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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

J.J.ジョンソンの楽しき前傾姿勢

2012-03-28 15:08:55 | Jazz

The Eminent Jay Jay Johnson Vol.2 (Blue Note)

こんな世相なればこそ、ウキウキした音楽を求めてしまうのも人間の本性と居直るわけではありませんが、ようやく春ともなれば、少しでもそうした楽しい気分を欲する事だって罪悪ではありません。

まあ、たかがレコード鑑賞にも、そんな言い訳を用意しなければならない現在のサイケおやじの立場は実に情けないわけですが、しかし本日取り出したJ.J.ジョンソンの楽しい1枚に免じて、ご容赦願えれば幸いです。

録音は1954年9月24日、メンバーはJ.J.ジョンソン(tb) 以下、ウイントン・ケリー(p)、チャールズ・ミンガス(b)、ケニー・クラーク(ds)、サブー・マルチネス(per) という、今では夢の顔合わせです。

A-1 Jay
 文字通り、自らの芸名をタイトルに付したオリジナルとあって、曲はもちろん演奏そのものにも相当の自信が溢れている快演は、まさにアルバムトップに相応しいと思うばかりです。
 なにしろイントロからアップテンポでノリまくったリズム隊、中でもウイントン・ケリーならではの颯爽としたスイング感は既にして満足領域のど真ん中! 当然ながらサブー・マルチネスのパーカッションも楽しさを倍加させる役割を果たしていますよ♪♪~♪
 ですからJ.J.ジョンソンのスライドワークとアドリブフレーズの妙技に凄すぎる現実があるにせよ、そこには威圧感なんてものは到底無く、むしろ何の理屈も抜きで、サイケおやじはジャズを聴く楽しみを感じています。

A-2 Time After Time
 人気歌物スタンダード曲ですから、ここではスローテンポで演じるJ.J.ジョンソンとリズム隊の面々が些か神妙な気も致しますが、アドリブパートに入ってからのビート感の強さは、やはりハードバップに他なりません。
 また原曲メロディの良さをストレートに聴かせてくれるテーマ部分の心地良さ♪♪~♪ それもまた即興演奏と対を成すジャズの魅力だと思います。

A-3 Old Devil Moon
 これまた人気スタンダード曲にして、J.J.ジョンソンの十八番であり、後々まで幾つかのレコーディングが残されていますが、それにしてもここでの演奏は鮮やかの一言です。
 定番であるラテンリズムの使用はサブー・マルチネスの参加によってさらに増強され、ウイントン・ケリーの飛び跳ねるラテンピアノも最高潮ならば、J.J.ジョンソンのアドリブも極めてナチュラルなジャズフィーリングに満ちていますよ。
 そして失礼ながら、予想外にグッと惹きつけられてしまうのがチャールズ・ミンガスのペースワークと思うのは、サイケおやじだけでしょうか。それが決して長閑なだけではない演奏の仕上がりに大きく関わっているんじゃないでしょうか。

B-1 Too Marvelous For Words
 これぞっ! サイケおやじがこのアルバムの中で最も好きな演奏で、まずはお馴染みのスタンダードメロディを巧みにフェイクしていくJ.J.ジョンソンのヘッドアレンジの上手さ♪♪~♪ もちろん淀みないフレーズを積み重ねていくアドリブパートの構成力と表裏一体の天才性である事は言うまでもありません。
 ですからケニー・クラークを中心に送り出されるスインギーなジャズビートは、所謂「お約束」とは一概に決めつけられない、なにか特別のスピリットがあるように感じられるほど!?
 つまりノリが、最高で抜群なんですねぇ~~♪
 思わず手拍子、足拍子、体でスイング楽しいなぁ~~♪
 
B-2 It's You Or No One
 通常はアップテンポで奏される事が多い有名スタンダード曲を、ここではアッと驚くスローな解釈でメロディを吹き始めるJ.J.ジョンソンの憎らしさ!?!
 チャールズ・ミンガスの寄り添うベースのエグ味も激ヤバじゃないでしょうか。
 そしてウイントン・ケリーの歌心の妙、じっくりとジャズビートを醸成させていくケニー・クラークのドラミングはイブシ銀というか、地味なところが、これまたニクイです。

B-3 Coffee Pot
 オーラスは、これもJ.J.ジョンソンのオリジナルとしては有名なビバップ王道曲ですから、テーマから流れようにアドリブパートに入っていくあたりの快感は期待どおりだと思います。
 もちろんアップテンポでグイノリのリズム隊の中ではサブー・マルチネスのコンガが最高のスパイスであり、チャカポコ鳴り響くラテンビートが如何にモダンジャズと相性が良いか、その確認作業が全てを楽しさ優先モードに導いているようです。

ということで、書き遅れていましたが、このアルバムはアナログの10吋LPですから、1曲あたりの演奏時間も3~4分程度です。しかし、その密度の濃さは保証付きの素晴らしさで、何もアドリブがウリのモダンジャズだからと言って、長ければ良いというものじゃ~、ありません。

またラテンパーカス入りのモダンジャズって、これほど快楽的だったかっ!?

そんなところも再認識の名盤だと思います。

ご存じのとおり、ここに収められた演奏は後に纏められる12吋LP、あるいはCDにおいても存分に楽しめますから、ぜひ、ひとりでも多くの皆様にウキウキした気分になっていただきというございます。

何故ならば、現在の沈んだ我国の状況だって、そりゃ~、不可抗力や人知の及ばないものを認めざるを得ないところは分かっているつもりですが、やはりひとりひとりが多かれ少なかれ、どこかに高揚する気分を持つことが必要なんじゃないかなぁ~、とサイケおやじは思います。

もちろん、そんな気持になれない状況や立場はあるでしょう。

しかし今は前を向いていくしかない事も、また現実である以上、ちぃ~~っでも体を前に倒すためには、楽しい音楽も必要かと思います。

人は前に倒れることで、足を出し、進めるんじゃないでしょうか。

そんな事を本日はJ.J.ジョンソンを聴きながら、思っている次第です。

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ブルーベック・カルテット人気絶頂時の最期の記録

2012-02-08 14:53:26 | Jazz

Their Last Time Out / The Dave Brubeck Quarter (Columbia / Legacy = CD)

嘗て世界で一番の人気を得ていたモダンジャズのバンドは、1960年代のデイブ・ブルーベック・カルテットに他なりませんが、これは決してサイケおやじの独断と偏見では決してなく、歴史的真実として認めざるをえないと思います。

しかし、そうした人気絶頂がまだまだ続いていた1967年末にグループが解散する事になった時の記録、つまりラストステージのライプ音源が契約レコード会社のコロムビアによって発表されなかったのは、長い間のファンの疑問と失望でありました……。

ところが最近になって、デイブ・ブルーベックが個人的に録音していたその時のプライベートテープが、なんとっ! 本人自宅の物置(?)の中から発見され、ついに最新リマスターを用いての2枚組CDとして世に出たのは大朗報♪♪~♪

録音は1967年12月26日、メンバーはもちろん黄金のカルテットであったポール・デスモンド(as)、デイブ・ブルーベック(p)、ジーン・ライト(b)、ジョー・モレロ(ds) という鉄壁の布陣です。

 ★Disc 1
  01 Introduction
  02 St. Louis Blues
  03 Three To Get Ready
  04 These Foolish Things
  05 Cielito Lindo
  06 La Paloma Azul
  07 Take The“A”Train
  08 Someday My Prince Will Come
 ★Disc 2
  01 Introduction Of The Members Of The Quartet
  02 Swanee River
  03 I'm In A Dancing Mood
  04 You Go To My Head
  05 Set My People Free
  06 For Drummers Only
  07 Take Five

まず結論として、問題の音質面はモノラルミックスで全く普通に聴けるレベルですし、むしろドラムスとベースが前に出た録音は個人的に好ましく、また例によってタテノリ気味のピアノが打撃系として楽しめるあたりも高得点♪♪~♪

ただし、もちろんトラックによっては録音バランスにバラツキもあって、ポール・デスモンドのアルトサックスが妙に引っ込んだパートの幾つかは勿体無いかぎり……。

尤も、それは全体としては僅かですから、上記演目のとおり、「ブルーベックのヒットパレード」の楽しさは保証付きですよ♪♪~♪

そして時代的にも、特にデイブ・ブルーベックのピアノに前衛性が表出していたり、クール&ジェントリーなポール・デスモンドのアルトサックスにしても、所によってはツッコミが鋭すぎる感覚なのは、如何にもライプレコーディングの魅力だと思います。

また、あらためて述べるまでもなく、ジョー・モレロのドラミングが強烈無比の天才性を発揮し、どんなリズム設定をも無視した如くの猛烈なスイング&ドライヴ感は圧巻! 当然ながら用意されたドラムソロのパートは見事な緊張と緩和であり、また伴奏時の臨機応変なタイム感覚も流石の一言でしょう。

で、気になる「ラストステージ」という感慨については、メンバー各々が万感胸に迫る感動の名演、と書きたいところなんですが、あくまでもスピーカーの前のリスナーの感想としては、そうした気合いや気負いは感じられず、むしろ淡々とした中にプロのテクニックとフィーリングを披露した終りなき日常という感じでしょうか。殊更意識過剰にならずとも、充分に稀代のバンドの名演を楽しめる内容のはずです。

ただし、それでもひとつのコンサートステージの流れを収めたという点において、当時のクライマックスであろう終盤に置かれた「Set My People Free」がジーン・ライトのベースソロを主役にしていたり、また続く「For Drummers Only」は曲タイトルどおりにジョー・モレロのドラムソロという企画(?)は、やはり「カルテットの最後」という意思表示なんでしょうかねぇ……。

その意味でオーラスの「Take Five」は言わずもがなの大ヒット曲にして、全てのファンがお待ちかねのはずですっ!

