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サイケおやじの生活と音楽

ミッシェル・ルグランのジャズ

2009-03-23 15:18:50 | Jazz

Legrand Jazz / Michel Legrand (Philips / Columbia)

ミッシェル・ルグランはフランスのというよりも、世界的に名声を得ている音楽家ですが、その広範な音楽性には当然ながらジャズも含まれています。もちろんミッシェル・ルグラン自身が優れたピアニストであり、またあらゆるジャズのエッセンスを自らの作る音楽に活かしているのは、言わずもがなでしょう。

そして作られたジャズ関連のアルバムは全てが名盤扱いですが、特に人気の高いのが、この作品だと思います。

その内容はビックバンド系のアレンジとアドリブソロの両立が完璧という中で、参加した面々はアメリカの超一流が勢揃い! マイルス・デイビス(tp)、アート・ファーマー(tp)、ドナルド・バード(tp)、ジミー・クリーヴランド(tb)、ハービー・マン(fl)、ジョン・コルトレーン(ts)、フィル・ウッズ(as)、ジーン・クイル(as)、ベン・ウェブスター(ts)、ハンク・ジョーンズ(p)、ビル・エバンス(p)、トミー・フラナガン(p)、エディ・コスタ(vib)、バリー・ガルブレイス(g)、ミルト・ヒントン(b)、ポール・チェンバース、ドン・ラモンド(ds)、オシー・ジョンソン(ds) 等々、ほとんど全員がリーダー盤を出しているほどのオールスタアズ♪♪~♪ 一応、3回のセッションに分かれたメンツの構成は原盤裏ジャケットに明記されていますが、アレンジとバンドアンサンブルの素晴らしさに加えて、当然ながら各人のアドリブソロも秀逸の極みつきが楽しめます。

ちなみに録音は1958年6月とされていますが、この時はミッシェル・ルグランが新婚旅行でニューヨークにやって来たとのことで、人生の喜びの絶頂にあった歓喜と仕事熱心さが名演を生み出したのは、いやはやなんともですね。

また、このアルバムはフランス盤、アメリカ盤、日本盤、そして各国盤で曲順が異なっているようですが、とりあえず本日はアメリカ盤でご紹介しようと思います。

A-1 The Jitterbug Waltz (1958年6月25日録音)
 エンタメ系ピアニストのファッツ・ウォーラーが書いたお洒落なワルツ曲ですが、それを「パリの粋」とモダンジャズの斬新なスピード感でアレンジした最高の演奏です。
 穏かにテーマをリードするマイルス・デイビスのトランペットは何時になくハートウォーム♪♪~♪ もしかしたらフリューゲルホーンかもしれませんが、一転してモダンジャズならではの混濁したハーモニーと躍動的な4ビートが乱入してきて、あとは颯爽としたアドリブと彩豊かなアンサンブルが交錯するという、息をもつかせぬ快演となります。
 気になるアドリブソロはクールなマイルス・デイビス、飄々としてスマートなハービー・マン、熱血のフィル・ウッズ、クネクネとしてハードにドライヴしたジョン・コルトレーン、そして既にして孤高のビル・エバンスと続きますが、短いながら何れも凄いです。
 またポール・チェンバースやエディ・コスタ、さらにビル・エバンスの伴奏やアンサンブルでの役割も聞き逃せませんねぇ~♪ もう、これ一発だけでアルバムの虜になってしまいますよ。

A-2 Nuages  (1958年6月27日録音)
 フランスのギタリストでジプシー系ジャズを広く世に知らしめたジャンゴ・ラインハルトの代表曲とあって、ミッシェル・ルグランのアレンジも完全にツボを押さえて、さらに飛躍した表現となっています。
 それはギル・エバンスも顔色なしという膨らみのあるホーンの使い方、奥深いビートを内包したスローテンポの展開の中で、ベン・ウェブスターの余裕たっぷりというテナーサックスが堂々の「歌」を聞かせて収斂するのですが、僅か2分ちょっとの中にこれだけの味わいを醸し出すのは驚異としか言えません。

A-3 Night In Tunisia (1958年6月30日録音)
 これはご存じ、モダンジャズでは定番のエキゾチックな名曲ですが、ミッシェル・ルグランのアレンジは単なるハードバップに処理することの無い、如何にもフランス人らしい凝りようが楽しいところ♪♪~♪
 4人のトランペッターを全面に出したド迫力の合奏からジーン・クイルとフィル・ウッズのアルトサックス合戦、トロンポーンやトランペットの腕くらべ、重厚なサックスアンサンブルの響きも心地良く、誰がどのパートを吹いているのか、いろいろと推察するのも面白ですね。特に終盤のトランペットバトルは圧巻ですよっ! 

A-4 Blur And Sentimetal (1958年6月27日録音)
 カウント・ベイシー楽団が当たりをとった所謂「泣きのバラード」が、ベン・ウェブスターのサブトーンを活かしたテナーサックスの名演で楽しめます♪♪~♪
 と、ここまでは如何にもの展開なんですが、ミッシェル・ルグランのアレンジはトロンポーンにカウンターのメロディを演じさせたりして、一筋縄ではいきません。
 しかしベン・ウェブスターのテナーサックは堂々の大名演ですよ。これがジャズ! 流石のミッシェル・ルグランも脱帽じゃなかったでしょうか。

