OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

一番人気三人衆

2007-08-21 17:07:22 | Weblog

混迷する朝青龍問題について、過激な発言をする者が大勢いるようです。ネットはもちろん、酒場でも「あのヤロ~!」とか言いながら、とんでもない犯罪的な戯言を叫ぶバカがいて、昨夜は閉口しました。

まあ、気持ちは分かります。

恐らく、この先、無事にモンゴルへ帰れる保証なんか無いわけですが、つまらん騒ぎが起らないようにと思います。

そういえば、昔、新日本プロレスにタイガー・ジェット・シンやラッシャー木村が出ると、リングに沢山のミカンが投げられましたが、そんな光景が大相撲の土俵で再現されるような気もしています。

ということで――

The Poll Winners : Barney Kessel wiht Shelly Manne & Ray Brown (Contemporary)

モダンジャズで一番需要が高いのは、恐らくピアノトリオだと思います。しかし逆に地味な感じが強いのは、ギタートリオじゃないでしょうか? これでピアノが入った4人組になると、また違った受け取り方もあるんでしょうが……。

さて、本日に1枚は、そんな地味なセッティングながら、非常に華やかな味わいに満ちた傑作盤です。

タイトルというか、グループ名になった「The Poll Winners」は、参加メンバーが各々の楽器部門で、人気投票の第1位を占めていたことから命名されたものです。

そしてこれは1956年度の結果に基づく最初の企画で、録音は1957年3月18~19日、メンバーはバーニー・ケッセル(g)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds) という名手の夢の共演というわけです――

A-1 Jordu
 デューク・ジョーダンが書いた、今日ではあまりにも有名になっている哀愁のハードバップ曲ですが、ここでは通常よりもアップテンポの演奏になっていて意表を突かれます。
 う~ん、なんか期待したファンキーな雰囲気とか哀愁が足りないという……。
 ただし3者の呼吸が見事なイントロやバリバリに弾きまくるバーニー・ケッセルのアドリブソロには、それなりに感銘を受けます。しかし……。
 まあ、このあたりが西海岸派の持ち味かもしれませんねぇ。個人的には、もっと粘っこくて黒い演奏を期待していたのですから……。それでも後半で聞かれるレイ・ブラウンとシェリー・マンの遣り取りはスリルがあります。

A-2 Satin Doll
 デューク・エリントンが書いた人気スタンダードで、例えばピアノトリオ演奏では必須というところですから、このギタートリオでも期待して、完全に満足させられる仕上がりです。
 まず素直にテーマメロディを弾いてくれるバーニー・ケッセルのコードワークの上手さ♪ シャープで粘っこいシェリー・マンのブラシ、要所でツッコミを入れながらウォーキングするレイ・ブラウンのベースが、絶妙の三角関係を築いています。
 あぁ、それにしてもバーニー・ケッセルのギターは凄いです。

A-3 It Could Happen To You
 これも有名スタンダード曲で、まずはバーニー・ケッセルが良く知られたメロディをスローな無伴奏で弾いてくれるところが、嬉しい演出です。
 そしてアドリブパートからはドラムスとベースを従え、素晴らしい歌心を完全披露♪ モタれそうなテンポをビシッと引き締めていくレイ・ブラウンは、アドリブパートで張り切り過ぎという感じが微笑ましいところです。

A-4 Mean to Me
 これも歌物スタンダードですが、溌剌とした3者の意気込みが素晴らしい快演になっています。
 まず全篇を貫く快適なノリがたまりません♪ そしてバーニー・ケッセルの張り切ったアドリブには、持てる得意技を完全披露した潔さがありますし、グルーヴィなビートを出すレイ・ブラウン、メリハリの効いたドラミングで場を盛り上げるシェリー・マンは、もう最高です。

B-1 Don't Worry 'Bout Me
 通常はスローテンポが多いスタンダード曲を、ここではミディアム以上の早いテンポで、ハードバップ調に仕上げた痛快な演奏になっています。
 もちろん原曲に秘められた哀愁は、「泣き」のフレーズに変換されているんですねぇ~♪ バーニー・ケッセルのギターは大技・小技の連続ですが、ドラムスとベースのグイノリは、流石だと思います。

B-2 Green Dolphin Street
 今ではマイルス・デイビス(tp) の演奏で定番化しているスタンダード曲ですが、それ以前にこれを取上げた彼等の選曲センスには驚かされます。
 ここではアップテンポで強烈にスイングした快演になっていますが、ビシバシのブラシ&ステックで煽りまくるシェリー・マンが恐い存在です。もちろんバーニー・ケッセルも得意技ばっかり弾いていますし、大きくうねるレイ・ブラウンのベースも凄いです。

B-3 You Go To My Head
 これも有名スタンダード曲で、スローテンポでじっくりと絡み合う3者の妙技が冴えた演奏になっています。
 特にレイ・ブラウンはオスカー・ピーターソン(p) と何時も演じているような上手さと凄みを完全に発揮しています。

B-4 Minor Mood
 バーニー・ケッセルのオリジナル曲ですが、テーマメロディは意味不明のつまらなさ……。しかしアドリブは冴えまくっているという因果な演奏です。
 やっぱりジャズはアドリブ優先か!?

B-5 Nagasaki
 オーラスは全体にブレイクを多用して個人技の応酬を聞かせようと意図したような、アップテンポの爽快な演奏です。特にシェリー・マンのブラシが痛快! 一直線な早弾きに撤するバーニー・ケッセルも凄いと思います。
 またグイグイと演奏を引っぱっていくレイ・ブラウンの存在も侮れませんねぇ。

ということで、なかなかスマートで楽しい演奏集なんですが、本音を言えば、もう少しグルーヴィな雰囲気が欲しいところです。まあ、これが当時の一番人気な演奏なんでしょうねぇ。つまり歴史的にはハードバップ全盛期とされていた時期に、実際に大衆から求められていたのは、こういう白人系の音だったんでしょう。それが人気投票の結果ですから。

そしてこの「The Poll Winners」の企画は好評を得て1959年まで続き、4枚のアルバムが作られますが、少しずつ凝ったアレンジを重視していく作品群の中で、これが一番ストレートな演奏集だと思います。

 ちなみに1975年に作られた再会セッション盤もアドリブ中心ながら、ちょっと緻密さが物足りないので、個人的には残念でした……。

 それとコンテンポラリーは録音が良いというが定説ですが、このアルバムも確かにそうです。しかしモノラル盤はベースがモコモコと前に出すぎですし、ステレオ盤は左にギター、右にベースとドラムスの泣き分かれ状態で、イマイチ納得していません。

 まあ、どちらかと言えば、モノラル盤の方が迫力がある気がしています。その意味で、CDにはステレオ&モノラルの両バージョン収録が望ましいのですが、こんな声はメーカーに届くのでしょうか……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゴイコビッチの初来日

2007-08-20 18:31:45 | Weblog

今朝は家の庭に夥しい蝉の死骸があるのに仰天しました。

借りている家は木立に囲まれた一軒家で、しかも山間部ですから、毎日、蝉が煩いほどに泣いていましたが、死んでしまうのも一緒になると、ゲッとなります。

きっと今頃は、蟻が亡骸の始末をしているはずですが……。

ということで、本日は――

Good Old Days / Dusko Goykovich (キングレコード)

確証はありませんが、現役トランペッターの中では我国で一番人気なのが、ダスコ・ゴイコビッチじゃないでしょうか。

ご存知のように、この人は東欧出身ながら本場アメリカでも活躍し、その後は欧州をメインに世界を巡業しながら、素晴らしいアルバムを作り続け、我国では1970年代からジャズ喫茶の人気者になっています。

