3月22日(日):
「本の本 斎藤美奈子書評集1994-2007」は、最近、図書館に行くと知らぬ間に手にしてその場で読み始めるのを繰り返してきた本である。興味に任せてパラパラと読む記事はどれも達人の職人技を思わせるものであり、何よりも著者の
根っからの反骨精神が貫かれているのが小気味よい。時に、俺の読みの甘さを思い知らされ不愉快になることも含めて、「著者ならどう言うだろう?」と気になって手にしてしまう本だった。
とは言え、「欲しいな…」とは思っても、3024円(=本体2800円+税)もする738ページの辞書のような単行本を買おうという気にはなれなかった。それが数日前、著者の東京新聞「本音のコラム」にハマってしまい、著者の過去のコラムを渉猟・収集するうちに勢いでアマゾンに注文してしまったのだ。届いた本は、とてもきれいな状態だが古本なので731(474+257)円である。
パラパラめくり読みしながら、思わず口元がゆるんでくるのがわかる。取り上げている作品や作家は巻末の索引よりもはるかに多い。本書の対象年が1997年から2007年というのも良い。俺がよく利用するブックオフ108円均一の本の中心層の年代である。
既に読んだ本の書評を読む、これから読むべき本を探す、単純に斎藤美奈子節を楽しむ、どれでもいける。大満足である。
斎藤美奈子は、
米原万里師匠と一面識もないままに著作のやり取りをする関係(それがまた良いのだ!)で、本書では米原万里著「打ちのめされるほどすごい本」を紹介している。その中で、米原師匠が「一日に七冊の本を読むのを20年間続けている」のを知り刮目(目をこすってよく見ること)し、1956年生まれの斎藤美奈子は、1950年生まれの米原万里より6歳下であるが、それ以上に「そもそもの教養がこちらは遠く及ばない」と認めている。一方、手元の米原万里「打ちのめされるようなすごい本」の書中では、斎藤美奈子は異例の6か所に登場し、その取り上げられ方も皆十分にページを取ったものである。最後には、斎藤の「読者は踊る」について「私の下手な推薦文に惑わされずに、とにかく読んでみて! 読みなさい! 読むんだ! 読め! 読んで下さい!(436ページ)」と米原が一面識もない斎藤のために頭を下げている。これは尋常ではない。まさに絶賛と言ってよいだろう。
もう一つ、斎藤美奈子と米原万里の共通点は、
池澤夏樹に対する高い評価である。本書と米原の著作をぱらぱら眺めていて嬉しくなってくる。また、斎藤は、本書で
斎藤貴男(紛らわしい…)や
森達也に対しても正当な評価をしている。
斎藤美奈子との出会いは俺にとって何か強い味方、師事すべき存在を発見した喜びである。
既に、本書に付けた付箋が増えてきているが、今後もっとハリネズミのようになるだろう。そうなった段階で、一気に速読しようかなと考えている。いずれにせよ、長い付き合いになる、長く付き合っていたい精神である。
紹介文:『妊娠小説』でデビューしてから14年間、膨大な本の山と格闘し各紙誌で書きまくった膨大な書評の集大成。扱った本は約700冊、扱った著者は約650人。ジャンルは小説、エッセイ、文芸評論、日本語論、読書案内、社会評論、歴史、文化、趣味と多岐にわたり、90年代半ばからゼロ年代までの日本の読書界が一望のもとに見渡せる。ここまで読めたら、すごい。ここまで言えたら、面白い。読書の醍醐味を、あらためて思い知らされる渾身の一冊。内容別の目次と書名・著者名索引も充実。どこからでも読める特別編集。
目次:
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小説と随筆の本:少年少女の日々/青春と恋愛と/オンナの生き方/オトコたるもの/家族の姿/彼女の闘い/その謎を追って/長編小説の醍醐味/古典&近代文学異聞/古めの文学を読んでみよう/文学のこころみ/話題作・受賞作/小説の傾向と対策/現代文学入門
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