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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

エバンス中心世界の美女

2009-04-17 10:45:38 | Jazz

Moonbeams / Bill Evans (Riverside)

ジャズピアノの歴史を振り返れば、その最高峰のひとつが、スコット・ラファロ(b) と組んでいた時期のビル・エバンス・トリオでしょう。異論は無いと確信しています。

しかし、この素晴らしいトリオも1961年7月、スコット・ラファロの突然の悲報によって消滅……。以降、ビル・エバンスは失意の中で幾つかのセッションを行い、もちろんその中にはジム・ホール(g) との奇跡の名演となった「Undercurrent (United Artists)」も残されていますが、やはり……。

そして1962年5&6月、約1年ぶりのリーダー吹き込みから作られたのが、本日ご紹介のアルバムです。メンバーはビル・エバンス(p)、チャック・イスラエル(b)、ポール・モチアン(ds) という、もちろんこれは新生ビル・エバンス・トリオとしての再出発を記録しています。

ちなみにこの時は3回のセッションからアルバム2枚分の演奏が残され、それをスロー系とアップテンポ系に分けて発売した制作者側の意図については賛否両論でしょうが、個人的にはスロー系中心のこちらが、ビル・エバンスの美学や当時の心境が滲み出ているような気がして、かなり好きです。

 A-1 Re: Person I Knew (1962年5月29日録音)
 A-2 Polka Dots And Moonbeams (1962年6月5日録音)
 A-3 I Fall In Love Too Easily (1962年6月5日録音)
 A-4 Stairaway To The Stars (1962年6月5日録音)
 B-1 If You Could See Me Now (1962年517日録音)
 B-2 It Might As Well Be Spring (1962年6月5日録音)
 B-3 In Love In Vain (1962年6月5日録音)
 B-4 Very Early (1962年5月29日録音)

演目は上記のように、有名スタンダードが嬉しい選曲ですが、最初と最後にビル・エバンスのオリジナルを配置する構成はニクイばかりです。

その「Re: Person I Knew」はリバーサイドの主催者だった Orrin Keepnes の名前を綴りかえした、これから後もライブでの十八番となる抽象的なモード曲ながら、まさにビル・エバンスならではの耽美な味わいが、このアルバムの中では最も力強いテンポで表現されています。ポール・モチアンのブラシ主体のドラミングも、なかなか躍動的でツッコミ鋭く、このあたりはスコット・ラファロ時代の良さが継続されているわけですが……。

残念ながら、そこに拘泥すると、新参加のチャック・イスラエルが惨めになるでしょう。実際、真剣な自己表現とビル・エバンスの意図を理解しようと務める姿勢は好感が持てるのですが、失礼ながら、やはり持っている資質には限界を強く感じてしまいます。

このあたりは当時の誰が入っても、同じだったのは確実な結果論でしょうねぇ、何もチャック・イスラエルだけが劣る存在ではないと思います。

それを百も承知のビル・エバンスは、それゆえに尚更、自己を掘り下げる道を選んだのでしょうか、続く有名スタンダード曲の解釈は、何れも素晴らしすぎます。

素直なフェイクからトリオしての間合いの芸術を披露する「Polka Dots And Moonbeams」、シンプルな表現でメロディとハーモニーの魔法に耽溺していく「I Fall In Love Too Easily」、さらに力強いビートと意外にもグルーヴィな表現が横溢している「Stairaway To The Stars」というA面の美しき流れは本当に良いです。

そしてB面では、まず「If You Could See Me Now」がオリジナルメロディの素晴らしさに負けている雰囲気も否定出来ませんが、それでもビル・エバンスならではの表現は捨て難く、中盤からの疑似ワルツテンポの表現は如何にも「らしい」です。

しかし「It Might As Well Be Spring」での幾分の勘違いは個人的に残念……。ただしこれは、あくまでも私だけの気分ですから、十人十色の好みの問題でしょう。

それを払拭してくれるのが「In Love In Vain」の耽美な名演です。なにしろ原曲メロディよりも素敵なアドリブメロディが出ていますし、どこまでも美意識優先に深化していくビル・エバンスの世界が、完全にビル・エバンス本人を中心に表現されていると感じます。まさに新生トリオの今後の道という感じでしょうか。

締め括りの「Very Early」もまた、ビル・エバンスのオリジナル曲という以上に、「エバンス中心世界」が、それこそ気持良いほどに展開されています。十八番のワルツテンポで愛らしいメロディを綴るピアノには、真摯なベースも小技を駆使するドラムスも、入り込めない世界があるんじゃないでしょうか。そこが尚更にビル・エバンスの魅力となって、耽美な感性が浮き彫りになった気がしています。

ということで、チャック・イスラエルには気の毒な聴き方しか出来ませんでしたし、ポール・モチアンにしても以前の柔軟にして奔放なスタイルを些か封じ込められた結果のようです。その所為でしょうか、ポール・モチアンはほどなく、このレギュラートリオから抜けているわけですが……。

この点に関しては、既に述べたように、同じセッションから作られたもう1枚のアルバム「How My Heart Sings!」を聴いても感じられるところじゃないでしょうか?

しかしビル・エバンスの最も「らしい」美学は、ここから再スタートして次なる安定期へと向かい、多くのファンを魅了していくのですから、このアルバムも裏名盤でしょう。

美女ジャケットとしての人気も抜群♪♪~♪

ちなみに、このジャケットの彼女は、この角度で鑑賞するのがベスト! 試しにジャケットの向きを変えて飾ったりしましたが、これは皆様もご経験があるのでは?

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モブレーの心霊ジャケット

2009-04-16 11:36:15 | Jazz

Soul Station / Hank Mobley (Blue Note)

ハンク・モブレーの代表作にして、ハートバップの大名盤の、これは別ジャケデザインの再発盤です。

なんとなく心霊写真みたいですが、なんでこれか? と言えば、今では簡単に入手出来る環境も、一時の我が国では手の届かない高嶺の花でした。

それはレーベル主催者のアルフレッド・ライオンが、他国でのプレスを許さなかった事情によるものですから、常態的に出回っているのはアメリカプレスがほとんどだった所為です。しかも1970年代に入ってはレーベルの権利そのものが、リバティへと移行していた事もあり、今では歴史という名盤も時代の流れで廃盤状態……。超有名盤、あるいはロングセラー商品以外は中古市場での流通になっていたのです。

この人気盤にしても、我が国ではジャズ喫茶という素晴らしい文化が存在していたゆえに、その命脈を繋いでいたようなものでしょう。そしてジャズ者が現実的に気楽に聴ける場所は、そこしか無かったのが、1970年代前半までの状況でした。

もちろん私も大好きなアルバムです。そしてなんとか欲しいと焦るほどに、廃盤価格は当時の私には手の届かないところへといくのです。

で、そんな中で私がこのアルバムをゲット出来たのは、もちろん再発盤ゆえのことです。

それは昨日も書いた、1974年の初渡米の時の事、ロスの学生街にあった中古盤屋で、10枚4ドル98セントの山の中に発見したものです。

ただし盤はピカピカだったのに、裏ジャケットが謄写版インクのローラー押しみたいに汚れがベッタリ……。う~ん、このジャケットを下敷きにして、なんか印刷でもやってたんか!? もちろん中身のレコードを聴きながらなんでしょうけどねぇ……。

それでも私は嬉しかったですよ。当時はこの再発盤でさえ、我が国では見かけることがありませんでしたから!? しかも超安値ですから、速攻でゲット♪♪~♪

ちなみに当然ながらステレオ仕様ですが、やはりアメリカ盤特有のカッティングレベルの高さは魅力ですし、左にテナーサックス、真ん中にベースとピアノ、右にドラムスという、バッチリ別れたミックスも潔いかぎりだと思います。

録音は1960年2月7日、リーダーのハンク・モブレー(ts) 以下、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds) という最高のバンドで、これぞハードバップの真髄が楽しめます。

A-1 Remember
 穏やかなムードが印象的なスタンダード曲の名演で、いきなり何の力みも感じせないハンク・モブレーのテーマ吹奏がスタートした瞬間から、素敵なハードバップの楽しみが広がっていきます。
 あぁ、このメロディフェイクの軽さと黒っぽさは、まさにハンク・モブレーだけが演じることの出来る世界でしょうねぇ~♪ テーマ部分では控え目なリズム隊の伴奏も、ハンク・モブレーのアドリブが進むにつれ、力強いビート感を打ち出していく気の合い方も絶妙だと思います。
 そしてハンク・モブレーのテナーサックスからは、間合いの名人芸と流れるようなフレーズの気持ち良さが続けざまに放出されるのですから、たまりません。さらにウイントン・ケリーのファンキーに弾みまくったピアノが、これまた最高の決定版!
 アート・ブレイキーの強いバックピートを上手く中和させるポール・チェンバースの物分かりの良さも、なかなか侮れません。ズバリ、名演の条件が全て揃っているんじゃないでしょうか。