しかし日本公演はなかなか実現せず、ようやく1996年に単身来日! 我国の若手精鋭をバックに従えて素晴らしいライブを繰り広げた事は、今や伝説になっています。

そして本日の1枚は、その時に敢行されたスタジオセッションから製作されたCDアルバムです。

録音は1996年7月1日、メンバーはダスコ・ゴイコビッチ(tp,flu)、椎名豊(p)、上村信(b)、大坂昌彦(ds) というワンホーン編成ですが、実はこれと同じ顔ぶれの演奏が、同年7月6日のNHK-FMラジオ番組「セッション'96」で放送されており、これが非常に充実した大名演でしたから、このアルバムも大いに期待していました。ちなみに演目は2曲を除いて、全てがダスコ・ゴイコビッチのオリジナルです――

01 Good Old Days
 アルバムタイトル曲は、もう、これしか無いという哀愁のスローバラード♪ しかもマイルス・デイビス直系のミュートの妙技をたっぷりと聞かせてくれるんですから、ダスコ・ゴイコビッチとプロデューサは分かっています♪
 阿吽の呼吸を感じさせる若手リズム隊も、らしからぬ落ち着きが感度良好です。

02 Little Teo
 ダスコ・ゴイコビッチが自分の孫の名前にちなんで作った、小粋でグルーヴィな名曲ですから、オープンで朗々と吹きまくる快演は「お約束」を超えています。
 快適なビートを生み出すリズム隊も素晴らしく、特に控えめながらアクセントが強い大坂昌彦のドラミングは、温故知新の魅力があります。終盤でのダスコ・ゴイコビッチとの対決でも、一歩も退かぬ潔さ! スイングしまくっています。

03 In The Sign Of LIbra
 スローなボサビートで演じられる、これも哀愁の名曲です。
 ここでのダスコ・ゴイコビッチは、多分、フルューゲルホーンを吹いていると思われますが、その柔らかな歌心と音色の妙は、ベテランだけの枯れた味わいが最高です。
 また椎名豊のピアノは膨らみのあるコード選びで印象的♪
 
04 Someday My Prince Will Come
 これはマイルス・デイビスの名演が歴史になっている人気曲だけに、ダスコ・ゴイコビッチもミュートで自身のルーツを披露した感が濃厚です。
 ただし、ファンにしてみれば、どうしてもマイルス・デイビスの演奏が耳タコ状態ですから、ややモドカシイ気分にさせられるかもしれません。いや、これは私だけでしょうか?
 リズム隊も、そのあたりを意識し過ぎたのでしょうか、やや、モタツキがあるように感じます……。

05 How Insensitive
 アントニオ・カルロス・ジョビンが書いた有名ボサノバ曲で、素晴らしい快演が披露されています。テーマ解釈とアドリブの歌心、そしてリズム隊の心地良さ♪ 本当に気持ち良いです。
 ただし、ジャケットにも注意書きがあるように、途中で少しばかりデジタルノイズのような雑音が入ります。それでも、あえて収録したのが、ご理解いただけると思います。

06 No Love Without Tears
 1970年代からダスコ・ゴイコビッチが十八番にしているオリジナル曲♪ スローな哀愁のテーマメロディが、ここでもミュートトランペットで吹奏されています。
 あぁ、この「泣き」のフィーリングは、マイルス・デイビスとは似て非なるダスコ・ゴイコビッチだけの個性でしょうねぇ。何度聴いても、シビレます♪

07 Tokyo Shuffle Blues
 初来日にちなんで書かれたグルーヴィなブルースで、椎名豊のゴキゲンなピアノがイントロになり、ダスコ・ゴイコビッチがタメを効かせたテーマ解釈を聞かせれば、もう辺りはハードパップ色に染上げられます。
 ダレそうでダレないリズム隊のノリも素晴らしい熱演ですねっ♪

08 Ballad For Belgrade
 またまたミュートトランペットで吹奏される哀愁のスローバラード♪ あぁ、こういう琴線直撃の曲調はダスコ・ゴイコビッチにしか書けないと感動させられるほどです。
 もちろんアドリブパートでもマイルス・デイビス直系の静謐な歌心に満ちたフレーズが連発され、しかも確実にダスコ・ゴイコビッチのオリジナリティが出ているのですから、たまらんですねぇ♪
 柔軟な伴奏で実力を証明するリズム隊も、良い感じです。

09 Old Fishrman's Daughter
 オーラスはファンならずともお馴染みという名曲をやってくれるんですから、サービス満点♪ しかもここでは、あの「泣き」のメロディがオープンで吹奏される新機軸です。多分、フルューゲルホーンでしょうか、ソフトな音色と和みのアドリブフレーズがベストマッチの快演になっています。
 それはグルーヴィなハードバップ感覚をも含んだ楽しい展開ですから、リズム隊も油断が出来ません。なかなかに厳しい伴奏とアドリブを聞かせる椎名豊、温故知新の上村信、ちょっと新しい感覚の大坂昌彦と、各人が奮闘しています。

ということで、来日ジャズメンの記録としては、またひとつ名盤が誕生したというわけです。ただし惜しむらくは、強烈なアップテンポの演奏が無いことで、このあたりは前述したラジオ放送音源やライブステージの場では相等に熱い演奏を繰り広げていたのですから、勿体無い感じです。

もしかしたらオクラ入りした演奏があるのかも!?

という期待を抱かせてしまうほど、充実したセッションということなんですねぇ。ライプ音源も含めて、いつの日か陽の目を見るような気がしています。

ちなみに私は、前述したNHK放送の演奏もテープに残していて、愛聴しているのでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

女バド・パウエルの潔さ

2007-08-19 16:38:33 | Weblog

今日はグッと涼しくなって、はっきり言えば寒くて目が覚めました。夥しい鳥の鳴声も自然の恵みでしょうねぇ。田舎暮らしのありがたさを満喫しています。まあ、単身赴任が一番うれしかったりして♪

ということで、本日は――

Her Trio Her Quartet / 秋吉敏子 (Storyville)

女性ジャズピアニストの最高峰のひとり、秋吉敏子が米国留学中に吹き込んだ幻の名盤! というのは、1974年までのことでした。その年、日本で待望の復刻が成された時には、かなりの大騒ぎになったと記憶しています。

内容はトリオとカルテットによる2回のセッションを纏めたものですが、豪華な参加メンバーに加えて、もちろん演奏も秀逸! モダンジャズ黄金期の最先端が記録された1枚だと思います。

まず、トリオによる録音は1956年春頃、メンバーは秋吉敏子(p)、オスカー・ペティフォード(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という物凄さ! またカルテットでの録音は同年夏頃とされており、メンバーは秋吉敏子(p)、ブーツ・ムッスリ(as)、ワイアット・ルーサー(b)、エド・シグペン(ds) というクセモノが揃っています――

A-1 Keio (Quartet)
 J.J.ジョンソンが書いたビバップ曲ですから、バド・パウエルに心酔していた秋吉敏子にとっては水を得た魚の如き、爽快なアドリブを披露しています。実際、この頃のモダンジャズ界で、これほどリアルにハードコアなスタイルを貫いていたピアニストは稀ではないでしょうか。もちろん個性という点では、まだまだでしょうが、その意気地は見事だと思います。
 また流麗な歌心を発揮したブーツ・ムッスリは、スタン・ケントン楽団の看板スタアでしたが、この頃は引退してボストン周辺で地味な活動をしていたところを引っ張り出されての参加だったようです。そして些かも衰えていないその実力には秋吉敏子も仰天したと、彼女は自著で告白されています。如何にも白人らしいフレーズの積み重ねは、ビバップ以前の味わいも感じられる好演♪

