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いわき鹿島の極楽蜻蛉庵

いわき市鹿島町の歴史と情報。
それに周辺の話題。
時折、プライベートも少々。

小説 カケス婆っぱ(12)

2013-03-07 06:40:03 | Weblog
                                            分類・文
      小説 カケス婆っぱ
             第31回 吉野せい賞奨励賞受賞        箱 崎  昭

 どの子供も走熊からは1も2部落も離れていて、家まで帰るには1時間ほど掛かる距離の連中だ。
 キクは困惑したが、もう既に和起が連れてきてしまっていたから仕方なく遊ばせることにした。
ただ、物を壊したり怪我をしたりしないように注意してから部屋に引き上げた。
 喜んだ子供たちは風呂敷に包んだ教科書を腰から外して境内を駆け回って遊びはじめた。かくれんぼでもしているのだろうか。時折、部屋の脇をゴム製短靴の足音が走り去っていく。
 その内に本堂の方から物音がしたり、畳の上を走り回る音がキクの部屋にまで聞こえるようになったので堪り兼ね、戸を開けて一声怒鳴ってやった。
「こらあ、和起ー。本堂の中で遊んでは駄目だと言ったのが分かんねえのかあ」 
 キクの地声に輪をかけた大きな声が寺一帯に広がった。
 暫らくして子供たちの騒ぎもなりを潜めたので境内に出てみると、子供たちは縞の風呂敷包みを腰にあてがい帰る支度をしているところだった。
 キクが近寄ってきたのを知ると腰の結びを早めた。
「じゃーな」
 振り返って和起に片手を挙げ石段を下りていくところだった。
          
                 《境内一面に落ちたギンナン》
「これこれ待たんかい。あとで和起にも良く言っておくけどな、皆がお寺で遊ぶのは構わねえ、だけども本堂の中まで入って遊んでは駄目だよー。分かったかい」
 キクは穏やかに言い聞かせた積りだったが持ち前の甲高い地声が禍し、子供たちはびっくりして、まるで蜘蛛の子を散らすように駆け下りて行ってしまった。
 ガキ大将の集まりのような子供たちが逃げていく後姿を目にしながらキクは、あの恰好が面白いと言って豪快に笑った。

     (六)
 いつの頃からか判然としないのだが、キクのことを世間ではカケス婆っぱと呼ぶようになっていた。
 勿論、キクに面と向かって言うことはないのだがキクのことに触れる時には名前ではなく、カケス婆っぱの呼称になる。
 別に悪意のある渾名(あだな)でないのは話す者同士のさらっとした会話の中で、自然に出てくることからでも分かる。
 しかし、単純に面白可笑しく付けられた愛称としても、直接キク自身が耳にすることはなかった。
 閉鎖的な寒村の中へ何処の馬の骨かも知れぬ者が飛び込んでくれば余所者として白い目で見られ軽蔑され、心の中で拒絶反応を起こす一面があっても不思議ではない。
 懸巣(かけす)は鳥の一種で、キジ鳩位の大きさがありジエーッと煩いほどのダミ声を発して鳴き、林の奥の茂みの中に飛び込む習性があることからキクにとっては恰好の渾名にされてしまったようだ。
 この呼び名を最初に知ったのは和起で、教室内での出来事からだった。 (続)
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