すると、意表を突かれたというか、何時もは演奏の中盤にたっぷり披露されるはずのジョー・モレロのドラムソロが無く、それはこの直前に演じられた「For Drummers Only」から実質的に続く流れの所為なのでしょうか。とにかく皆が大好きな「Take Five」におけるポール・デスモンドとデイブ・ブルーベックのアドリブがさらにたっぷりと聴けるのは素直に嬉しいです♪♪~♪

ということで、再び録音に関しては、これがなかなかに秀逸というか、最新リマスターの技術があるにせよ、ジョー・モレロのドラムスのエッジの鋭さ、ジーン・ライトのペースワークに付随する軋みの響き、そしてデイブ・ブルーベックのピアノタッチの力感という、このカルテットならではガチガチリズムセクションの魅力が唯一無二に楽しめるのは痛快!

ですからポール・デスモンドのアルトサックスが例のソフトな音色で浮遊感溢れる表現に徹していても、実は歌心があるんだか、無いんだか? という個人的な想いを超越した存在感を示すのは当然でしょう。

そして結果的に人気絶頂だったカルテットは解散しても、ほどなくデイブ・ブルーベックは自らの新バンドを結成しますし、ポール・デスモンドも随時、それにゲスト扱いで参加していく実情を鑑みれば、これが「最後」とは言えないわけですが、そのあたりは芸能界の美しい「しきたり」として許容するのが、ファンの役割なのかもしれません。

なによりも今日、こうして「最後の音源」が世に出された以上、繰り言は潔く止めて、このCDを楽しむのが得策だと思っています。

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白昼の襲撃で突破せよ!

2012-02-05 15:45:51 | Jazz

■白昼の襲撃 Original Sound Track / 日野晧正 (東宝 / disk UNION = CD)

もちろん、今でもそうですが、しかし昭和40年代前半から数年間の日野晧正のカッコ良さは群を抜いていました。

なにしろ当時は大ブームだったGSの人気グループと遜色無いスタアバンドとして、日野晧正クインテットはライプステージの現場でも、またテレビ出演時でさえも、女性ファンの嬌声に包まれていましたし、その音楽性も最先端のモダンジャズを基調としながら、決して難解な頭でっかちでは無い、まさに直観的な快楽性が満載!

で、本日のご紹介は、そうしたリアルタイムの日野晧正を堪能出来る驚異の発掘音源集として、自らのクインテットを率いて担当した東宝映画「白昼の襲撃(昭和45年・西村潔監督)」から、正真正銘のフィルムサウンドトラックです♪♪~♪

 01 タイトルバック
 02 オン・ザ・コーナー (スネイク・ヒップ)
 03 スーパーマーケット
 04 海
 05 ピストル
 06 電話
 07 タクシー
 08 足音
 09 ブルース
 10 仲間
 11 桟橋のトランペット
 12 深夜の街
 13 ジョニーの船
 14 ゲッタウェイ

演奏メンバーは日野晧正(tp)、村岡建(ts,fl)、鈴木宏昌(p,el-p)、稲葉国光(b,el-b)、日野元彦(ds) という、これは既に述べたとおり、この音源が録られた昭和44(1969)年当時の日野晧正クインテットではレギュラーだった面々であり、人気名盤アルバム「ハイノロジー」を作り上げた頃ですから、その纏まりと緊張と緩和の妙は言わずもがな、予め書かれたであろうスコアと即興演奏主義のバランスも秀逸ですよ。

ちなみに音楽性の基本となっているのは、所謂エレクトリック期のマイルス・デイビスがリアルタイムで鋭意推進していたスタイルに多くを準拠していますが、しかし随所に溢れる歌謡曲っぽいメロディ展開も含めた哀愁、あるいは調子の良さ、さらに如何にも「Like Miles」な描写の濃さは、好きな人にはたまらない世界でしょう。

それは冒頭「タイトルバック」から無伴奏でじっくりと聞かせてくれる日野晧正のトランペットが時には「死刑台」になったり、「My Funny」に接近したりする稚気こそがジャズ者には絶対に嬉しいはずで、これをバカにするツッパリなんて愚の骨頂!

素直に聴いて、楽しまなきゃ~、勿体無いですよねぇ~♪

サイケおやじは、そう断言するんですが、何故ならば、このパートが終わった次の瞬間、ドッカァ~~ンッと炸裂する「オン・ザ・コーナー (スネイク・ヒップ)」導入部のインパクトは絶大のカッコ良さ!

「タイトルバック」での思わせぶりが一転、文字どおりヒップなロックジャズを満喫出来ますが、ご存じのとおり、この曲は同時期に発売されたヒットシングル「スネイク・ヒップ」の別テイク&ロングバージョンであり、何よりも低い重心でファンキーなビートを叩き出す日野元彦のドラミングがあればこそ、エレキベースやフェンダーローズの存在感も大きな魅力になっていると思いますし、日野晧正や村岡建のアドリブも心置きなく聴けますから、ぜひとも前述したシングルバージョンとの聴き比べも楽しいところ♪♪~♪



ちなみにそれはリアルタイムでも相当に売れたらしく、サイケおやじは後追いで中古をゲットした時にも発見は容易でしたし、現在ではCD再発された「ハイノロジー」のボーナストラックにもなっていますから、その人気は不滅の証明です。

そして続く「スーパーマーケット」も、実は件のシングル盤B面に「白昼の襲撃のテーマ」として収録の曲と同じメロディ&リフを使った、これまた所謂別テイク! 躍動的なロックジャズのビート感も最高ですが、注目すべきは日野晧正のトランペットに電気的な処理が加えられ、オクターバーを使用したかのような低音と高音に分離した音の流れが、これはこれで気持良いはずで、リアルタイムではナット・アダレイ等々も好んで使っていた手法でした。

しかし、これに反感を覚えるジャズ者が少なからず存在しているのも、また事実……。そこでシングル盤のバージョンではストレートなトランペットサウンドがメインで用いられているのかもしれません。

また、あくまでもモダンジャズ専任主義の日野晧正を堪能したければ、新主流派どっぷりの「海」、如何にもの「ブルース」、ヒノテル十八番の「Alone, Alone And Alone」と似て非なる「仲間」、これまた「死刑台」な「桟橋のトランペット」や「深夜の街」、ハードボイルドな「ジョニーの船」あたりの4ビート演奏が、いずれも断片的な短さではありますが、なかなかの濃い密度ですよ。

そして決定版となるのが、オーラスの「ゲッタウェイ」で、なんとっ! 12分超繰り広げられるバリバリの先鋭モダンジャズ! じっくり構えたスタートから演奏がジワジワと盛り上がっていく展開は、時にはフリーに接近する場面も交えつつ、しかしナチュラルなモダンジャズの醍醐味が徹底追及されるんですから、たまりません♪♪~♪

と同時に、この音源集には「イン・ナ・サイレントウェイ」の強い影響をモロ出しにした「ピストル」、ソウルジャズの「電話」、R&B歌謡な「足音」という快楽性の強いトラックも入っているところが、これまたグッと惹きつけられるポイントでしょうか。サイケおやじは正直に好きだと言えます。

ということで、これは久々に血が騒いだ発掘音源集でした。

ちなみに音質は元ソースの劣化を上手くリマスター処理してあると思いますが、気になるのはステレオのミックスが右と左に泣き分かれ……。ど~せなら、モノラルミックスでも良かったと思えます。

また既に述べたとおり、各トラックの中には断片的な演奏になっているパートもありますので、そのあたりを許容出来るか否かは、それこそ十人十色の感性でしょうか。

最後になりましたが、肝心の映画「白昼の襲撃」は主演の黒沢年雄ならではの、幾分「しつっこい」青春の焦燥と情熱がイメージ的に重ねられた作品だと、個人的には思います。

ただし、これは今から遥か昔、名画座で唯1回だけ鑑賞した時の印象ですから、サイケおやじの現在の心境や観点からはズレているはずです。

しかしオフィシャルではソフト化されていない現状を鑑みて、クールビューティだった高橋紀子、尖がった岸田森、何時もながらの存在感を発揮する緑魔子……、そうした出演者達のきっちりした芝居は、劇中にもちょいと写る日野晧正クインテットの演奏にジャストミート! 