A-5 Stompin' At The Savoy (1958年6月30日録音)
 そして軽やかに演じられるのが、スタンダード曲の浮かれた演奏です。あぁ、この足が地につかないようなムードは本当に素敵ですね。
 そしてアドリブパートではアルトサックスとトランペット、そしてトロンポーンの名手が登場しますが、それはジーン・クイルにフィル・ウッズ、ドナルド・バードにアート・ファーマー、そしてジミー・クリーヴランドあたりが演じているのでしょうか?
 そこが解明されないモヤモヤもありますが、ミッシェル・ルグランのアレンジが素晴らしくモダンですから、これには同曲をヒットさせたベニー・グッドマンの心中や如何に!?
 オシー・ジョンソンの流石のドラミングが全篇を見事にスイングさせているのも、嬉しいですね。

A-6 Django (1958年6月25日録音)
 MJQでお馴染みの気分はロンリーな名曲ですから、テーマメロディをリードしてクールなアドリブに持っていくマイルス・デイビスが冴えまくりのトランペット♪♪~♪ ミュートで醸し出される思わせぶりな表現は繊細にして、あの「死刑台のエレベーター」ですよ♪♪~♪
 ミッシェル・ルグランのアレンジはジョン・ルイスが企図していた味わいを大切にしながらも、ハープやピアノ、ギターやヴァイブラフォンを適材適所に活用した、なかなか印象派の色彩が感じられる、これが所謂「パリのエスプリ」ってやつでしょうか。

B-1 Wild Man Blues (1958年6月25日録音)
 ジャズ創成期にルイ・アームストロングとジェリーロール・モートンが合作したとされる歴史的な名曲が、ミッシェル・ルグランの欧州的なアレンジで演じられるという、実に素敵な温故知新です。
 柔らかなハーモニーを全面に出したバンドアンサンブルを基調に、エディ・コスタの浮遊するヴァイブラフォン、ハードに意味不明なジョン・コルトーン、カッコ良いマイルス・デイビスのアドリブが楽しめますが、ここではそれよりも演奏全体の凝りに凝ったアレンジの味わいが秀逸だと思います。特にフルートやハープをこれほどテンション高くモダンジャズに取り入れてしまうところは、驚異的に新鮮じゃないでしょうか。

B-2 Rosetta (1958年6月27日録音)
 これも本来はウキウキして楽しい名曲なんですが、それをミッシェル・ルグランは初っ端から意表をついたテンションの高さでアレンジしています。
 そしてアドリブパートでは参加したトロンボーン奏者が入り乱れの大バトルからベン・ウェブスターが貫禄の激ブロー、さらにハービー・マンの祭り囃子が聞こえるというハードバップ大会! 背後で炸裂するトロンボーンのアンサンブルも怖いほどにカッコ良く、キメまくりですよっ♪♪~♪
 演奏全体を強烈にドライヴさせるドン・ラモンドのドラミングやハンク・ジョーンズの流石の存在感も素晴らしいと思います。

B-3 'Round Midnight (1958年6月25日録音)
 これはもう、マイルス・デイビスを起用するしか無い名曲なんですが、確かにマイルス・デイビスはミュートで例の通りの好演! しかしミッシェル・ルグランのアレンジには、それを否定するかのような雰囲気が濃厚です。
 このあたりはお互いのメンツと制作者側の目論見がハラハラドキドキの結果になったのではないでしょうか?
 おそらくは十人十色の好き嫌いがあると……。

B-4 Don't Get Around Much Anymore (1958年6月27日録音)
 これはデューク・エリントン楽団の代表曲ですから、グルーヴィなジャズっぽさは「お約束」なんでしょうが、ここではジョージ・デュヴィヴィエとメジャー・ホリーという、2人の優れたベーシストに匠の技の共演をさせています。
 ちなみに私有盤はモノラルミックスですが、これがステレオ盤だと左右から2人のペースが対決と協調を見事に演じているはずですから、グッと惹きつけられますよ♪♪~♪
 他にもハービー・マンのフルートやトロンボーンのアンサンブルが見事な彩を添えて、これも凄い名演トラックになっています。

B-5 In A Mist (1958年6月30日録音)
 オーラスはジャズの歴史に名を刻した白人トランペッターのビックス・バイダーベックが残した大名曲! その美しいメロディとムードはタイトルどおりの浮遊感に満ちたミステリアスな不思議系ですが、ミッシェル・ルグランのアレンジは意表を突いたというか、躍動的なジャズビートとメリハリの効いたバンドアンサンブルで演じてしまう、まさに禁断の裏ワザです。
 う~ん、それにしても溌剌としてシャープなドライヴ感は心地良く、こういう楽しさも「あり」ですよねぇ~♪
 ただし細かい部分には、例えばヴァイブラフォンやピアノのシブイ使い方が抜群のスパイスになっていて、決してオリジナルを蔑ろにはしていないのでしょうね。

ということで、ミッシェル・ルグランの恐るべき才能が見事に表現されています。そして参加した超一流の面々も、そのあたりを意識しつつ、本場の意地を聞かせた感も強くあると思います。

実は告白すると、私はマイルス・デイビスやビル・エバンスが目当てでこれを聴き、ミッシェル・ルグランなんて、モダンジャズではキワモノだと思っていたのですが、そんな浅はかな思い込みは簡単に覆されるほどにショックを受けました。

というか、こんなに刺激的でカッコ良いビックバンド物は無いでしょう。お洒落なムードは言わずもがな、登場してくるアドリブの充実度も驚異的です。

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2 コメント

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Unknown (Shizuka)
2009-03-25 23:43:49
こんばんは
ビルエバンスのI must believe in spring . は、
ミッシェル・ルグランの曲だったでしょうか・・・
冬の寒い空をイメージするような詩的な孤独感が漂う情緒あるピアノです。
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Unknown (サイケおやじ)
2009-03-26 20:36:40
☆Shizuka様
コメントありがとうございます。

ルグランの書く曲は、わかり易くて、しかも飽きないんですよね。
独特のお洒落な感覚は、まさにパリ、でしょうか。
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