■les liaisons dangereuses / Art Blakeey's Jazz Messengers (Fontana)
フランス映画「危険な関係」のサントラ音源として有名な、所謂シネジャズの傑作盤です。
もちろん映画そのものには、ここに収められた演奏が全て使われているわけではなく、フィルムの映像に合わせて、その一部が編集されて聞かれるだけです。つまり楽曲はスタジオで完全演奏されながら、実際のサントラ音源とは異なっているわけですから、ジャズメッセンジャーズの熱演を楽しむには、このアルバムが必須というわけです。
ちなみに個人的な感想ですが、映画そのものは世評ほど名作だとは思えないサイケおやじにしても、このアルバムのシビレる魅力は絶大です。
それともうひとつ、主題曲「危険な関係」に関しての有名なゴタゴタに、デューク・ジョーダンの不遇がジャズの歴史になっています。
それは関連楽曲の作者クレジットが全て Jacques Marray というフランス人名義になっており、実際にテーマ曲を書いたデューク・ジョーダンには印税収入がほとんど入ってこなかったという始末です。
このあたりは、当時の映画制作のシステムでは当たり前というか、映画本篇の音楽担当者や関係者がその権利を丸ごと取得するのが慣例だったようで、デューク・ジョーダンも泣き寝入り……。しかしこの事実がアメリカのジャズ界の知るところとなり、ついに1962年になってチャーリー・パーカーの未亡人であるドリスが自己のレーベル=チャーリー・パーカー・レコードにデューク・ジョーダン名義でこの名曲を吹き込ませ、堂々と本当の作曲者を世に公表しています。
また他にも、このアルバムの演奏の中には、どう聞いてもベニー・ゴルソンが書いたとしか思えない楽曲もあるんですよねぇ。所謂ゴルソンハーモニーっぽいアレンジやメロディが……。
まあ、それはそれとして、録音は1959年7月28&29日のニューヨーク、メンバーはリー・モーガン(tp)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、アート・ブレイキー(ds) というジャズメッセンジャーズ本隊に加え、フランス人サックス奏者のバルネ・ウィラン(ts,ss)、デューク・ジョーダン(p)、それに数名の打楽器奏者が助っ人として彩を添えています。
A-1 No Prpblem (1st version) / 危険な関係のブルース
これが実際はデューク・ジョーダンの書いた、あまりにも琴線に触れまくりというモダンジャズの大名曲で、マイナー調の胸キュンメロディと豪快なハードバップの4ビートが完全融合した熱演になっています。
あぁ、この一緒に口ずさめるメロディのせつない素晴らしさ、ヘヴィで躍動的なジャズのビートの心地良さ♪♪~♪ ここまで親しみ易くて、しかもバカにされていない名曲も稀でしょう。
もちろんアドリブパートの充実も、まさにハードバップが完熟していた証の名演続きで、まずはパネル・ウィランがハードバップ王道のテナーサックスで実にカッコ良く、続くリー・モーガンは猪突猛進! トリッキーで鋭角的なフレーズの冴え、鳴りまくるトランペット響きが痛快至極です。
そして剛直なベースを響かせるジミー・メリット、変幻自在に燃え上がるアート・ブレイキーのドラミングは言わずもがな、歯切れの良いピアノタッチでファンキーなアドリブを演じてくれるボビー・ティモンズが流石の存在感!
あぁ、何度聴いてもシビレがとまりません♪♪~♪
A-2 No Hay Problema / 危険な関係のサンバ
全曲同様のテーマメロディをリズム隊だけでサンバ調に変奏したトラックで、ここでは特にジョン・ロドリゲス、トミー・ロペス、ウィリアム・ロドリゲスという3人の打楽器奏者が参加した、アート・ブレイキーとアフロキューバンボーイズ名義の演奏です。
ボビー・ティモンズの弾みまくったピアノは、なんとなくキャバレーモードではありますが、コンガやボンゴが入ったリズム的な興奮はアート・ブレイキーのルーツ探究っぽいドラミングとグルになった痛快さですし、ここでも野太いジミー・メリットのペースがシンプルな凄味を聞かせてくれます。
A-3 Prelude In Blue / a“L'Esquinadw”
これも聴けば一発、非常に有名なメロディですが、作者のクレジットが???