というか、本当は逆なのかもしれませんが、そう思わざるをえないほど、この劇伴サントラはカッコ良くて、シビレるんですよねぇ~♪

最近は完全な煮詰まり状況のサイケおやじにとって、突破口を見出すとすれば、この「白昼の襲撃」は必需品というわけです。

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1960年代テイストのジョー・パス

2012-01-17 15:33:07 | Jazz

A Sign Of The Times / Joe Pass (World Pacific)

今でこそジョー・パスの演奏はレコード&CDで気軽に聴けるようになりましたが、この天才ギタリストが「ヴァーチオーゾ」という完全ソロギターの傑作アルバムによって大ブレイクを果たした1970年代前半は、まだまだそんな状況ではありませんでした。

というか、一応は1960年代に残したモロジャズ盤はそれなりに日本でも再発されていたんですが、基本的に悪いクスリに耽溺していた頃であれば、その分量は需要を満たすことがなく……。

ですから、必然的にジョー・パスのファンは奥の細道に入ってしまうはずが、そんな中にあっても殊更我国で無視されていたのが、本日ご紹介のLPです。

なにしろ結論から言えば、皆様もご推察のとおり、これは所謂イージーリスニングジャズという、ある種のムード音楽盤であり、思わず見惚れてしまう素敵なパツキンのお姉さまがデザインされたジャケットも、実は1970年代のガチガチのジャズ者からは疎まれる大きな要素でもありました。

 A-1 A Sign Of The Times
 A-2 The Phoenix Love Theme
 A-3 Nowhere Man / ひとりぼっちのあいつ
 A-4 Dindi
 A-5 A Summer Song
 A-6 Moment To Moment
 B-1 It Was A Very Good Year
 B-2 Are You There
 B-3 What Now My Love / そして今は
 B-4 Softly As I Leave You / そっとさよなら
 B-5 Sweet September

しかし、そういう点からすれば、ウェス・モンゴメリーはどうなんだっ!?

と思わず語気を強めたくなるのが、サイケおやじの正直な気持であり、告白すればこのアルバムを入手して謹聴したのはフュージョン全盛期の1970年代も後半でしたから、収録演目に因む見事な1960年代テイストが、周囲の目には如何にも時代遅れだったにちがいありません。

ただし西海岸の主流派編曲家として見事な実績を積み重ねていたボブ・フローレンスのアレンジは、このアルバムが制作発売された1966年前後の流行最先端だったボサノバのソフトロック的展開が集約されたものですし、それに迎合する事のないジョー・パスのギタープレイはモダンジャズそのものなんですよねぇ~♪

例えばアルバムタイトル曲「A Sign Of The Times」はトニー・ハッチが書き、ぺトゥラ・クラークが歌ってヒットさせた黄金のブリティッシュポップスなんですが、ここでの弾みきった明るい演奏は女性コーラス隊のハミング&スキャットに彩られながらも、実に凄いメロディフェイクと瞬間芸の極みのようなアドリブフレーズが飛び出しているですよねぇ~♪ しかも随所で活躍するフルューゲルホーンがチェット・ベイカーなんですよっ!

う~ん、わずか2分ちょいの演奏時間に、これだけ濃密な楽しさをテンコ盛りにしたサービス精神は流石だと思うばかりです。

そして続く「The Phoenix Love Theme」は映画音楽からの抜粋流用らしいんですが、スウィートな女性コーラスやボサロックのビート、全体のメロディの流れ等々、如何に我国歌謡界の作編曲家がこのあたりを研究鑑賞していたかを物語るんじゃないでしょうか。個人的には何か山下達郎のオールディズ系の歌が出てきそうな錯覚さえ覚えるんですよねぇ~♪

ちなみに演奏メンバーとしてジャケットにしっかりと名前が記載されているのは、ジョー・パス(g)、チェット・ベイカー(tp,flh)、フランク・キャップ(ds) だけなんですが、言わずもがなの推察として、当時のハリウッドポップスを裏で支えていたスタジオミュージシャンが良い仕事をやっているのは既定の事実でしょう。

しかも全体を貫くソフトロック&ボサロックのビートが実に快適で、ビートルズの大ヒット曲「ひとりぼっちのあいつ」や同じくイギリスのポップス系フォークデュオとして同時代に活躍したチャド&ジェレミーの「A Summer Song」、あるいはシャンソンの有名曲「そして今は」あたりの知られ過ぎたメロディでさえも、抜群の新鮮度で楽しめるんですから、これも後追いの醍醐味ってやつでしょうか♪♪~♪

つまり、それは本質的にジャっズぽい部分が演奏とアレンジの双方で大切にされている証かもしれません。なにしろヘンリー・マンシーニでお馴染みの「Moment To Moment」の4ビートグルーヴは本物ですし、ボサノバ王道の「Dindi」やバカラックメロディの代表格「Are You There」で聴ける濃密なジャズフィーリングは決して侮れません。

そこで前段の話に戻ってみれば、CTIの諸作で絶大な評価のウェス・モンゴメリーのやっていた路線は何も突然変異ではなく、同時期に似たような企画で作られた演奏がどっさりあったというわけです。

しかし、それらが特に我国で無視されたのは、もしかしたら掲載したジャケットの罪深いほどのナイスフィーリングかもしれませんねぇ~。正直、なにかエレキインストのアルバムのようでもあり、モダンジャズ真っ向勝負の雰囲気なんか微塵も感じられませんから!

おそらく、このアルバムを1970年代に愛聴していた日本のリスナーは、ジョー・パスの偏執的ファンかチェット・ベイカーのコレクターが多かったはずで、もちろんサイケおやじは前者でありましたが、もうひとつ、基本的にこういうボサロック物が好きという本質は隠し通せないと観念しております。

決して万人向けとは申しませんが、機会があればジャケ写のムード共々、虚心坦懐にお楽しみいただきたいアルバムで、もしかしたから今日では、ソフトロックのコアなマニアには御用達になっている可能性もあるかと思うのでした。

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パーカー・ウイズ・ストリングスの至福に理屈は不要

2012-01-12 14:55:27 | Jazz

April In Paris / Charlie Paker With Strings (Verve)

もろちんチャーリー・パーカーはモダンジャズを創成した偉大な天才ですから、その閃きはアドリブだけでなく、自らの音楽性全般多岐にわたり、いつまでも滅びることがありません。

つまり何時如何なる場合に聴いても、チャーリー・パーカーはチャーリー・パーカーであって、それは本人が一番認識していたはずですから、例えストリングスとの共演企画であっても、なんら躊躇すること無く己の音楽を貫けば、周囲は自ずと納得させられる真実が本日ご紹介のLPにもぎっしりと収められています。

 A-1 April In Paris
 A-2 Summertime
 A-3 If I Should Lose You
 A-4 I Didn't Know What Time It Was
 A-5 Everything Happens To Me
 A-6 Just Friends
 B-1 They Can't Take That Away From Me
 B-2 You Came Along (From Out Of Nowhere)
 B-3 East Of The Sun (West Of The Moon)
 B-4 Easy To Love
 B-5 I'm In The Mood For Love
 B-6 I'll Remember April

しかし例によって初っ端から大上段に構えた文章を綴るサイケおやじにしても、ジャズを聴き始め、それなりに概要輪郭が分かり始めてきた頃は、チャーリー・パーカーともあろう天才が、何故にストリングス入りのスタンダード演奏という軟弱路線をやったのか? その迎合主義に失望を覚えたのも確かです。

なにしろジャズ評論家の先生方が解説して下さる諸々によれば、チャーリー・パーカーはビバップと称されるモダンジャズを牽引した、所謂「尖がりまくった」ミュージシャンであり、そのヒップな感覚で演じるところは黒人アングラ音楽でありながら、白人にファンが多かったという文化的素養の凄さに結びついている実相さえありましたから、何も大衆に媚びる必要があったのか??

