自分でもストレスが溜まっているのが分かります。爆発寸前モードかなぁ……。
これではならじ、和みでクールな音を求めて――
■Lennie Niehaus Complete Fifties Recordings One:Quintet+Octet (Lonehilljazz)
レニー・ニーハウスは白人のアルトサックス奏者ですが、最近では映画音楽家として有名でしょうか。
しかし1950年代にはバリバリのジャズメンであり、そのスタイルはリー・コニッツとアート・ペッパーを足してアクを抜いたような、クールスタイルでした。もちろん作編曲も得意で、その室内楽的なアンサンブルを駆使した演奏は、流れるような爽やかさとスマートな魅了に満ちています。まあ、究極の白人ジャズというところでしょうか、それゆえに一度虜になると、あまりの快適さにどっぷりと浸かりきってしまいます。
で、その音源の主なものは、西海岸の代表的なレーベルであるコンテンポラリーに多数残されていますが、もちろん時代的にEP、10インチ盤、LPと、多岐に渡った発売が続き、その度に収録曲目が似たり寄ったり、雑多な編集になっているのが、賛否両論です。
つまり幾つかのセッションから寄せ集めたオムニバス形式の発売が多いんですねぇ……。それはそれで統一感もあって、楽しめるように作られているんですが、それが素晴らしいだけに、私に限らず、ファンとしてはセッション毎に音源を楽しみたいという贅沢を望んでいたのではないでしょうか?
そしてついに出たのが、その願望を現実化した、このCDアルバムです。しかも、わざわざ「The Lennie Niehaus Project」と銘打って、4枚のシリーズに纏めてあるのですから、脱帽です♪
まず、この1枚目には 1954年7月から翌年1月までの4セッション、20曲が収められています――
01 I'll Take Romance
02 Prime Rib
03 Inside Out
04 Bottoms Up
最初の4曲は 1954年7月2日録音で、メンバーはレニー・ニーハウス(as)、ジャック・モントローズ(ts)、ボブ・ゴードン(bs)、モンティ・バドウィッグ(b)、シェリー・マン(ds) という、ピアノレスのクインテットです。
とにかくサックスのアンサンブルが素晴らしく、柔らかなハーモニーと一糸乱れぬ演奏の完成度、そして流麗にして歌心に満ちたアドリブは、快感そのもの♪ あまりに快適過ぎて、我知らずウキウキと春の気分になってしまいますねぇ~♪
1曲は3分前後なんですが、その密度の濃さは絶対的で、特に「Prime Rib」におけるレニー・ニーハウスのアドリブは、圧倒的な流麗さを堪能できます。また「Inside Out」でのボブ・ゴードンも凄いの一言です。
05 You Stepped out of a Dream
06 Whose Blues ?
07 I Remember You
08 Day by Day
続く4曲は 1954年7月9日録音で、メンバーは前記と同じです。もちろん演奏の基本も変わっていませんが、より個人のアドリブを重視したアレンジになっているようです。
まず「You Stepped out of a Dream」では初っ端からレニー・ニーハウスが自由に吹きまくり、シェリー・マンとの暗黙の了解も見事です。なにしろ素材がスタンダードでありながら、あんまり自由過ぎて原曲が分からなくなっているほどなのです。
また「Whose Blues ?」では烈しくジャズに突っ込むレニー・ニーハウスの凄みが堪能出来ますが、「I Remember You」と「Day by Day」における柔らかい表現、甘いハーモニー、クールな泣きのアドリブフレーズも捨てがたい魅力があるのでした。
09 Figure 8
10 How About You ?
11 Patty-Cake
12 Way You Look Tonight
13 Seaside
14 Night We Called It a Day
15 Have You Met Miss Jones ?
16 Night Life
ここからは大編成のオクテットセッションです。録音は1954年8月23日、メンバーはスチュ・ウィリアムスン(tp)、ボブ・エネボルゼン(v-tb)、レニー・ニーハウス(as)、ジャック・モントローズ(ts)、ボブ・ゴードン(bs)、ルー・レヴィ(p)、モンティ・バドウィッグ(b)、シェリー・マン(ds) という、7月セッションを基本に増員したバンドになっています。
演目は有名スタンダード曲が中心ということに加え、ピアノ入りなので安心感がありますが、なかなか油断できないアレンジが流石です。
まずオリジナル曲「Figure 8」ではド頭からほとんど無伴奏の見事なサックスアンサンブル、続けてスイング極みつきというルー・レヴィのピアノソロが素晴らしく、さらにボブ・ゴードンの春風のようなバリトンサックスにグッときます。もちろんレニー・ニーハウスも脱色されたパーカーフレーズを駆使して、流麗に聴かせてくれます♪ 膨らみのあるバンド演奏も、実に楽しいです。
スタンダード曲では「Way You Look Tonight」が予想どおりの快適スイング、「Night We Called It a Day」がゆったり温泉気分という、和やかさ♪
また「Have You Met Miss Jones ?」は、ここに参加しているジャック・モントローズ&ボブ・ゴードンにとっても十八番とあって、レニー・ニーハウスも張り切ったアドリブ中心の演奏になっています。
他の曲についても、メリハリのあるリズム隊の好演もあって、なかなか素敵だと思います。
17 Rick's Truck
18 Bunko
19 Nice Work If You Can Get It
20 You and the Night and the Music
このアルバムの最終パートは 1955年1月11日の録音で、同じく8人編成の大所帯、メンバーはスチュ・ウィリアムスン(tp)、ボブ・エネボルゼン(v-tb)、レニー・ニーハウス(as)、ビル・ホールマン(ts)、ジミー・ジェフリー(bs)、ピート・ジョリー(p)、モンティ・バドウィッグ(b)、シェリー・マン(ds) となっています。
で、結論から言うと、ジャック・モントローズ&ボブ・ゴードンが抜けた所為でしょうか、やや全体的に精彩が感じられません。しかし逆にスチュ・ウィリアムスン&ボブ・エネボルゼンが大活躍♪ 初っ端の「Rick's Truck」はアンサンブル重視ながら、各々のソロ交換も熱い強烈さがあります!
また人気スタンダード曲の「You and the Night and the Music」は、夜の和みのナイトクラブという雰囲気が全開です♪ ゆるやかにスイングするバンドアンサンブルと物分りの良いリズム隊の繰り出す技に、心底、酔ってしまいます。
ということで、とくにかく全曲、完成度が非常に高い作品集です。
ただしあまりの快適さ、完璧度、アクの無さに、聴き通すと飽きてしまうのも、また事実……。
しかし最初の3セッションに参加しているジャック・モントローズ&ボブ・ゴードンの印象度は極めて高く、一部のマニアにしか評価されていない2人の再評価を望みたいところです。
肝心のレニー・ニーハウスは、繰り返しますが、リー・コニッツとアート・ペッパーの良いとこどりですし、アクの除いた、またその上澄みだけで吹いているというマニア泣かせの存在ですから、一度聞いて虜になるか、呆れ果てるかは、皆様の個人的好みが大きく分かれると思います。
個人的には大好きな人なんで、もちろんシリーズ全4作は纏め買いでした♪