まあ、そんなこんなは別にして、ここでの演奏はバルネ・ウィラン(ss)、デューク・ジョーダン(p)、ジミー・メリット(b)、アート・ブレイキー(ds) のカルテットが、ジェントルで気分なロンリーの決定版♪♪~♪
とにかくパネル・ウィランの艶やかなソプラノサックスが何時までも忘れられなくなるでしょう。その音色と歌心の素晴らしさ♪♪~♪ 告白すればサイケおやじは、この演奏を聴いてバルネ・ウィランのファンになったのです。
そしてデューク・ジョーダンの、せつない美メロしか出ないアドリブにも完全胸キュン状態♪♪~♪ 本当に泣けてきますよ。
さらにそこからラストテーマへと繋げていくバルネ・ウィランの出だしのフレーズが、もう絶妙としか言えません。これにシビレなかったら、ウソですよねぇ~。
おまけ風に続いていく最後のコーダー部分の余韻も、セックスの後の心地良い疲労のようで、あのエリック・クラプトンの「Layla」で聞かれる後半のパートと双璧じゃないでしょうか。
A-4 Valmontana (1st version)
そしてこれは威勢が良くて、さらにソフトな黒っぽさが素晴らしいという、所謂ゴルソンハーモニー的な隠れ名曲♪♪~♪
テーマアンサンブルは言わずもがな、アドリブに入っていくバルネ・ウィランのフレーズなんか、モロにベニー・ゴルソンを意識しているのがミエミエで、思わずニンマリですよ。
またじっくりとハードバップ魂を発散していくリー・モーガンのバランスの崩れ方が、結果オーライの潔さ♪♪~♪ そうした即興の面白さをがっちりと纏めていくリズム隊の堅実さとグイノリのグルーヴは、やはり全盛期の凄さだと思います。
B-1 Miguel's Party / ミゲルのパーティ
これもベニー・ゴルソンとしか思えない曲調の名演で、ミディアムテンポのグルーヴィな雰囲気の良さ、そしてアドリブの颯爽としたファンキーな連なりが、たまりません。
閃きに満ちたリー・モーガン、幾何学的なフレーズを繰り出しながらハードバップを追求するバルネ・ウィラン、多彩な技で煽るアート・ブレイキーのドラミングも素晴らしく、ゴスペルムードを抑えつつ、しぶといピアノを聞かせてくれるボビー・ティモンズが、至極真っ当な黒人ジャズを聞かせてくれます。
B-2 Prelude In Blue / Chez Miguel
これはA面同曲のアップテンポバージョンで、演じているのはバルネ・ウィラン入りのジャズメッセンジャーズですから、グイノリのハードバップが「お約束」です。
ただしA面のバージョンが素晴らしすぎるというか、個人的にはそちらに夢中ですから、これも名演ながら印象はイマイチという勿体無さ……。
それでもリー・モーガンの強烈な自己主張には圧倒されると思います。
B-3 No Prpblem (2nd version)
これもド頭「危険な関係のブルース」の別バージョンですが、ここではテーマメロディの前に強烈にアフロなリフが付けられ、さらにアフリカ土着のビートが隠し味というアンサンブルが凄すぎます!
もちろん、痛烈にテンポアップした演奏は凄味さえ感じるほどに充実し、リー・モーガンの直線的なツッコミ、バルネ・ウィランの硬質なアドリブライン、そして容赦無いリズム隊の煽りには震えがくるほどです。
ボビー・ティモンズのピアノからアート・ブレイキーを要にしたソロチェンジのスリルも最高ですから、思わず興奮のイェ~ェェェェェ~!
B-4 Weehawlen Mad Pad
これは即興的なパートで、リー・モーガンのアドリブを主体としたミディアムテンポの演奏ながら、やはり全盛期の勢いが完全に表出した名演だと思います。
つれを受け継いだバルネ・ウィランの歌心もニクイばかりですから、フェードアウトしてしまうのが全く勿体ないかぎり……。
B-5 Valmontana (2nd version)
そしてオーラスは、これもA面に収録されている同曲の別バージョンで、ますますゴルソンハーモニー色が鮮明になっているテーマ合奏からして、もうシビレまくりです。
アート・ブレイキーのドラミングも冴えわたりのジャズビートは本当に魅力が満点ですし、リラックスして躍動的な各人のアドリブも大充実! バルネ・ウィランもリー・モーガンも、またボビー・ティモンズも本当に幸せだった時代が認識されると思います。
ということで、やはりこれは人気盤にして侮れない作品だと思います。
特にジャズメッセンジャーズはベニー・ゴルソンが退団し、ウェイン・ショーターが加入する端境期の姿ではありますが、やはり全盛時代の勢いは不滅ですし、ゲスト参加のバルネ・ウィランにしても、デクスター・ゴードンやハンク・モブレーの味わいを自分流に再構築したスタイルで熱演を披露しています。そして既に述べたように、「Prelude In Blue」で聞かれるソプラノサックスの素晴らしい魅力は、本当に聴かずに死ねるかですよねぇ♪♪~♪ ジョン・コルトレーンとは全く異なる、そのジェントルな響きと歌心に満ちた味わいは、この時期にもっとソプラノサックスの演奏を残して欲しかった……、と悔やまれるほどです。
ちなみに気になる映画の場面では、バルネ・ウィランやデューク・ジョーダン、そしてなんとケニー・ドーハムが演奏シーンで出演し、ここでの音源に合わせた「当て振り」を演じていますが、実にカッコイイ♪♪~♪
そして演奏そのものは不滅の素晴らしさとくれば、やっぱりハードバップって、本当に良いですねぇ~~~♪
アート・ブレイキーでは「Moanin'」や「Blues March」、そして「A Night In Tunisia」も確かな人気曲でしょうが、実は「危険な関係のブルース」こそが最大のヒット曲だと思います。しかし、あまりライブ音源が残されていないのは、何故でせう?
この名曲は作者自らのバージョンも含めて、他にも数多の録音が残されていますが、やはり極みつきが、ここでの演奏だと確信しております。