なぁ~んていう、結局それは世間知らずの独善しか思いつかない若気の至り……。

チャーリー・パーカーにしてみれば、もっと多くの人々に自分の音楽を楽しんで欲しかったはずで、当然ながら経済的な欲望も否定出来ないでしょうし、それはレコード会社や興行エージェントの思惑でもあったはずです。

そしてチャーリー・パーカーであれば、人種差別や進み過ぎた音楽性の壁なんか、絶対に乗り越えられる確信があったんじゃないでしょうか。

そして勉強不足のサイケおやじには確かな事は言えませんが、とにかくストリングをバックにした元祖イージーリスニングジャズの企画が持ち上がった時、おそらくはチャーリー・パーカー本人が一番ヤル気満々だったように推察しています。

さて、そこでこのアルバムのA面にはストリングスと共演した公式スタジオセッションの最も早い時期の記録である1949年11月30日の演奏が、またB面には翌年7月5日の録音から6曲を抜粋して収めた構成になっています。

ちなみに説明不要とは思いますが、各々のトラックはこれが初出ではなく、当然ながら最初はSPに収録されての発売から、アルバム単位に纏められた経緯にしても、まずは10吋盤があり、この12吋盤はその後という事になりますが、それにしてもアルバムタイトルを強くイメージ化したジャケットデザインは、なかなか秀逸ですよねぇ~♪

で、肝心の演目は上記したとおり、良く知られたスタンダード曲ばかりとあって、チャーリー・パーカーはストレートにメロディを吹奏しつつも、天才ならではの鋭いファーリングでそれをフェイクしたり、当然の如く用意されたアドリブパートでは、あのドライヴしまくったグイノリフレーズや抜群のタイム感覚による跳躍とウネリを堪能させてくれますよ♪♪~♪

そして気になるストリングスセクションとの関係については、必ずしも上手くいっているとは個人的に言い難いものがあって、なにかチャーリー・パーカー率いるジャズバンド側とストリングスグループの存在が遊離しているように聞こえるんですねぇ……。

このあたりは時代的な録音技術の問題もあるでしょうが、おそらくは同じスタジオでの一発録りだったと思われる状況の中、モノラルミックスにしては妙に両者の分離が良すぎるという贅沢(?)を言いたくなるのです。

ただし、これは特にA面のセッションに顕著なんですが、その両者の媒介となっているが如きオーボエによる彩りのアンレンジが、ちょいと捨て難い魅力になっていますよ。

ちなみにレコーディングセッション参加のメンバーはチャーリー・パーカー(as) 以下、レイ・ブラウン(b)、バディ・リッチ(ds)、スタン・フリーマン(p) 等々のジャズ系名人が基本のバンド構成に、全体のアレンジをジミー・キャロルやジョー・リップマンという、あまりジャズ者には馴染みの無い人達が担当したというところにも、その解明の秘密があるのかもしれません。

その意味で前述した印象的なオーボエがミッチー・ミラーによって演じられたのも意味深というところでしょうか。

それとチャーリー・パーカーが本格的にアレンジされた大編成のバックを使っての大衆音楽寄りの録音は、決してこれが初めてではなく、ヴァーヴと契約した後では既に1年ほど前からラテンやセミクラシック調のセッションを完成させていましたし、何よりも本人の駆け出し時代はR&B系のビッグバンドで研鑽を積んでいたのですから、殊更の意識は不必要!?

なんとっ! リアルタイムでのチャーリー・パーカーは、この「With Strings」の企画を実際のライプ興業でも実践し、公式&非公式に残されたそれらの音源を聴く限りでも、モダンジャズ本流の味わいはきっちりと楽しめるところにチャーリー・パーカーの天才性は証明されていますが、常に自分本位の結果が強烈に打ち出されてしまうのも流石だと思います。

と言うか、それはチャーリー・パーカーを聴く、あるいは聴けるという至福の前では本当に瑣末な事なんでしょうねぇ~~♪

ということで、このジャケ写を眺めつつ楽しむ天才の歌心は、また別格です。

繰り返しますが、まずチャーリー・パーカーがそこに存在し、リズム隊やストリングスセクション等々が後付け的になって聞こえるのも、素直に「良」として認める他はなく、これはおそらく現在最先端のレコーディング技術で同じものを録ったとしても、結果は同じに決まっています。

そう断言して後悔致しませんが、つまらない理屈をグダグダ書き連ねている自分が情けなるほど、懐の深~~い音楽が聴けるのは確かなのでした。

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ウェイン・ショーターの不人気な名作

2012-01-06 16:01:30 | Jazz

Schizophrenia / Wayne Shorter (Blue Note)

最近はすっかりジャズから遠ざかってしまったサイケおやじではありますが、決してジャズが嫌いになったわけでは、もちろんありません。

ですから、どうにか新年気分が継続している今、勇躍ターンテーブルに乗せたのが、本日ご紹介の1枚です。

う~ん、如何にもサイケデリックなジャケットデザインとアルバムタイトル!

それは1967年3月10日の録音という、まさにモダンジャズにとってもロックに主導された時代の最先端を意識せざるをえない切迫感があったにちがいない!?

そんな独断と偏見をサイケおやじは抱いていますが、流石にウェイン・ショーター(ts) は一筋縄ではいきません。

カーティス・フラー(tb)、ジェームス・スポールディング(as,fl)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、ジョー・チェンバース(ds) という怖い面々を引き連れての演奏は、正統派モダンジャズはもちろんの事、ロックやラテンミュージック、フリーや現代音楽、さらには黒人である限り避けて通れない特有のルーツに根ざした広範な音楽性が見事に融合されていると感じます。

A-1 Tom Thumb
 いきなりウェイン・ショーター十八番の脱力系ジャズロックが最高に気持良く演奏されます。しかもテーマアンサンブルをリードするのがジェームス・スポールディングのアルトサックスであり、ウェイン・ショーターはカーティス・フラーと共にホーンリフに徹するあたりの懐の深さ!?
 これはなかなか今後の道筋に重要な局面だったんじゃないでしょうか。
 しかもリズム隊はロックやラテンのリズムを柔軟に導入解釈しつつ、そう簡単にリスナーを安心させない依怙地があるみたいなんですよねぇ~。
 例えばウェイン・ショーターがアドリブの展開で得意の気抜けのビールみたいなノリに入っていくと、その瞬間からジョー・チェンバースが厳しいオカズを連打したり、ハービー・ハンコックとロン・カーターは共にマイルス・デイビスのバンドで日常茶飯事だった緩急自在のフリープローイング系のキメを入れたりと、全く油断が出来ません。
 しかし、それでいて最終的に気持良く聴けてしまうのは、このメンバーならではの実力に裏付けられたサービス精神の発露というところでしょうか。実際、サイケおやじは何度でも針を落してしまうのですから!

A-2 Go
 今となっては一般的なウェイン・ショーターのイメージのひとつである、幻想的なスローバラードの演奏として、案外と当たり前の仕上がりかもしれません。
 しかし、そうは言っても終始弾きだされるメリハリの効いたジャズビート、ジャズテットの進化系のようなソフトパップっぽいホーンのハーモニーはカーティス・フラーの参加と密接に関連していると思います。
 またアドリブパートではジェームス・スポールディングのフルートが良い味出しまくり♪♪~♪ またロン・カーターも随所でハッとするほど刺激的に仕掛けてきますよ。
 う~ん、これもジャズの醍醐味ですし、リーダーのウェイン・ショーターはミステリアスなムードと力強いプレイを両立させた名演を聞かせてくれます。

A-3 Schizophrenia
 そして前曲のイメージを継承したようなモヤモヤのアンサンブルから一転、強烈なアップテンポのガチンコ勝負というのが、このアルバムタイトル曲のキモでしょう。
 もちろん「精神分裂病」という意味合いに相応しく、参加各人が独善的な自己主張を繰り広げるのも、まあ、ひとつの「お約束」なんでしょうが、こういう「熱さ」が1960年代後半のジャズやロックを盛り上げでいた要素だと思えば、今は夢のようだと感じるばかりです。

B-1 Kryptonite
 これが収録トラック中、唯一ウェイン・ショーター以外のメンバーが書いたオリジナル曲で、作者はここで終始演奏をリードするジェームス・スポールディングですから、「Tom Thumb」同様、かなりの確率でリーダーからの信頼を得ていたのでしょう。
 そして実際、アップテンポの流れの中で複雑なモダンビパップとも言うべきテーマから先発のアドリブで披露するフルートは、なかなかのハイテンションですよ。刺激的なビートを送り出すジョー・チェンバースのシンバルやハービー・ハンコックのクールなコード伴奏も、そんなの関係ねぇ~~~! そういうノリです。
 しかし続くウェイン・ショーターは流石に貫録というか、適宜フリーなアプローチも交えつつ、誰の真似でも無い、異様な空間を現出させるが如きアドリブ展開を聞かせてくれるんですが、ちっとも難しいことはないんですよねぇ~~♪ 「頭」というより「心」で演じる姿勢が伝わってくる感じでしょうか。
 ですからハービー・ハンコックにしても、実に真摯に前向きですし、意外と意地悪なロン・カーターの遣り口も憎めず、スパッと演奏が終了される潔さは快感です。

B-2 Miyako
 ワルツビートでスローに演じられるテーマメロディの美しさは、一説によると当時のウェイン・ショーターの結婚相手「ミヤコ」に捧げられたと言われているとおり、アドリブパートや演奏全体のアンサンブルも含めて、なにか特別の安らぎを感じます。
 ただし、それはウェイン・ショーター独得の音楽性に夢中になっている者だけの話なんでしょうねぇ……。
 ここにあるのは、所謂「ジャズ的な美メロ」とは一線を画した世界だと思いますから、多くの皆様が退屈されるとしても、それは避けえない現実であって、そう思えばジャズ喫茶全盛期の頃には、このアルバムのこの曲が流れると、席を立つお客さんも散見された記憶があります。
 う~ん、今はどうなんでしょう?
 個人的には好きな演奏なんですが……。

B-3 Playground
 そしてオーラスは如何にも新主流派モロ出しの激しい演奏で、ガチンコで攻めてくるリズム隊を騙し討ちするようなテーマアンサンブルから、まずはウェイン・ショーターが変幻自在のアドリブでその場を引き締めていきます。
 すると何時もは春風の如きカーティス・フラーまでもが、それに同調するんですから、たまりません。しかし続くジェームス・スポールディングがあまりにもリズム隊の思惑に乗っかった姿勢に徹するの、どうなんでしょうねぇ……?
 ですからハービー・ハンコックが我が意を得たりの独善をやってしまう事にたまりかねたのか、かなり良いところでホーンのアンサンブルが割って入り、ドラムスとの対決へ突入するのに、それがフェードアウトしてしまうのはフラストレーション!?

