『「国境なき医師団」を見に行く』
いとうせいこう 著 講談社 2017年11月
「国境なき医師団(以下:MSF)」に知人を通して個人的に寄付をしていたところ、MSF広報より取材を受けることになった著者。その縁がきっかけで逆取材を申し込み、作家としてMSFの活動を記録したルポタージュである。
本書は、ハイチ・ギリシャ・フィリピン・ウガンダの四か国での活動が記されている。MSFの活動と言えば、途上国での診療活動のイメージがあるが、それは活動の一部であり、実際は多岐に渡るようである。著者自身、MSFから取材を受けたことでこのことを知り、自分でも現場で取材をし、原稿を書くことによってこのことを伝えたいという気持ちになったという。言葉の通り、診療活動に関しては、最後のウガンダで大きく触れられているが、他国ではそれ以外の活動を主軸に置いている。本書の中だけでも、ハイチの産科救急センター、性暴力被害者専門クリニック、コレラ緊急対策センター、ギリシャのVoV(暴力や拷問を受けた人びとを対象としたプロジェクト)、フィリピンのリプロダクティブ・ヘルス
(性と生殖に関する健康)などがある。
更には、医療従事者だけがMSFではなく、そこでは医療器具を管理するエンジニアであったり、ドライバー、そして文化的仲介者というスタッフの存在も紹介している。ここで、インタビューした文化的仲介者は難民として母国から逃れてきた青年であったが、母国に戻らずにそのまま他国で身を寄せる選択をしたという。そして、彼の仕事は主に難民をサポートするものであるが、具体的には、言葉を通訳し、それぞれの慣習を医師に説明し、また患者にこちらの支援方針や内容を理解してもらうことを担っている。
日本人のMSFスタッフが著者に語ったところによると、例えばアフリカの活動地では、ヨーロッパ系やアフリカ系のスタッフのみだと自己主張が激しくなるため、日本人スタッフは調整機能として、チームに1人組み込むのだそうだ。その方が実際に上手く働けているという。また日本が平和を重んじて外に軍隊を出さないというのも、国際社会で日本人が小性的な役割を果たすのに大きく役立っているという。しかし、残念なことにこれを聞いた直後に南スーダンへの駐屯が海外でも話題になり、他国のスタッフからも惜しいという声が聞こえたという。話は飛ぶが、現在西日本の災害で被災地は大変な状況になっている。政府は果たして現場の声を聞いているのだろうか。決してMSFが活動している海外でのことで
はない。国内のことである。空白の66時間。一体何をしていたのか。本書を読みながら、そのようなことも思ってしまった。
作家という文章を紡ぐ仕事をしている著者であるが、MSFをほぼ何も知らない読者と変わらない目線でのスタッフへの問いかけは素人さながらで、MSFのスタッフからの突っ込まれた返答に何も答えられずに赤面するという様子も綴られている。だからこそ、読者に分かる事実というのが、本書にはいたるところに転がっていて、安心して読める1冊でもある。
文責 木村綾子
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