ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「シラノ・ド・ベルジュラック」

2022-03-05 11:17:15 | 芝居
2月16日東京芸術劇場プレイハウスで、エドモン・ロスタン作「シラノ・ド・ベルジュラック」を見た(脚色:マーティン・クリンプ、演出:谷賢一)。



17世紀フランスに実在した、詩人にして剣豪であるシラノを主人公にしたエドモン・ロスタンの戯曲。
シラノは鼻が異常に大きいことがコンプレックス。
従妹ロクサーヌに想いを寄せているが、そのために、どうしても気持ちを伝えることができない。
そんな彼にロクサーヌが、二人きりで話がしたい、打ち明けたいことがある、と言い出すので、彼はつい期待してしまう。
だが彼女は、彼の部隊に新しく入った青年クリスチャンに一目ぼれしてしまい、シラノに対してクリスチャンを守ってほしい、と頼むのだった。
クリスチャンもロクサーヌに惹かれるが、彼女は文学を愛する女性で、恋の相手にも美しい言葉で求愛することを要求する。
ところがクリスチャンは女性相手にうまく話すのが苦手。まるで言葉が出て来ず、呆れられ、嫌われそうになり、絶望する。
そこでシラノが一計を案じる。彼は詩人であり、言葉を操ることにかけては誰にも負けない自信があるのだ。
シラノが台本を書き、クリスチャンに覚えさせ、話させると、ぎこちないが、何とかうまく行き、ロクサーヌも満足する。
だが戦争が起こり、二人共戦場へ。シラノはそこでも毎日ロクサーヌに手紙を書き続け、危険をも顧みず戦場を通って届け続ける。
ロクサーヌは手紙の主(だと誤解している)クリスチャンへの思いが高まり、戦場へ赴き、今ではあなたの見た目を愛しているのではなく、あの手紙に
書かれたあなたの心を愛しているのだ、と告げる。クリスチャンはそれを聞いてショックを受け、絶望し、シラノに、本当のことを彼女に告げるべきだ、と言う。
だがシラノがそれを言えないでいるうちに、クリスチャンは敵の砲弾に当たって・・・。

冒頭、人物紹介をラップで少々。シラノとロクサーヌなど。
舞台は階段状になっていて客席を向いている。
劇中劇の「ハムレット」で、主演の人気俳優がシラノから見ると下手くそなので、シラノが剣を抜き、相手も抜いて切り合いになる場面で、二人共剣を持っていない。
いわゆる「エア」。シラノが相手を倒し、劇場支配人が怒り出すと、彼は大金を払って弁償するが、これもエア、と言うか、払うふりやもらうふりといった動作すらない。
なぜこんなことをするのか不明。奇をてらっているとしか思えない。
評者は剣も見たいし、金を渡すシーンも見たい。この芝居を初めて見る観客の方々にとっても、その方がはるかに親切だろう。

新入りのクリスチャンが、部隊の男たちから忠告されているにもかかわらず、わざと「ハナ」という音を強調してシラノに話しかける。
みんなあわてて止めようとするが、次々にハナという語を使って話しかける。この青年、見かけによらず頭の回転が早いらしい。度胸もある。
ところがシラノは、クリスチャンのことをよろしくとロクサーヌに頼まれているので、全然気にしないそぶり。みなびっくり。
だが、この面白い場面で、クリスチャン役の人の言い方が、「ハナ」という語を独立させて発音するので、かえってセリフの意味がわかりにくい。
ここは普通に発音した方がいい。これは演出家への注文です。

ロクサーヌとレジが勇敢にも馬車で戦場に乗りつける場面でも、彼女らが持参する、食料のいっぱい詰まったバスケットがない。
飢えた兵士たちが喜んで飲み食いする場面も、すべてエア!と言うか、その動作すらない。この辺で不満がつのってくる。

驚いたのは、邪悪なド・ギーシュが「みなに悪いことをした」と反省すること!なぜこの男が反省する?原作ではもちろんこんなシーンはない。

クリスチャンは絶望して前線に立ち、敵の砲弾に倒れる。だが舞台ではいつまでも立ったまま。なぜ倒れない???早く倒れてくれ!
彼が倒れるシーンを目の当たりにすることで、我々観客は、ただイケメンなだけでなく一途で心根の美しかった彼の不運に涙することができるのだが。

こんな風に書き連ねてゆくとキリがない。とにかく、今回の脚色と演出には失望を通り越して啞然、呆然、開いた口が塞がらない。
後半では、さらにおぞましいものを見聞きしてしまった。
おそらく原作を知らないであろう若い女性客たちはスタンディングオベーションだったが、これが「シラノ」だと思われては困る。
途中で帰った方がよかったかも。
かつてシェイクスピアの「十二夜」の上演で、あまりの改悪に、怒り心頭で休憩中に席を蹴って帰ったことがあった。
今回も、原作の素晴らしいセリフをごっそり削って、凡庸な言葉をたっぷり聴かされてしまった。
脚色のマーティン・クリンプという人は1956年生まれの由。
想像するに、中年の彼は、原作のままでは若い人に受けない(理解できない?)だろうと思って、こんな改悪をあえてしたのだろう。
だが、若い人を侮っているのではないだろうか。
さらに言えば、文学の、言葉の持つ普遍的な力を信じていないのではなかろうか。
これがローレンス・オリヴィエ賞の最優秀リバイバル賞を受賞したというのだから驚きだが、その賞も大したことないんだな、とわかった。

ただシラノ役の古川雄大はうまい。この人を知ることができたことだけが今回の収穫。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「二番街の囚人」 | トップ | ヘンデル作曲のオペラ「ジュ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

芝居」カテゴリの最新記事