ということで、セッション時期からすれば、参加メンバーは一番モダンジャズらしいプレイをやっていた頃であり、それでいて前もしっかり向いていたはずです。

つまり「温故知新」ではなく、「鋭意創造」が尤も上手く結実した演奏集じゃないでしょうか。

それはウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、そいてロン・カーターというマイスル・デイビスのグループではリアルタイムのレギュラーだった3人は言うに及ばず、とにかく時代に先駆けたものをやろう! そうした意図がバンド全体から発散されていますよねぇ~♪

5曲提供されたウェイン・ショーターのオリジナルが、何れも新鮮な響きを持っているのも特筆されます。

まさに聴けば納得する他はない、充実の名盤と断言致しますが、結果的にガイド本での推薦紹介にも載る事は少なく、またジャズ喫茶の人気盤という話も聞いたことがありません。

むしろ既に述べたように、これが鳴り始めると席を立つお客さんが……。

そんな現実がなんでだろぅ、とサイケおやじは昔っから不思議なほどです。

そのあたりを皆様にもご確認いただきとうございますし、謎(?)の解明も何時かは必要だと思っているのでした。

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秋の日のソニー・ロリンズ

2011-10-10 15:35:21 | Jazz

Sonny Rollins Play For Bird (Prestige)

この年齢になると起床してから体調が全般に良いなんてことは滅多にありませんが、今日は珍しく爽快な気分で体力&気力も充実しているのでしょうか、朝っぱらから王道モダンジャズが聴きたくなりました♪♪~♪

そして取り出したのが、本日の1枚です。

一応はソニー・ロリンズ名義のリーダー盤になっていますが、実態は当時のマックス・ローチのバンドかと推察されるメンバーはケニー・ドーハム(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、ウェイド・レッグ(p)、ジョージ・モロウ(b)、マックス・ローチ(ds) という強力布陣!

ちなみに録音は1956年10月5日とされているところから、マック・ローチがクリフォード・ブラウンとリッチー・パウエルを不慮の事故で失った後に再編したバンドという憶測を適用すれば、セッション全体の纏まりの良さも納得されます。

そしてアルバムタイトルどおり、ソニー・ロリンズ以下のメンバーはモダンジャズを創成しながら、前年に逝去した天才アルトサックス奏者のチャーリー・パーカーに捧げるべく、このセッションに臨んだと言われているウリも決して虚説ではないと思いますが、それよりも全篇から楽しめるハードバップならではの魅力を堪能出来る名演集になっています。

A-1 Medley:
     I Remember You
(featuring Sonny Rollins)
     My Melancholy Baby (featuring Kenny Dorham)
     Old Folks (featuring Wade Legge)
     They Can't Take That Away From Me (featuring Sonny Rollins)
     Just Friends (featuring Kenny Dorham)
     My Little Suede Shoes (featuring Wade Legge)
     Star Eyes (Quintet)
 LPのA面全てを使ったメドレー形式の演奏は、何れも生前のチャーリー・パーカーが好んでプレイした演目ということで、流石にバンドのコンビネーションは手慣れた中にもグルーヴィ♪♪~♪ この感触こそが、黒人ジャズの真髄というところでしょうか。
 しかも、ここでは企画の勝利というか、それぞれに主役が設定され、一応の注釈は入れておきましたが、メンバー各々が十八番とする個人芸の冴えを楽しめる流れも嬉しいところで、まずはソニー・ロリンズがチャーリー・パーカーの代表的なブルース演奏だった「Parker's Mood」の一節を絶妙のイントロに配し、続けて歌物スタンダード「I Remember You」のテーマメロディを悠然と吹奏するだけでツカミはOK! もちろんアドリブパートは変幻自在のローリン節が真っ盛りですよ♪♪~♪
 当然ながらリズム隊のハードドライヴな質感は言わずもがな、次曲への転換も絶妙であり、それはケニー・ドーハムが歌心優先主義のフェイクを堪能させてくれる「My Melancholy Baby」で早くも頂点に到達していると思います。
 あぁ、このなんて事のない「間」の取り方は、ちょい聴きにはバランスを失っているようにも感じられますが、そこは百戦錬磨のメンバー揃いですから、侮れません。マックス・ローチとのソロチェンジも含めて、極めてナチュラルなノリが良い感じ♪♪~♪
 そしてウェイド・レッグが主役のピアノトリオによる「Old Folks」が快適に演じられる時、本来は曲メロに仕込まれた哀愁の追求を期待するファン心理を逆手にとられた快感が絶妙!?
 ちなみにウェイド・レッグは公式録音ではチャーリー・パーカーとのレコーディングは残していないと思われますが、そのビバップ保守本流のスタイルは素晴らしいの一言ですねぇ~♪ そこはかとないピアノタッチの質感や歌心の奥深さに直結したコード選びも、全くサイケおやじの好むところです。
 また、そういう伴奏があればこそ、ソニー・ロリンズも安心して派手なプレイに邁進出来るのでしょうか、続く「They Can't Take That Away From Me」では相当に飛躍したリズム感で驚愕のアドリブフレーズを綴りますし、俗に「燻銀」と形容されるケニー・ドーハムにしても「Just Friends」では、なかなか溌剌とした存在感を示してくれますよ。
 ただし、ここまでの流れでは、テンポがミディアムで一様に変化が少ない所為でしょうか、要所でマックス・ローチのドラムスがブレイク的な短いソロを挟んでいます。そして、それが幾分煮詰まったところでラテンビートを入れた「My Little Suede Shoes」がピアノトリオで演奏されるあたりに、ちょいとした上手い仕掛を感じられれば、それは狙いどおりという事でしょうか……。
 しかし最終パートの「Star Eyes」はクインテット全員の合奏から、王道ハードパップのお手本のような4ビートジャズが堪能出来ますよ。
 まあ、正直言えば、もっと熱くなって欲しいのが本音ではありますが、こうしたリラックスムードのモダンジャズを27分ほどぶっ続けて演じてしまいながら、最終的にダレさせないのは容易ではないと思うばかりです。
 ちなみにマックス・ローチのリーダー盤には同様の企画として「プレイズ・チャーリー・パーカー」という人気LPがあって、そこでは相当にイケイケの演奏が繰り広げられていますので、聴き比べも楽しいかと♪♪~♪

B-1 Kids Know
 ソニー・ロリンズのオリジナル曲で、しかもマックス・ローチとのコンビネーションから生み出されるワルツタイムの演奏とあって、リアルタイムでは意欲的なスタイルであったと思われます。
 しかし後追いで聴く我々にとっては、実に和みの王道ハードバップに他ならないでしょう。
 ミディアムテンポで余裕すら感じさせるテーマ合奏からバンドの纏まりは素晴らしく、重心の低いリズム隊のグルーヴも変拍子なんて事に拘る姿勢よりは、むしろモダンジャズ本来のビートを大切にしている感じです。
 それはソニー・ロリンズのアドリブが変幻自在ではありますが、決して暴走する事のない抑制気味の結果であったり、続くケニー・ドーハムの予定調和感が今となっては物足りないと思う、それこそリスナーの我儘に直結するものかもしれません。
 しかし、ここでの「ゆったりフィーリング」は決して「微温湯」では無いはずで、まさに名人芸の成せる技とサイケおやじは神妙に聴いています。
 ちなみにマックス・ローチのバッキングやソロには相変わらずの厳しさや怖さがモロ出しですから、共にリズム隊を形成するウェイド・レッグとジョージ・モロウも緊張している雰囲気が!? そのあたりも滲んでいるように思います。

B-2 I've Grown Accustomed To Your Face
 オーラスはご存じ、ミュージカル「マイ・フェア・レディ」から人気曲をソニー・ロリンズがワンホーンのカルテットで吹奏してくれる、これまた嬉しい演奏です。
 あぁ、この野太いテナーサックスの音色と豪快な節回しで披露されるメロディフェイクの妙は、流石に天才の証明! グッと凝縮したフレーズを次の瞬間に解放する十八番の手口は、ソニー・ロリンズでしかありえませんねぇ~~♪
 伴奏のリズム隊も、それゆえの安定感を要求されるわけですが、流石はマックス・ローチというブラシの冴えが、ゆるやかなドライヴ感を作り出しているのも凄いと思います。

という事で、実はアルバム全篇が同じようなテンポの演奏ばかりなので、両面を通して聴くと些か飽きるという本音も否定出来ません。

しかし再生時間が20分前後というアナログ盤LPの特性からすれば、これがなかなかちょうど良いんですねぇ~~♪

特にA面のホンワカした心地良さは、もちろんハードバップらしいイントネーションとハードエッジなリズムも「お約束」として秘められていますから、絶品ですよ!