A-2 This I Dig Of You
 そしてこれが、ハンク・モブレー畢生の名曲にして大名演!
 爽やかにして未来志向のイントロは、ウイントン・ケリーしても生涯の傑作フレーズかもしれませんが、いや、それさえもハンク・モブレーの作曲のうちかもしれません。ベースとドラムスのアンサンブルも素晴らしすぎますから、それに続くテーマメロディの雰囲気の良さに至っては、モブレーマニアの桃源郷♪♪~♪
 一瞬の間を挟んで始まるウイントン・ケリーの颯爽したファンキーピアノのアドリブもシビレが止まらないほどですよっ! アート・プレイキーのハイハットとリムショットのコンビネーション、ポール・チェンバースの新しい感じの4ビートウォーキングも強い印象を残します。
 肝心のハンク・モブレーは、もう言うこと無しの大快演! 十八番のタメとモタレを効果的に使いながらも、実に前向きなフレーズを滑らかに吹きまくりですし、もちろん歌心も新感覚でありながら、こちらが思い通りの「モブレー節」がどこまでも止まりません♪♪~♪
 あぁ、アップテンポでこの軽やかに飛翔していく雰囲気の良さは、唯一無二でしょうねぇ~♪ ロリンズやコルトレーンなんて、どこの国の人!?
 なぁ~んて、そんな不遜な事が頭を過った次の瞬間、ズバッと炸裂するのがアート・ブレイキーの魂のドラムソロ! アフロでラテンでハードバップがゴッタ煮となった強烈なグルーヴには歓喜悶絶させられます。

A-3 Dig Dis
 前曲の興奮が冷めやらぬ中、グッと重心の低いウイントン・ケリーのピアノがグルーヴィなイントロを弾きながら、実に良い雰囲気を作り出す短いアドリブ♪♪~♪ もうここだけで絶頂感がいっぱい♪♪~♪
 続くハンク・モブレーも、シンプルにして真っ黒なブルースリフを吹きながら、ジワジワともうひとつの絶頂へ向けてのお膳立てなんですから、グッと気持ちが高揚していきます。
 もちろんアドリブパートがミディアムテンポのゴスペルムードになるのは、美しき「お約束」でしょう。タメとモタレの芸術を聞かせてくれるハンク・モブレー万歳! 続くウイントン・ケリーのダークなファンキーフィーリングも、誰の真似でもない至芸だと思います。
 そして粘っこいフレーズの隙間を埋めていくポール・チェンバースのウォーキングベースも、実に味わい深いと思います。

B-1 Split Feein's
 これまたハンク・モブレーの優れた作曲能力が実証された素敵なテーマメロディとアンサンブル♪♪~♪ 軽いラテンビートとヘヴィな4ビートが交錯するあたりは、明らかに新時代のハードバップを志向しているようです。それを支えるアート・ブレイキーも流石!
 そしてアドリブパートの活きの良さは絶品です。アップテンポの4ビートに煽られながら、決して自分の個性を見失わないハンク・モブレーの魅力が存分に楽しめると思いますが、やはりハンク・モブレーにはアート・ブレイキーのドラミングがジャストミートですねぇ~~~♪ 同時期に所属していたマイルス・デイビスのレギュラーバンドでの不当評価をブッ飛ばすのは、つまりそこでのドラマーだったジミー・コブとの相性の悪さだったと思うのですが、いかがなもんでしょう。ハンク・モブレーのような内側からの自己表現を得意とするプレイヤーには、ジミー・コブのようなクールビートよりも、アート・ブレイキーの燃え上がるような煽りが最適だと、私は常々感じております。

B-2 Soul Station
 そのあたりの感をさらに強くするのが、このミディアムスローなファンキー演奏で、リズム隊のゴスペルグルーヴを上手く使いこなしたハンク・モブレーの決定的なスタイルが、徹頭徹尾、楽しめます。
 あぁ、この重心の低さ、そこからグイグイ、ジワジワと盛り上げていこうとしてファンキーな泥沼でもがき、味わいを濃くしていくハンク・モブレーのアドリブは、全く独自の境地でしょうねぇ~♪ マイルドな音色、ソフトで真っ黒なフレーズ展開の妙、十八番のタメとモタレ♪♪~♪ こういうスタイルは1960年代後半からは、完全なる時代遅れの象徴となったわけですが、しかしこれこそがモダンジャズのひとつの真実として、時代性という束縛から逃れた現代では、かけがえのない宝物だと確信出来ます!
 それはウイントン・ケリーにしても同様ですが、この人の場合、スタイルに汎用性があった所為でしょうか、比較的ストレートにその魅力が長続きしたのは幸いでしたから、ここでも良い味を出しまくりですよ。ファ~ン、キ~~~♪

B-3 If I Should Lose You
 オーラスは、再び穏やかなスタンダード曲のハードバップ的な展開、その典型が楽しめます。ハンク・モブレーが中心となった、まずはストレートなテーマメロディの吹奏が良い感じ♪♪~♪
 そしてアドリブが、これまた「モブレー節」の「歌」で満たされています♪♪~♪
 このあたりは、アルバム全体の中では当たり前すぎる感じも強いのですが、こういう安心感こそがモブレーマニアの求めるところであり、全てのモダンジャズファンを納得させるものじゃないでしょうか?
 それはウイントン・ケリーのリラックスしたアドリブにも同様の味わいが強く、尽きることのない「ケリー節」の典型が楽しめるのでした。

ということで、やはり人気盤の魅力は絶大という感想しかありません。もちろんハンク・モブレーには、他に多くの傑作がありますから、決してこれが一番ではないでしょう。

しかしリラックスした中にも確かに感じられる新しい息吹、そしてセッション全体の雰囲気の良さ、バンドメンバー間の気の合い方が素晴らしいのは間違いないところだと思います。特にアート・ブレイキーは常日頃はリーダーとしての活動が多い中、以前の子分の為に一肌脱いだというような懐の深いサポートが存在感抜群! ここぞで炸裂させるナイアガラロールの強靭なアクセント、ハイハットでの強いバックピート、シンバルとリムショットも冴えまくりながら、実は控え目なところがシブイという流石の親分だと思います。

ちなみにこのアルバムは、1970年代後半から再発が当然となり、CD時代に入っても早い時期から店頭に並んでいましたが、近年になって世に出たヴァン・ゲルダーのリマスター盤は???

これは紙ジャケット仕様ということもあり、即ゲットしてみましたが、モノラルに近いミックスもアート・ブレイキーのドラムスが引っ込み、ハンク・モブレーのテナーサックスも硬い音にされていたのは、なんだかなぁ……。

もちろんオリジナル盤は持っていないので、比較は出来ませんし、アナログ時代に度々再発された日本盤も所有しておりませんので、またまた独断と偏見ではありますが、この心霊ジャケット盤の音は、ハンク・モブレーのマイルドなテナーサックスの音色、そして強く全面に出ているアート・ブレイキーのドラムスゆえに、ステレオミックスとはいえ、私は愛着が深いのです。

そして何時か願いが叶うなら、オリジナル盤を入手して、聴き比べてみたいものです。

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ラグナビーチの思い出

2009-04-15 11:32:56 | Jazz

Lighthouse At Laguna (Contemporary)

如何にも1950年代、アメリカが一番良かった時期がモロという美女水着ジャケットが有名な1枚♪♪~♪ それは同時に白人ジャズ絶頂期を楽しめるライブの名盤でもあります。

と、ノッケからまたまた独断と偏見ではありますが、これを聴きたくなったのは、このセッションンで大活躍のバド・シャンクの訃報に接したからです。どうも4月2日に亡くなられたとか……。

それなら本来はバド・シャンクのリーダー盤かもしれませんが、サイケおやじは、このアルバムでバド・シャンクに魅了されたのですから、そこはご理解願いたいところです。

内容は、ロスから車で2時間ほど郊外のラグナビーチにある野外公会堂で行われたコンサートから、名演ばかりを抜粋したものですが、上手く拍手を編集したりして、おそらくは別個のパフォーマンスであった様々なバンドの演奏が、ひとつの流れで楽しめます。

録音は1956年6月20日、参加メンバーはハワード・ラムゼイ(b) 率いるライトハウスオールスタアズとしてフランク・ロソリーノ(tb)、バド・シャンク(as,fl)、ボブ・クーパー(ts)、クロード・ウィリアムソン(p)、スタン・レヴィー(ds) という魅惑の面々♪♪~♪ そしてゲストとしてバーニー・ケッセル(g)、さらにハンプトン・ホーズ(p)、レッド・ミッチェル(b)、シェリー・マン(ds) という強力ピアノトリオも出演しています。

A-1 Witch Doctor No.2 / Lighthoues All-Stars
 いきなり快調なスタン・レヴィーのドラムスが、なかなか柔軟なラテンビートを叩き出し、しかし全体は真っ当なモダンジャズという素晴らしさ! 纏まりの良いテーマアンサンブルからフランク・ロソリーノの高速スライドが冴えわたりのアドリブへ突入していく瞬間の高揚がたまりません。
 そして続くバド・シャンクがエキゾチック風味なフルートで高得点♪♪~♪ このあたりのムードはアメコミ系アニメとして我が国でも放映さていた「ジョニー・クエスト」のアメリカ版テーマ曲のようで、本当にワクワクさせられますねぇ~♪ 若き日のサイケおやじは、このパートで一発KOでした。
 さらにクロード・ウィリムスソンのピアノが、これまた琴線に触れまくり♪♪~♪ トドメに炸裂するスタン・レヴィーのラテンなドラムソロは、山本リンダの「どうにもとまらない」を歌いたくなりますよっ!

