探検家関野吉晴さんの講演会が調布のたづくりで催された。たまたま関野さんのフェイスブックでこの講演会のことを知り即座に申し込んだのだが、すでに満席でキャンセル待ちとなっていた。ほとんどあきらめていたこともあり完全に忘れていたところ、先週会社帰りに主催側からキャンセルが出ていますと電話をもらった。思わず小躍り。
講演は、関野氏の半生をたどるように20代、30代のころのアマゾンの南米探検に始まり、人類のアフリカから南米への移動を逆にたどって人類のルーツを探ったグレートジャーニー、そして日本人のルーツをたどるべく南方ルートの解明、そして探検の旅で出会った人たちの生活にも及んだ。コンパクトにまとめた映像も織り込んでのトークは旅の臨場感を十分に伝えるものだった。
興味深い話はいくつもあった。たとえば極北の民は、狩猟に出るときにもっていく道具4点セットがあるのだという。それは家を出て何か月も過ごせるほどのすぐれもの。ナイフ、マッチ、釣り道具、そして意外なことに縫い針だそうだ。縫い針は極寒の地で暮らすためには絶対に欠かせないもので、動物の革をかぶったり羽織ったりしても隙間があれば、そこから体温を奪われて凍死してしまうのだが、縫って体に密着させればそれを防げるのだ。なるほどと納得し感心した。ちなみに縫い針の発明は2,3万年前であり、それ以来人類は極北の地に住めるようになったとされている。
アマゾン川流域のある集落の話も秀逸だった。その集落では皆が協力しあって生きている。捕った獲物は皆で分配するから、多くの数をカウントする必要がない。ということで数字を表す言葉は1、2、3で終わり。また家族内でお父さん、息子と呼べば、ことが足りてしまうから、一人ひとりが名前をもつ必要がない。そこで関野さんがある家族に名前を付けてあげたというのは笑った。一人は五番目のお子さんだから五郎を連想して、「ゴロゴロ」にしたとか。他にも面白いエピソードが次から次へと飛び出して、会場はうなづいたり、笑いに包まれたりで話に引き込まれていった。
講演でもっとも印象的だったのは、ポール・ゴーギャンの言葉を引いたことだ。
「我々はどこから来たのか? 我々は何者なのか? 我々はどこへ行くのか?」
このゴーギャンの疑問が関野氏のグレートジャーニーのインセンティブにもなったようだ。
最後に披露していたのが、現在進行中の活動で、コロナ禍で中断していた『うんこと死体の復権』と題する映画の撮影。最近はやりの持続可能な社会、自然の循環を意識した内容で、排泄物や死体が生物によって分解され、土に還り、自然に戻っていく、その姿を描いたものになるらしい。
こうしたテーマを選ぶのは、関野さんらしい。関野さんは海を糧に暮らす人びと、山を糧に暮らす人びと、川を糧に暮らす人びと……、その土地土地に根差した素朴な生き方をしている人に共感を示している。自然の循環の中で生活することがいかにすばらしいことかを大胆に表現しようとしている。映画は完成したらポレポレ東中野ほかで上映されるとのこと。関野さんを応援がてら公開されたら、観に行ってみるかな。
講演:2022年11月26日(土)13:30~15:30