スカッと和みたいというのが、願望です。そんな気分の時に私が聴くのは、このアルバムです――
■The Broadway Bit / Marty Paich (Warner Brothers)
マーティ・ペイチは、現在ではスタジオ系ロックバンドのトトのオリジナルメンバーであるデビット・ペイチの父親として有名ですが、本来はジャズピアニストにしてウエストコースト随一のアレンジャーなので、1950年代からハリウッドを中心に、ポップス~ロックや映画音楽でも夥しい仕事を残した天才職人です。もちろんジャズでも素敵なアルバムを作っており、この作品は豪華絢爛な演奏内容とジャケットの魅力が見事に融合した傑作盤です。
ちなみに通称はジャケ写をご覧なれば一目瞭然の「踊り子」です♪
肝心の中身はタイトルどおり、ブロードウェイでヒットした楽曲を如何にも西海岸らしくスマートに演奏したもので、メンバーはマーティ・ペイチ(p,arr) 以下、フランク・ビーチ(tp)、スチュ・ウイリアムソン(tp,v-tb)、ボブ・エネボルゼン(v-tb)、ジョージ・ロバーツ(tb)、ビンス・ド・ローザ(fhr)、アート・ペッパー(as)、ビル・パーキンス(ts)、ジミー・ジェフリー(cl,bs)、ビクター・フェルドマン(per,vib)、スコット・ラファロ(b)、メル・ルイス(ds) という超一流の凄腕達です。
その中でも特に注目は、もちろんアート・ペッパーの参加で、結論から言うと、この天才のウラ名盤でもあります。ちなみに録音は1959年の1月ということで、アート・ペッパー個人としてはクスリ代の追われて、闇雲にスタジオやライブの仕事をこなしていたという、つまり、やや演奏が荒れ気味の時期でしたが、なんのなんの、この作品での演奏は、けっして余人が真似できない全盛期の輝きに満ちています。
まずA面はコール・ポーターの軽快な名曲「It's All Right With Me」がスマートに演じられます。とは言っても、そのアレンジはけっして上滑りしておらず、スコット・ラファロの太くドライブするベースとふくよかなトロンボーンの響きが、鋭いブラス&リードのアンサンブルを縫って登場するビクター・フェルドマンのバイプ・ソロに繋がるあたりは、もう最高です。またメル・ルイスのドラムスも切れ味するどく、心底、ノセられてしまいますし、最後に出てくるスコット・ラファロのベースソロでは、突如、異次元に飛ばされますよ。ブンブンブン♪
2曲目の「I've Ground Accustopmed To Her Face」は、ジミー・ジェフリーのクラリネットを中心に、とても都会的にアレンジされており、その間隙を縫ってアート・ペッパーの素晴らしいアルト・ソロが堪能出来ます。しかもスローな曲調・展開なのに力強いリズムを配してダレない流れは流石です。
それが3曲目では一転、またまた弾むように楽しくアレンジされた「I've Never Been In Love Before」で、これもアート・ペッパーが素晴らしいフェイクを披露してのテーマ吹奏が完璧! さらにそのまま続くアドリブパートではジミー・ジェフリーとの絶妙な掛け合いにゾクゾクさせられます。メル・ルイスのドラムスがリードするリズム・アンサンブルも一糸乱れずにホーン隊をノセていくところも快感です。
しかしA目ラストの「I Love Paris」はダークでヘヴィなアレンジになっています。ただし黒人のそれとは違い、あくまでもスマートなふくよかさを基調としていますので、重苦しくなっていません。そしてそこで登場するリーダーのマーティ・ペイチのピアノソロがハードボイルドなのは、なにやらハリウッド産のサスペンス映画サントラを思わせます。おまけにジミー・ジェフリーのハスキーでモダンなクラリネットが花を添えていますし、スチュ・ウイリアムソンのミュート・トランペット・ソロはマイルス・デイビスよりも上手くて美味しいフレーズを吹いています。
さてB面では、まずトップの「Too Close For Comfort」が快演で、スコット・ラファロのベースがその源です。実際、その野太いウォーキングを聴いているだけでシビレます。そしてそれに乗ってアート・ペッパーが独自のグルーヴを披露するのですから、たまりません♪ ブラス陣の繰り出すリフもシャープで、本当に気持ちの良い演奏です。