A-2 'Round About Midnight / Barney Kessel
 そして一転、あまりにも有名なモダンジャズの大名曲が、バーニー・ケッセルのギターを主役に演じられます。もちろん、ゆたったりしたノリとふくよかなハーモニーでバックアップするオールスタアズの趣味の良さは言わずもがな♪♪~♪
 ですからバーニー・ケッセルも相当に思い切ったアドリブフレーズと構成を妙を聞かせてくれますが、予定調和をきちんと演じているのは賛否両論でしょうか。
 このあたりはサイケおやじにしても、若い頃はツマラナイなぁ、なんて贅沢な我儘をタレていましたが、今では流石と思わざるをえません。
 ズバリ、出来すぎ!?

A-3 Mood For Lighthouse / Lighthoues All-Stars
 これが如何にも西海岸ジャズらしい、お気楽グルーヴが実に楽しい快演です。このミディアム・テンポの弾んだ雰囲気こそが、白人ジャズの極みかもしれませんねぇ。
 そしてアドリブパートではフランク・ロソリーノの些か散漫なアドリブが結果オーライでしょう。呑気に何も考えていないようなボブ・クーパーのテナーサックスも良い感じ♪♪~♪

A-4 Walkin' / Hampto Hawes' Trio
 そしてこれがA面のハイライト!
 グルーヴィで真っ黒なハードパップ! 完全にそれまでのフワフワしたムードを一掃する大名演のピアノトリオが、ここに記録されています。
 曲はお馴染みブルースとはいえ、この粘っこさとファンキーで明快なフレーズの積み重ねには歓喜悶絶させられますよっ! ハンプトン・ホーズにしても畢生でしょう。データ的には、このコンサートの数日後に名盤「Vol.1」を録音してしまうのが納得されます。
 脇を固めるレッド・ミッチェルとシェリー・マンは2人とも白人ですが、十分にハードバップのキモを掴んだサポートですから、聴いているうちに気持ちがグングンと高揚していくのでした。

B-1 Blind Man's Bluff / Lighthoues All-Stars
 クロード・ウィリアムソンが書いた西海岸ハードバップの典型のような、実にスマートで痛快な名曲名演です。もちろん作者のファンキーなピアノが伴奏とアドリブ、その両面で冴えまくり♪♪~♪
 そしてボブ・クーパーの懸命なテナーサックス、猛烈な勢いが見事なフランク・ロソリーノのトロンボーン、フワフワと浮遊しながらツッコミも鋭いバド・シャンクのアルトサックスも大熱演の連続です。特にバド・シャンクは同時代にアート・ペッパーという超天才が存在していた為に、どうしても比較されての不当評価は免れませんが、個人的にはこのアルバムで好きになったと、愛の告白をしておきます。

B-2 Lady Jeane / Lighthoues All-Stars
 フランク・ロソリーノのオリジナルという愛らしいメロディが、もちろん作者の独り舞台で演じられます。あぁ、このホノボノとして明朗な性格が滲んでいるようなトロンボーンの味わい深さ♪♪~♪
 もちろん本人の人柄は知る由もありませんが、この演奏を聴いてると、なんか「良い人」のような気がしますねぇ。
 地味ながらハワード・ラムゼイの的確なペースワークも気になるところです。

B-3 The Champ / Hampto Hawes' Trio
 そして一転、ハンプトン・ホーズがまたまたカッ飛ばした大ホームラン! ガンガンに突進するハードバップピアノの真髄が徹頭徹尾に楽しめます。
 曲はディジー・ガレスピーが書いたモダンジャズの真相を秘めたブルースですが、ここまで熱く演じられたら、免許皆伝でしょうねぇ~♪ とにかく猛烈なアップテンポで十八番の「ホーズ節」を乱れ打ちいうピアノの痛快さは、まさに空前絶後!
 シェリー・マンのブラシは、白人らしいシャープな感性とビバップのエキセントリックなアクセントを見事に融合させていますから、白熱しすぎて火傷しそうです。
 また骨太で明快な4ビートを支えるレッド・ミッチェルのペースも侮れませんねっ♪
 もちろん観客は大興奮の拍手喝采!

B-4 Casa De Luz / Lighthoues All-Stars
 これはバド・シャンクが自己のリーダーセッションで度々演じている十八番ですから、ここでも爽やかにしてグルーヴィな、如何にもライブという楽しさに満ちています。
 もちろんアドリブ先発はバド・シャンクのアルトサックスが実に爽快に歌いまくりですよ。そして続くフランク・ロソリーノが浮かれた調子のトロンボーン♪♪~♪ このあたりは西海岸派の魅力が存分に満喫出来ると思います。
 またレスター派の面目を保つボブ・クーパーのテナーサックス、気取らないクロード・ウィリアムソンのピアノも滋味豊かだと思います。

ということで、バド・シャンクが良い味出しまくりのライブ盤です。

そしてハンプトン・ホーズの決定的な瞬間を記録した1枚としても、決して忘れられないでしょう。

実は告白すると、私はハンプトン・ホーズが聴きたくてジャズ喫茶でリクエストしたのが、このアルバムとの出会いでした。そして当然ながらハンプトン・ホーズの凄い名演にシビレましたが、同時にバド・シャンクというマルチリードの名手にも邂逅し、またウエストコーストジャズの明朗な魅力の虜にもなったのです。

それはサイケおやじが十代だった1974年のことでしたが、その直後、私はある幸運によりアメリカへと旅立つことになりました。そしてこのライブ興業が行われたラグナビーチへも行くことが出来たのは、今となっては嬉しい思い出です。

それゆえにお土産として買ったのも、このアルバム♪♪~♪

本日は、そんな我田引水で失礼致しました。

そして最後にはなりましたが、バド・シャンクの御冥福を衷心よりお祈り致します。

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ニューヨークの秋はクリフォードの思い出

2009-04-14 12:45:53 | Jazz

Clifford Brown All Stars (EmArcy)


厳密に言えばクリフォード・ブラウンのリーダーセッションではありませんが、天才トランペッターの悲劇的な死後、残されていたスタジオジャムセッションから作られた、やはり人気盤のひとつだろうと思います。

録音は1954年8月11日、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ジョー・マイニ(as)、ハーブ・ゲラー(as)、ウォルター・ベントン(ts)、ケニー・ドリュー(p)、カーティス・カウンス(b)、マックス・ローチ(ds) という、文字通りのオールスタアズ! ブラウン&ローチ以外の面々にしても、当時の西海岸ハードバップを支えていた熱き心の持ち主ばかりです。

A-1 Caravan
 デューク・エリントン楽団というよりも、これまで度々述べてきたように、私の世代ではエレキインストのベンチャーズが十八番のヒット曲として馴染んでいるのではないでしょうか?
 それゆえにアップテンポでその場を牽引していくマック・ローチのドラミングが、当然ながらベンチャーズではメル・テイラーが敲き出すビートと同じグルーヴを持っていることに快感を覚えてしまいます。
 それは演奏ド頭から炸裂するマックス・ローチの熱血ドラミング、それに続くテーマアンサンブルからホーン奏者各人のブレイク、そして突入していくアドリブパートの烈火の競い合いに繋がるのです。
 先発で飛び出すアルトサックスはジョー・マイニですが、チャーリー・パーカー直系のフレーズを用いながら、その鋭角的なアプローチの魅力は絶大! 続くウォルター・ペントンの些かタレ流し気味のテナーサックスも、今となってはエキサイティングでしょう。
 また次に熱演を披露するハーブ・ゲラーのアルトサックスは、猛烈なアップテンポを逆にリードするが如き勢いが素晴らしく、この人はチャーリー・パーカー以前のスタイルも薬籠中のフレーズに変換する名手として、やはり流石だと思います。
 そしてついに登場するのが、クリフォード・ブラウンというわけですが、この肩に力が入りまくった激演には溜飲が下がります。というよりも、些細なミスを恐れない突進と素晴らしい楽器コントロールには本当に熱くさせられますし、リズムへのアプローチがマックス・ローチと一心同体の潔さ! 自分の持ちパート全体の構成なんか、全くの後回し的な即興の醍醐味! これがハードバップだと痛感させられます。
 またケニー・ドリューの突進力、カーティス・カウンスの骨太ウォーキングも、まさに黒人ジャズの真髄でしょうねぇ~♪ ですから終盤でマックス・ローチが演じる、長い長いドラムソロも退屈しないで聴けるのかもしれません。つまりここまで続いてきたビートの快感が、全く損なわれていないんですねぇ。これは驚異的じゃないでしょうか。
 全体的には「その場しのぎ」の連続かもしれませんが、それだってジャズという瞬間芸の為せるワザというか、素直に楽しまないとバチがあたるような感じがしています。

