盛口 満/岩波ジュニア新書
これは元生物部の私の心を揺さぶる本だ。私は若い頃、一度だけ沖縄に行ったことがあるが、ハブが怖くて草むらに一切近づかなかったのが残念だな。こんなふうに案内してくださる先生がいらっしゃれば安心して森の中も草むらも入って行けるのに。
本土とはまるで違う生態系。大きく琉球列島と総称される島々のなかで、沖縄県に属する島だけをみても、沖縄本島と宮古島、石垣島、西表島では生き物が違うのである。また大陸とくっついたり離れたりした島もあれば、一度もくっついてない島もある。海から流れてくるものもある。地道に森の中の生き物や、海岸への漂着物を調べる活動・・・実際にこの人に着いて行ったら、普通の人は音を上げるかもしれないね。
沖縄にはほとんどドングリがない・・という話からしてツカミOKだ。どんぐりはブナ科の植物に出来るが、沖縄は石灰岩地で、ブナ科は石灰岩地を好まない空なんだそうだ。
カンボジアの遺跡でよく見たガジュマルの木は沖縄にもよく生えていて、妖怪キジムナーのすむ木としても知られるそうだ。沖縄の昔の人はガジュマルの葉っぱをちぎって出てくる白い汁を葉っぱの上に塗っては乾かし塗っては乾かしして固まりを作り、ガムの代用品として噛んでいたとか。実もおやつとして食べたという。実はその実には受粉を助ける虫(小さなハチの仲間)が何匹もいて、でも子供たちはお構いなしに食べていたんだね。カンボジアではガジュマルは何も使えない木だと言っていたけれど、沖縄ではそんな楽しみ方をしていたんだね。
いろんな種類のカタツムリやホタルもわんさかいるそうだ。沖縄には人工ビーチが結構あるらしいが、落ちている貝殻を見れば人工ビーチかどうかわかるそうだ。ビーチの砂は沖縄の海の底の方からポンプで組み上げていることが多く、そういうところに住んでいる貝が痕跡としてビーチに残っているんだね。
ビーチには漂着物もくる。魚の目玉の骨なんてのもある。我々の目には骨はないけれど、魚や鳥とかには目の中に骨があるんだそうだ。また沖縄の海にはジュゴンもいて、人魚伝説がたくさん残っているそうだ。ただ明治に琉球が日本に併合されてから乱獲でほぼ絶滅状態になってしまった。
サンゴの中には渇虫藻が住んでいて、渇虫藻が光合成をして作った栄養をサンゴはもらって生きているが、その渇虫藻は透明な海でないと生きられない。海が汚れて光が届かないと渇虫藻は光合成ができないので、サンゴから出て行ってしまう。その状態がサンゴの白化であり、その状態が続くとサンゴは死んでしまうという。
そういう貴重な生物資源も、外来種に脅かされている。ハブ退治のために導入されたマングースはもちろんイタチや孔雀なども。実は同じ沖縄でも生物が島と島を移動すると、それぞれの固有の生態系が崩れるから外来種になってしまうのだ。バラエティに富んだ生態系もそれだけ繊細なものなんだね。
ゲッチョ先生は文章だけでなく絵も上手。詳細なイラストがたくさん載っていて、見やすくて勉強になる。