秋晴れの休日には、かなりジャストミートな1枚と再認識しております。

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ジャコ・パストリアスの永遠の肖像

2011-09-18 15:08:50 | Jazz

Jaco Pastorius (Epic)

衝撃のデビュー作!

そうしたキャッチフレーズは、これまで数多使われてきましたが、このジャコ・パストリアスの実質的な初リーダーアルバムこそ、相応しい!

そう確信されている皆様は大勢いらっしゃるはずです。

しかし、もちろんジャコ・パストリアスが正式にレコードデビューしたのは、このアルバムではありません。例えば、これ以前にもパット・メセニーやウェザー・リポート、ジョニ・ミッチェル等々の諸作にセッション参加していたは事は有名であり、中でもウェザー・リポートの傑作アルバム「ブラック・マーケット」に収録された「Cannon Ball」と「Barbary Coast」の2曲における活躍はフュージョンブームも最盛期ということで、ジャズ者ばかりか多くのロックファンをも瞠目させるに充分だったと思います。

なにしろ特徴的だったのは、まずエレキベースでありながら、そこから弾き出されるのは丸っきりウッドベース系の音色であり、加えてジャンルに囚われない柔軟なフレーズ構成と卓越したリズム感は、それまでのエレキベースの常識を覆すほどの変態性がっ!?

とはいえ、それゆえにジャコ・パストリアスは特異な存在として終る可能性もあった事は否定出来ません。

ところが、この初リーダー盤が出た後は、誰もが認めざるを得ない優れた音楽性を持ち、唯一無二の個性を披露する天才ベース奏者として、忽ちに絶大な評価を確立してしまったのですから、まさに「衝撃」という言葉に偽り無し!

録音制作は発売と同じ1976年、ということは如何に関係者がジャコ・パストリアス(b,arr,vo,ds) の力量と音楽的才能を評価していたかの証であり、ハービー・ハンコック(key)、ウェイン・ショーター(ss)、レニー・ホワイト(ds)、ドン・アライアス(per,ds)、ランディ・ブレッカー(tp)、マイケル・ブレッカー(ts)、デヴィッド・サンボーン(as)、ヒューバート・ローズ(fl)、ナラダ・マイケル・ウォルデン(ds)、サム&デイヴ(vo)、マイケル・ギブス(per,arr) 等々の超一流メンバーが参集したのも決して顔見世ではない、ガチガチのガチンコが繰り広げられています。

A-1 Donna Lee
 モダンジャズを創成した天才チャーリー・パーカーが書いたビバップの聖典曲ですから、そのシンコペイトしまくった複雑なラインのテーマメロディは特にジャズ者には畏敬の対象ということで、決して迂闊には出来ないところを、なんとっ! ジャコはドン・アライアスを相棒に強烈なリズム優先主義のデュオを演じてしまうのですから、忽ち震えるが止まらなくなったリスナーは夥しいはずです。
 とにかく正確無比に再現されるテーマメロディを巧みにフェイクしていく技は、とてもエレキベースと思えません。なによりも既に述べたように、音色がウッドなんですよねぇ~~~♪
 要所で入れるキメのハーモニクスもニクイばかり!
 ちなみに今では有名な逸話ですが、ジャコがベースを始めた頃に良く聴いていたのがマックス・ローチのLP「プレイズ・チャーリー・パーカー」だったという真相も、充分に納得されると思います。
 またウェザー・リポートのオーディションに送った自演テープにも、この曲が入れてあったそうですが、ジョー・ザピヌルが気にいって本人に面接した時、「君はエレキベースが弾けますか?」と質問したほど、これは当時のエレキベースの常識を逸脱していた事実だったのです。
 それは個人的にも、フュージョン系のエレキベースと言えば、例えば既に名声を確立していたスタンリー・クラークが如何にも黒人らしい強靭なビート感と硬質な音色でビンビンに弾きまくるという、ある意味ではロックにも近いアプローチだったのに対し、ジャコは時代に逆行する感じでモダンジャズに回帰して行くような、実に柔軟なスタイルが温故知新!
 これが全く、目からウロコだったんですねぇ~~♪
 この初っ端の演奏だけで、それが充分に納得して楽しめるというわけです。

A-2 Come On, Come Over
 しかし一転、前曲から間髪を入れずに始まるのが、ファンキーなニューソウル! 16ビートがビシッと演じられる中をシャウトするのがサザンソウルのスタアコンビだったサム&デイヴというのも、イノセントなジャズファンには違和感たっぷりだったかもしれませんが、ジャコのキャリアにはフロリダで活動していた駆け出し時代、サム&デイヴのバンドで働いていた事もあったそうですし、なによりも本人が好きなんでしょうねぇ~、こういうものが!
 ですから、十八番の幾分忙しないスタイルの定型リフを終始弾くことによって他の演奏メンバーを自由にさせる目論見は大成功! 泣きまくるデヴィッド・サンボーンも大ウケでしたし、ブレッカー・ブラザーズがリードするシャープなホーンセクションやナラダ・マイケル・ウォルデンのヘヴィでタイトなドラミングも、これがフュージョンという見事なお手本を完成させていると思います。

A-3 Continuum
 そして更に一転するのが、この幻想に彩られたフュージョン演奏で、以降も作者のジャコ本人が好んでステージ演目に入れ、またウェザー・リポートのライプの中でも要所を引用してたほどですから、その完成度は既に圧巻ですよ。
 例の目眩がするほど複雑怪奇なアドリブフレーズの構成は、実は練り上げられた手癖的な部分もあるのかもしれませんが、ハービー・ハンコックのエレピやレニー・ホワイトの変幻自在なドラミングが決してそれを許さないガチンコという厳しい仕上がりは、永遠に不滅です。

A-4 Kuru / Speak Like A Child
 こうして辿りつくのがA面のハイライトであろう、このメドレー!
 前半はジャコが書いたアップテンポの新主流派モダンジャスなんですが、イントロで炸裂するストリングの使い方が刺激的ですし、ハービー・ハンコックが本気度の高いアドリブを繰り広げれば、ドン・アライアスを中核とする打楽器組も容赦がありません。
 そこで必然的にクールなジャコの定型リフパータンがモリモリと繰り返されるあたりは、なにか当時のフュージョンの常識を外れた感じが新鮮であり、曲の展開がストリングスパートの合奏を経て、ハービー・ハンコックの人気オリジナル「Speak Like A Child」へと流れていく仕掛けは、ジャズ者ならば歓喜悶絶♪♪~♪
 何時の間にか自由自在にアドリブしているジャコのペースにも驚嘆ですよ♪♪~♪
 こういう部分が、ジャズ評論家の先生方にもウケが良かったポイントじゃないかと思います。

A-5 Portrait Of Tracy
 これまた今でもジャコのイメージを決定づけている名演のひとつで、愛妻に捧げた自作のベースソロ曲♪♪~♪
 これでもかと堪能させられる得意技のハーモニクスは本来、クラシックのチェロとかバイオリンが鳴らす奏法だと言われていますが、実はエレキギターでも頻繁に使われています。
 しかし、これが指のタッチというか、弦が鳴った直後に指を離すタイミングが難しく、つまりはリズム感が要求されるんですねぇ。
 ちなみにジャコが自在にハーモニクスを操れるのは、使っているエレキベースがフレットレスということにも関連するんじゃないかと思うんですが、その答えは残されている各種映像、そしてこの「Portrait Of Tracy」に集約されているのかもしれません。
 さらに極言すれば、ここまでのA面の流れが全て、最後に置かれた「Portrait Of Tracy」に収斂するという個人的感想は、決して過言ではないと信じています。もう、ここを聴くためにA面最初に針を落とすという儀式があるんじゃないでしょうか。

B-1 Opus Pocus
 こうしてアッという間に片面を聴き終えたレコードをひっくり返せば、意外にすんなりと鳴り始めるのがカリビアンなスティールドラムの響きであって、そこからビシバシにフュージンしたリズム&ビートが発展し、いよいよ登場するウェイン・ショーターのソプラノサックスが限りなくウェザー・リポート!!?!
 いや、これはウェザー・リポートよりもウェザー・リポートらしい演奏でしょうねぇ~~♪
 ですからジャコのペースも時には不気味なウネリに踏み込んだりしますし、レニー・ホワイトの妥協しないクールなドラミング、妙に合っていないコードを弾いてしまうハービー・ハンコックのエレピ!? 心底、テンションが高いですよ。
 あぁ、これがLP片面、続いたらなぁ~、という思いを打ち消せないフェードアウトが憎たらしい!