B-1 Autumn In New York
 そしてこれが、クリフォード・ブラウンならではという畢生の名演♪♪~♪
 曲はお馴染み、一抹のせつなさ、そして哀感が滲むスローなスタンダード曲ですが、それにしても初っ端からテーマメロディを見事にフェイクしていくクリフォード・ブラウンのトランペットが最高すぎます! いきなりのベースとのデュオ、そして地味~に入ってくるドラムスのシブイ存在感、さらに的確な伴奏に務めるピアノの上手さ♪♪~♪
 演奏はそのまま、クリフォード・ブラウンの全てが「歌」というアドリブに繋がりますが、これを聴いてハッとさせられるのは、ベニー・ゴルソンがクリフォード・ブラウンの悲劇の死を悼んで作曲した「I Remember Clifford」の元ネタが、これかもしれないと思うことです。
 実際、この演奏が世に出たのはクリフォード・ブラウンの死後ですし、ベニー・ゴルソンが件の名曲を書いたのが何時頃の事かは判然としませんから、そんな推察は虚しいかもしれません。しかし「I Remember Clifford」の決定的なバージョンとなったリー・モーガンのブルーノート吹き込み「Vol.3」におけるアドリブフレーズの幾つかは、間違いなくこの演奏でクリフォード・ブラウンが聞かせてくれるものと共通しています。
 あぁ、本当に素晴らしいですねぇ~~~♪
 そしてスローな展開でありながらグイノリの力強いビートを提供するリズム隊がしぶとい存在感で、特にケニー・ドリューのアドリブが味わい深いです。それに触発されたサックス奏者各人も、神妙にして熱の入ったプレイですから、なかなかに感度良好でしょう。

ということで、片面1曲ずつという長時間演奏集ですが、特にB面の「Autumn In New York」は全く飽きることない名演だと思います。

あぁ、「I Remember Clifford」が聴きたくなってきました。

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抜け出せないウイントン・ケリーの魅力

2009-04-12 08:36:21 | Jazz

Wynton Kelly (Vee Jay)

ウイントン・ケリーが嫌いなジャズ者って、いるのかなぁ~?

なんて戯言をタレるまでもなく、歯切れが良くて粘っこい、颯爽としてグルーヴィなウイントン・ケリーのピアノは最高ですよねぇ~♪

本日ご紹介のアルバムも名盤にして人気盤の1枚てすから、何時までも聴き飽きない魅力がぎっしり詰まっています。

録音は1961年7月20&21日、メンバーはウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、当時のマイルス・デイビスのバンドでは鉄壁のリズム隊! つまりウイントン・ケリーが全盛期の演奏というわけです。

しかしこのアルバムには昔っからひとつの疑問点がつきまとい、それはジャケットに記載された、もうひとりの参加者たるサム・ジョーンズ(b) が、いったいどの曲で弾いているのか? ということです。そのあたりについてはジャズ喫茶でも論争が絶えないという、今では懐かしい思い出もあるほどですが、個人的には独断と偏見とはいえ、少しは聞き分けが出来るように思います。

A-1 Come Rain Or Come Shine
 本来はスローバラードのスタンダード曲ですが、ウイントン・ケリーは得意のミディアムグルーヴが全開の粘っこい歌心を存分に披露した名演を聞かせてくれます。
 硬質でシャープなジミー・コブのシンバルワークゆえに、それが新しいハードパップのひとつの道筋という感じですが、気になるペースはサム・ジョーンズだと推察しております。というか、この曲と続く他の演奏を比べると、明らかにベースの音色とノリが違うんですねぇ。所謂グイノリが強い、「先ノリ」のウォーキングとギシギシ歪む指弾きの音が特徴的です。それは短いながらも一瞬だけ演じられるペースソロでも明確じゃないでしょうか?
 しかしそんな事に気をとられることも出来ないほど、ウイントン・ケリーのピアノは快適ですよ♪♪~♪

A-2 Make The Man Love Me
 そしてこれが、淡く、せつないメロディのスローや演奏♪♪~♪
 クレジットではウイントン・ケリーの作曲とされていますが、これって、スタンダード曲じゃないでしょうか? まあ、どちらしても、素敵なメロディに変わりはありません。
 一般的にウイントン・ケリーはスロー曲がイマイチとか言われますが、この演奏を聴けば、それは一蹴されるでしょう。このメロディフェイクの上手さ、小粋なアドリブフレーズと絶妙のスイング感は絶対です♪♪~♪
 あぁ、泣けてきますねぇ~♪

A-3 Autumn Leaves / 枯葉
 これまたウイントン・ケリーの代名詞的な名曲名演! おそらくはマイルス・デイビスのバンドに入ってから十八番にしたのかもしれませんが、一説にはウイントン・ケリーの演奏を聴いてから、マイルス・デイビスがレコーディングしたという噂もあるほど!?
 ですから、ここでのウイントン・ケリーは薬籠中の快演で、小気味よいアドリブフレーズの連なりや飛び跳ねて、さらに粘っこい絶妙の「ケリー節」が存分に披露されます。
 ちなみにベースはポール・チェンバースでしょう。その柔軟なペースワークは、まさにこのトリオの要として、秀逸なアドリブと微妙に「後ノリ」の4ビートが実に心地良いと思います。

A-4 Surrey Wiht The Fringe On Top
 これもマイルス・デイビスの名演が残されている小粋なスタンダード曲ということで、アントン・ケリーはテーマ部分の演奏から、少しばかり趣を異にしたアレンジが新鮮です。
 そしてミディアムテンポのアドリブに入っては、ファンキーな味わいも強い、これぞの「ケリー節」が大サービスされるのです。
 淡々としてジャストなジミー・コブのドラミングが粘っこいペースとピアノをがっちりと支えることによって生み出される、このトリオならではグルーヴは本当に最高ですねっ♪♪~♪

B-1 Joe's Avenue
 ウイントン・ケリーが書いた変則的なブルースで、こういうテーマ部分の2ビートの絡みからして、ベースはポール・チェンバースでしょう。それに続く4ビートのウォーキングが、所謂「後ノリ」になっているのも特徴的です。
 肝心のウイントン・ケリーは颯爽としてグルーヴィな魅力が全開!

B-2 Sassy
 これもウイントン・ケリーのオリジナルで、前曲よりもグッと粘っこいテンポで演じられるグルーヴィなブルースです。そして明らかに異なる雰囲気のペースは、サム・ジョーンズじゃないでしょうか?
 幾分ツッコミ気味のペースにジャストなドラムス、そして粘っこく飛び跳ねるピアノという、実にハードバップの真髄を体現したこのトリオも、なかなかに魅力的だと思います。

B-3 Love I've Found You
 これは地味なスタンダード曲のスローな演奏ですが、おそらくはウイントン・ケリーのお気に入りだったのでしょう。同時期に録音されたマイルス・デイビスのライブ名盤「At The Blackhawk Vol.1 (Columbia)」でも、バンドチェンジの幕間に短く聞かせてくれましたですね♪♪~♪
 ここでも同様の雰囲気で、そのシブイとしか言えないメロディフェイクは、ウイントン・ケリーの別の顔を見たという感じでしょうか、私は好きです。

B-4 Gone With The Wind
 そしてオーラスは、まさにウイントン・ケリー・トリオの真骨頂という、アップテンポの大快演! シンプルなシンバルワークにビシッと炸裂する強烈なアクセントが最高というジミー・コブのドラミングも冴えわたりですから、ピアノとベースの強靭なコンビネーションも殊更に気持ち良いですねぇ~♪
 スインギーに転がりまくるウイントン・ケリーのピアノは、こちらがイメージするとおりのフレーズ展開を存分に聞かせてくれるのでした。

ということで、人気盤はやっばり良いなぁ~♪

ベーシストの問題は「Come Rain Or Come Shine」と「Sassy」だけが明確にサム・ジョーンズの参加として良いと思いますが、これはあくまでもサイケおやじの独断とお断りしておきます。

まあ、それよりもピアノトリオの快演盤として素直に楽しむのが得策でしょう。聴いているうちに自然にそうなってしまう魅力が、このアルバムには確かにあるのです。

近年は大量の別テイクを入れたCDも出回っているようですから、そっちも欲しいのが本音ではありますが、このアナログ盤には曲の流れとか構成の妙に不思議な愛着が感じられ、おそらく私は死ぬまで愛聴する予感がしています。

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なにがなんでもズート・シムズ

2009-04-11 09:54:40 | Jazz

Choice / Zoot Sims (Pacific Jazz)

音楽の世界には海賊盤というジャンルがあって、それは非公式レコーディングを第三者が勝手に発売して利益を得ている違法なブツですが、もちろんファンにはとっては「お宝」ですから、一概に否定する気にはなれません。実際、サイケおやじは、そんな音源にも手を出しては一喜一憂しています。

そして中には詐欺まがいのブツも確かにあるんですが、そのあたりは立派な表舞台のレコード会社にだってあるわけで、例えば本日ご紹介のアルバムなんか、その最たるもんだと一時は憤慨しつつ、実は存分に楽しめる1枚だと思います。

まずA面はジェリー・マリガンの名盤「California Concerts」と同じ時の録音、またB面には女性歌手のアーニー・ロスが1959年に吹き込んだ歌伴セッションから、そのバンドだけの演奏を収録していますが、結論から言えば元々の録音を編集したり、再収録したりという些かあざとい部分が目立ちます。

