どういう基準で選ばれたのかは、よくわからないラインナップになっている。富士山にまつわるいろいろな小編が集められている。あとがきを読むと、編者の服部文祥さんが知らない作品も入っているということだから、河出書房新社の編集者がほとんど選んできたものなのだろうね。ここのところの富士登山ブーム、そして世界文化遺産登録による盛り上がりで、一気呵成につくってしまったのだろうか。そして山登りやっている人にはちょっと名前の知れた服部氏の名を冠して。
冒頭の河東碧梧桐は、失敗だろう。こんな固いつまらない散文を、トップバッターにするなんて。でもトップにもって来られるものがないか。がまんして読んでいくと、そんなのあるのかと突っ込まれそうだが面白いもの(?)もある。個人的には、お中道の話や冬場の山頂での気象観測のエピソードは、秀逸に思う。
作家の名前だけ見ても、有名人が並んでいて、それだけでも楽しめるし、何が書かれているのだろうかと、わくわくさせられる。山のエッセイの走り、田部重治の親友にして、山仲間、小暮理太郎。誰もが知っている100名山の人、深田久弥。『孤高の人』のモデル、加藤文太郎。あちらこちらにある歌碑をみて思い出す、大町桂月。
ラフカディオ・ハーンの山行記は、時代を感じさせ非常に興味深い。当時の山登りがいかなるものだったかが窺い知れる。画家の竹久夢二の登場は意外だった。なよなよしすぎで、山登りのイメージとはかけ離れすぎている。俳人の飯田蛇笏、歌人ののんべ大将、若山牧水も出てくる。いっぽうでは、ほとんど無名といっていい方々も出てくる。
玉石混交のきらいがあるけれども、全体としてみれば、秀作だし労作といえる。これだけよくも富士山関係を集めましたとねぎらいたくなる。今度は、戦後生まれ以降の方々による現代文に限定して、富士山小編集をつくってほしいところだ。小編なら探せば、いくらでも出てきそうだ。日本人が愛して止まない山、それが富士山だからだ。
富士の山旅 (河出文庫) | |
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河出書房新社 |