B-2 Okonkole Y Trompa
 ほとんどディレーマシンの如きジャコのリズムパータンが、旧態のジャズからは大いに離れてしまう演奏になっていますが、これを認めか否かで、このアルバムの存在価値が決まってしまうような気もしてます……。

B-3 Cha-Cha
 しかし、これはジャコ流儀のモダンジャズ新主流派へのトリビュート!?
 ラテンリズムも入った正統派モードグルーヴの凄さは、ジャズ喫茶全盛期を見事に蘇らせてくれる雰囲気が濃厚ですから、ジャコ本人も強烈なアドリブでジャズ者を完全KOせんと大ハッスルですよ♪♪~♪
 う~ん、これがエレクトリックベースなのかっ!?
 そういう疑問も故なき事ではないでしょう。
 共演者もヒューバート・ローズの突進フルート、ドン・アライアスのガチンコ打楽器にレニー・ホワイトのモロジャズなドラミングが怖いほどですから、ハービー・ハンコックも手抜き無し!
 このあたりを聴いて、血が騒がなくなったら、モダンジャズを楽しむ因子を失ったと断定されるような快演が、ここにありますよ。

B-4 Forgotten Love
 不穏なストリングはマイケル・ギブスのアレンジで、ハービー・ハンコックの大袈裟なピアノが現代音楽気味という、これはこれでアルバムのオーラスにぴったりの短い演奏なんですが、驚くべきはリーダーのジャコ本人が実際の演奏には関わっていないという疑惑が!?!?
 もちろん作曲はジャコのクレジットになっていますが、こういう事を堂々(?)とやらかす精神構造は、通常のジャズミュージシャンには想定外だったと思われます。
 ちなみにアルバム全篇をプロデュースしたのは、BS&Tのドラマーだったボビー・コロンビーというのも意味深でしょうか。

ということで、作家はデビュー作へ収斂するというのは有名な至言ですが、それがそのまんま、ジャコ・バストリスにも当てはまると思うのはサイケおやじだけでしょうか?

ご存じのとおり、この天才ベース奏者はウェザー・リポートでの活躍もあって、忽ちにして世界的な人気と名声を獲得しながら、おそらくは悪いクスリの所為もあったと言われる奇行・危言が日常茶飯事で、そのあたりは数次の来日ステージを実際に目撃された皆様ならば、きっと心当たりがあるはずです。

天才とキチガイは紙一重、と昔から言われているとおり、ジャコ・バストリアスもそんな道を歩んでしまった事はファンには悲しいことであり、早世もせつない現実……。

しかし当然ながら、残された正規音源の他にも、ブートまがいの発掘ソースや未発表物も事ある毎に話題となって売れるほど、ジャコ・バストリアスという存在は絶対的になっています。

その意味も含めて、このデビューアルバムは決して越えるが出来ない高みに浮かぶ桃源郷じゃないでしょうか?

これは聴けば、「今でもジャコは生きている!」

あのフレットレスのエレキベースは、ジャコ・バストリアスであればこその音色を響かせ、その音楽的な広がりこそが「ジャコの存在証明」であったことは、ここにしっかりと記録されていると思います。

未来永劫、聴き継がれる名盤と断言して後悔致しません。

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リー・モーガンの突貫ライブ

2011-08-31 15:44:06 | Jazz

Lee Morgan Live At The Lighthouse (Blue Note)

この齢まで生きていると、身内はもちろんの事、友人知人や所縁の諸氏、そして自分の人生に様々な悲喜こもごもを与えてくれた有名人の訃報に接することが多くなります。

まさに、この世は諸行無常……。

それこそが真実と痛感させられるわけですが、しかし所謂天寿を全うする生き様であれば納得の大往生ながら、順番を間違えるというか、何か早すぎる死に直面させられると不条理感を強くするのは、生かされている者の正直な我儘でしょう。

例えばモダンジャズの天才トランペッターとして十代の頃から絶大な評価と人気を得てたリー・モーガンにしても、1972年2月、享年33歳の他界は、愛人から射殺されるというスキャンダルも加わって、決して忘れられない悲報でした。

なにしろ時代はロックに押されていたモダンジャズの新しき胎動期であり、業界はロックジャズやクロスオーバーと呼ばれ始めていた元祖フュージョン、そしてハードバップリバイバルやモード&フリーの所謂新主流派の巻き返しが盛り上がっていた頃とあって、その中心人物としては未だバリバリの若手というリー・モーガンの存在は、広くジャズファンの期待の星だったと思います。

それはサイケおやじにしても、ちょうど本格的にモダンジャズを聴き始めたというリアルタイムでしたから、リー・モーガンという「分かり易いスタイル」を貫くスタアプレイヤーは、ジャズという怖い世界では絶好の道案内人でもありました。

そして当時、ジャズ喫茶で人気を集めていたのが本日ご紹介の2枚組LPで、その内容はハードバップとモード系オドロの世界がライプ特有の熱気を孕んで繰り広げられる強烈な長尺演奏集!

録音は1970年7月、西海岸の名店クラブ「ライトハウス」でのライプセッションで、メンバーはリー・モーガン(tp) 以下、ベニー・モウピン(ts,bcl)、ハロルド・メイバーン(p)、ジミー・メリット(b)、ミッキー・ロッカー(ds) という、如何にもの実力者か揃っています。

A-1 Absolution
 ジミー・メリットが作った、ドロドロのモード曲が作者自らのエグ味の強いベースワークで導かれ、テンションの高いリズム隊と思わせぶりがニクイばかりのフロント陣が実に上手いテーマアンサンブルを聞かせてくれます。まずはこの最初のパートで、自然にモダンジャズという魔界に浸ってしまう雰囲気の良さは最高でしょう。
 そこには幾分忙しないミッキー・ロッカーのドラミングが本音で心地良く、ダークな音色でタフなモードスケールに基づくフレーズを積み重ねるベニー・モウピン、執拗な絡みはもちろん、静と動のコントラストを巧みに構築するリー・モーガン、小型マッコイ・タイナーと言っては失礼ながら、紛れも無く手数の多いピアノでリスナーを熱くさせるハロルド・メイバーン!
 こういう5人組が、ミディアムテンポで噴出させる情念のモードジャズこそが、リアルタイムでのジャズ喫茶では王道のウケまくりだったんですねぇ~♪
 あの紫煙が充満する暗い空間で固い椅子に座り、決して美味しいとは言い難い珈琲を飲みながら大音量で聴くモダンジャズの基本形が、ここにあります。
 いゃ~~、何時聴いても、懐かしい「あの頃」が蘇る演奏ですよ、個人的ではありますが。

B-1 The Beehive
 ハロルド・メイバーンが書いたアップテンポの激烈ハードバップで、とかにくビシバシに煽ってくるミッキー・ロッカーのドラムス、初っ端からウネリっぱなしというジミー・メリットのペース、如何にもコードをガンガンぶっつけてくるハロルド・メイバーンのピアノから成るリズム隊が、いきなり爽快です♪♪~♪
 そして後先も考えていないような、タレ流し気味のアドリブに専心するペニー・モウピンが潔く、それが要所で数次挿入されるキメのリフのアンサンブルによって良い方向へ導かれて行くという、なかなかツボを外さないバンドの立脚姿勢は流石だと思います。
 それはリー・モーガンにとっても十八番の展開であり、猪突猛進というか、突貫精神の攻撃的な勢いは、これがファンにとっては待ってましたの拍手喝采でしょう。徹頭徹尾、淀みなく吹きまくられるハードバップフレーズの大洪水は、余計な計算も下心もない真摯なジャズ魂の発露として、素直に熱くさせられてしまうこと、請け合い!
 ですからハロルド・メイバーンのピアノがスピード違反を演じても、また、ミッキー・ロッカーのドラムソロに場当たり的なところがあったとしても、全ては「カッコ良いジャズ」をやっているという結果オーライに収斂されるんじゃないでしょうか。
 それこそがジャズを聴く楽しみのひとつという演奏だと思いますが、音量ボリュームの上げ過ぎには注意が必要でしょうねっ!

C-1 Neophilia
 ベニー・モウピンが作ったとされる、実に陰鬱なムードが充満するモード系の演奏です。なにしろ初っ端から無伴奏で聞かされる作者のバスクラリネットが激ヤバですよっ!
 さらに続けて、じっくりとしたテンポで進んでいくバンドアンサンブルとアドリブパートの流れの中では、先発のベニー・モウピンが、これしか無いっ! そういうオドロの自己表現で、この雰囲気はマイルス・デイビスが出した問題傑作「ビッチェズ・ブリュー」のセッションでベニー・モウピンが参加していた「Pharaoh's Dance」と共通する独得の粘っこさが表現されていると思います。
 しかし、ここではさらに進化した作者の情念のアドリブがリズム隊と見事に呼応し、絶妙の山場を構築していくエキセントリックな展開が、本当に最高ですよっ♪♪~♪
 あぁ、この絞り出されるような刹那の心情吐露!
 これもまた、モダンジャズの醍醐味じゃないでしょうか?
 ですからリー・モーガンにしても、なかなか神妙に綴るアドリブパートの静謐な熱血は天才の証明で、時に破綻しそうになったり、十八番というよりは、マンネリフレーズというのが正しいと思われる部分にしても、それは一期一会の一言で片付けられるものではありません。実に深~い思惑があるんでしょうねぇ。
 その意味でハロルド・メイバーンが一瞬、晩年のビル・エバンスみたいになってしまうのも憎めませんし、ジミー・メリットのペースがイモ? という定説にしても、それは十人十色の好き嫌いにすぎないと思います。
 個人的にはベニー・モウピンの名演を堪能するばかりなのですが……。