A-2 Salute To Shory (Quartet)
 タイトルどおり、西海岸派のトランペッター=ショーティ・ロジャースに捧げられた秋吉敏子のオリジナルで、どうやら大編成バンドでの演奏を念頭に書かれたものだと言われています。
 その意味ではカルテットの演奏も興味深く、如何にも西海岸系ジャズの味わいを持ったテーマメロディと爽やかなノリは魅力的! アドリブパートでも適度なアレンジが入っていて、ブーツ・ムッスリは白人系プレイヤーならではのクールスタイルに独特の「味」を入れた名演を聞かせてくれます。
 また秋吉敏子は、どのような曲調でも自分のスタイルを崩しませんが、ここでは自身の作編曲だけあって、完全にツボを抑えた快演! しかし厳しさに撤しすぎた感が……。

A-3 Pear, Bee And Lee (Trio)
 これはトリオによる壮絶な演奏! もちろん曲はリー・コニッツを想定して書かれたクールなスタイルですから、アップテンポの快演が聞かれます。あぁ、この直線的な鋭いツッコミは、バド・パウエルのコンセプトを充分に咀嚼して成し遂げたものかと思います。
 ロイ・ヘインズのシャープなブラシ、オスカー・ペティフォードの包容力のあるベースワークも、流石ですねっ♪

A-4 Taking A Chance On Love (Quartet)
 これは私が大好きなスタンダード曲を素材にした和みの演奏♪ まずテーマを素直に展開していくブーツ・ムッスリにシビレます。もちろんアドリブも良いですねぇ~♪ ちょっとクセのある歌心は好き嫌いがあるかもしれませんが、私的にはOKです。
 肝心の秋吉敏子は、クールスタイルに微妙なファンキーが混じっスタイルを披露して、後の新展開を予想させてくれます。
 安定したグルーヴを提供するドラムスとベースの存在感も素敵です。

B-1 All The Things You Are (Quartet)
 モダンジャズ創成のカギを秘めたスタンダード曲ですから、秋吉敏子も真っ向勝負! テーマを爽やかに吹奏するブーツ・ムッスリの背後で厳しい伴奏をしているあたりから、凄みが感じられます。
 しかし決して難解な演奏ではなく、明らかにテンションが高くなっているブーツ・ムッスリの熱演はジャズの楽しみに満ちていますし、秋吉敏子の正統派ビバップ魂の発露が素晴らしい限り♪ 緊張感と和みを両立さるべく奮闘するバンドの勢いが最高です。
 クライマックスのドラムスとの対決では、エド・シグペンが名手の貫禄を披露しています。

B-2 No Moon At All (Trio)
 ビアノトリオ物では隠れ人気のスタンダード曲ですから、ここでも聴く前から期待して、全く正解の仕上がりです。
 オスカー・ペティフォードのベースに存在感が強く、明らかに演奏全体をリードしている雰囲気ではありますが、ひたすらに自分の信じるアドリブに打ち込んでいく秋吉敏子の健気さには、グッときます♪
 間に入ってサクサクと刻まれるロイ・ヘインズのブラシも、気持ち良いですねぇ~~♪ 終盤のピアノとの遣り取りはスリル満点!

B-3 I Remember April (Quartet)
 これもモダンジャズでは大定番のスタンダード曲ということで、バンドにとっては一丸となっての熱演が「お約束」でしょう。テーマ吹奏から熱気が感じられるブーツ・ムッスリは、アート・ペッパーに迫る鋭いツッコミで、間然することの無い快演です。
 もちろん秋吉敏子はパウエル派の面目躍如というスピードがついた厳しいアドリブを披露! う~ん、これには本場の業界人も仰天したのが判ろうかというもんです。
 エド・シグペンの小技の効いたドラミングも素晴らしいと思います。

B-4 Thou Swell (Trio)
 ロイ・ヘインズのグルーヴィなドラムソロをイントロにしたスタンダード曲の演奏です。全体としてはトリオの3者が対等に渡り合った快演として、何度聞いてもシビレますが、大物共演者に全く動じることが無く、むしろ鋭く突っかかっていくような秋吉敏子のアドリブの凄さに感銘を受けてしまいます。
 オスカー・ペティフォードの容赦ないアドリブも強烈ですし、瞬発力が凄いロイ・ヘインズのドラムスも最高ですねっ♪

ということで、モダンジャズの基本を大切にした1枚だと思います。

ご存知のように秋吉敏子は、当時としては珍しかった本格的な女性モダンジャズピアニストして本場アメリカでも渡米直後から注目されたわけですが、そこには大物興行師や高名ジャズ評論家の後押しがあったとしても、彼女自らのピュアなジャズ魂があってこその活躍だったと思います。

実際、なんでも率直に取り組んで妥協しないガンコさは、後に大輪の花を咲かせるとはいえ、失意と不遇の要因だったと言われているほどです。

このアルバムには、ちょっと聞きやすさを狙ってプロデュースされた思惑を私は感じるのですが、しかし演奏そのものは決して妥協していないはずです。まあ、逆に言えば「女バド・パウエル」としての商品価値が上がったという見方もあるのですが……。

ちなみに我国で再発された時には、その音質に問題ありというか、はっきり言えば音が悪いとされました。おそらくオリジナルマスターテープが劣化していたのでしょう、明らかに「針落とし」でアナログ盤から再録されたトラックが含まれていたと感じています。

そして後に発売されたCDでは、なおさらそれが顕著となったのが、ますます残念です。

技術は日進月歩ですから、いつの日か、オリジナル盤と同等の音質で復刻されることを、心から願っています。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ザビヌル対ウェブスター

2007-08-18 18:26:34 | Weblog

猛暑も一段落したと思えば、またまた各地で地震が頻発!

全く落ち着かない夏ですねぇ。

こんな時は、せめて自分の体調管理にだけでも気をつけないと……。

と自戒しつつ、本日は――

Soulmates / Ben Webster & Joe Zawinul (Riverside)

う~ん、このアルバムを知った時の衝撃は、今も鮮烈です。なにしろベン・ウェブスターはスイング派のテナーサックス奏者として歴史に名を残す巨匠ですし、ジョー・ザビヌルはフュージョン最前線のバンドだったウェザー・リポートのリーダーですから!

それは1977年の夏の終り頃、某ジャズ喫茶へ入店した時に鳴っていたのが、このアルバムでした。当時はクロスオーバー&フュージョンの全盛期で、多くのジャズ喫茶が4ビート以外のアルバムも鳴らしていたんですが、まさかジョー・ザビヌルがこんなアルバムを作っていたとは、驚愕でした。

もちろん中身は正統派モダンジャズ! タイトルの「ソウルメイツ」は、このアルバム製作当時、2人が同じアパートに住んでいた事から命名されたと、原盤ジャケット裏解説に記してあります。

その頃の2人の立場は、ちょっと対照的で、ベン・ウェブスターは巨匠でありながらアメリカでの仕事が減少し、結果的に渡欧する直前であり、一方のジョー・ザビヌルはキャノンボール・アダレイ(as) のバンドではレギュラーのピアニストであり、また有能な作編曲家として注目を集めていた時期でした。

そこで作られたアルバムですから、ジャケットには堂々とした貫禄を見せつけるベン・ウェブスターと後方で柔らかな自信を漂わせるジョー・ザビヌルの佇まいが、なかなかに印象的です。

録音は1963年9月と10月、メンバーはベン・ウェブスター(ts)、ジョー・ザビヌル(p)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) を中心に9月のセッションではリチャード・デイビス(b) を入れたカルテット編成、また10月のセッションはサド・ジョーンズ(cor) とサム・ジョーンズ(b) を入れた2管クインテットで正統派の演奏が展開されています――