ここでさらに追い討ちとなるのが「Younger Than Springtime / The Surrey With The Fringe On Top」のメドレーです。なにしろアレンジに厚みがあり、分かりやすいギル・エバンスというか、否、やはりこれはマーティ・ペイチも持ち味であるスマートさが存分に発揮された賜物でしょう。そしてここでもアート・ペッパーが鮮やかさの極みつき♪ 私はブレイクからのあまりの見事さに、思わず唸ります。
そのスマートさは、続く「If I Were A Bell」でも全開で、複雑に絡み合うテーマでのサックスの響きと悠然としたリズム隊の対比は、ジャズの醍醐味です。もちろんその主役はアート・ペッパーですが、ビル・パーキンスやビクター・フェルドマンもクールに応戦していくのでした。
そしてB面4曲目が色彩豊かなスローなアレンジが素晴らしい「Laxy Afternoon」で、アート・ペッパーのアルトサックスがこよなく美しく、マーティ・ペイチのビアノは本当に幻想的です♪ そのお膳立てをするビンス・ド・ローザのフレンチホルンにもご注目願います。
ということで、フィナーレは軽快な「Just In Time」です。ここではビル・パーキンスが本領発揮の和みの美メロをアドリブでたっぷりと披露し、シャープなアート・ペッパーと対峙しますが、その緩衝材がジミー・ジェフリーのバリトン・ソロというのが、洒落た演出で、何度聴いても飽きません♪ リズム隊のウキウキとしたグルーヴも、この時期のウエストコーストでしか出せない味と技だと思います。
さて以上のように、このアルバムに収録の作品はジャズとしては比較的短めの演奏ばかりですが、全体を聴いているとアドリブ・ソロ・パートの短さは、ジャズそのものの素晴らしさには何の関係も無いことが分かります。否、むしろ凝縮されたスリルが確実に存在しているのです。ただしそれは、超一流の者だけが演じることが出来る必殺技! 当にウエストコースト・ジャズ、ここに在り! という大名盤だと思います。
また短い時間に美味しいところをテンコ盛にするアレンジの素晴らしさは、マーティ・ペイチがポップスの分野でも成功した秘訣というところでしょう。しかもここでは、きちんとジャズを意識しており、それは常日頃のスタジオの仕事とは違った、ヒトクセあるメンツを召集してレコーディングに望んだ事でも明らかです。そしてその仕上がりの素晴らしさは、とにかく聴いていただければ必ずや、良い! とシビレるはずです。
それと実はこの「踊り子」には姉妹盤として「お風呂」と呼ばれる、もう1枚の傑作が存在しています。それは明日取上げるとして、幸いにもその2枚を1枚に収めた再発CDが現在出ています。音質も素晴らしく、特に後年、ビル・エバンス・トリオで一世を風靡するスコット・ラファロのベースが完璧に楽しめますので、激オススメです。ジャケ写からリンクしてありますので、チェックしてみて下さい。
う~ん、それにしてもジャケットが素敵です。そしてこの彼女が、後にどういう人生を歩んだのか、このアルバムを聴くたびに、それが気になる私です。
コメント、感謝です。
自分は西海岸派のアレンジ物も好きなんで、これはツボでした♪
しかしジャズファンの多くはアート・ペッパーが参加していればこそ、でしょうね。
ペイチの編曲が好きで買ったのですが
ちょっと時代が古いので、私には
肩すかしでした。
あと数年して聴いたら印象がかわるかも・・・
コメント&TB感謝です。
こちらのTBが届かない理由は不明ですが、逆もまた、真なりということで♪
フルバンはスカッとするのが醍醐味だと思います。
サイケさん、すばらしいアルバムレビューですね。
先に読んでおきたかったです"^_^"
ビックバンドはあまり聴かない私ですが、
これ聴いてスカッとしました(#^.^#)
サイケさんからのTB届いてませんですね。たまにTBうまくいかない時があるようなのですが・・禁止ワードに何かひっかかったとか????(笑