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日めくり万葉集(28)

2008年02月15日 | 万葉集
日めくり万葉集〈28〉は、「貧窮問答歌」ですっかりファンになってしまった山上憶良〈やまのうえのおくら〉の歌。選者は日本の天文学界をリードしてきた海部宣男(かいふのりお)さん。

【歌】
白玉(しらたま)の我(あ)が子(こ)古日(ふるひ)は
明星(あかぼし)の明(あ)くる朝(あした)は
しきたへの床(とこ)の辺(へ)去(さ)らず
立(た)てれども居(を)れども
共に戯(たはぶ)れ
夕星(ゆふつづ)の夕(ゆふへ)になれば
いざ寝(ね)よと手(て)を携(たづさ)はり
父母(ちちはは)もうへはなさがり
さきくさの中(なか)にを寝(ね)むと
愛(うつく)しくしが語(かた)らへば   〈抜粋)

巻5・904   作者は山上憶良(やまのうえのおくら)

【訳】
白玉のようなわが子、古日ふるひは
明けの明星(みょうじょう)が輝く朝になれば
床のあたりを離れず
立っても座っても共にたわむれ
宵(よい)の明星〈みょうじょう〉が輝く夕べになれば
さあ一緒に寝ようと手をとって
お父さんもお母さんもそばを離れないでね
僕は真ん中で寝るんだよ
と可愛くいう。

【選者の言葉】
万葉集の中に星や空、宇宙を詠んだものがあるかと、ずっと調べていたら見つかったが、この歌はそれをはるかに超えて悲しいけど素晴らしい歌。明けの明星が輝く朝は寝床から去らない。立ったり座ったりしてたわむれる。夕ずつの同じ金星が光ると夕方になるが、それが光るころには父母の手を取って、手を離さない。

幼い子どもを亡くした嘆きの歌。読むたびに涙が出てしまう。子供のかわいさとそれを失った悲しさ。最初に出てくる子供のかわいさが圧倒的なので、その後の悲しさが強く伝わってくる。(おわり)

【檀さんの語り】
山上憶良の晩年に詠んだ歌。前半の仲むつまじい歌の光景が後半は一変する。突然、無情の風が吹いてきて子どもの命を奪おうとする。両親は天を仰ぎ、地にひれ伏して神に祈るが、甲斐はない。

【後半の訳】
わたしはひたすら祈ったけれども、すこしの間もよくはならずに
だんだんと姿はやつれ、朝ごとにものも言わなくなり、命は絶えてしまった。
わたしは飛び上がり、地団太を踏み、地に伏し、天を仰ぎ、胸を叩いて嘆いた。
ああ、わたしの手の中の愛しい子どもを死なせてしまった。これが世の無情というものか。

(かなりまとまった内容を詠おうとすると、短文では正確には表現しきれず、やはり長いものになるのではないか。憶良の場合はそれが社会性を帯びているのでなおさらだ。

その対象から距離を置いて、もう少し大きな視野で物事を見つめ、何かを訴えているという感じがする。前半と後半を劇的な構成にし、それがこの歌の世界を広げ、強烈な印象にしているという、素晴らしいところだ。

あまりにも劇的な歌なので、ゲーテの詩によるシューベルトの歌曲【魔王】が、イメージとなって聞こえてきた。)

【調べもの】
○山上憶良(やまのうえのおくら)
奈良時代初期の歌人。下級貴族の出身で、百済系帰化人説もある(というのは興味深い!)。702年、第七次遣唐使船に同行し、唐に渡り、儒教や仏教など、最新の学問を研鑽した。死や貧、病といったものなど、社会的弱者を観察した歌を多数詠む。当時としては異色の社会派歌人。

○古日(ふるひ)
この歌に登場する子どもの名前。

○明星(みょうじょう)
金星の異称。

○しきたへ〈敷栲・敷妙)
寝床として敷く栲(たへ)で作った布、敷布団。

○栲(たえ)
カジノキなどの繊維で織った布。

○さきくさ〈三枝)
〈幸草さきくさの意)
①茎の三枝に分かれている草。吉兆の草といい、ミツマタ・ヤマユリの説がある。さいぐさ。
②ヒノキの異称。















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