A-1 Too Late Now (1963年9月20日録音 / Quartet)
 大勢のポピュラー系歌手が演目にしている、比較的新しいスタンダード曲で、スローな展開の中に抑えた「泣き」のメロディが印象的ですから、ベン・ウェブスターは俺に任せろ! ジンワリとしたテーマの解釈とサブトーンを駆使した吹奏は、膨らみと余韻がたっぷりで、尚且つ、繊細な表現にも長けた世界が堪能出来ます。
 ややエコーが効いた様なテナーサックスの録音の仕方も素晴らしいと思います。
 そしてジョー・ザビヌルはセンスの良いイントロから正統派の伴奏、さらに新鮮な響きを感じるアドリブまで、その完全無欠のサポートには、本当に好感が持てますねぇ。
 独り聴いていると、高級クラブに居るような錯覚に落ちてしまいます。もちろん横には、静かに寄り添う美女がいるような……♪

A-2 Soulmates (1963年10月14日録音 / Quintet)
 アルバムタイトル曲はベン・ウェブスターのオリジナルで、これがファンキーなハードバップのブルース大会! フィリー・ジョーのシンバルとジョー・ザビヌルのイントロからイカシた世界ですが、ミディアムテンポのタメを最大限に活かした2管のテーマ吹奏が、これまた、たまりません。
 アドリブ先発はサド・ジョーンズは思わせぶりに撤しすぎて、やや調子が出ていない雰囲気ですが、ベン・ウェブスターは自身の古いスタイルを逆利用した余韻と力みのバランスが流石の貫禄です。
 またジョー・ザビヌルのアドリブはウイントン・ケリー丸出しで、目隠しテストでは誤答が頻発するのでは? 実にファンキーですよっ♪
 ちょっとクセになりそうなラストテーマの合奏も、味わい深いところだと思います。

A-3 Come Sunday (1963年9月20日録音 / Quartet)
 デューク・エリントンが書いた荘厳な名曲ですから、同楽団の花形だったペン・ウェブスターにとっては十八番! ここでもサプトーンを活かしきった吹奏に、その全てが表現されています。
 リチャード・デイビスの弓弾き伴奏も素晴らしく、ですからリズム隊の新しい感覚が上手くミスマッチの面白さを醸し出していて、これぞ名演になったと思います。
 ここでのジョー・ザビヌルがビル・エバンスになりそうなところも要注意でしょうか♪
 またジョン・コルトレーン(ts) やファラオ・サンダース(ts) あたりのスピリッチャルな演奏のルーツを感じるのは、私だけでしょうか?

A-4 The Governor (1963年10月14日録音 / Quintet)
 再びクインテットで演奏されるのは、ベン・ウェブスターが書いた楽しいモダンジャズ曲です。ちなみにタイトルはデューク・エリントンのニックネームのひとつだとか! その所為か、ジョー・ザビヌルは要所でエリントン風のピアノスタイルを聞かせてくれます♪
 そしてベン・ウェブスターが力みのグイノリで熱演すれば、サド・ジョーンズは中間派的なノリで快演を披露しているのです。
 さらにリズム隊の快適なグルーヴも素晴らしく、ジョー・ザビヌルは、またまたウイントン・ケリーになってしまいましたねっ♪

B-1 Flog Legs (1963年10月14日録音 / Quintet)
 今度はベン・ウェブスターのニックネームにちなんだジョー・ザビヌルのオリジナル曲で、とても新主流派の色合が強いテーマメロディが印象的です。
 う~ん、こういう先進的な曲をスイング派のベン・ウェブスターが違和感無く吹奏してしまう恐ろしさ! というか本物のジャズはスタイルやジャンルの垣根なんか関係無い! という真実を聞かせてくれます。
 実際、ここでのブリブリにノリまくったベン・ウェブスターを聞いていると、そういう思いにしかなりません。
 またサド・ジョーンズの大らかなノリも素晴らしいですねぇ。それとハードバッブ真っ只中のリズム隊が、やっぱり強力です♪

B-2 Trav'lin' Light (1963年9月20日録音 / Quartet)
 またまたベン・ウェブスターのバラード世界が堪能出来る演奏です。しっとりとした情感溢れる吹奏は、テナーサックスの魅力がたっぷり♪ やや軽い雰囲気の音色とテーマの解釈は、もはや人間国宝と言ってよいかもしれません。
 それとジョー・ザビヌルが歌物に上手さを発揮した代表的な名演になっていると思います。こういうセンスの良さが、当時、各方面から注目されていた実力の証明でしょうか。
 ラストテーマに繋げていくベン・ウェブスターは、唯我独尊の輝きです♪

B-3 Like Someone In Love (1963年9月20日録音 / Quartet)
 これは良く知られたテーマメロディですから、ベン・ウェブスターの和みの演奏に浸りきって安心の世界が展開されます。
 快適なリズム隊を従えて悠々自適に吹奏するベテランの味わいと、実は自己主張が強いリズム隊のコントラストが、楽しい快演になりました。

B-4 Evol Deklaw Ni (1963年10月14日録音 / Quintet)
 オーラスはサド・ジョーンズのオリジナル曲で、ジャズ業界特有の逆さ読みで「In Walked Love」になる、楽しく小粋な名曲・名演です。
 バラけているようで、実は弾みまくったリズム隊の快適さ♪ ベン・ウェブスターは自分が一番信じているような中間派っぽいスタイルで押しまくり、サド・ジョーンズはモダンスイングをオトボケで解釈したような楽しいアドリブで、場を盛り上げていくのでした。

ということで、決して熱気溢れる大名演集ではありませんが、余裕と和み、新鋭とベテランの信頼関係が上手く機能した好盤だと思います。もちろん共演者には、ベン・ウェブスターに対する敬意のようなものがあったはずですから、かなり緊張感が漂った部分も感じられますが、それが良い方向に作用したのかもしれません。

既に述べたように、欧州から渡米してきたジョー・ザビヌルは、この後に大ブレイクし、また逆に欧州での活動を選択したベン・ウェブスターは最後の一花を異国で咲かせるわけです。その分岐的に位置したセッションとしても忘れられない1枚だと思います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マックス・ローチ追悼

2007-08-17 16:53:02 | Weblog

モダンジャズの巨匠が、またひとり、天国へ召されました。

マックス・ローチ、享年83歳……。

オフビートとタイトなポリリズムを融合させた、当にモダンジャズの基礎となるドラミングを編み出した天才性は永久不滅でしょう。

チャーリー・パーカー(as) やバド・パウエル(p) との歴史的セッションやクリフォード・ブラウン(tp) と組んだ完全無欠のハードバップ! さらに変拍子演奏の追及や黒人の地位向上とジャズそのものの関わり……等々、もうこれは黒人芸能史上、屈指の演奏家であり、真の活動家だったと思います。

それゆえにユダヤ系白人が仕切っている米国音楽業界では、ある意味、けむたい存在だったようですが、マックス・ローチが居なければ今の音楽状況は別なものになっていた可能性は、きわめて高いと私は思います――

Clifford Brown & Max Roach Incorporated (EmArcy)

さて、このアルバムは天才トランペッターとして俄かに注目されていたクリフォード・ブラウンと組んで旗揚げしたクインテットによる、最も初期のスタジオレコーディングを集めたアルバムです。

タイトルからして、ニクイですよねぇ~♪

ちなみにこのバンドは、西海岸の有力興行師だったジーン・ノーマンの後援を受けていただけあって、仕事もレコーディング契約も順調だったようですが、残念ながら一般的な人気を獲得する前にバンドメンバーのクリフォード・ブラウンとリッチー・パウエルが交通事故で他界して……。

もちろんマックス・ローチは、その後もバンドを再編して活動を続けていったわけですが、その意味では、このアルバムにおける初々しい演奏の記録は、特に感慨深いものがあります。