D-1 Nommo
 これまたジミー・メリットが作った熱血モードジャズの隠れ名曲で、冒頭からバンドが演じていく思わせぶりが、心地良い解放感のパートと上手くミックスされながら展開する流れが実に上手いですねぇ~~♪
 そこには幾分煮え切らないところからヤケッパチな気分転換を図るベニー・モウピン、瞬間芸の極みに挑むリー・モーガンの溌剌、喧しいほどに音数を増やしていくハロルド・メイバーン、空気も読めずに自己主張するブリブリのジミー・メリット、意外に冷静なミッキー・ロッカーというバンドメンバー間の意志の疎通が感じられ、現場には所謂暗黙の了解があったんじゃないでしょうか。
 まあ、このあたりはプロのジャズプレイヤーならば言わずもがな、サイケおやじが稚拙な筆を弄するまでもないとは思いますが、それにしもメンバー各人がバラバラをやっていそうで、実はキチッと纏まった演奏は凄いですよ。
 ちなみに全体の流れは、それぞれのアドリブの終盤に無伴奏なパートが設けられ、思わずグッと惹きつけられてしまうのでした。

ということで、アナログ盤2枚組LPに収録されたのは、たったの4曲!

それも、アッという間に聴き終えてしまうほどの充実ですから、たまりません♪♪~♪

ジャズ喫茶の人気盤になる事もムペなるかな、これを大音量で鑑賞する喜びは筆舌に尽くし難いものがありましたですねぇ~♪

そこでついにというか、CD時代になった1996年には未発表テイクを追加した拡張3枚セットが登場し、それがまた熱い演奏集ということで、大いに話題となったのも記憶に新しいところです。

もちろんサイケおやじも速攻でゲットし、聴きまくった前科は隠すことも出来ないわけですが、最近は何故か、こっちのアナログ盤2枚組を取り出してしまいます。

それは正直に告白すると、CD1枚分を聴き通す根性も気力も薄れているからで、その点、LP片面で20分前後の1曲だけを楽しむというのが、現在のサイケおやじには合っているようです。

最後になりましたが、リー・モーガンにとって、このアルバムは結果的に晩年の傑作と認定されるのが、ファンばかりでなく、全モダンジャズファンには共通の悲しみだと思います。

世の中には「使い果たした」という言い回しもあるようですが、リー・ガンにはもっと長生きをしてもらって、本物のモダンジャズを聴かせて欲しかったと思うばかり……。

それでも、なにかとムラっ気がある天才と呼ばれる故人に対し、少なくともサイケおやじは今でも敬意を表し、特にこのアルバムを聴く度に合掌しているのでした。

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ハービー・マンのクールなラテンジャズ

2011-08-19 15:27:06 | Jazz

Herbie Mann At The Village Gate (Atlantic)

なにか我国の場合、真のモダンジャズは売れちゃいけない!?

そんな風潮が昭和40年代まで、かなり根強くありましたですねぇ。

このあたりの感覚は今日のお若い皆様には、ちょいとご理解しかねるところかもしれませんが、やはりジャズはジャズ喫茶で聴いてこそ、その真髄に触れることが出来るとか、あるいは高名なジャズ評論家の先生が推奨される作品こそが名盤と思い込まされていたのが、当時のジャズファンの一般的な様相だったと思います。

もちろん、そこには今は無くなってしまったメジャーな(?)ジャズ雑誌の存在も大きかったとサイケおやじは感慨を深くしているわけですが、そんなところから常に標的にされていたのがハービー・マンという人気プレイヤーでした。

なにしろラテンジャズに始まり、ボサノバやサザンソウル、ロックジャズからブリティッシュロックやレゲエ、さらにはフィリーソウルやディスコ路線という流行のビートを逸早く応用した独自のモダンジャズは、時代のブームを見事に反映していましたから、イノセントなジャズファンよりは、広く音楽愛好者にウケまくり♪♪~♪

本日ご紹介のアルバムも、まさにそうした中の代表作として名高いヒット盤なんですが、実は意外にも硬派な正統的モダンジャズが演じられています。

録音は1962年12月、ニューヨークの名門クラブ「ヴィレッジ・ゲイト」におけるライプセッションで、メンバーはハービー・マン(fl) 以下、ハグード・ハーディ(vib)、アーマッド・アブダルマリク(b)、レイ・マンティーラ(per)、チーフ・ベイ(ds,per)、ルディ・コリンズ(ds,per) という、おそらくは当時のレギュラーパンドの面々に、1曲だけベン・タッカー(b) が参加しています。

A-1 Comin' Home Baby
 とにかく矢鱈に調子良いブルースですから、これがウケなかったらモダンジャズなんて苦行と言われても、絶対に反論は出来ないでしょう。
 初っ端からウキウキさせられるリズムの楽しさはラテンビートの変形かもしれませんし、その繰り返すパターンが当時の最先端だった所謂モードジャズに応用されている疑念(?)も濃厚です。
 しかしハービー・マンが特にアドリブパートで披露する十八番の祭囃子っぽいフルートの音色とフレーズの兼ね合いは、こうした弾みのついた演奏では殊更に魅力を発揮し、であればこそ、そこにリスナーは素直に身を委ねることが出来るように思います。
 また作者のベン・タッカーが、この演奏にだけ参加しているのも強みのひとつで、ステレオ盤では右チャンネルに定位し、グッと本気度の高いベースソロは流石にツボを外していません。それは分かり易さと如何にもジャズを聴いているという基本的な快楽を与えてくれる職人技!
 もちろんハービー・マンのグループは、常に同じ姿勢を貫いていたと思われますから、ゲスト扱いのベン・タッカーが浮いてしまうなんて事はありえない話で、実は決してバカ騒ぎにならないクールなムードが横溢した演奏は、他にもハグード・ハーディのイカしたヴァイブラフォンも聞き逃せないポイントだと思います。

A-2 Summertime
 お馴染みのスタンダードメロディをじっくりとしたラテンジャズに仕上げた、なかなかの隠れ名演が、これです。
 いや、「隠れ」なぁ~んて言葉は絶対に失礼ですよねぇ。
 思わず反省のサイケおやじがグッと惹きつけられるのは、ハービー・マンの深~いアドリブで、寄り添うアーマッド・アブダルマリクのベースワークとキャバレーモードが全開のラテンパーカッション、さらに日本では全くの無名ですが、ハグード・ハーディのヴァイブラフォンは素晴らしすぎる快演を聞かせてくれますよ♪♪~♪ 自身のフレーズと連動した唸り声も良い感じ♪♪~♪
 ですから再び登場して演奏を締め括っていく親分のフルートが、些か神妙に思えてしまうのもムペなるかな!? しかし、それこそが当時のナイトクラブというか、大人の雰囲気を伝えてくれるのは嬉しいです。
 ジワジワと迫ってくる、この落ち着いた熱気が最高!

B-1 It Ain't Necessarily So
 さて、これこそがLP片面を全部使った硬派な演奏で、素材はガーシュンのスタンダード曲ながら、モダンジャズのプレイヤーが演じると、例えばグラント・グリーンにしろ、マイルス・デイビスにしろ、何故か重厚でハードな仕上がりにも成りうるポイントが、ここでの結論はシリアス!
 ハービー・マンは快楽優先主義と思い込んでいれば肩すかしどころか、見事な背負い投げをくらわされますよ。なにしろチャカポコのラテンリズムとモード系の手法、そして一途なジャズ魂が混濁しながら展開される演奏は、ちょいと結末が予想出来ない瞬間もあるほどで、全く何処に連れて行かれるか不安になるほどです。
 しかし、それでいて20分近い演奏を最後まで聴いてしまうのは、なにか心地良い惰性が提供されているといっては、問題発言でしょうか。
 それは決して不遜ではなく、サイケおやじとしてはジャズ喫茶での「居眠りモード」にも共通する快感と思っているのです。

ということで、既に述べたように、これはヒット盤として当時のジャズ喫茶でも特に「Comin' Home Baby」がバカウケしていたと、これは諸先輩方から伝承された真実なんですが、後追いで聴いたサイケおやじとしては、まず濃密に感じられるのがクールなムードの横溢!

なにか日活アクション映画のキャバレーシーンをイメージさせられる演奏は、これをバックに白木マリが登場し、セクシーなフロアダンスをやってくれそうな気配があって、それゆえにサイケおやじが愛聴するのも当然の仕儀なのです。

まあ、そんなところがリアルタイムではドC調と蔑まされたところかもしれませんし、分かり易さが逆に軽く扱われる要因なのでしょうか……。

振り返ればハービー・マンこそは元祖フュージョンの本家であり、ガチガチの4ビートジャズに拘らない姿勢は、それなりに頑固なファンを掴んでいたと思います。

なによりも売れていた、売れるレコードを作り続けた姿勢は絶対でしょうねっ!

私は好きです。

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