4 052 「エリック・ホッファー自伝 構想された真実（中本義彦 訳：2002）」（作品社：1983） 感想３＋

3月3日(火)：

190ページ　　所要時間 4:00　　　図書館

著者80歳(1902～1983：80歳)。アメリカの社会哲学者・港湾労働者。

　エリック・ホッファーの名前は、俺の好きな脚本家・作家の山田太一のエッセイに頻りに引用されていたので随分昔から知っていたし、是非読みたいと思ってきたが、ホッファーの本は何故か文庫化せず、高価な単行本ばかりなので、結局どうしても縁を持てないままでいた。本書が初めて読むホッファーの本である。よく覚えてないが、断片的に目にしてきた警句は気が利いていて魅力的だったので、今回随分期待して読み始めた。

　残念ながら、期待は大きく裏切られた。本書は、著者の亡くなった年に出された遺作であるが、生まれたときから、カリフォルニアに移住し、放浪の生活を送った後、サンフランシスコの港湾労働者として落ち着くまでの前半生が淡々と語っている。内容は、波乱万丈の人生なのだし、必ずコメントが付されてるのだが、正直俺の心に全く響かなかった。

　あまりにピンと来ないので、俺自身の精神状態が悪化してるのか心配になったほどである。本書(翻訳者か？)とは波長が合わなかったということか。楽しみにしていただけに、かなり不幸な出会いだった。でも、他の著作を読んでみたいと思う。

　俺の精神状態が悪いのは、頭の悪い若者が何の疑いも持たず(持てず)に俺の耳元で「君が代」を挑むように声に出して歌うのに出くわしたのが胸糞悪くて、長く気分を害されてしまった後遺症かもしれない。全くもって歴史の欠片も知らない無知な馬鹿者が今の社会には蔓延っている。正しい知識と良識を持っている人間ほど息苦しく窮屈になるこの国の病的状況は深刻だ。上から「馬鹿になれ、愚かになれ、無知になれ、そうすれば楽になれるぞ」という圧力を受けている感じだ。そして、実際「君が代」の意味も十分にわからない若き馬鹿者たちが社会人となり、責任ある立場になっていく。いくら若くても大人では手遅れだ。そんな奴らと一緒にやっていかなければならない時代になったのだ。悪夢だ！

目次：
失明、母、そして父の死／子ども部屋から貧民街へ／オレンジ売り／運命の極点／構想された真実／休暇の終わり／自殺未遂／希望ではなく勇気／サンディエゴへの途上で／適応しえぬ者たち／季節労働者キャンプ／飼い主と犬の関係／プルーン園にて／柑橘類研究所／モンテーニュの『エセー』／怠け者ジョニーの話／バークレーでの出会い／ヘレンとの日々／アンスレーのこと／ストックトンからトレイシーへ／羊飼いアブナーの末路／農場主クンゼの遺書／歴史について／芸術家／波止場へ／幸福の瞬間／許すということ
インタビュー：72歳のエリックホッファー　　シーラ・Ｋ・ジョンソン　／訳者あとがき

・ホッファーは、1902年7月25日、ニューヨークのブロンクスで貧しいドイツ系移民の子として生まれた。5歳のとき、母親に抱かれたまま、階段から転落。母親は2年後に亡くなり、彼は視力を失った。15歳のとき突然視力は回復したものの、その3年後には父親が死去。身内のいなくなったホッファーは、「暖かくても野宿もでき、道端にオレンジがなっていて食うにも困らない」南カリフォルニアへ渡った。／その後10年間、ロサンゼルスの貧民街に住んで、様々な労働に従事するかたわら公立図書館を利用して読書に没頭。しかし、28歳のときに、「今年の終りに死のうが、10年後に死のうが、一体何が違うというのか」という感覚に襲われて、自殺を図る。幸か不幸か自殺は未遂に終わり、ホッファーは、『曲がりくねった終わりのない道としての人生」を送ることを決意。その後の10年間を、季節労働者としてカリフォルニアを「徘徊する」ことになる。／1941年にアメリカが第二次世界大戦に参戦したのを機に、「国のために役立ちたい」と考えてサンフランシスコへ向かう。そこに定住して、65歳になるまで25年間、沖仲士として働いた。落ち着いた生活は、彼にそれまで蓄積した読書や体験を反芻する機会を与え、1948年には、最初の著書『確信者』（邦題は『大衆運動』）の草稿を完成。3年後、雑誌に投稿して以来の知り合いだった編集者の助けを借りて、ついに著書は刊行された。『確信者』は、大衆運動の精神的本質を抉り出した独創的な研究として、アーサー・シュレジンジャー、バートランド・ラッセル、ドワイト・アイゼンハワー大統領など各方面から激賞された。その後、著作活動に入る。この間、1964年から72年までカリフォルニア大学バークレー校で政治学を講じる。常に社会の最低辺に身を置き、働きながら読書と思索を続け独自の思想を築き上げた＜沖仲士の哲学者＞として知られている。ホッファーは1983年5月20日、80歳で生涯を閉じるまで次々と名著を残した。(178～179ページの訳者による略歴を少しアレンジ)

アマゾンの商品説明：
「生きる」ことに真摯であるということは、これほどまで波乱に満ちた人生を送るということなのか。本書は、数奇な運命をたどりつつ独自の思想を築きあげた哲学者エリック・ホッファーの自伝である。
7歳で失明、15歳で突然視力を回復。18歳の時に天涯孤独となり、28歳で自殺未遂。「私は死ななかった。だがその日曜日、労働者は死に、放浪者が誕生したのである」という彼は、10年に及ぶ放浪生活へ踏み出し、数々の出会いと別れを選び取りながら、劇的な生涯を送ることになる。
トマトの収穫、ホップ摘み、砂金発掘などの季節労働。そのかたわらで、化学、数学、鉱物学などあらゆる学問にまい進し、読書と思索を重ねていく日々。そんなある日、彼は町のレストランで大学教授と出会い、これを機にドイツ語翻訳や研究の手助けなどのアルバイトをはじめる。あまりに研究熱心な彼に、教授は研究所での職を用意してくれるのだが、「本能的にまだ落ち着くべきときではないと感じた」彼は、ふらりと季節労働者の生活へ戻ってしまうのだ。
「慣れ親しむことは、生の刃先を鈍らせる。おそらくこの世界において永遠のよそ者であること、他の惑星からの訪問者であることが芸術家の証なのであろう」。自己と徹底的に対峙し、自己欺瞞と戦いつづけたエリック・ホッファー。まず学ぶべきなのは「学問」そのものではなく、彼が貫いた学問への、そして、人生への「姿勢」かもしれない。