録音は1954年8月、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ハロルド・ランド(ts)、リッチー・パウエル(p)、ジョージ・モロウ(b)、マックス・ローチ(ds) というオール黒人のバンドでした――

A-1 Sweet Clifford (1954年8月3日録音)
 有名スタンダードの「Sweet Georgia Brown」を改作した痛快なハードバップ! ドロロロロロロ~、というイントロのドラムの響きから烈しく燃え上がる演奏は、当にモダンジャズの新しい風が吹いている感じです。
 もちろん全篇で強烈に煽りまくるマックス・ローチのドラミングはシャープで力強く、クリフォード・ブラウンも安心して自らの信じるアドリブに撤していますが、決して予定調和ではありません。予期せぬスルリとハードボイルドな雰囲気が横溢した名演だと思います。
 またハロルド・ランドやリッチー・パウエルの必死のプレイ、そして猛烈なスピード演奏をがっちり支えるジョージ・モロウの存在感も素晴らしいです。
 さらにクライマックスで炸裂するマックス・ローチの豪快なドラムソロはスピード感満点! この感覚は後のロック系ドラマーにも確実に影響を与えているはずです。例えばヴェンチャーズのメル・テイラーとかセッションドラマーのハル・ブレインあたりは、偽りの無いところでしょう。

A-2 I Don't Satnd A Ghost Of A Chance (1954年8月3日録音)
 古いスタンダード曲を素材にして、クリフォード・ブラウンが天才的な歌心を存分に聞かせた名演です。まずスローテンポで原曲メロディを絶妙にフェイクしていくあたりから、グッと惹きつけられます。ややハスキーながら、艶やかな部分を秘めた音色も魅力的♪
 そしてアドリブパートに入ってからはテンポを上げて、開放的な節回しと最高のリズム感を堪能させてくれるのです。ブラシ主体のマックス・ローチのドラミングも繊細ですから、全く何時までも聴いていたいと願う他はありません。
 またリッチー・パウエルは、実兄のバド・パウエル譲りというか、なかなかに幻想的なタッチとアドリブ構成が、これまた素敵だと思います。
 クライマックスのクリフォード・ブラウンの吹奏は、熱き心の真情吐露として忘れられません♪

A-3 Stompin' At The Savoy (1954年8月5日録音)
 1930年代後半のスイング時代に流行った和み系のスタンダード曲ですが、ここでは力強いリズム隊の存在ゆえに、立派なハードバップに仕立てられています。
 とは言っても、決して闇雲な黒っぽさの追求では無くて、かなり凝ったテーマメロディのアレンジとか、メンバー各々のアドリブの完熟度が極めて高い芳醇な演奏になっています。
 もちろんクリフォード・ブラウンのソフト&ハードボイルドなアドリブは、そのトランペットの音色共々に輝いているのです。非常に丁寧なんですが、けっして作り物ではない自然体が最高です。
 またマックス・ローチのドラムソロは、各種の太鼓を万遍無く使ったメロディアスな展開で、流石の構成力を聞かせてくれるのでした。

B-1 I'll String Along Wiht You (1954年8月5日録音)
 ホーン陣が抜けたリズム隊だけの演奏ということは、リッチー・パウエルのトリオとして聞くことが王道でしょうか。ちょっと地味なスタンダード曲を素材にして繰り広げられるピアノ解釈は最初、カクテルラウンジの演奏を思わせますが、ベースとドラムスを呼び込んでからは黒いフィーリングと洒落たコード選びで、なかなか聞かせますねぇ~♪

B-2 Mildama (1954年8月5日録音)
 これはマックス・ローチのドラムスを存分に聞いてもらおうという企画で、もちろんクインテットの演奏なんですが、徹頭徹尾、千変万化のドラミングが主役になっています。
 しかも中間部ではクリフォード・ブラウンとスリル満点の遣り取りまで用意されています。あぁ、これがジャズです!
 また後半では、ちょっとテンポを変えたバンドアンサンブルから、ポリリズムやロックビートまでも内包したドラムソロになって、全く飽きない素晴らしさです。

B-3 Darn That Dream (1954年8月2日録音)
 今度はハロルド・ランドを主役に据えた雰囲気満点の歌物演奏です。ちょっと硬質で灰色の音色が魅力のテナーサックスが、じっくりと味わえる喜び♪
 非常に繊細な伴奏に撤するリズム隊も秀逸です。 

B-4 I Get A Kick Out Of You (1954年8月5日録音)
 コール・ボーターが書いた大名曲を、如何にもハードバップらしいアレンジで演奏した名演が、これです! テンションの高いリズムアレンジが痛快ですねぇ。
 そしてアドリブパートに入っては、猛烈な4ビートの中で炸裂するクリフォード・ブラウンのトランペットが凄い! 全てが「歌」のフレーズとリズムに烈しく抵抗し、逆に引っぱりまくるノリは本当の神業でしょう。
 ですからマックス・ローチも思いっきり敲きまくって痛快無比の大暴れですし、ハロルド・ランドがモリモリと突進すれば、リッチー・パウエルはボケとツッコミの一人舞台で笑わせてくれます。
 完璧でド迫力のドラムソロに続いて現れるラストテーマの和みと潔さは、これがハードバップの素晴らしさだと痛感させられるのでした。当に大団円!

ということで、このアルバムはバンドメンバー各人を主役にした演奏もあってタイトルに偽り無しの楽しさ満載♪ そして翌年に行われたセッションに比べれば、まだまだバンドとしての纏まりに可能性を残している部分が、逆に素晴らしいというか、上昇期の勢いに繋がった結果オーライの名演集だと思います。

肝心のマックス・ローチについては、ここに収められた「Mildama」なんか脂っこくて……。という御意見もありましょうが、その正確で豪快なドラミングは、やはりひとつの完成形でしょう。もちろんジャズもロックも垣根無しに飛越えて屹立したスタイルだと思います。

それは1960年代に入って、ますます深化していくのですが、それはまた別の機会に譲ります。

個人的にはピリー・ハーパー(ts) やレジー・ワークマン(b) を率いて来日した公演に接していますが、この時はラッキーにもリハーサルを見学出来たのが、大きな思い出となっています。そこでは非常にシビアで恐いマックス・ローチが居ましたですね。全く笑わずに淡々と進行していたリハーサルは、バンドメンバーが必死でしたから、ほとんどライブと同じ有様の演奏で、凄いなぁ~、と感銘を受けたのでした。

合掌。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

黒い熱気のアーネット・コブ

2007-08-16 17:41:34 | Weblog

優雅なお盆休みも終り、雪国に帰ってきました。高速は逆方向なので、ガラガラで飛ばしまくり! 渋滞している反対車線を尻目に優越感に浸るという、いやらしい性格を再認識してしまいました。

ということで――

Sizzlin' / Arnett Cobb (Prestige)

アーネット・コブは所謂テキサス・テナーと呼ばれる、泥臭くて豪快なスタイルの人ですから、一部では熱狂的なファンを持っているようです。

ちなみにその楽歴で脚光を浴びたのが、ライオネル・ハンプトン楽団での花形プレイヤー時代でしょうか、圧倒的なブロースタイルで1940年代に大活躍しています。そして1950年代からは独立して自分のバンドを率い、R&B色が強い演奏に撤していくのです。

しかし私のような者には、ちょっと重いというか、やや胸にモタれる感じでして……。

ところが1950年代後半からは、かなりモダンジャズに接近した演奏を聞かせるようになり、この時期に吹き込まれたアルバムには、なかなかグッとくる作品も少なくありません。

