ついに本日は雪崩に曹禺しました。というか車で山道を走行中、雪の重みで樹木が倒れてきて、前のバンパーをカスッたんです。もちろん傷ついて若干、ガタきましたが、走行には支障なしなので、やや安心です。でもひとつタイミングがずれていたら、今頃は……。
ということではありませんが、本日は奈落の底まで付きあえるという――
聴けば聴くほどに味があるというスルメ盤が、確かにあります。例えばジャズではこのアルバム、一聴には地味ですが、内容は素晴らしい♪ もちろん評論家の先生方もお墨付きを与える名盤です。
メンバーはアート・ファーマー(tp)、トミー・フラナガン(P)、トミー・ウイリアムス(b)、アルバート・ヒース(ds) というワンホーン編成で、録音は1960年9月とされています。
まずA面の1曲目はミディアム・テンポでソフトに歌い上げる「So Beats My Heart For You」が名演になっています。しかし愕くべきは、演奏のテーマ部分が最初は繊細なベースソロで演じられることで、そこにアート・ファーマーの柔らかなトランペットが重ねられていくのですが、この地味~な雰囲気がアドリブ・パートに入っては軽快な4ビートに転生していく瞬間が最高です。それはベースとドラムスの絶妙なコンビネーションがミソで、実はこの2人は当時のアート・ファーマーのバンド・レギュラーでしたから、さも、ありなんです。もちろんアート・ファーマーは歌心が全開です。
ただし残念ながら、このアルバムはリズム隊の録音がオフ気味なので、その醍醐味が薄いのが難点……。それ故に名演がぎっしりなのに、地味な扱いしか受けていないのだと思います。ですから聴く時は低音を強調しておきましょう。
2曲目は、これも地味~なスタンダード曲「Goodbye, Old Gril」ですが、スローな展開の中に素晴らしい歌心をちりばめた最高の出来になっています。特に繊細なトミー・フラナガンのピアノはソロにバックに本領発揮です♪
そして3曲目はガーシュイン兄弟が書いたスタンダードの名曲「Who Cares」が、アップテンポで爽やかに演奏されます。アート・ファーマーの吹奏は、力強い中にも繊細な歌心と自分だけの「節」を持っていることが良く分かる演奏だと思います。またトミー・フラナガンのピアノも秀逸です。
さらにA面ラストの「Out Of The Past」は共にジャズテットを結成した盟友ベニー・ゴルソン(ts) 作曲による哀愁ナンバーですから、たまりません。まさにアート・ファーマーの為にあるような曲で、ミディアム・テンポでスイングしながら、そこはかとない風情の美メロが次々に湧き出てくるアドリブ・パートは、もう最高です。リズム隊も絶妙のサポートですし、演奏を聴きながら、何時しかホロ苦い思い出や感傷に浸ってしまうという、決定的な名演です。
それはB面に入って冒頭の「Younger That Springtime」でも同じ事♪ この曲は大ヒットミュージカル「南太平洋」の主題歌として有名なので、ジャズでも多くのカバー・バージョンが吹き込まれていますが、ここでの演奏はその筆頭にあげられても不思議ではない、素晴らしい完成度があります。トミー・フラナガンの素敵なセンスが光るイントロから、アート・ファーマーのソフトな情感が溢れたテーマ吹奏、さらにベースとドラムスの的確なサポートが完全に一体となったコラボレーションの素晴らしさということです。もちろんアドリブ・パートも完璧で、中でもトミー・フラナガンは畢生の名演! 聴くほどに魅せられてしまいます。
その輝きは次の「The Best Thing For You Is Me」の華やかな部分に直結し、アップテンポでバリバリ吹きまくりながら、けっして歌心を蔑ろにしていないアート・ファーマーは流石です。
そしてお待ちかねの泣きのバラードが「I'm Fool To Want You」です。なにしろ、いきなりフワッとテーマの美味しいところを吹くアート・ファーマーには完全に脱帽です。素直に吹奏していながら、その温か味と和みを泣きのフレーズに繋げていく様は、本当の名人芸♪ じっくりとお楽しみ下さい。
さらにこれまでの名演をキチッと締め括るのが最後の「That Old Devil Called Love」で、こういう知る人ぞ知る隠れ名曲を、ジンワリとモダンジャズにしてしまうアート・ファーマーは最高です。その吹奏はテーマからアドリブと完璧な歌いまわしで、私はこのアルバムの中では一番好き! と言いきってしまいます。トミー・ウイリアムスのベースソロも繊細な味をたっぷりと披露していますし、これこそ、スルメ味ジャズの真骨頂かもしれません。
ということで、ちょっと聴いただけでは地味~な演奏ばかりですが、じっくりと何度も聴いてみて下さい。必ず、ハマリます。一生付きあっていける棺桶盤になるでしょう。