京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『ルビーの一歩』

2024年05月16日 | KIMURAの読書ノート

『ルビーの一歩』
ルビー・ブリッジズ 著 千葉茂樹 訳 あすなろ書房 2024年1月

1冊の本を手にする度に自分の無知さ加減が露わになる。本書もその1冊。著者はアメリカの公民権運動家。それすら知らなかったのであるが、ページを開いた最初に書かれていたのは、「わたしは、地元のニューオリンズにあるウィリアム・フランツ小学校に入学することになったのですが、そこは白人だけが通う学校でした。その学校に、はじめて入学するただひとりの黒人の生徒に選ばれたのです(p3)」。この一文の最後「選ばれた」とはどういうことなのか。すでに頭の中にクエスチョンマークがいっぱいになる。ページをめくるといちばん下に小さく注釈として「1954年、アメリカの最高裁は『ブラウン対教育委員会裁判』において、学校での人種分離政策を違憲とする判決を下した(p4)」とあったが、それでもよく実情が分からない。そのような訳で、「選ばれた」とこの裁判についてページをめくるのをやめて調べることとなった。

ルビーは1960年に「選ばれて」いるので、先に1954年の裁判について調べてみた。そこで分かったのは、これよりも前は、アメリカにおいて白人と黒人は公立学校において別学だったということであった。それに対して最高裁が違憲を出したのがこの裁判という訳である。1954年と言えば、日本に置き換えると戦後の話。日本は戦争に敗れて、GHQの指導の下でとりあえず男女平等になり、言論の自由などかなりの部分で社会的文化を今となっては良い方向へ変わらせている。そのアメリカは男女に対しては平等に扱っていながら、黒人への差別はあからさまに残していたということに呆然としてしまった。それでは「選ばれた」というのはどういうことなのか。1954年にこの判決が出たからと言って、すぐに社会の意識が変わるわけではなく、ルビーの住むヴァージニア州のとある地域では5年間も公立学校をクローズしたらしい。更には州知事までクローズさせようとしたところを大統領からストップがかかり、白人が通学する学校を2校ピックアップし、統合するように命じる。その1つがルビーが通うこととなる小学校なのだが、この学校に通学する意志を黒人家庭に調査したところ、多くの家庭に意志があったため、何と黒人の希望者はテストが課せられたのである。目的はもちろん黒人を排除するためである。そして合格したのがルビーを含め3名の子ども達。つまり「選ばれた」という訳である。

今でも黒人差別があるのは感覚的に漠然と知っている。しかし、それは庶民の間で持ってしまう内面的な差別だと思っていた。しかし、それが政治的にもあからさまであったということに衝撃を受けてしまった。誰もがアメリカに行けば、自由を獲得し大きく飛躍できるという「アメリカンドリーム」という言葉がかなりうそぶいていることを知ってしまった感じがする。この言葉の裏側には「白人限定」という注釈が盛り込まれていたということになる。

本書はルビーが小学校に入学してから何が起こったのか、当時の写真と共に語られている。たかだか学校に行くために護衛が4名付き、教室は白人の子どもたちと別室で先生と1対1の授業。学校の外では彼女を退学させようと躍起になる大人たち。それは小学1年生に向ける大人の態度とは思えない暴力的なものばかり。ここまで人は狂暴になれるのかという1例をまた知ってしまったのである。

現在NHK朝の連続テレビ小説では男女不平等と戦う女性初の弁護士を主役としたドラマが放送されている。なぜ意味もなく差別されてしまった人がそれに対して戦わなければならないのか……。釈然としない思いばかりが積もってくる。
     ======== 木村綾子

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