■Scandinavian Nights / Deep Purple (Connoisseur Collection)
残暑を「遅れて来た暑さ」と解釈するならば、本日ご紹介のアルバムこそは、まさにそれっ!
尤も、こちらは「熱さ」とするべきなんですが、とにかく今でも絶頂と認定するしかない所謂第二期ディープ・パープルが急上昇の勢いにあった1970年11月に残したライプ音源の発掘盤というだけで、ハードロックファンは全身の血液が沸騰させられるんじゃないでしょうか。
しかも発売された1988年頃といえば、やはり同じ第二期のメンバーによる再編ディープ・パープルが予想通り(?)に期待を裏切った巡業ライプをやった後でしたから、これに溜飲を下げたパープル信者も大勢存在していたはずです。
ちなみに、この音源は1970年代からブートで流通していたもので、ストックホルムで行われたコンサートを地元ラジオ局が放送用に収録したソースですから、音質は保証付き♪♪~♪ 当然ながら、ここで公式盤化された事により、盤質自体が既成のブートとは比べ物にならないほど良くなった点も嬉しかったのです。
A-1 Wring The Neck
B-1 Speed King
B-2 Into The Fire
B-3 Paint It Black
C-1 Mandrake Root
D-1 Child In The Time
D-2 Black Night
で、上記演目からもご推察のとおり、この時期のディープ・パープルはイアン・ギラン(vo)、リッチー・ブラックモア(g)、ジョン・ロード(key)、ロジャー・グローヴァー(b)、イアン・ペイス(ds) という顔ぶれによってハードロック畢生の名盤「イン・ロック」を出した直後であり、しかも先行シングルの「Black Night」もウケまくっていたのですが、リアルタイムの業界では長いライプ演奏が必須という掟を遵守すべく、第一期からの十八番も披露されています。
そしてそれが如何にも第二期らしい、パワフルでスピード感に満ちたスタイルで煮詰められ、それでいてサイケデリックロックの残滓とも言うべきネチネチとしたアドリブ合戦による思わせぶりが並立している暑苦しさが、たまりません♪♪~♪
まあ、このあたりは純粋に第二期を愛するファンからすれば、実に面白くないところだとしても、それは納得するしかないでしょう。
例えばLP片面を埋め尽くした第一期からの演目「Wring The Neck」や「Mandrake Root」では、ジョン・ロードのオルガンがほとんどロックジャズしていますし、リッチー・ブラックモアのギターから飛び出すフレーズも強烈な早弾きの中にジャズコードのスケール&モードが頻繁に使われるという物凄さで、もちろんベースやドラムスのリズムとビートも臨機応変に対応していきますから、まさにバンドの演奏は千変万化!
ちなみに「Wring The Neck」はセカンドアルバム「詩人タリエシンの世界」に収録されていた「Hard Road」がオリジナルの曲名なんですが、何時の間に変えられたんでしょうか?
まあ、それはそれとして、こうした長尺演奏の中にはディープ・パープルのライプを決定づけるボーカル対ギターの相撃ち合戦も随所に飛び出し、興奮を煽ってくれますよ♪♪~♪
そして第二期の新曲となった「Speed King」や「Into The Fire」では更にヘヴィな質感とメリハリの効いた曲展開が優先され、「Child In The Time」では特有の様式美を確立すべく奮闘するバンドの勢いは流石!
気になる「Paint It Black」はご存じ、ストーンズの大ヒット曲をカバーしたものですが、実質的にはイアン・ペイスのドラムソロがメインであり、リッチー・ブラックモアの東洋趣味っぽいギターワークの冴えが短くしか聞かれないのが勿体無い!?
ただし、そのあたりは「Mandrake Root」で満腹させられますから、ご安心下さい♪♪~♪
そしてお待たせしましたっ! ついにやってくれる「Black Night」の爽快なハードロック天国は荒っぽさも良い方向に作用していますよ♪♪~♪
なによりも特筆されるべきはイアン・ギランという稀代のハードロック歌手が、既にして本領を発揮していることであり、時代性からライプの現場は楽器組メインの様相が強く感じられるのは確かではありますが、ボーカルパートの比重は決して疎かにされていません。
ということで、今となってはギットギトにヘヴィな音楽かもしれませんが、こういうドロドロしたハードロックの呪縛も必要とされていたのが、1970年代でありました。
しかし、それがウケなくなった時、リッチー・ブラックモアは逸早く深紫からの脱退を敢行し、楽々と虹の架け橋を渡っていったのも、それはそれで正しい道だったと思います。実際、ディープ・パープルの信者がレインボウに流れた歴史は述べるまでもないでしょう。
ですから、古くからのファンを嘆かせた再編第二期のディープ・パープルがイアン・ギランの歌うレインボウと化していたのは、あまりにも皮肉であり、ちょうどそんな時に堂々の自己確立を表明したこのアルバムが歓迎されるのも当然だったのです。
連日の猛暑と先行きの見えない社会情勢の中で聴くには、体力と気力が求められるライプ盤ではありますが、であればこそ、一度は洗礼を受けるのがロックファンの立場だと思っています。