本日は冷たい雨……。
こういう時こそ、刺激的て粋なコーラスを聴きたくなりませんか?
そこで――
■Dizzy Gillespie & The Double Six Of Paris (Philps)
ビバップという名称で誕生したモダンジャズは、ニューヨークの歓楽街の地下室でひっそりと生まれた、文字通りのアングラ音楽でした。それは刺激的ビートとエキセントリックな曲調、さらに黒人感覚が強いブッ飛んだ演奏ということで、リアルタイムの1940年後半~1950年前半にかけては決して一般的な人気を得ることが出来ませんでした。
しかしその影響力は世界的なものになり、それぞれのお国柄を反映した独特のジャズへと進化しています。
例えばフランスでは、本場アメリカの本物のジャズメンに対する尊敬と憧憬は限りないものがあり、楽器奏者はもちろんのこと、ついにはコーラスグループまでもが、如何にもフランスという雰囲気に彩られながらも、非常にモダンな歌声を聞かせるようになりました。
このアルバムの一方の主役であるザ・ダブル・シックス・オブ・パリは、中でも特に有名な存在で、メンバーはミミ・ペリン、クリスチャン・ルグラン、ウォード・スウィングル、Claudine Barge、Robert Smart、Jean-Claude Briodin、Eddy Louis という面々でも、もちろん後年のスウィングル・シンガースや幾つかのグループに発展して行く優れたグループです。
そのスタイルはヨーロッパ的な伝統を重視しつつも、ジャズ本来の持つ野性味を失わないところが「味」ですが、今日のマンハッタン・トランスファーほどアドリブ性は強くなく、アレンジとコーラスワークの妙で聞かせるあたりが特色だと思います。
で、このアルバムはビバップの源流に挑戦した企画で、しかも伴奏をディジー・ガレスピー、バド・パウエルといった、真にモダンジャズを創成した天才が務めているという物凄さです。
ここで、つい「伴奏」と書いてしまいましたが、実は「演奏」というのが本当のところです。それはまず、ビバップの語法に則った演奏が先に行われ、それに後からザ・ダブル・シックス・オブ・パリの歌声がダビングしてあるからで、もちろん演奏もコーラスも要所では、しっかりと譜面によるアレンジが施されています。
録音は1963年7&8月、演奏パートは2つのセクションに分かれており、まずバリで行われた7月のセッションでは、ディジー・ガレスピー(tp,vo)、バド・パウエル(p)、ピエール・ミシェロ(b)、ケニー・クラーク(ds) が参加しています。また8月のセッションはシカゴで行われ、ディジー・ガレスピー(tp)、ジェイムス・ムーディ(ts)、ケニー・バロン(p)、クリス・ホワイト(b)、ルディ・コリンズ(ds) という、当時のディジー・ガレスピー・クインテットが演奏を務めています。
ちなみにアレンジは鬼才ラロ・シフリン! 演目は全て、ディジー・ガレスピー縁の有名モダンジャズ曲ばかりです――
A-1 Ow (1963年7月8日録音)
初っ端から伝説の深夜テレビ番組「11PM」みたいなコーラスが、粋というか素敵です♪ もちろんディジー・ガレスピーの張り切ったトランペットも強烈ですが、全面的に演奏を彩るコーラスとのコラボレーションが、もう最高♪
リズム隊も演奏が最初にあるというだけあって、自然体のグルーヴを生み出していますねっ♪
とにかく、この曲を聴いただけで、このアルバムの虜になること、請け合いです!
A-2 The Champ (1963年7月8日録音)
いきなりディジー・ガレスピーのエキセントリックなオトボケスキャットから演奏が始まり、シャープなコーラスとリズム隊の掛け合い、さらに過激なディジー節というトランペットが炸裂します。あぁ、これも最高です♪
もちろんバド・パウエルも唯我独尊のアドリブを聴かせてくれます。
A-3 Emanon (1963年7月8日録音)
イントロのバド・パウエルに、まずシビレます。
それを上手く利用したかのようなコーラスによるテーマの歌い方も、素敵ですねぇ~♪ ちゃ~んと過激なビバップを再現しつつ、お洒落ですから!
アドリブでは再びバド・パウエルの快演からディジー・ガレスピーの元祖ビバップ節が炸裂し、ブレイクでは呼応して叫び歌うコーラスが鮮やかです!
