この歳になると身近な訃報に接することが多くなるわけですが、やはり堪えます……。
本日は追悼の1枚を――
■Hi Voltage / Hank Mobley (Blue Note)
あまりパッとした人気はありませんでしたが、ジャズ者には意外に気になる存在だった黒人ピアニストのジョン・ヒックスが亡くなられました。
この人は所謂器用貧乏というか、マッコイ・タイナー風の演奏が得意でしたので、コルトレーンの真似っこバンドには欠かせない人材でしたし、近年はハービー・ハンコックの繊細な部分だけを取り出したようなスタイルでピアノトリオ作品を吹き込み、一部では熱烈歓迎されています。
録音もかなり残しているはずですが、そういう人なので歴史的名盤なんてものには無縁でしたが、良い仕事はちゃ~んとしています。
例えばこのアルバムはキャリア初期のセッションだと思われますが、いささか締りの無い全体の雰囲気の中で、凛とした存在感と若気の至りが憎めない演奏を聴かせてくれました。
録音は1967年10月9日、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ハンク・モブレー(ts)、ジョン・ヒックス(p)、ボブ・クランショウ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という面々は、実は当時のハンク・モブレーのレギュラー・バンドだったというのですが――
A-1 High Voltage
ブルース進行に基づいた典型的なジャズロックで、ブルー・ミッチェル~ハンク・モブレー~ジャッキ・マクリーン~ジョン・ヒックスと続けて登場する豪華メンバーによるアドリブは、全く手馴れたものです。
リズム隊も絶好調ですし、テーマ曲のカッコ良さなんて当時の日活アクション物に流用されている雰囲気です。
でも、それだけ、なんです……。全く意想外のスリルなんて、望むべくも無いという……。あぁ、これで良いのか? 良いんですねぇ! だってこれが、ハンク・モブレーの世界なんです。プログラム・ピクチャーの世界感があるジャズ、それも王道だと思います。
A-2 Two And One
一転して、烈しい覇気に満ちたハードバップが展開されます。まず、何よりもビリー・ヒギンズのドラムス、特にシンバルが鮮やかです。
そしてアドリブの先発は、もちろんハンク・モブレー! これが絶好調のモブレー節をに加えて、モード解釈の新フレーズまでも聴かせてくれます。さらにブルー・ミッチェルもスピード感と歌心を大切にした展開ですし、ジャッキー・マクリーンはギスギスした音色とノリで泣いているのです。
またフロント陣のバックで目立ちまくりの伴奏コードを弾いているジョン・ヒックスが、ソロパートでも大奮闘! そのバックから襲いかかってくるリフを物ともせず、クライマックスに突進していくのでした。うへぇ~、カッコイイ!
A-3 No More Goodbys
ハンク・モブレーを中心としたワンホーンで演奏されるスロー・バラード♪
ただし、ムードだけでやってしまった雰囲気が濃厚なので、出来はイマイチです。
しかしサポートのジョン・ヒックスが素晴らしい! 甘く、幻想的なピアノは本当に素敵です。この人の特徴はマッコイ・タイナーとハービー・ハンコックの折衷スタイルであることは否めませんが、この演奏は名演だと思います。
それに刺激されたかのように、ハンク・モブレーが後半のソロで盛り返しているあたりが、その証かもしれません。
B-1 Advance Notice
如何にもブルーノートらしいハードバップですが、テーマ部分からお手軽ムードが蔓延しているのがミエミエです。しかし、それをぶっ飛ばすのが、先発で見事なアドリブ・ソロを聞かせるジョン・ヒックスです。
ただしそれに導かれるように登場するハンク・モブレーが、失礼ながら、気抜けのビール……。モブレー節は淀みなく流れて来るのですが……。
そのあたりの弛緩したムードはブルー・ミッチェルやジャッキー・マクリーンにも感染しており、全く終わりなき日常的な演奏……。まぁ、それ故にジョン・ヒックスの頑張りが眩しいのだと、買被ることになるのですが……。
B-2 Bossa Deluxe
アラビア風のメロディをボサビートで解釈してみました、という曲です。もちろん狙いは新主流派的モード演奏なんでしょうが、アドリブ先発のジャッキー・マクリーンが思いっきり迷っています。
またブルー・ミッチェルも十八番というよりも当たり前のフレーズを連発していますし、ハンク・モブレーに至ってはリラックスし過ぎて、聴いてるこちらは完全に居眠りモードに入りそうです。
しかしそれでも最後まで聴き続けられるのは、ビリー・ヒギンズの素晴らしくシャープなドラムスの存在故! そしてジョン・ヒックスの、独り張り切ったピアノの存在感! リズム隊中心に聴いて正解だと思います。
B-3 Flirty Gerty
本来はテンションの高い曲なんでしょうが、この緩~いムードは何でしょう? レイドバックと言っていいんでしょうか? とにかくフロントのホーン陣が弛みっぱなしです。もちろん悪い演奏ではないんですが、冴えが感じられません。
しかしリズム隊、特にジョン・ヒックスは輝いています。
ということで、このアルバムは全曲がハンク・モブレーのオリジナルでありながら、どこかイマイチな出来になっています。それはアドリブの冴えの無さというか、何時もと同じモブレー節がたっぷり聴かれるにもかかわらず……。
このあたりが瞬間芸たるジャズの不思議ところかも知れません。
しかし私は、このアルバムでジョン・ヒックスに邂逅出来たことに無上の喜びが感じています。この度、故人の冥福を祈りつつ聴こうと選んだのも、自然の成行きとご理解下さい。