分達の所属する大学構内だけでなく、国際的にも活動している。
本書は2年前に刊行されている(この夏の某国会議員の発言にのっかったものでないと言いたい)。著者の体験が起点になって本書の中に組み込まれたとは言え、少なからず本書を読む限り、「東京六大学」における「LGBT」に対する意識や認知というのは、ここ最近になって始まったことではなく、すでに身近な存在であることが分かる。六大学以外の大学の状況は分からないが、少なからず某国会議員よりは学生の思考は柔軟で、様々な文化に対応した学生生活を送っていることも見て取れる。そりゃ、著者が「東京六大学」をおススメするのは最もである。
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文責 木村綾子