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映画 マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

2012-03-20 12:12:57 | 政治
動画は,首相に選ばれて,首相官邸に入るサッチャーです。

対立あるところ調和を,絶望あるところに希望を・・・。

練りに練った,ステートメントを出していますな。

立派なステートメントに政治信条のすべてをかける政治家,
アホな質問をしない記者達

うらやましい。

Margaret Thatcher Arrives At Downing Street (1979)


映画ネタか続いて恐縮ながら,

マーガレットサッチャーを題材にした映画だったんで,ちょいと観て来ました。
メリルストリープが主演、と聞いて,ちょっと女性としての見た目のタイプが違いすぎてうまく行かないんじゃないか,と思ってましたが,

ナントナント,サッチャーそのものになりきってました。ポスターなんかの静止した絵を見せられると,なんでこれがサッチャーやねん,て感じでしたが,スクリーンで見る彼女は,そのしゃべり方,目線,姿勢,歩き方,メイク,ははん,こりゃサッチャーですわ。一流女優の実力がどんだけのもんか,が実感できます。

冒頭,老いてボケてしまったサッチャーが,近所の商店でミルクを買うシーンから始まるんですが,誰も彼女が,かつての偉大な首相であったことに気づくこともなく,必死で彼女は商店でのあわただしさに戸惑いながらレジでお金を払います。

英国を作り変えた,あるいは世界をと言っても良いかも知れませんが,この偉大な政治家も所詮は一人の女性であって、今や何者でもないただの人なんだ,という視点設定から始まるんですね。

この映画は,老いたサッチャーが過去を振り返る,あるいは過去の幻覚を見るという形式で進められてゆくんですが,サッチャーの偉大さにはほとんど関心を払われていませんな。ぎりぎりの決断で危機を切り抜けたり,決定的な大演説,思い切りの良い,大向うを唸らせるようなエピソードはほとんど出てこない。あくまでも,彼女の生活,人生,つまり,結婚や子供,テロに襲われて死にかけたことや,勝利,裏切り,国民の反発なんかに対する彼女の反応いう目線で展開されてゆくだけ,なんですな。彼女が成し遂げたことよりは,彼女が感じたこと,男社会,階級社会に,商店主の娘が女一人で乗り込んで行くことの困難さみたいなことに,重点が置かれる,みたいな。

死んだご主人が,幻覚に出てきて,サッチャーと掛け合いながら,シーンが展開してゆきますが,そうした演出でファンタジーっぽかったり,舞台劇っぽくもあり,歌のないミュージカルっぽかったりという印象の作品になってしまって,

サッチャー,という名前でやってきた観客にとっては,かなり期待はずれに仕上がってます。サッチャーの鮮やかな判断,政治的業績といったドラマチックな要素を極力廃して,人間サッチャーに絞って描いているわけで,

メランコリアと同じですね。日常の関係性をぶち壊しておいて,もう何も残っていない。弧絶した環境で外部のパニックとも無縁な状況に舞台を設定して,登場人物達に終末を迎えさせる。そうすることで,内面が浮かびあがり,凡庸さと超然さを対比させながら,本質を浮かび上がらせる,

知的なチャレンジであり,映画的にも腕を振るう余地が大きいわけで,クロート的にはわくわくするようなハナシなんでしょうが,

まあ,そんな観てて面白いわけがない。

毎日,仕事で疲れてて,いい加減ヤになってるのに,こんなん見せられましたって感じかもですが,

田中角栄の,晩年をこんな感じて映画にしたら,結構面白いし,こういう演出でも問題ないと思いますね。

角さんのエピソードは多かれ少なかれ,皆知ってるし,そういう角さんの人生を,脳溢血でボケたしまった角さんが振り返る,みたいなハナシは絶対面白い。

この映画も,英米人にとっては,そんな感じで受け止めれるんでしょうな。まだまだサッチャーは生々しく,十分強烈な存在で,改めてその凄みを映画で見せられるより,人間的な側面を観るほうが、ああ,あの強い女もこんなんなのか,と新鮮だったりして。


この映画は,もともとサッチャーのスゴサを十分に分かってて,改めて説明いらんという人むけであり,も少し違ったサッチャーを知りたい人向けなんですね。

メリルストリープの演技はスゴいし,映画としての水準も高いものがありますが,
テーマや演出は,メジャーな映画館にかかるようなヤツではなくて,渋谷のはずれにあるような映画でやるような種類です。これからご覧になる人は,そう覚悟して行ったほうが良いかも。


これ読んでから,行ったらずっと面白いかもです。

サッチャー回顧録―ダウニング街の日々〈上〉
クリエーター情報なし
日本経済新聞社


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