その日暮らし

田舎に暮らすこの虫は「カネ、カネ、カネ」と鳴くという。

雲と自由が棲むという里で百姓に成りきれるかな?

酒聖…小よく大を制する

2020-10-26 07:23:15 | 転職

令和元年仕込み…社長の渾身の作品をいただく

人の生は儚いものであります。若い頃から公私ともにお世話になり、アイディアと弁舌(酒の出来は上等であるという裏打ち付きでありますよ^^;)で難局を切り拓いてきた小さな酒蔵の社長が亡くなり、今日荼毘に付され告別式である。今時の世相から、葬儀と一般会葬は別々に行われ、ご焼香をするだけのお別れとなりました。
先代社長の代から、祖父が若い頃働いていたと聞かされ、親父は子どもの頃叱られて酒樽にオシッコをかけたという逸話も残る我が家であるが、私も子どもの頃は仕込み用の水(井戸水)を恐らく浄化していたであろう「砂場」で遊ばせていただいた。いつしか酒を飲める年齢となり、関東流の「辛口」が美味しいと教え込まれたために、地酒である「辨天」は、湯飲み茶碗にベタツキが残るほどの「甘口」であり、とても飲めた代物ではないと敬遠していたのだけれど、いつの間にか「辛口」の酒が「枯れた」というよりは、風味の無いのっぺりとした酒に感じられるようになり、「甘口」に飼い慣らされてしまいましたよ^^;
「甘口の酒は、発酵の進みを敢えて途中で止め、米本来の風味を残した酒である。」という彼の弁に、まんまとハマってしまったようであります。「大吟醸なんて酒は毎日飲むべき酒ではない。レギュラー酒を地元で愛していただくことが我が社の生命線である。」折からの吟醸酒ブームで何度も試作中の酒を飲ませていただきましたけれど、その度に金賞を受賞しているから実力も兼ね備えている。(仕込むのは「杜氏」ですけろどね^^;)様々な含蓄のある言葉をいただいたような気がします。


毎日々々コツコツと、大きな株に仕立ててます。

社長との思い出のひとつは「山形新幹線停車運動」でした。無人駅である地元「高畠駅」に山形新幹線が停車するかどうか…「社運」というよりは「町運」をかけた勝負に上下8本の停車が決まったとき、手作りのラベルをレギュラー酒「辨天」に貼り付けて共に祝ってくれました。開業初日の2番列車に一斗の酒を持ち込んで、商工会青年部の代表と振る舞い酒をしたことが忘れられない。「夢屋くん!俺のところの酒で良いんだが?」…町を代表する酒はその他にもあり、彼は一歩下がろうとしたのでありますが、「小よく大を制する。大が名声の上にあぐらをかいている内に、小はアイディアで勝負しましょう。」なんて真っ向勝負を挑んだために、後から大に睨まれた^^;(睨まれたのは、別件のアポ電の相手の名を確認するのを忘れた私のミスによるものなのだけれど…。)
全国的に名を馳せている酒造会社は、ひとつの街が出来上がるほどの規模で日本酒を世に出している。神戸で観たその光景に田舎者の私は度肝を抜かれました。(酒造会社って、こんなにデカいのかい!)地元では旦那衆(ダンナシ…お金持ち、資産家の意。)ではあるが、全国的に見れば小さな小さな酒蔵(さかぐら)である。ひと昔前ならば、家格の違いから、私などお付き合いさせていただく身分ではないのだろうけれど、社長は地元の若者たちに気さくに接してくれましたよ。我が家の『柴犬コウ(本名:さくら)』も可愛がっていただいて、今朝の散歩の途中、雰囲気を感じたのであろうか出棺の車を見送ったという…社長のご冥福をお祈りし、今夜は「香典返し」でいただいた「山田錦35%精白 特上大吟醸原酒 辨天」を酒聖 若山牧水の気分でいただくことにいたします。(合掌)

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