京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『48歳で認知症になった母』

2024年02月15日 | KIMURAの読書ノート

『48歳で認知症になった母』
美齊津康弘 原作 吉田美紀子 漫画 KADOKAWA 2022年

原作者、つまりこの作品の主人公である美齊津氏の経歴は一見華々しく見える。1973年福井県出身。防衛大学卒業後、実業団のアメリカンフットボール選手として活躍。その後介護の道に進むのであるが、彼が防衛大学校に入学することになったのも、タイトルにもなっているようにお母様の認知症が大きく関わっていることを知ると驚くのではないだろうか。本書は母親の認知症発症時から現在までの様子をコミックエッセイという形で表された作品である。

原作者が小学5年生の時、母親の認知症が発覚。原作者は父親、母親、姉、兄の5人家族であったが、父親は会社を経営しており、その片腕として働いていた母親(妻)が病気になったため、全てを一人でやりくりをするため朝早くから夜遅くまで働くこととなり、家には寝に帰るような状態となる。姉はすでに結婚をし、夫の家族との同居で帰省するのもままならず、兄は高校生であったが、自室に引きこもるようになる。そのような状況下で自然と原作者が学校から帰ると母親の見守りをする立場となる。彼が中学生になると兄は県外の大学に進学。これまで以上に原作者に負荷がかかってくる。

今、社会問題となっている1つ、そして子どもに対する虐待という認識にもなってきている「ヤングケアラー」はまさに原作者自身のことであった。この作品には複数の視点が用意されている。ヤングケアラーとしての原作者の視点。認知症を患った母親の視点。会社を抱える父親の視点。家事を担うことになった叔母の視点。そして、原作者の姉、兄の視点。正直誰も幸せな未来を描くことも出来なくなっている現実がそこにあった。とりわけ当時は介護保険があった訳でもなく、身内が病気になった場合は身内でカバーするしかない状況は今とは比べものにならない程である。原作者は現在介護の道を選びケアマネージャとして日々奮闘しながら、「うちにもケアマネジャーがいたら僕たちは救われたかもしれません」と語っている。

しかし、今ヤングケアラーとして家族の介護をしている子ども達に、介護保険のことを知っている子はどれくらいいるだろうか。もし知っていたとしても果たして申請を子どもだけでできるのであろうか。そもそも親の病気が介護保険を利用できるものなのかどうか。多くの疑問が残る。周囲の大人が先に手を差し伸べなくては何も動かないのは、介護保険があろうとなかろうと変わらないのである。それを見過ごしてしまうとどうなるのか。それがこの作品の中の原作者の姿である。恐らく、現実の世界はこの作品で描かれている状況よりもかなり過酷なのではないだろうか。この作品を読んで、子どもがどのような現状に置かれているのかという一端を知るには大切な1冊であると感じる。と同時に、現在このような境遇に置かれている子どもたちをどうしたら早く各自治体の福祉につなげることが可能か、改めて考える必要性がある。

     ===文責 木村綾子

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« KIMURA の読書ノート『福田村... | トップ | KIMURA の読書ノート『ざんね... »
最新の画像もっと見る

KIMURAの読書ノート」カテゴリの最新記事