『ドードーをめぐる堂々めぐり』
川端裕人 著 岩波書店 2021年
すでに絶滅した鳥で思い浮かべることができるとしたら「ドードー鳥」ではないだろうか。『不思議な国のアリス』や、ここ近年では『映画ドラえもん のび太と奇跡の島~アニマルアドベンチャー~』で登場しており、17世紀に絶滅はしたもののかなり身近に感じられる鳥だと思う。その「ドードー鳥」であるが、絶滅間近の1647年(享保4年)に生きたドードーが日本の長崎・出島にやって来たということが書かれた論文を著者は目にすることになる。その生きたドードーはその後日本でどうなったのか。そのことが著者自身とても気になり、彼の言葉を借りれば「どんどん深みにはまり『堂々めぐり』することになった記録(p2)」が本書である。
「出島ドードー」について論文を発表したのはリア・ウィンターズ(オランダ:アムステルダム大学の図書館員)とジュリアン・ヒューム(イギリス:ドードー研究の中心人物・ロンドン自然史博物館)である(二人の共同研究)。著者はジュリアンに連絡を取り直接面会して、「出島ドードー」のその後の可能性について検討する。そして、彼はそれを日本に持ち帰り、全国の関係がありそうな機関から史料を借り、ドードーの行方を追いかけていく。ここから、すでに日本ではドードーに関して研究をしていた研究者がいたことや、出島の発掘作業のことなどが明らかとなってくる。これが第1章の内容である。
第2章はもう一人の著者リアを訪ね、欧州における「ドードー鳥」の行方を追いかけている。そして、ここでは最古のドードーのスケッチやオックスフォード大学、ロンドン自然史博物館に所蔵されているドードーの標本を目撃することになる。
そして、第3章。ドードーが生存していたモーリシャス島に著者は出かけ、ドードーの発掘作業に加わる。ドードーの化石(正確には亜化石)が最初に発見されたのは1899年のことである。今世紀に入っては2006年が最後の発見となっているが、すでに化石はボロボロの状態で、今後化石としてきちんとした状態で見つかることは難しくなるようである。それは化石のありそうなところには木の根が生えており、これが毛細血管ごとく縦横無尽に走り、それに抱かれるように化石があるため、すぐに骨が崩れてしまう状態なのだという。そして、著者はこれらのドードーに関わる経験をすることで、ドードーのみならず、すでに絶滅していった動植物や絶滅危惧種に思いを寄せるのである。
日本にやって来た1羽の「ドードー鳥」から、日本の鎖国時代の知られざる世界が見えたり、標本を巡る各機関の駆け引きなどをうかがい知ることができ、かなり興味深い1冊となっている。何よりも「出島ドードー」に出会ってしまったことで、日本国内だけでなく、世界各国を右往左往しながら移動し「堂々めぐり」をする著者の姿や、今も尚ドードーを登場させる作品が多くあることを思うと、どれだけドードーは人を魅了させる鳥なのか改めてドードーに思いを馳せてしまう。そしてそのドードーが今この世界にいないことがとても不思議である。
文責 木村綾子