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サイケおやじの生活と音楽

秋吉敏子はモダンジャズのピアニスト!

2009-03-22 09:58:34 | Jazz

george wein presents TOSIKO / 秋吉敏子 (Storyville)

1974年の我が国ジャズ界の大事件といえば、幻のレーベルだった「ストーリーヴィル」の復刻が、そのひとつでした。そして中でも、このアルバムの発売は朗報♪♪~♪

主役の秋吉敏子は日本を代表するジャズ作編曲家であり、真のモダンジャズを追求したピアニストとして、今では知らぬ人も無い有名人でしょうが、その才能を認められ、1956年に渡米して後は我が国芸能界から去った形となり、1970年頃には幾分忘れられた存在だったと思います。

サイケおやじにしても、秋吉敏子を強く意識したのは、1970年の大阪万博に出演のために帰国したニュースフィルムを見てからですし、ちょうどこのアルバムが再発される前後には、念願のビッグバンドを率いて躍進する彼女の話題が、ジャズマスコミを賑わしていたのですから、ナイスタイミング!

しかも内容が素晴らしいんですねぇ~♪

録音は1956年のボストン、メンバーは秋吉敏子(p)、そしてポール・チェンバース(b) とエド・シグペン(ds) という、この時代ではトップのサイドメンが参加していますが、これはプロデューサーのジョージ・ウェインが如何に秋吉敏子という才能を高く評価していたかの表れでしょう。

A-1 Between Me And My Self
 なんだか哲学的な曲タイトルですが、秋吉敏子が書いたテーマメロディもまた、クラシックや現代音楽、そしてモダンジャズがゴッタ煮となった、当時としては非常に斬新なものでしょう。今聞いても、実にミョウチキリンでアブナイ感じがします。
 しかしそれを、このトリオは絶妙のアレンジで少しずつハードバップ寄りに化学変化させていくのです。
 そしてついにグイノリのアドリブパートに突入してからの強引なスイング感! と、同時に幾何学的なキメと硬派な演奏姿勢が、失礼ながら女性ピアニストとは思えないエグイ感性となって、鋭いジャズ魂を聞かせてくれます。
 正直言えば、全く和めない演奏ですが、この厳しさこそが秋吉敏子そのものじゃないでしょうか。

A-2 It Could Happen To You
 一転して、こちらはお馴染みのスタンダード曲をハードバップに解釈した楽しい演奏です。もちろんピアノトリオでは数多の名演が残されているわけですが、秋吉敏子のバージョンも、そのひとつといって過言ではないでしょう。
 ここにはパド・パウエルとハンプトン・ホーズの影響から脱却しつつあった当時の彼女のピアノスタイルが、はっきりと記録されていますし、後半のスローなパートでの女性らしい豊かな表現とか、全く素晴らしい仕上がりだと思います。

A-3 Nostalgia
 これも秋吉敏子の素晴らしいオリジナル曲で、スローなメロディ展開には哀愁と昭和歌謡曲の味わいが混在していると感じます。さらに美妙な中華メロディまでもがっ!
 それをセンスの良いコード選びとイヤミの無い装飾音を使いながら、しかも墨絵のようなシンプルな美しさを滲ませるピアニストとしての表現力♪♪~♪
 地味ですが、何度でも聴きたくなる名曲にして名演だと思います。

A-4 Homework
 ビバップのバロック風展開とでも申しましょうか、一説によるとバークリー在学中の宿題として秋吉敏子が書いたと言われているように、なかなかタイトルどおりの面白さがあります。
 そしてアドリブパートでは真正ハードバップなベースとドラムスを尻目に、不思議な浮遊感を漂わせるピアノのアドリブ、さらに強靭なポール・チェンバースのピチカートソロが圧巻です。
 それゆえに些かビビったような彼女のピアノが逆に健気な雰囲気で、失礼ながら可愛いく感じられるのでした。

A-5 Manhattan Address
 パド・パウエルの影響をモロ出しにした秋吉敏子のピアノスタイルに加え、クラシックの基礎もみっちりと仕込まれたテクニックが冴えるオリジナル曲の名演です。
 ソロピアノのスタートからリズム隊を従えての猛烈アップテンポのパート、さらに再びのスローな終盤の余韻まで、間然することのない素晴らしさだと思います。

B-1 Sunday Arternoon
 B面に入っては、またまた秋吉敏子のオリジナル曲ですが、気難しいムードのメロディ展開に幾分の安らぎが滲むという、これも不思議系でしょうか……。
 しかしアドリブパートのハードバップな味わいは捨て難く、それもポール・チェンバースの凄すぎるベースワークとアドリブがあればこそでしょう。エド・シグペンのしぶといドラミングも流石です。

B-2 Blues For Toshiko
 前曲では些か硬くなっていた秋吉敏子のピアノが、この自作のブルースでは強烈なグルーヴを発散した大名演! ポール・チェンバースのウォーキングベースに導かれ、ジワジワっとブルースリックを弾き始める彼女の熱いハートが、実に良い雰囲気です。
 エド・シグペンの抑えたドラミングも好印象ですし、縦横無尽に躍動するポール・チェンバースのペースを聴いていると、こんな真っ黒なブルースを演じてしまう秋吉敏子の情熱には圧倒されるばかり!
 1956年という時代を鑑みれば、女性ピアニストという範疇に留まらず、完全に日本人ばなれしたモダンジャズ演奏家としての面目躍如だったと思います。
 
B-3 Soshu No Yoru / 蘇州の夜
 これは服部良一の有名曲ですよねっ♪♪~♪
 その一節を、秋吉敏子は少女時代を過ごした中国への想いを胸に弾いてくれたのでしょうか? 特にアドリブはありませんが、短くも胸キュンの演奏として、私は大好きです。

B-4 Softly As In A Morning Sunrise
 そしてこれが大団円の大名演!
 曲はご存じ、ジャズでは定番の有名なメロディですから、秋吉敏子も気合いの入ったハードバップを存分に弾きまくりです。あぁ、この躍動的でメリハリの効いたピアノタッチの素晴らしさ! アドリブブレーズの不変性! そしてピアノトリオとしての絶大な魅力!
 それにしても、こんな凄いペースとドラムスを従えて一歩も引かぬ心意気は、女侠客の意気地さえ感じてしまうのですが、それは失礼というものでしょう。なにしろ秋吉敏子は唯一無二なのですから! このグイノリに歓喜せよっ!

ということで、オリジナル盤は秋吉敏子自身も当時は所有していなかったという幻の名盤が、復刻されて聴けた喜びは絶大でした。しかも内容が「名盤」の噂に違わぬ素晴らしさでしたからねぇ~♪

既に述べたように、この時代のピアノトリオ物としては出色の1枚でしょうし、オスカー・ピーターソンも語っていたように、当時の女性ピアニストでは秋吉敏子がダントツというも、完全に納得の証明だと思います。

ちなみに今に至るも、私はオリジナル盤を聴いたことがないので比較は無理ですが、最初にトリオから復刻されたアナログ盤LPは、音質もそんなに悪くないと感じたのですが、いかがなもんでしょうか?

今日ではCD化もされていますので、何時かはそっちもゲットする用意はありますが、なんかこの日本盤には愛着が捨てきれないのでした。個人的にはB面を愛聴しています。

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