しかしアドリブプレイヤーとしてのズート・シムズの実力と名演は存分に楽しめるという、まさにタイトルどおりのチョイスが面映ゆいのです。

ちなみに参加メンバーはズート・シムズ(ts)、ジェリー・マリガン(bs,p)、ボブ・ブルック・マイヤー(v-tb,p)、ジョー・アードレイ(tp)、レッド・ミッチェル(b)、ラリー・バンカー(ds) というセクステットのA面が1954年12月のライブレコーティング♪♪~♪ またB面は1959年3月の録音でズート・シムズ(ts)、ジム・ホール(g)、ラス・フリーマン(p)、モンティ・バドウィグ(b)、メル・ルイス(ds)、ビリー・ビーン(g) という凄い面々ですが、曲毎のバンド編成は原盤裏ジャケットに明記されています。

A-1 I'll Remember April
 既に述べたようにA面は「California Concerts」には未採用となったアウトテイクとはいえ、流石は名盤誕生時の充実度という、これも劣らぬ快演だと思います。
 曲はお馴染みのスタンダードですから、良く知られたメロディがズート・シムズの素晴らしいフェイクとアドリブによって、まさに桃源郷のモダンジャズ♪♪~♪ ちなみに弾みまくったピアノはボブ・ブルックマイヤーで、ジェリー・マリガンとジョー・アードレイが抜けたワンホーン演奏というのも高得点です。
 あぁ、このスイング感と豊かな歌心ばっかりのアドリブフレーズ♪♪~♪ これがズート・シムズの真骨頂でしょうねぇ~♪ グイノリのペースと気持ちの良いビートを刻むドラムスも良い感じで、実はちょいと感じられるテープ編集の疑念も晴れるでしょう。

A-2 Flamingo
 しかしこれは、詐欺じゃねぇ~のかっ!?
 と、思わず絶叫したくなるトラックです。
 演奏に参加しているのは前述の6人組なんですが、せっかくズート・シムズが夢みるようにテーマメロディを吹奏してくれるのに、それだけしか無いんですよ……。
 つまりテーマが終わったところで、残酷にもテープをバッサリと切り捨て、拍手を被せたという無慈悲な編集が??? う~ん……。
 ただし、それゆえにズート・シムズのテーマ演奏が尚更に眩いといえば、自分に言い聞かせる言い訳のようなせつなさです。

A-3 There Will Never Be Another You
 そういうモヤモヤした気分を晴らしてくれるのが、このスタンダード曲のスイングしまくった快演! ここではジョー・アードレイが抜けたクインテットで、ピアノはジェリー・マリガンが弾いていますが、まずはボブ・ブルックマイヤーのバルブトロンボーンがリードするテーマメロディに絡んでいくズート・シムズという素敵な構図、さらに明快にドライブしていくリズムコンビの素晴らしさにシビレます♪♪~♪
 もちろんアドリブパートは歌心がいっぱい♪♪~♪ 特にズート・シムズは全く尽きることのない千変万化のフレーズを乱れ打ちですよ。ノリの良さも抜群ですが、それにしてもラリー・バンカーのブラシの気持ち良さ、そしてレッド・メッチェルの骨太4ビートは、ウエストコーストジャズが最高の瞬間だと思います。
 ちなみにここでもテープの編集が施されているようですが、それほど気にはならないでしょう。

A-4 Red Door
 しかし、またまたこれも詐欺的なトラックで、なんと前述した名盤「」からの再収録という演奏なんですねぇ。まあ、名演には違いないのですが、なんだかなぁ……。
 という苦言や嘆きは一先ず棚上げにして、ズート・シムズのテナーサックスとジェリー・マリガンのバリトンサックスが、まさに歌心の競演、というよりも饗宴と書くべきでしょうか、そのアドリブの最高な雰囲気はジャズを聴く喜びに他になりません♪♪~♪
 浮かれたリズムとビートの楽しさも天下逸品です。

B-1 You're Driving Me Crazy
 ここからのB面は既に述べたように、アーニー・ロスの歌伴セッションて集まったバンドだけによる演奏で、基本はズート・シムズのワンホーンですから、歌心と快適なジャズビートは言わずもがな♪♪~♪
 まず、この曲にだけ参加したギタリストのビリー・ビーンがイブシ銀のイントロから、ズート・シムズが名人芸のメロディフェイクというテーマ部分だけで、気分がジャズにどっぶり惹きこまれます。ラス・フリーマンのピアノとビリー・ビーンのリズムギターのコンビネーションも絶妙の素晴らしさですし、ドラムスとベースのリラックスしたスイング感も最高の極みじゃないでしょうか。
 そしてズート・シムズのアドリブが絶品の歌を演じれば、ラス・フリーマンがファンキー味をヒタ隠しというピアノで、憎めません♪♪~♪
 いゃ~、ジャズって、本当にイカシていますねぇ~♪

B-2 Brushes
 タイトルどおり、メル・ルイスの素晴らしいブラシをメインにしたミディアムテンポのブルースということで、全員のリラックスした至芸がたまりません。ちなみにここでのギターはジム・ホールが弾いています。
 気になるズート・シムズは思わせぶりなスタートからブルースな味わいが深く、またラス・フリーマンのピアノがファンキー道を歩んで行きますから、ジワジワと黒っぽさが滲む演奏になっています。
 そして主役のメル・ルイスがブラシによるドラムソロ♪♪~♪ これが地味ながら滋味豊という、ほとんど洒落になっていない生真面目な雰囲気です。つまり賛否両論だと思うのですが、しかしジャズの王道には違いないと思います。
 
B-3 Choice Blues
 オーラスは、これも即興的なブルースのハードにドライヴしたモダンスイングの大快演! 初っ端から快調にブッ飛ばすズート・シムズのテナーサックスからは、こちらが望むフレーズとノリが連続射出され、またラス・フリーマンの白人ファンキーなピアノが全開です。明瞭にして懐の深い、実におおらかに4ビートを作り出すバンド全体の雰囲気も楽しいですねぇ。
 ちなみにギターは原盤解説によればジム・ホールになっていますが、アドリブソロのペラペラな音色は??? 何時もの膨らみのある個性が聞かれませんが、これ如何に!?

ということで、些かの苦言や我儘も書いてしまいましたが、ズート・シムズの素晴らしい個性を楽しむには最適のアルバムかもしれません。実はこんな内部事情を書いてしまったことを後悔するほどです。何も知らずに初めて聴けば、ズート・シムズというテナーサックス奏者の魅力に完全KOされること請け合いだと思います。

そして、こういう窮余の一策っぽいアルバムを作ってまでもズート・シムズを自社のカタログに入れたかった制作者側の熱意といっていいのでしょうか? そういう心意気も強く感じるところです。

それがジャズの魅力のひとつかもしれませんね。

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これに尽きるディック・ジョンソン

2009-04-09 10:54:08 | Jazz

Music For Swinging Moderns / Dick Johnson (EmArcy)

白人アルトサックス奏者の名手といえばリー・コニッツ、アート・ペッパー、フィル・ウッズあたりが即座に挙がるところでしょう。そして別格がポール・デスモンドでしょうか。

バリバリのチャーリー・パーカー信奉者というフィル・ウッズを除いては、3人ともが如何にも白人らしいスマートなフィーリング、流麗なフレーズ展開と歌心の妙が実にクールで耽美秀麗な名人でしたから、その味わいに深くシビレるサイケおやじにとって、同じスタイルのプレイヤーを探究してしまうのは、ご理解願いたいところです。

で、そんな精進の中で巡り合ったのが、本日の主役たるディック・ジョンソンです。

この人はどうやらビックバンドで活躍していたマルチリード奏者らくし、クラリネットも巧みですが、やはり本領はクールにして甘美、そしてスイングしまくるアルトサックスに絶大な魅力を感じてしまいます。

ポール・デスモンド系の音色でリー・コニッツとアート・ペッパーをミックスさせたようなアドリブを演じられたら最後、完全に虜のアルバムが本日ご紹介の1枚というわけです。

録音は1956年2月29日&3月27日、メンバーはディック・ジョンソン(as)、ビル・ハバーマン(p)、チャック・セイゲル(b)、ボブ・マッキー(ds)、そして3月のセッションではデイヴ・ポスコンガ(b) が交代参加していますが、いずれもほとんど無名に近い面々ながら、演奏はバンド全員の意思統一も鮮やかな素晴らしさです。

 A-1 The Belle Of The Ball (1956年3月27日録音)
 A-2 The Lady Is A Tramp (1956年2月29日録音)
 A-3 Honey Bun (1956年3月27日録音)
 A-4 Why Was I Born (1956年3月27日録音)
 A-5 Poinceana (1956年3月27日録音)
 B-1 The Things We Did Last Summer (1956年2月29日録音)
 B-2 Like Someone In Love (1956年3月27日録音)
 B-3 Stars Fell On Alabama (1956年3月27日録音)
 B-4 You've Changed (1956年3月27日録音)

上記演目は良く知られたスタンダード曲も嬉しいかぎりで、結論からいうとA面がアップテンポの爽快サイド、そしてB面がしっとり愁いのスローサイドという感じでしょうか。もちろんディック・ジョンソンは、既に述べたようなスマートな歌心を全開させた名演を披露し、バンドのノリも最高にスイングしまくっています。

痛快なアップテンポでドライヴし、流麗なフレーズ展開と甘美なアルトサックスの音色が素晴らしい「The Belle Of The Ball」では、ジョン・ウィリアムスも顔負けの弾みまくったピアノを聞かせてくれるビル・ハバーマンも熱演で、これ1曲だけでツカミはOK! 後半のバロック風室内楽というアレンジも気が利いています。

そうした素晴らしさは続く「The Lady Is A Tramp」のウキウキした演奏でも存分に楽しめ、特にテーマのサビで聞かせるラテンビートのグルーヴは最高に白人っぽくてお洒落♪♪~♪ もろちんディック・ジョンソンの歌心も満点です。

ということは、リズム隊のスマートな熱演も言わずもがな、「Honey Bun」での楽しい雰囲気やビシッとした4ビートを堪能させてくれる「Why Was I Born」、さらに浮かれたラテンビートが疾走感溢れる4ビートへと一瞬にして転換する「Poinceana」のスピード感!

