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いわき鹿島の極楽蜻蛉庵

いわき市鹿島町の歴史と情報。
それに周辺の話題。
時折、プライベートも少々。

小説 カケス婆っぱ(11)

2013-03-06 06:25:33 | Weblog
                                            分類・文
       小説 カケス婆っぱ
           第31回 吉野せい賞奨励賞受賞        箱 崎  昭


 久吉は鹿島村の消防団長と農業委員会の役職を兼務していて村民にも人望が厚かった。
 広い庭から玄関先へ向う途中で久吉が野良着のままで物置から出たきたところに出会った。キクと挨拶を交わしたが久吉は家の中に入るように勧めた。
 広い土間の脇が居間で、座敷に大きな囲炉裏が胡坐(あぐら)をかいているようにどっしりと構えている。
 囲炉裏に焼べられた薪が黄桃色の炎と紫煙を吐き出しながら自在鈎に吊るされた鉄瓶の底を這っていく。
 囲炉裏に手を翳(かざ)して座っている白髪の老婆は久吉の母親で、背を丸くして煙を避けながら和起を覗き込むようにして見た。
 妻の克子が人の気配を感じて奥座敷から居間に出てくると、キクを見るなり何度も会っている友人のように快く迎えてくれた。
「婆っぱさん、この人誰だか分かっけ?」克子が義母に聞いた。
「分かるわい、今度からお寺に来てもらう人だっぺ」
 老婆はキクと和起をゆっくり見比べるようにして柔和な表情を見せ皺の数を更に増やした。
「そうだよ、昨日から入ってもらったからこれでの人たちもお寺のことに関しては安心していられるようになったね」
 克子は嬉しそうな顔をして、そう言いながら熱い鉄瓶のお湯を急須に注いだ。
「旦那さんとのご縁で、私ら2人がこの土地に置かせて貰えるようになって本当に感謝しています」
          
                《現在の蔵福寺から見える遠景》 
 キクは久吉に向って改めて心からの礼を述べ深く頭を下げた。
「キクさんがこれまで苦労してきたことは充分に承知しているけども、このに来たからといって必ずしも楽になるとは限らねえかんない。見知らぬ土地へ来た訳だから慣れる間はある程度の苦労もせんとな」
 久吉は優しい目をして言った。
「はい、それは大丈夫です」
 キクの短い言葉だが聞いている者には芯の強さが伝わった。
「それさえ承知していれば私は何の心配もない」
 久吉が吹っ切れたように言うと側にいた克子も老婆も、キクの顔を見ながら安堵の色を濃くして肩の力を緩めた。

     (五)
 裏山から舞い落ちてくる枯葉が境内一面に散乱して、キクは黙々と庭掃除に専念していた。
 この時期、日に何度も枯葉掃除をするのは余儀ない頃でもあった。
 階段下の通りから子供たちの弾んだ声が聞こえてきたので石段を見下ろすと、和起を先頭にして数人の子供が一緒に上ってくるのが見えたので箒の手を休めた。
「婆ちゃん、学校の友達を連れてきた。お寺で遊んでもいいべ?」
 和起はキクの姿を見つけると他の子供たちよりも真っ先に駆け寄ってきた。今日は水曜日で下校時間が早いのだ。
 寺で静かに勉強でもしていってくれれば良いのだが、そういう類の面々ではないことがキクには一目見て分かった。
 家に帰ると親に色々と野良仕事を手伝わされるものだから、道草を喰っていこうという魂胆が透けるように見てとれたからだ。 (続)
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