本日の1枚は、当にそうした中の代表作で、演目も共演者も申し分ない逸品だと思います。

録音は1960年10月31日、メンバーはアーネット・コブ(ts)、レッド・ガーランド(p)、ジョージ・タッカー(b)、J.C.ハード(ds) という凄さです――

A-1 Sweet Georgia Brown
 古いスタンダード曲で、ジャズの世界でも定番ですから、ここでもアップテンポの快演が披露されます。まずレッド・ガーランド以下のリズム隊によるテンションの高いイントロが、実に良いですねぇ~。
 そしてアーネット・コブの瑣末に拘らないテーマ吹奏とビシビシグイグイにうねるリズム隊のコントラストも最高です! つまりアーネット・コブは決してモダンなフレーズは吹いていないのですが、その音色と豪快なノリが、ジャズの本質を突いているかのようです。
 続くレッド・ガーランドは何時もながらコロコロと転がりまくるスイング感が見事ですし、非常に厳しいドラミングを聞かせるJ.C.ハード、容赦無いジョージ・タッカーの黒いベースが強烈! 特にJ.C.ハードは唸り声を出しての熱演で、クライマックスのソロチェンジでも敲きまくっています。

A-2 Black Velvet
 同系スタイルの先輩であるイリノイ・ジャケー(ts) のオリジナル曲ですから、アーネット・コブも気合が入っているようです。ミディアムテンポのたっぷりとしたグルーヴ、余裕のブローとタフな音色は薬籠中の名演としか言えません。
 あぁ、こういう、コルトレーンもロリンズも関係ない世界が、ジャズには確かにあるのですねぇ~♪ 仕事に疲れきった後に独り酒でも飲んで聴けば、シビレて止まないものがあると思います。
 しかもジョージ・タッカーの骨太ウォーキングベースが、物凄く心地良いですし、レッド・ガーランドもツボを押えた好演♪ もちろん黒人ジャズそのものという雰囲気も、大いに魅力なのでした。

A-3 Blue Sermon
 これまた黒~い雰囲気満点という、アーネット・コブのオリジナルです。まずスローテンポで繰り広げられるリズム隊だけの演奏からして、全くゴキゲンですよ♪
 そしてアーネット・コブが登場してからは、尚一層に真っ黒なフィーリングが充満します。あぁ、このサブトーン、この余裕、このネバリとタメ、もちろん「泣き」のフレーズも止まりません!
 リズム隊の伴奏も素晴らしく、これぞ黒人ジャズの真髄という局面が連続しています。

B-1 Georgia On My Mind / 我が心のジョージア
 今やレイ・チャールズの歌で有名になったスタンダード曲ですから、良く知られたメロディをアーネット・コブが、どのように聞かせてくれるのか、それだけでワクワクさせられてしまいます。
 スバリ、ここではスローテンポで黒いノリ♪ もちろん期待は裏切られていません。まずはサブトーンと思わせぶりで吹奏するアーネット・コブのテーマ解釈だけで満足、大満足でしょう。
 ただしアドリブパートに入ると、あまりのしつこさに辟易する瞬間も、確かにあります……。なにしろ本人が感極まって唸って叫ぶほどですからねっ! ここまで出来る人って、そんなには居ないと思いますよ。
 そしてレッド・ガーランドのパートに入ると、世界が突然、モダンジャズになってしまうあたりも、叶いませんねぇ♪ 

B-2 Sizzlin'
 ジョージ・タッカーとJ.C.ハードのコンビネーションが冴えた名演です。そこへ加わったレッド・ガーランドの3者によるイントロだけで、満足してしまうかもしれません。
 もちろん曲はアーネット・コブが書いた黒~いオリジナルですから、豪放で思わせぶりなスタイルが堪能出来るわけですが、実は演奏全体をグルーヴィに盛り上げているのが、やはりジョージ・タッカーのベース! これ中心に聴いてシビレまくりの私です。
 また2ビートっぽく演奏を盛り上げていくJ.C.ハードも流石ですし、全体にミディアムテンポで押しまくった全員の熱気が、ジワジワ迫ってきて、たまりません。

B-3 The Way You Look Tonight / 今宵の君は
 モダンジャズではアップテンポで白熱の演奏になる事が多いスタンダード曲ですが、ここではラテンリズムを入れてノンビリと展開されるテーマに和みます。サビで4ビートになるあたりもテンションが高いですねぇ。
 そしてアドリブパートでは、グイノリのリズム隊に対し、余裕でボケとツッコミに撤するアーネット・コブの潔さ! まさに悠々自適というか唯我独尊というか、私のような凡人には素直にひれ伏す以外に道がありません。
 う~ん、これには流石のレッド・ガーランドもお手上げのようですねぇ、アドリブパートの迷い道も珍しいところですから、アーネット・コブが乱入しての仕切り直しもジャズの王道かと思います。

ということで、決してモダンジャズ一辺倒の演奏ではありませんが、リズム隊の素晴らしさとアーネット・コブの温故知新の魅力で一気に聞かせてしまう秀作だと思います。

ちなみに全篇で熱演を聞かせているJ.C.ハードは、モダンスイング~ビバップあたりが守備範囲かもしれませんが、実は幅広い実力を持った名手であることが、このセッションで証明されていると思います。私は、かなり好きですね。

ただし炎天下では聞かないように! あくまでも夜の大人の時間向けかと思います。あぁ、熱気が冷めやらぬ夜の空気が……!

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

何も感じない歳なのか

2007-08-15 17:08:07 | Weblog
今日も暑い!

街へ出てみれば、その所為か、女の子の服装が露出度満点♪

背中全開とか、仰天ですが、見せ下着のブラヒモとか、出すのは止めて欲しいです……。げんなり……。

ということで、疲れ気味なので、本日の1枚は休載というか、何も聴く気が起こらなかった……。

ご容赦下さいませ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エバンス流ハードバップ

2007-08-14 19:53:35 | Weblog

今日も暑くて、ぐったりでした……。毎日、こんな話題しか出ませんねぇ……。

ということで、本日は名盤の中の大名盤を聴いてみました――

Interplay / Bill Evans (Riverside)

天才ベース奏者のスコット・ラファロを交通事故で失って後、やや行詰っていたビル・エバンスが敢然とハードバップに挑戦した名盤!

――と、まあ、今日的には、そう定義されるアルバムかもしれませんが、往年のジャズ喫茶では、このA面が良いか、あるいはB面が好きか? なんて論争もあったと言われる充実した作品です。

いずれにせよ、ロック系キーボード奏者にも、これが好きという人が多いですから、非常に影響力が大きい演奏集だと思われます。

録音は1962年7月16&17日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ジム・ホール(g)、ビル・エバンス(p)、パーシー・ヒース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) というオールスタアズです――

A-1 You And The Night And The Music / あなたと夜と音楽と
 今やビル・エバンスの代名詞的なヒット曲ですが、もちろん素材はスタンダードですから、やっぱりビル・エバンスにはぴったりの選曲としか言えません。
 一応、我国でCMに使われたのはトリオ演奏のバージョンですが、ここではバリバリのハードバップが展開され、それが実に気持ちよい仕上がりになっています。
 そのキモは、ズパリ、フィリー・ジョーの弾みまくったドラミング♪ ちょっとイメージ的にはミスマッチかと思いきや、ビル・エバンスとの相性の良さには、心底、シビレてしまいます。
 それとアレンジが抜群です! ちょっと不安感が漂う思わせぶりのイントロから一転して痛快なテーマ演奏、そしてアドリブパートに受け渡される時のブレイクの仕掛けとか、もう最高ですねぇ~♪ もちろんアドリブ先発のビル・エバンスは緊張感溢れる展開で、甘さに流れていませんから、フレディ・ハバードも溌剌と吹きまくりです。
 それとジム・ホールが温もりの感じられる音色で厳しいフレーズを弾くという、なかなか新感覚のアドリブを聞かせてくれます。「間」の取り方も絶妙で、刺激的なドラミングのフィリー・ジョーを相手にしながら、非常にテンションの高い演奏だと思います。
 ラストテーマも爽快ですねぇ~~♪