それがあってこそ、ディック・ジョンソンのアルトサックスが冴えわたりのフレーズを連発出来ると思うほどです。実際、そのアドリブやメロディフェイクにはリー・コニッツとアート・ペッパーの「イイトコ取り」が満載とはいえ、それは物真似というよりは、実に気持良い時間が楽しめるのです。

そしてB面は既に述べたようにスロバラの桃源郷♪♪~♪

まずは「The Things We Did Last Summer」での、せつないメロディフェイクに感涙しますよ。ポール・デスモンド直系の音色もイヤミがありませんし、それでアート・ペッパー流儀のフレーズを演じられたら、しんぼうたまらん状態は必至でしょう♪♪~♪

さらに優しさがジワジワと広がっていく「Like Someone In Love」、クールな忍び泣きという「Stars Fell On Alabama」、悔恨の情が滲む「You've Changed」という抜群の表現がダイレクトに歌心へと転化した3連発が続きますから、あぁ、何時までも聴いていたほどです。

録音も、このレーベル特有の明るくてパンチの効いた音作りですし、要所で上手く使われているエコーも素晴らしいスパイスだと思います。

ちなみにディック・ジョンソンは、これがおそらく初リーダー盤でしょう。そしてこの後にはリバーサイドへもリーダー作を残していますが、そちらは何故か黒人色が強くなったスタイルなのが、個人的にはちょっと……。

ですから私にとって最高のディック・ジョンソンは、このアルバムに尽きています。そして春の陽気な日々にはジャストミートの演奏集として、ぜひとも皆様にもお楽しみ願いたいと思います。

所有はもちろん、1980年代後半に出た日本盤アナログLPですが、これも何時かはオリジナルが欲しいもんです。

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ジャッキー・バイアードの笑顔が怖い

2009-04-08 12:12:24 | Jazz

Sunshine Of My Soul / Jaki Byard (Prestige)

デューク・エリントンのピアノを聴いていると、この人も聴きたくなります。

ジャッキー・バイアードはチャールズ・ミンガスのバンドレギュラーとしての活動が一番有名でしょう。そこで聞かせてくれたピアノはブルースからフリーまで広範な音楽性を包括したものでしたし、スタイル的には所謂ハーレム風ストライドからブギウギ、シカゴ系ピアノブルース、セロニアス・モンクと同系列の不協和音、セシル・テイラーも顔色無しの無調フレーズ乱れ打ち……、等々!

ですから、聴いていて決して、和めるものではありません。

しかも本人はピアノ以外にもサックスやギター、各種打楽器やトランペット、トロンポーンまでも堂々とやってしまう楽器の天才でしたから、そのリーダー盤もとりとめのない感じが強く、あまり一般ウケはしないものばかりです。

さて、このアルバムは、そうした中でも比較的統一された意図がストレートに表現された感じでしょうか、ピアノトリオの強力盤!

録音は1967年10月31日、メンバーはジャッキー・バイアード(p,g)、デヴィッド・アイゼンソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds,tympani) という物凄い3人組! 1曲を除いてのオリジナルも意欲的で、その奔放な演奏に圧倒されます。

A-1 Sunshine
 基本はワルツでモードを使ったアップテンポの曲ですから、導入部はエルビン・ジョーンズのポリリズムドラミングとディヴッド・アイゼンソンの不気味なベースが露払い! そしてちょっと愛らしいテーマメロディを弾いてくれるジャッキー・バイアードという構図が、全くのジャズ王道です。
 しかしそれが持続するわけではありません。
 ジャッキー・バイアードが率先してフリーな迷い道へと踏み込めば、ディヴッド・アイゼンソンが忽ちそれに追従しますから、エルビン・ジョーンズも穏やかではありません。なんとかキープしている王道のジャズビートがいじらしいほどです。それを嘲笑うが如きジャッキー・バイアードの自意識過剰もせつなくなります。
 ただしそういうものが、所謂デタラメ派フリージャズとは一線を隔しているんですねぇ~♪ これは私の感性の問題かもしれませんが、聴いていただければ納得される皆様も多いんじゃないでしょうか? そこがジャッキー・バイアードの魅力の秘密かもしれません。
 ちなみにベースのデヴィッド・アイゼンソンはオーネット・コールマンのバンドレギュラーとして大活躍した隠れ名手ですが、決してデタラメ派ではなく、凄いテクニックと音楽性を兼ね備えた実力の証明は、このアルバム全体に重要な働きとなっています。

A-2 Cast Away
 いきなり侘しいようなデヴィッド・アイゼンソンのアルコ弾き……。この妖怪人間べムのようなメロディ、そこに絡んでくるギターは、なんとジャッキー・バイアードが弾いているのですが、エルビン・ジョーンズがティンパニーを敲いて作るアクセントも陰鬱です。
 そしてジャッキー・バイアードのピアノが、これまたデタラメというか、ほとんど意味不明にしか、私には聞こえません。あぁ、疲れますよ……。
 しかしそれでも針を上げられない、妙な魔力があるんですねぇ……。デヴィッド・アイゼンソンのベースに麻薬的なものがあるんでしょうか……。それともエルビン・ジョーンズの意外にも考えぬいた打楽器が……。

A-3 Chandra
 一転してビバップ調の4ビート演奏が始まりますが、これって確か、チャーリー・マリアーノと一緒にやっていたような……。あっ、これは原盤裏ジャケットにも、そう記載してありました。
 で、ここでの展開はゴキゲンなモダンジャズではありますが、ジャッキー・バイアードのピアノスタイルは既に述べたように、セロニアス・モンクや初期セシル・テイラーのような、些か分断したハーモニーとフレーズを自分流儀に再構築する手法に拘泥しています。
 それゆえにエルビン・ジョーンズが十八番のオクトパスドラミングやデヴィッド・アイゼンソンの自意識過剰というベースワークが、尚更に痛快至極!
 曲は一応、ブルースですが、全然、それぽっく無いあたりが賛否両論でしょうねぇ。しかし楽しいですよ♪♪~♪ 大団円はデューク・エリントンになるという「お約束」が嬉しくもあります。

B-1 St. Louis Blues
 このアルバムでは唯一のスタンダード曲というよりも、あまりにも有名なジャズの古典ですから、汎用スタイルのジャッキー・バイアードには十八番の展開でしょう。ストライド奏法主体にテーマを弾いてくれるあたりの楽しさは格別ですねぇ~♪ まさに温故知新です。
 しかしそこに絡んでくるのが、デヴィッド・アイゼンソンの不気味なアルコ弾きとエルビン・ジョーンズのティンパニーで、ともに素晴らしいスパイスながら、やはり一筋縄ではいかない雰囲気となります。
 そしてアドリブパートでは淡々とした4ビートが、このアルバムの中では一番に普通とはいえ、それが逆に怖いムードになっていきます。う~ん、逆もまた真なり!?
 ジャッキー・バイアードが楽しいフレーズを弾くほどに、アブナイ雰囲気が横溢していくんですねぇ~。何故っ?

B-2 Diane's Melody
 これはシンプルにして、とても美しいメロディが印象的な名曲でしょう。
 素直にテーマを弾いてくれるジャッキー・バイアードに寄り添うのが、気分はロンリーでありながら、実はエキセントリックなデヴィッド・アイゼンソンのアルコ弾きというも素敵です。
 そしてエルビン・ジョーンズのしぶといブラシ、デヴィッド・アイゼンソンの野太い4ビートウォーキングを従えたジャッキー・バイアードが、自在にメロディをフェイクし、せつないほどに辛辣なアドリブを聞かせてくれるんですから、たまりません。
 ただしそれは、決してストレートではありません。様々な思惑や嗜好がゴッタ煮です。
 まあ、このあたりをどう楽しむかによって、ジャッキー・バイアードという人に対する評価や好き嫌いが分かれてしまうんでしょうが、私は好きです。
 最終パートの無伴奏なピアノ、それに絡んでくるベースというところが、特に良いですね♪♪~♪

B-3 Trendsition Zildjian
 そして最後は、ドカドカ煩いエルビン・ジョーンズの爆裂ドラミング! 全力疾走でデタラメを演じるジャッキー・バイアード! さらに激ヤバのデヴィッド・アイゼンソン!
 そんなトリオがヤケッパチな心情吐露ですから、スカッとしますよっ!
 これをフリー・ジャズといってしまえば、全くそのとおりなんですが、ジャッキー・バイアードは無機質に音を羅列しているのではない、と信じたいです……。う~ん、やっぱり無理か……。でも、スカッとするのは事実です。

ということで、サイケおやじはB面を聴くことが多いです。そのアンニュイなスタートから過激な叫びまで、実に危険なムードが自然に流れていく展開にシビレます。まさにジャズ喫茶黄金時代の一場面にはジャストミート!

