混迷する朝青龍問題について、過激な発言をする者が大勢いるようです。ネットはもちろん、酒場でも「あのヤロ~!」とか言いながら、とんでもない犯罪的な戯言を叫ぶバカがいて、昨夜は閉口しました。
まあ、気持ちは分かります。
恐らく、この先、無事にモンゴルへ帰れる保証なんか無いわけですが、つまらん騒ぎが起らないようにと思います。
そういえば、昔、新日本プロレスにタイガー・ジェット・シンやラッシャー木村が出ると、リングに沢山のミカンが投げられましたが、そんな光景が大相撲の土俵で再現されるような気もしています。
ということで――
■The Poll Winners : Barney Kessel wiht Shelly Manne & Ray Brown (Contemporary)
モダンジャズで一番需要が高いのは、恐らくピアノトリオだと思います。しかし逆に地味な感じが強いのは、ギタートリオじゃないでしょうか? これでピアノが入った4人組になると、また違った受け取り方もあるんでしょうが……。
さて、本日に1枚は、そんな地味なセッティングながら、非常に華やかな味わいに満ちた傑作盤です。
タイトルというか、グループ名になった「The Poll Winners」は、参加メンバーが各々の楽器部門で、人気投票の第1位を占めていたことから命名されたものです。
そしてこれは1956年度の結果に基づく最初の企画で、録音は1957年3月18~19日、メンバーはバーニー・ケッセル(g)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds) という名手の夢の共演というわけです――
A-1 Jordu
デューク・ジョーダンが書いた、今日ではあまりにも有名になっている哀愁のハードバップ曲ですが、ここでは通常よりもアップテンポの演奏になっていて意表を突かれます。
う~ん、なんか期待したファンキーな雰囲気とか哀愁が足りないという……。
ただし3者の呼吸が見事なイントロやバリバリに弾きまくるバーニー・ケッセルのアドリブソロには、それなりに感銘を受けます。しかし……。
まあ、このあたりが西海岸派の持ち味かもしれませんねぇ。個人的には、もっと粘っこくて黒い演奏を期待していたのですから……。それでも後半で聞かれるレイ・ブラウンとシェリー・マンの遣り取りはスリルがあります。
A-2 Satin Doll
デューク・エリントンが書いた人気スタンダードで、例えばピアノトリオ演奏では必須というところですから、このギタートリオでも期待して、完全に満足させられる仕上がりです。
まず素直にテーマメロディを弾いてくれるバーニー・ケッセルのコードワークの上手さ♪ シャープで粘っこいシェリー・マンのブラシ、要所でツッコミを入れながらウォーキングするレイ・ブラウンのベースが、絶妙の三角関係を築いています。
あぁ、それにしてもバーニー・ケッセルのギターは凄いです。
A-3 It Could Happen To You
これも有名スタンダード曲で、まずはバーニー・ケッセルが良く知られたメロディをスローな無伴奏で弾いてくれるところが、嬉しい演出です。
そしてアドリブパートからはドラムスとベースを従え、素晴らしい歌心を完全披露♪ モタれそうなテンポをビシッと引き締めていくレイ・ブラウンは、アドリブパートで張り切り過ぎという感じが微笑ましいところです。
A-4 Mean to Me
これも歌物スタンダードですが、溌剌とした3者の意気込みが素晴らしい快演になっています。
まず全篇を貫く快適なノリがたまりません♪ そしてバーニー・ケッセルの張り切ったアドリブには、持てる得意技を完全披露した潔さがありますし、グルーヴィなビートを出すレイ・ブラウン、メリハリの効いたドラミングで場を盛り上げるシェリー・マンは、もう最高です。
B-1 Don't Worry 'Bout Me
通常はスローテンポが多いスタンダード曲を、ここではミディアム以上の早いテンポで、ハードバップ調に仕上げた痛快な演奏になっています。
もちろん原曲に秘められた哀愁は、「泣き」のフレーズに変換されているんですねぇ~♪ バーニー・ケッセルのギターは大技・小技の連続ですが、ドラムスとベースのグイノリは、流石だと思います。
B-2 Green Dolphin Street
今ではマイルス・デイビス(tp) の演奏で定番化しているスタンダード曲ですが、それ以前にこれを取上げた彼等の選曲センスには驚かされます。
ここではアップテンポで強烈にスイングした快演になっていますが、ビシバシのブラシ&ステックで煽りまくるシェリー・マンが恐い存在です。もちろんバーニー・ケッセルも得意技ばっかり弾いていますし、大きくうねるレイ・ブラウンのベースも凄いです。
B-3 You Go To My Head
これも有名スタンダード曲で、スローテンポでじっくりと絡み合う3者の妙技が冴えた演奏になっています。
特にレイ・ブラウンはオスカー・ピーターソン(p) と何時も演じているような上手さと凄みを完全に発揮しています。
B-4 Minor Mood
バーニー・ケッセルのオリジナル曲ですが、テーマメロディは意味不明のつまらなさ……。しかしアドリブは冴えまくっているという因果な演奏です。
やっぱりジャズはアドリブ優先か!?
B-5 Nagasaki
オーラスは全体にブレイクを多用して個人技の応酬を聞かせようと意図したような、アップテンポの爽快な演奏です。特にシェリー・マンのブラシが痛快! 一直線な早弾きに撤するバーニー・ケッセルも凄いと思います。
またグイグイと演奏を引っぱっていくレイ・ブラウンの存在も侮れませんねぇ。
ということで、なかなかスマートで楽しい演奏集なんですが、本音を言えば、もう少しグルーヴィな雰囲気が欲しいところです。まあ、これが当時の一番人気な演奏なんでしょうねぇ。つまり歴史的にはハードバップ全盛期とされていた時期に、実際に大衆から求められていたのは、こういう白人系の音だったんでしょう。それが人気投票の結果ですから。
そしてこの「The Poll Winners」の企画は好評を得て1959年まで続き、4枚のアルバムが作られますが、少しずつ凝ったアレンジを重視していく作品群の中で、これが一番ストレートな演奏集だと思います。
ちなみに1975年に作られた再会セッション盤もアドリブ中心ながら、ちょっと緻密さが物足りないので、個人的には残念でした……。
それとコンテンポラリーは録音が良いというが定説ですが、このアルバムも確かにそうです。しかしモノラル盤はベースがモコモコと前に出すぎですし、ステレオ盤は左にギター、右にベースとドラムスの泣き分かれ状態で、イマイチ納得していません。
まあ、どちらかと言えば、モノラル盤の方が迫力がある気がしています。その意味で、CDにはステレオ&モノラルの両バージョン収録が望ましいのですが、こんな声はメーカーに届くのでしょうか……。