目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

還暦のエベレスト

2011-12-15 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

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ホテル・エベレスト・ビューを建てた男、宮原巍(みやはらたかし)氏が、還暦にしてエベレスト登頂に挑戦した記録である。“エベレスト”、それは著者にとっては、ひとかたならぬ思い入れのある山、だからいつも気になっていた山であり、そして人生の区切りで、ふと存在が巨大化してしまった山なのだ。本来「山や」である氏は、体力的に最後のチャンスともいうべき60歳でどうしても登らざるをえなくなったわけだ。

しかし、そうそう簡単に登頂させてくれないのが、この山。何ヶ月もかけて仕事を片付け、トレーニングをし、荷揚げをし、高度順化をし、準備万端やってきたのに、山頂直下300メートル手前で高度障害のため右目が見えなくなり、やむなく登攀を中止することになる。標高8000メートルをわずかに切るサウスコルの第4キャンプに戻ったのだ。同じパーティのメンバーは、そのまま登攀をつづけ、3時間後に登頂を果たす(100メートルに1時間かかるということか!)。ほんのわずかな差が成功と失敗を分ける厳しい世界なのだ。

ましてやデス・ゾーンと呼ばれる、死のにおいが充満する地帯。空気が薄くて、雪と氷の世界。何人もの登山家やシェルパが倒れたところだ。冗談抜きで生と死が隣り合わせなのだ。最近では、テレビ取材中の登山家尾崎隆氏がこの地で高山病のため亡くなっている。

目の前の氷壁はいつ崩れてもおかしくないし、クラックはどこまでも真っ暗な闇の口を開いているし、雪崩の巣でなくても雪崩は発生するし、低気圧が発生すれば暴風を生む。低温による凍傷、過酷な登攀による疲労、さまざまな高度障害にもみまわれる。宮原氏はそうした現実を直視し、最悪のケースを考えてしまったようだ。登攀直前に奥さんに会ったときの心情を本のなかで吐露している。でも、それでも登るのが、登山家なのだ。行ってしまうのだ。その高みへと。

結果山頂を踏めなかったのは、非常に残念だが、8793mの南峰まで宮原氏は到達している。それだけでもご立派だし、賞賛に値する。それにしても、この類の本を読んでいると、エベレストそのものはもちろんパスなのだが、せめてエベレスト街道を歩いて、エベレストの雄姿をこの眼で見てみたいと思ってしまう。あなたもそう思いませんか。

参考:
ホテル・エベレスト・ビューを建てる
http://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20110701
ヒマラヤのドン・キホーテhttp://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20110618

還暦のエベレスト (2011-09-22T00:00:00.000)
クリエーター情報なし
中央公論新社
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