なんともサイケで黒人ソウルというか、アメリカの缶詰パッケージみたいなジャケットイラストのど真ん中でニンマリというジャッキー・バイアードの意図が、これほどズバリと表現された局地的名盤も無いと思います。

所謂「歌心」なんて、このアルバムには無縁ですから、決して和めるような作品ではありませんが、ジャズのひとつの側面は十分に楽しめるんじゃないでしょうか。

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デュークな4人の緊張と和み

2009-04-07 12:37:50 | Jazz

Duke's Big 4 (Pablo)

新年度は初っ端から仕事関係のゴタゴタやトラブルが多くて、ちょっと凹んでいます。まあ、意気ごみは大歓迎とはいえ、それだって周囲との協調がなければ迷惑な話……。

う~ん、このあたりはジャズと同じかもしれませんねぇ。個人芸の凄いアドリブがあったとしても、全体の纏まりがなければ独り善がりですし、フリーのデタラメなんて、サイケおやじには全く認められるものではありません。

個人と全体の協調、ヤル気と調和のギリギリのバランスが名演・名盤の必須条件だとすれば、一般社会の仕事だって同じだと思いつつ、本日はこれを出してしまいました。

アルバムには誰がリーダーとは明記されていませんが、タイトルだけで至極当然! デューク・エリントンがピアニストとして、名人揃いのカルテットを率いた演奏集です。

録音は1973年1月8日、メンバーはデューク・エリントン(p) 以下、ジョー・パス(g)、レイ・ブラウン(b)、ルイ・ベルソン(ds) が参集していますから、これで悪い演奏になったら世界は破滅というしかありませんね。演目も所縁の名曲ばかりです。

A-1 Cottontail
 デューク・エリントン楽団としてはベン・ウェブスター(ts) をメインに押し出した循環コードのリフ曲とあって、今日でもジャムセッションには欠かせないテーマとなっています。
 威勢の良いアンサンブルから各人が、俺に任せろ的な自己主張とバンドとしての纏まりを大切にしたバランス感覚は流石! ジョー・パスの力んだアドリブソロを背後から強力にプッシュするルイ・ベルソンのブラシの冴え! その間で痛快な4ビートウォーキングを聞かせ、さらに短いながらも練達のアドリブを披露するレイ・ブラウン!
 そして最後にはルイ・ベルソンの豪快無比、ド迫力のドラムソロが炸裂すれば、そこにはウリだったツインのバスドラも顕在のようです。
 気になる御大、デューク・エリントンのピアノは全体をリードしつつ、的確な指示を出す感じに留まっていますが、ここではそれも正解だと思います。まずは小手調べ♪♪~♪

A-2 The Blues
 単純明快な曲タイトルですが、歴史的にはデューク・エリントンが早世した天才ベース奏者のジミー・フラントンと1939年にデュオ録音を残している演目とあって、特にレイ・ブラウンが神妙です。
 ここでは存在感抜群のパッキング、さらに滋味豊かなアドリブソロと間然することのない匠の技を披露していますが、さらに凄いのがジョー・パスのギター! オクターヴ奏法から小刻みなフレーズの連続美技、しぶといオカズやコード弾きも素晴らしいかぎりです。
 そして相当にキワドイ事をやっているデューク・エリントンのピアノも結果オーライでしょう。その直截的なピアノタッチが実に良い感じ♪♪~♪

A-3 The Hawk Talks
 ルイ・ベルソンの作曲になっていますが、かつてはデューク・エリントン楽団の看板スタアとして、自らのドラムスが大活躍した名演の再現を狙ったのでしょうか。
 しかしここではカルテットの演奏とあって、コード進行を指示する声やジャムセッション的な和みと協調、さらに個人芸の競い合いも鮮やかに楽しいムードです。
 肝心のルイ・ベルソンはブラシの至芸と強靭なバスドラ、メリハリの効いたスティックさばきが流石の名人! アドリブに専心する他の3人をがっちりと支えながら、同時に意地悪く煽る部分にもニンマリとさせられます。
 そしてここでもジョー・パスが何気なく凄いです!

A-4 Prelude To A Kiss
 これはお馴染み、デューク・エリントンの代表作という甘美なバラードの決定版♪♪~♪ 同楽団ではジョニー・ホッジス(as) の名演が歴史になっていますが、ここでは作者本人のピアノが良い味だしまくり♪♪~♪
 メロディとコードの魔法を解き明かすかのような味わい深さが最高ですから、ジョー・パスも極みつきのギターを聞かせてくれますし、レイ・ブラウンの小技の冴えも素晴らしいと思います。

B-1 Love You Madly
 これもデューク・エリントン的な、如何にもの名曲ですが、小編成の演奏としてはオスカー・ピーターソンの名盤「シェークスピア・フェスティバル (Verve)」に収録のバージョンが決定版だと、私は思います。
 ですから、そこで素晴らしいベースを聞かせていたレイ・ブラウンにしても、俺に任せろ!
 繊細にして豪胆、歌心とエグイばかりのジャズビートが完全融合のベースワークにはデューク・エリントンも感服したのか、本当に最高のピアノで応えていますし、ジョー・パスやルイ・ベルソンにとっても同じ気持ちなのでしょう、このアルバムの中でも特に良い雰囲気が横溢した、実にハートウォームな演奏か楽しめます。

B-2 Just Squeeze Me
 そして前曲の良いムードが見事に継承され、さらにジャズの素晴らしさが徹底的に追求された名演が続きます。
 緩やかなジャズのピートはしなやかにして力強く、なんとも怠惰な休日の午後のような主題が、大人のお洒落で演じられていく快感は、まさに至福♪♪~♪
 各人のアドリブも流石に名手の証を立派に果たしていますが、それよりも全体のバンドアンサンブルのナチュラルな感性にシビレます。

B-3 Everything But You
 あまり有名では無い曲ですが、聴けば一発、まさにデューク・エリントンというリフが耳に馴染んでいることでしょう。なにしろこれは、後に様々にフェイクされてモダンジャズの中核を成したと思われるほどですから!
 で、ここではレイ・ブラウンのベースが、実に奔放! ですからデューク・エリントンのピアノも大ハッスルというか、とてもシンプルに正統派ジャズの本領を聞かせてくれますし、ジョー・パスのリラックスしたアドリブやルイ・ベルソンの楽しいドラミングもあって、これがアルバムの締め括りにはジャストミート♪♪~♪

ということで、和みと緊張、自己主張と協調のバランスが実に秀逸な作品だと思います。

参加メンバーの中では、偉大なるデューク・エリントンが雲上人でありながら、やはりカルテットの一員としての役割が皆が平等だったのでしょう。お互いのリスペクトが滲み出た雰囲気が、聴いているだけでジンワリと伝わってきます。

ちなみにデューク・エリントンとレイ・ブラウンは、これに先立つ約1ヵ月ほど前に、やはり同レーベルにデュオの名作を吹きこんでいますから、コンビネーションはさらに鉄壁! ですからジョー・パスが流麗にギターを歌わせ、ルイ・ベルソンがリズムとビートの楽しさを押し出すのもムベなるかなです。

地味なアルバムジャケットですが、中身は超一級品として、末長く愛聴出来る作品だと信じています。

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最高に危険な関係!