A-2 When You Wish Upon A Star / 星に願いを
 これもビル・エバンスが演奏してくれるだけで幸せな気分になれるという有名スタンダード♪ ここでは絶妙なイントロから控えめなフレディ・ハバードとジム・ホールによってテーマメロディが奏でられるというニクイアレンジが、秀逸です。
 地味ながらビートの芯がしっかりしたフィリー・ジョーのドラムスとパーシー・ヒースのベースによるサポートも素晴らしく、ゆったりしたグルーヴの中で各人のアドリブが充実していくのでした。
 う~ん、やっぱりビル・エバンスが一番、夢見心地♪ 3分25秒目あたりからの十八番のフレーズには、ニヤリさせられてしまいます。

A-3 I'll Never Smile Again
 フィリー・ジョーの溌剌としたシンバルワークをイントロに、フレディ・ハバードがミュートで軽快にテーマを吹奏してくれますから、たまりません。マイルス・デイビスとは明らかに異なった個性が丸出しになっています。
 そしてアドリブパートでは、先発のジム・ホールが熱い歌心を披露すれば、フレディ・ハバードも歌心優先モードです。バックでカッコ良すぎる合の手を入れるビル・エバンスは、もちろんアドリブも素晴らし過ぎ♪
 またフィリー・ジョーのドラミングも最高ですねぇ~♪ 唯我独尊のパーシー・ヒースさえも、実は緻密な協調性に立脚した演奏をしているんでしょう。
 クライマックスではアドリブソロの交換が、実にスリリングに展開され、ひとつの方向に収斂していくというモダンジャズの黄金律が気持ち良いところです。

B-1 Interplay
 アルバムタイトル曲はビル・エバンスが書いたクールなブルース! ちょっと突き放したような雰囲気でありながら、実はミステリアスで、しかも人情が滲む名曲・名演だと思います。
 ちなみに、このテーマメロディはEL&Pのキース・エマーソンが大好きらしく、自分のキーボードソロには度々引用していますね。
 肝心のここでの演奏は、沈んだ雰囲気のテーマからジム・ホールが非常にテンションの高いアドリブを紡ぎだした畢生の出来栄え♪ じっくりと構えたパーシー・ヒースとフィリー・ジョーの伴奏も密度が濃くて、思わず惹きこまれてしまいます。
 またビル・エバンスが独自のノリでクールなアドリブに撤していく様は、マイルス・デイビスのバンドに在籍していた頃を彷彿させてくれますが、当時よりは尚一層、内側に向かった表現になっているようです。
 そしてフレディ・ハバードが、そのマイルス・デイビスに対抗したようなミュートプレイを披露すれば、パーシー・ヒースは落ち着いたベースソロで場を収めるという、適材適所の感覚が冴えているのでした。

B-2 You Go To My Head
 通常は緩やかなテンポで演奏されることが多いスタンダード曲ですが、ここでは勢いのあるハードバップ仕立てになっています。
 と言っても、決して暴走気味の演奏では無く、思索的なイントロからテーマメロディの小粋な変奏、そしてアドリブパートの充実度が最高潮! まずジム・ホールが抑えた中にも、どうやって弾いているから分からないようなフレーズを交えて好演ですし、フレディ・ハバードは温か味のある音色で吹きまくりです。
 そしてビル・エバンスが実に素晴らしいです! このアルバムの中では一番「らしい」アドリブを聞かせてくれるんですが、その背後で躍動するフィリー・ジョーとの相性の良さも、たまりません。

B-3 Wrap Your Troubles In Dreams
 これもフィリー・ジョーのシンバルワークが冴えたイントロから、フレディ・ハバードが溌剌とテーマを吹奏したスタンダード曲の見事な解釈が楽しめます。
 もろちんビル・エバンスにとっては、こういう歌物が十八番とあって、薬籠中の大名演! エバンス風歌心の見本市のようなアドリブには心底、酔わされてしまいます。得意技が頻発しているんですねぇ~~♪
 そしてフレディ・ハバードが、バリバリと吹き飛ばしながらも、実は歌心を大切した名演だと思います。またジム・ホールがジャズギターのお手本のようなテクニックとフレーズの妙技を聞かせてくれるのでした。

ということで、捨て曲無しの大名盤だと思います。

で、最初の話題に戻ってみれば、個人的にはB面を良く聴いているのですが、ジャズ喫茶では圧倒的にA面でしょうか。躍動的なフィリー・ジョーのドラムス中心に聴いて快感があるのは、大音量のジャズ喫茶ならではの楽しみかもしれませんね。

さらに言わせていただければ、私はジム・ホール中心に聴いています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州でスイングしたブルーベック

2007-08-13 20:00:39 | Weblog

今日も暑かったですねぇ……。何が冷夏だっ!

あまりの暑さに本サイトの更新も手がつけられず、なにしろPCが過熱気味でしたから……。

まあ、一丁前にお盆休みを取れただけでも、幸せというところでしょうか、そこで――

The Dave Brubeck Quartet In Europe (Columbia)

モダンジャズ黄金期で最高の人気バンドだったデイブ・ブルーペックのカルテットは、もちろんアメリカ本国だけでなく、世界中で巡業を行っていました。

そして凄いのは、各地でのライブレコーディングに加えて、訪れた各国の印象を纏めたアルバムまでも発表していた事です。

さて、このアルバムは1958年の欧州巡業からコペンハーゲンでのライブを収めた1枚ですが、そのサービス精神旺盛で充実した演奏が存分に楽しめる名演集になっています。

録音は1958年5月1~3日、メンバーはポール・デスモンド(as)、デイブ・ブルーベック(p)、ジーン・ライト(b)、ジョー・モレロ(ds) というバンド全盛期の4人組! しかも資料的には、この4人の顔合わせによる最も初期の演奏だと思われます――

A-1 Wonderful Copenhagen
 盛大な拍手で迎えられたカルテットが演じるのは、ご当地ソングというサービス満点ですから、たまりません♪
 曲は確かダニー・ケイがヒットさせたものだと思いますが、ここではワルツテンポで爽やかにスイングした好演で、いきなりフワフワ~とテーマを吹いてくれるポール・デスモンドが最高に気持ち良いです。
 もちろんアドリブも冴えわたり♪ リズム隊のサポートも控えめながら、ジョー・モレロの強靭なビート感が流石ですし、ディブ・ブルーベックは自己のアドリブパートになると、得意のはぐらかしたようなノリを聞かせて、スリルを作り出します。 

A-2 My One Bad Habet Is Falling In Love
 ディブ・ブルーベックのオリジナルで、なかなかスタンダードっぽい小粋なメロディが素敵です。ジーン・ライトのアルコ弾きとジョー・モレロの抑えた伴奏で、硬めにスイングしていく演奏は、ディブ・ブルーベックならではの魅力が感じられます。
 というか、曲そのものの良さが全てでしょうか……。

A-3 Tangerine
 前曲では休んでいたポール・デスモンドが、スタンダードを素材に大活躍した演奏です。あぁ、この快適なスイング感と神憑り的な歌心♪ スカスカの音色も最高ですねぇ~~~♪
 それを一緒に作り出しているリズム隊では、ジョー・モレロのブラシが驚異的に素晴らしく、またジーン・ライトが基本に忠実ながら実に黒っぽいウォーキングベースを聞かせています。
 そしてディブ・ブルーベックは、後年に比べれば控えめな伴奏なんですが、アドリブパートでは若干わざとらしい「間」の取り方が、結果オーライでしょうか? それゆえにベースとドラムスが生み出すグルーヴが一層強烈に感じられます。
 もちろんクライマックスはポール・デスモンド対ジョー・モレロの丁々発止が、腹の探り合いという雰囲気になっていますから、ラストテーマに繋げていくあたりでは、万来の拍手が沸き起こるのでした。