A-4 Anthropology (1963年7月8日録音)
テーマ部分からスキャットコーラスが大活躍しますし、ディジー・ガレスピー以下のビバップ演奏隊も素晴らしい限りです。
こういうのを聴くとラロ・シフリンのアレンジが嫌味で無く、あくまでも演奏の自然なグルーヴを活かしていることが納得出来ますねぇ♪
その中でバド・パウエルは、時期的に決して好調とは言えないのですが、それでも貫禄勝負のツッコミには、思わず聴き入ってしまう凄みがあります。
A-5 Tin Tin Dio (1963年7月8日録音)
元祖ラテンビバップという名曲ですので、ラテンパーカッションまでもがダビングしてある完成度の高いトラックです。もちろんコーラスワークも緻密ですし、ステレオ録音の魅力も存分に楽しめる仕掛けが嬉しいところ♪
そしてダレ気味のバド・パウエルが、妙に良い味なんですねぇ~♪
バックで叫ぶ掛声は、ディジー・ガレスピーでしょうか、これも素敵な雰囲気です。もちろんトランペットでは哀愁の歌心を存分に披露しています。
A-6 One Bass Hit (1963年7月8日録音)
タイトルどおりベースを全面に出し、コーラスと対決させた素晴らしい演奏です。
そしてこれも「11PM」モードというか、本当にお洒落です♪ ディジー・ガレスピーの爆発的なソロさえもマイルドに包んでしまうコーラスは、グループの本領発揮でしょう。執拗に絡むベースも結果オーライだと思います。
B-1 Two Bass Hit (1963年7月8日録音)
これもタイトルどおり、ベース対コーラスという前曲を引き継いだ目論見が成功しています。そしてディジー・ガレスピーのトランペットが意想外のクールな雰囲気で、その音色ともども、まさかマイルス・デイビスを意識したわけでもないでしょうが、後半では本性を現してしまうあたりが、ニクイところです。
B-2 Groovin' High (1963年7月8日録音)
モダンジャズ史上ではディジー・ガレスピーとチャーリー・パーカーが共演録音を残した重要曲ですから、ここでのコーラス&ボーカルには、その1945年にチャーリー・パーカー(as) が吹いたアドリブメロディが引用されるという、いわゆるボーカリーズというワザが使われています。
多分、リードボーカルはミミ・ペリンでしょう、これが素晴らしい出来です!
B-3 Oo-Shoo-Be-Doo-Be (1963年8月20日録音)
出ましたっ! ディジー・ガレスピーが十八番のオトボケビバップ曲です。
もちろんリードボーカルはディジー・ガレスピーで、バックコーラスとのコントラストも鮮やかです。
ちなみに、この演奏はアメリカのシカゴで録音されたもので、コーラスはパリでダビングされたようです。メンバーは既に述べたようにケニー・バロンを含む、当時のディジー・ガレスピーのバンドですから、なかなか纏まりがある仕上がりです。
う~ん、ゴスペル調のドラムスが素晴らしく躍動的ですねぇ~♪ 全く全員が楽しんでしまった雰囲気が吉と出た名演だと思います。
B-4 Hot House (1963年7月8日録音)
またまたミミ・ペリンが実力発揮のボーカルバージョンになっていますが、演奏パートも素晴らしく、オーバーダビング駆使の作り物とはいえ、自然体のグルーヴが失われていない好演になっています。
B-5 Con Alma (1963年8月20日録音)
これもシカゴ録音にパリでコーラスをダビングした演奏ですが、やはり演奏パートの充実があってこその完成度になっています。
曲そのものはラテン風味で人気がありますから、凝ったアレンジも素直に受け入れられるところですが、少し演奏が短くて消化不良気味かもしれません。
B-6 Blun N' Boogie (1963年7月8日録音)
オーラスはバド・パウエルのアドリブが安定した凄みを聴かせてくれる名演になっています。それゆえにディジー・ガレスピーのトランペットやコーラス隊の妙技が、やや型にはまった按配なのが……。
ややダビングが荒っぽいのも???
とはいえ、それなりに粋で楽しいところは、締め括りに相応しいかもしれません。
ということで、若干の尻つぼみがあったりしますが、全体には素晴らしい完成度かある名盤だと思います。なによりもモダンジャズに対して尻込みしていない姿勢が潔く、作り物ではありますが、これほど上手くプロデュースされては脱帽です。
なによりも、このお洒落感覚が、如何にもフランスでしょう♪ コーラス&ボーカルも英語とフランス語がチャンポンになっているように聞こえたりします。
正直言うと、実はバド・パウエル目当てで聴きもしないで買ったアルバムなんですが、すっかりザ・ダブル・シックス・オブ・パリの虜になった過去があるのでした。