2009-04-05 12:07:47 | Jazz

les liaisons dangereuses / Art Blakeey's Jazz Messengers (Fontana)

フランス映画「危険な関係」のサントラ音源として有名な、所謂シネジャズの傑作盤です。

もちろん映画そのものには、ここに収められた演奏が全て使われているわけではなく、フィルムの映像に合わせて、その一部が編集されて聞かれるだけです。つまり楽曲はスタジオで完全演奏されながら、実際のサントラ音源とは異なっているわけですから、ジャズメッセンジャーズの熱演を楽しむには、このアルバムが必須というわけです。

ちなみに個人的な感想ですが、映画そのものは世評ほど名作だとは思えないサイケおやじにしても、このアルバムのシビレる魅力は絶大です。

それともうひとつ、主題曲「危険な関係」に関しての有名なゴタゴタに、デューク・ジョーダンの不遇がジャズの歴史になっています。

それは関連楽曲の作者クレジットが全て Jacques Marray というフランス人名義になっており、実際にテーマ曲を書いたデューク・ジョーダンには印税収入がほとんど入ってこなかったという始末です。

このあたりは、当時の映画制作のシステムでは当たり前というか、映画本篇の音楽担当者や関係者がその権利を丸ごと取得するのが慣例だったようで、デューク・ジョーダンも泣き寝入り……。しかしこの事実がアメリカのジャズ界の知るところとなり、ついに1962年になってチャーリー・パーカーの未亡人であるドリスが自己のレーベル=チャーリー・パーカー・レコードにデューク・ジョーダン名義でこの名曲を吹き込ませ、堂々と本当の作曲者を世に公表しています。

また他にも、このアルバムの演奏の中には、どう聞いてもベニー・ゴルソンが書いたとしか思えない楽曲もあるんですよねぇ。所謂ゴルソンハーモニーっぽいアレンジやメロディが……。

まあ、それはそれとして、録音は1959年7月28&29日のニューヨーク、メンバーはリー・モーガン(tp)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、アート・ブレイキー(ds) というジャズメッセンジャーズ本隊に加え、フランス人サックス奏者のバルネ・ウィラン(ts,ss)、デューク・ジョーダン(p)、それに数名の打楽器奏者が助っ人として彩を添えています。

A-1 No Prpblem (1st version) / 危険な関係のブルース
 これが実際はデューク・ジョーダンの書いた、あまりにも琴線に触れまくりというモダンジャズの大名曲で、マイナー調の胸キュンメロディと豪快なハードバップの4ビートが完全融合した熱演になっています。
 あぁ、この一緒に口ずさめるメロディのせつない素晴らしさ、ヘヴィで躍動的なジャズのビートの心地良さ♪♪~♪ ここまで親しみ易くて、しかもバカにされていない名曲も稀でしょう。
 もちろんアドリブパートの充実も、まさにハードバップが完熟していた証の名演続きで、まずはパネル・ウィランがハードバップ王道のテナーサックスで実にカッコ良く、続くリー・モーガンは猪突猛進! トリッキーで鋭角的なフレーズの冴え、鳴りまくるトランペット響きが痛快至極です。
 そして剛直なベースを響かせるジミー・メリット、変幻自在に燃え上がるアート・ブレイキーのドラミングは言わずもがな、歯切れの良いピアノタッチでファンキーなアドリブを演じてくれるボビー・ティモンズが流石の存在感!
 あぁ、何度聴いてもシビレがとまりません♪♪~♪

A-2 No Hay Problema / 危険な関係のサンバ
 全曲同様のテーマメロディをリズム隊だけでサンバ調に変奏したトラックで、ここでは特にジョン・ロドリゲス、トミー・ロペス、ウィリアム・ロドリゲスという3人の打楽器奏者が参加した、アート・ブレイキーとアフロキューバンボーイズ名義の演奏です。
 ボビー・ティモンズの弾みまくったピアノは、なんとなくキャバレーモードではありますが、コンガやボンゴが入ったリズム的な興奮はアート・ブレイキーのルーツ探究っぽいドラミングとグルになった痛快さですし、ここでも野太いジミー・メリットのペースがシンプルな凄味を聞かせてくれます。

A-3 Prelude In Blue / a“L'Esquinadw”
 これも聴けば一発、非常に有名なメロディですが、作者のクレジットが???
 まあ、そんなこんなは別にして、ここでの演奏はバルネ・ウィラン(ss)、デューク・ジョーダン(p)、ジミー・メリット(b)、アート・ブレイキー(ds) のカルテットが、ジェントルで気分なロンリーの決定版♪♪~♪
 とにかくパネル・ウィランの艶やかなソプラノサックスが何時までも忘れられなくなるでしょう。その音色と歌心の素晴らしさ♪♪~♪ 告白すればサイケおやじは、この演奏を聴いてバルネ・ウィランのファンになったのです。
 そしてデューク・ジョーダンの、せつない美メロしか出ないアドリブにも完全胸キュン状態♪♪~♪ 本当に泣けてきますよ。
 さらにそこからラストテーマへと繋げていくバルネ・ウィランの出だしのフレーズが、もう絶妙としか言えません。これにシビレなかったら、ウソですよねぇ~。
 おまけ風に続いていく最後のコーダー部分の余韻も、セックスの後の心地良い疲労のようで、あのエリック・クラプトンの「Layla」で聞かれる後半のパートと双璧じゃないでしょうか。

A-4 Valmontana (1st version)
 そしてこれは威勢が良くて、さらにソフトな黒っぽさが素晴らしいという、所謂ゴルソンハーモニー的な隠れ名曲♪♪~♪
 テーマアンサンブルは言わずもがな、アドリブに入っていくバルネ・ウィランのフレーズなんか、モロにベニー・ゴルソンを意識しているのがミエミエで、思わずニンマリですよ。
 またじっくりとハードバップ魂を発散していくリー・モーガンのバランスの崩れ方が、結果オーライの潔さ♪♪~♪ そうした即興の面白さをがっちりと纏めていくリズム隊の堅実さとグイノリのグルーヴは、やはり全盛期の凄さだと思います。

B-1 Miguel's Party / ミゲルのパーティ
 これもベニー・ゴルソンとしか思えない曲調の名演で、ミディアムテンポのグルーヴィな雰囲気の良さ、そしてアドリブの颯爽としたファンキーな連なりが、たまりません。
 閃きに満ちたリー・モーガン、幾何学的なフレーズを繰り出しながらハードバップを追求するバルネ・ウィラン、多彩な技で煽るアート・ブレイキーのドラミングも素晴らしく、ゴスペルムードを抑えつつ、しぶといピアノを聞かせてくれるボビー・ティモンズが、至極真っ当な黒人ジャズを聞かせてくれます。

B-2 Prelude In Blue / Chez Miguel
 これはA面同曲のアップテンポバージョンで、演じているのはバルネ・ウィラン入りのジャズメッセンジャーズですから、グイノリのハードバップが「お約束」です。
 ただしA面のバージョンが素晴らしすぎるというか、個人的にはそちらに夢中ですから、これも名演ながら印象はイマイチという勿体無さ……。
 それでもリー・モーガンの強烈な自己主張には圧倒されると思います。

B-3 No Prpblem (2nd version)
 これもド頭「危険な関係のブルース」の別バージョンですが、ここではテーマメロディの前に強烈にアフロなリフが付けられ、さらにアフリカ土着のビートが隠し味というアンサンブルが凄すぎます!
 もちろん、痛烈にテンポアップした演奏は凄味さえ感じるほどに充実し、リー・モーガンの直線的なツッコミ、バルネ・ウィランの硬質なアドリブライン、そして容赦無いリズム隊の煽りには震えがくるほどです。
 ボビー・ティモンズのピアノからアート・ブレイキーを要にしたソロチェンジのスリルも最高ですから、思わず興奮のイェ~ェェェェェ~!

B-4 Weehawlen Mad Pad
 これは即興的なパートで、リー・モーガンのアドリブを主体としたミディアムテンポの演奏ながら、やはり全盛期の勢いが完全に表出した名演だと思います。
 つれを受け継いだバルネ・ウィランの歌心もニクイばかりですから、フェードアウトしてしまうのが全く勿体ないかぎり……。

B-5 Valmontana (2nd version)
 そしてオーラスは、これもA面に収録されている同曲の別バージョンで、ますますゴルソンハーモニー色が鮮明になっているテーマ合奏からして、もうシビレまくりです。
 アート・ブレイキーのドラミングも冴えわたりのジャズビートは本当に魅力が満点ですし、リラックスして躍動的な各人のアドリブも大充実! バルネ・ウィランもリー・モーガンも、またボビー・ティモンズも本当に幸せだった時代が認識されると思います。

ということで、やはりこれは人気盤にして侮れない作品だと思います。

特にジャズメッセンジャーズはベニー・ゴルソンが退団し、ウェイン・ショーターが加入する端境期の姿ではありますが、やはり全盛時代の勢いは不滅ですし、ゲスト参加のバルネ・ウィランにしても、デクスター・ゴードンやハンク・モブレーの味わいを自分流に再構築したスタイルで熱演を披露しています。そして既に述べたように、「Prelude In Blue」で聞かれるソプラノサックスの素晴らしい魅力は、本当に聴かずに死ねるかですよねぇ♪♪~♪ ジョン・コルトレーンとは全く異なる、そのジェントルな響きと歌心に満ちた味わいは、この時期にもっとソプラノサックスの演奏を残して欲しかった……、と悔やまれるほどです。

ちなみに気になる映画の場面では、バルネ・ウィランやデューク・ジョーダン、そしてなんとケニー・ドーハムが演奏シーンで出演し、ここでの音源に合わせた「当て振り」を演じていますが、実にカッコイイ♪♪~♪

そして演奏そのものは不滅の素晴らしさとくれば、やっぱりハードバップって、本当に良いですねぇ~~~♪

アート・ブレイキーでは「Moanin'」や「Blues March」、そして「A Night In Tunisia」も確かな人気曲でしょうが、実は「危険な関係のブルース」こそが最大のヒット曲だと思います。しかし、あまりライブ音源が残されていないのは、何故でせう?

この名曲は作者自らのバージョンも含めて、他にも数多の録音が残されていますが、やはり極みつきが、ここでの演奏だと確信しております。

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