OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

スティーヴィー・ワンダーの覚醒

2010-06-06 17:05:10 | Soul

I Was Made To Love Her / Stevie Wonder (Tamla)

サイケおやじは所詮、後追い体質ですから、1970年代に入ってスティーヴィー・ワンダーの過去を探索鑑賞することも潔し! と自己満足していました。

そこで出会ったのが本日ご紹介の1枚なんですが、当時はあまり決定的に分からなかった所謂モータウンサウンドの秘密を垣間見たような気分が、なかなか新鮮なアルバムでした。

 A-1 I Was Made To Love Her / 愛するあの娘に
 A-2 Send Me Some Lovin'
 A-3 I'd Cry / 泣きたい気持
 A-4 Everybody Needs Somebody (I Nees You) / 誰もが愛を求めてる
 A-5 Respect
 A-6 My Girl
 B-1 Baby Don't You Do It
 B-2 A Fool For You
 B-3 Can I Get A Witness
 B-4 I Pity The Fool
 B-5 Please, Please, Please
 B-6 Every Time I See You I Go Wild

上記収録の演目から一目瞭然、1967年にスティーヴィー・ワンダーが放った大ヒット「愛するあの娘に」をメインに、例えばリトル・リチャードの「Send Me Some Lovin'」、アレサ・フランクリンやオーティス・レディングで有名な「Respect」、モータウンを代表するテンプスの「My Girl」、さらにはレイ・チャールズの「A Fool For You」やジェームス・ブラウンの「Please, Please, Please」といったR&Rの古典カパー曲が興味をそそるプログラムは、このアルバムそのものが急造だった事情を物語るところでしょう。

しかしそれらは決してストレートなコピーカパーではなく、随所にスティーヴィー・ワンダー独得の歌いまわしやサウンドの雰囲気が濃厚に楽しめるのです。

特に「Send Me Some Lovin'」は、最初にヒットさせたリトル・リチャードの粘っこい泣き節バージョンを知っていれば尚更に印象的で、自由奔放に蠢きまくるエレキベース、ジャズっぽいピアノやドラムス、そしてゴスペルフィールが満点のコーラスとホーンを従え、全く自分の「節」で歌ってしまうスティーヴィー・ワンダーの独壇場! 飛び跳ねるビートの隙間を埋めていくチャラチャラしたリズムギターも良い感じ♪♪~♪

本当にこれで目が覚めたという気分になりましたですねぇ~~♪

それはオリジナルバージョンのヘヴィなビートを逆手に活かした「Respect」、また同族企業の背任行為みたいな「My Girl」の化けの皮剥がしという、かなり意地悪なことをやっても決して憎めず、かえってスティーヴィー・ワンダーという歌手にして優れたサウンドプロデューサーの萌芽が、すっきりと楽しめるのです。

ちなみにアルバム全体のプロデュースはジャケットに記載されていませんが、おそらくはスティーヴィー・ワンダーをデビュー時から支えてきたヘンリー・コスビーと本人が担当したんじゃないでしょうか?

ですから、スティーヴィー・ワンダーが自作自演の大ヒット「愛するあの娘に」はもちろんのこと、「泣きたい気持」や「誰もが愛を求めてる」といった知る人ぞ知る人気オリジナル曲にしても、絶対にツボを外していません。

中でも「愛するあの娘に」は流石に強い印象を残す名唱名演で、せつない響きのハーモニカが抜群のイントロになって以降はエレキベースの凄いドライヴ感を主軸に、ひとつのキャッチーなフレーズを如何様にも膨らませてくアレンジと情熱のボーカルがジャストミート! ホーンやストリングで重層的に作られたカラオケパートも永久保存でしょうねぇ~♪

しかもアルバム全体に濃厚な黒っぽい感覚は出色で、特にB面はそれが顕著!

重心の低いグルーヴと粘っこいビートがスティーヴィー・ワンダーの歌唱を煽る「Baby Don't You Do It」、ジャズブルースっぽい「A Fool For You」は明らかにレイ・チャールズへの敬意を露わにし、さらにはジェームス・ブラウンの足元にも及ばない稚拙な「Please, Please, Please」をここに収めてしまったのは、売れセン狙いはあったとしても、同じ黒人歌手として、若いなりの矜持があったんじゃないでしょうか?

ご存じのように、スティーヴィー・ワンダーは盲目の天才少年歌手として、12歳だった1963年に大ブレイクしたのが最初のピークでしたが、やはりそこにはキワモノ的な扱い方が一般的だったと思います。

実際、巡業や映画出演で一般大衆の前に出る時は、相当に屈辱的な演出もあったと言われていますが、スティーヴィー・ワンダー本人がどのように思っていたかは知る由もありません。

ただ、そうやって広がっていた世界の中で、白人達の才能や音楽にも素直に接することが出来たのは、そういうハンデの逆説的な結果だったことは想像に易いんじゃないでしょうか。

それはビートルズやストーンズといった英国産のビートバンドであり、またサイケデリックロックやボブ・ディランの世界だったことが、リアルタイムで作られていたスティーヴィー・ワンダーのレコードで確実に実証され、リスナーを喜ばせるのです。

実際、1966年の大ヒット「Up Tight」は明らかにストーンズの「Satisfaction」を下敷きにしたと本人も告白していますが、そのストーンズが実はモータウンサウンドをロック的に解釈していたのは、デビュー当時から隠しようなかったという、まさに鶏と卵の関係!?

ですからストーンズが1972年に敢行した北米巡業の前座にスティーヴィー・ワンダーが入り、フィナーレのアンコールでは両者がジョイントで「Up Tight~Satisfaction」のメドレーを演じていたのも、まんざらではありません♪♪~♪

そのあたりサウンドの進化過程が、このアルバムにはぎっしりと収められているのです。

ちなみに当然ながら私有はステレオ盤で。それゆえにモノラルミックスのシングル盤では団子状で分かりにくかったバックの演奏パートがすっきりと分離していますから、後にファンクブラザーズと呼ばれるモータウンお抱えのスタジオミュージャン練達の技、また有機的に機能したアレンジの妙が本当に楽しめますよ。

しかし決定的なのは、何を歌っても「スティーヴィー節」にしてしまう、スティーヴィー・ワンダー本人の歌唱です。その印象の強さは、天才少年から自分の境遇と才能を自覚した青年期ならではの、もどかしい情熱に支配されている雰囲気もあって、私は大好きなのです。

ということで、スティーヴィー・ワンダーの名作群の中では目立たない1枚でしょう。また、それゆえの愛着度があるかと問われれば、決してそうでもないんですが、レコードに針を落とせば、必ずや裏面も聴きたくなるのが必定!

そういう不思議な中毒性を秘めた隠れ名盤だと思います。

そしてサイケおやじがストーンズと同列にスティーヴィー・ワンダーが好きなのも、しっかりと納得出来るのでした。 

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