B-1 The Wright Groove
 タイトルどおり、ジーン・ライトのベースを中心にした演奏です。従来、一部からスイングしないと決め付けられていたデイブ・ブルーベックのバンドは、黒人のジーン・ライトを入れたことによって粘り強いグループを獲得し、加えて天才ドラマーのジョー・モレロによる正確で奔放なドラミングがあって、ここに黄金期を迎えたという、その証のような演奏だと思います。
 中盤から登場するポール・デスモンドも、何時もよりハードバップっぽいフレーズとノリを聞かせてくれるのも、珍しいところでしょうか、実に良い感じです。
 さらにデイブ・ブルーベックも快適な4ビートの中で、独特のクラシック風の展開を模索して、見事に結果を出しています。

B-2 Like Someone In Love
 これまた有名スタンダードですから、バンドは和みを追及して、さらにモダンジャズの楽しさ存分に披露してくれます。
 まずポール・デスモンドによるテーマの変奏からアドリブが、もう最高♪ 浮遊感のあるフレーズとノリが、ジョー・モレロの粘っこいブラシでしっかりと支えられ、それがジーン・ライトのベースによって増幅されるという、このパンドの持ち味が完璧に出た演奏だと思います。
 それとデイブ・ブルーペックが、ちょっと意味不明なフレーズの連続からテーマメロディを引き出していくあたりも、面白いですねぇ。こういうインテリ志向が、白人の客層にはウケたのかもしれません。

B-3 Watusi Drums
 ディブ・ブルーベックが一座の花形ドラマーを大活躍させるために書いたオリジナル曲で、期待に応えたジョー・モレロが熱演を聞かせます。
 と言っても、闇雲に敲きまくるわけではありません。安定したジーン・ライトのベースワークを基本に、ポール・デスモンドとデイブ・ブルーベックがしっかりと脇を固め、その中で大技・小技を出し惜しみしないジョー・モレロの神業に驚愕するという仕掛けです。う~ん、緊張感溢れる構成が凄いですねぇ。

ということで、これはスリルと和みが両立した楽しいアルバムです。ジャケットのトボケたイラストもニクイところでしょう。人気盤が多いこのバンドの中では地味な作品かもしれませんが、上昇期の勢いが感じられて、私は気に入っています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お盆にハードバップを

2007-08-12 19:46:46 | Weblog

今日は墓参りやら、友人への見舞いやら、駆けずり回って疲れ切りました。

そこで、痛快なハードバップで気力回復を狙いました――

Lou Donaldson Sextet (Blue Note)

ハードバップからファンキー、ボサノバ~ラテン、コテコテのオルガンファンク、そして4ピートリバイバルまで、常に時代の先端を駆け抜けていたのが、ルー・ドナルドソンという黒人アルトサックス奏者です。

しかし、その先進性があまりに急すぎる所為でしょうか、我国では節操が無いとか、シャリコマだとか、常々言われ続けて軽視されていたのも、また事実でした。

特に1960年代からの諸作は、悩んで聴くのが主流のジャズ喫茶では困り者というか……。ただしその快楽性を含んだハードバップ物は、避けて通れません。

このアルバムは10吋盤ですが、後に12吋LP化された「4,5&6(Blue Note 1537)」には収録されなかった音源も含んだ傑作盤です。

録音は1954年8月21日、メンバーはルー・ドナルドソン(as)、ケニー・ドーハム(tp)、マシュー・ジー(tb)、エルモ・ホープ(p)、パーシー・ヒース(b)、アート・ブレイキー(ds) という強烈な面々です――

A-1 After You've Gone
 爆発的なアート・ブレイキーのドラムソロで始る、元気溌剌の演奏です。曲は古いスタンダードなんですが、リズム隊のグルーヴは強烈至極で、まさにハードバップここにあり! ルー・ドナルドソンがリードするテーマ部分のシンプルなアレンジも力強さに繋がっています。
 アドリブパートでは先発のケニー・ドーハムが熱血のフレーズを連発すれば、ルー・ドナルドソンはビバップ色の強いエキセントリックな突っ込みに加えて、分かり易いノリもあったりして、素直に楽しめます。背後から襲い掛かってくるホーン陣の即興リフは「お約束」でしょうが、クライマックスでブレイク気味の無伴奏ソロに持っていくあたりは、流石の纏まりだと思います。

A-2 Caracas
 ラテンビートを用いたルー・ドナルドソンの楽しいオリジナル曲ですが、アドリブパートでは正統派4ビートですから、全員が本領発揮の大名演!
 まずルー・ドナルドソンがアグレッシブなブレイクから、チャーリー・パーカー直系のスタイルを完全披露♪ もちろんアドリブフレーズは頂き物が多いわけですが、そのノリが分かり易いですから、たまりません。
 それはエルモ・ホープにも言えることで、どこか儚げにスイングするモダンジャズピアノの新しいスタイルを提示してくれます。
 そしてケニー・ドーハムが、これまた哀愁が滲むような音色ですし、私が大好きなマシュー・ジーが切なくも和みのフレーズを吹きまくり♪ あぁ、これがハードバップの楽しさです♪
 もちろんアート・ブレイキーのドラミングも、千変万化で最高です。

B-1 The Stroller
 小気味良いエルモ・ホープのイントロからして、最高です。簡単なリフのテーマを挟んで始るアドリブソロも、痛快至極! アップテンポでも決して乱れないノリの凄さは、神憑りかも……♪
 ですからルー・ドナルドソンも大ハッスル! バックのリズム隊も激烈な煽りですから、全く油断が出来ない雰囲気で、ケニー・ドーハムも流麗なフレーズを大放出です。
 そしてマシュー・ジーが、実に良いですねぇ~~♪ ちょっと中間派っぽいモダンスイングのフレーズに加えて、非常に黒っぽいグルーヴィなノリが最高です。こういう早いテンポで、これが出来てしまうのですから、モダンジャズ全盛期の凄さが存分に味わえる名演ですねっ♪

B-2 Moe's Bluff
 エルモ・ホープが書いたオリジナル曲ですが、ちょっとセロニアス・モンクの影響が滲んでいるあたりに、この人の個性とルーツが感じられます。
 しかし演奏そのものは、楽しさ追及モードですから、アドリブ先発のマシュー・ジーが俺に任せろ! 和みとオトボケのグルーヴィなノリが味わい深いところです。
 また続くケニー・ドーハムが、これまた「味」の世界♪ するとルー・ドナルドソンもリラックスしたフレーズで、なかなか分かり易いモダンジャズに撤してくれます。
 それと弾みきったリズム隊が秀逸です。特に大技・小技を駆使したアート・ブレイキーが好演! エルモ・ホープも翳を秘めたスイング感が絶妙ですねっ♪

ということで、わずか4曲にハードバップの醍醐味が凝縮されています。時期的にそれは、ビバップからハードバッブに移行した完成形かもしれません。

ちなみに「After You've Gone」は、前述の12吋盤には未収録となりましたが、一時出回っていたCDには収録されているとの事です。

機会があれば、ぜひとも聴いていただきたい名演集なのですが、ここに取上げた真意は、もちろんマシュー・ジーの存在ゆえなのでした。先日ご紹介したリバーサイド盤と合わせて聴けば、幸せが倍増するでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする