ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ヘンリー五世」

2018-07-12 16:12:25 | 芝居
5月29日新国立劇場中劇場で、シェイクスピア作「ヘンリー五世」を見た(演出:鵜山仁、翻訳:小田島雄志)。

父ヘンリー四世の死により即位したばかりのヘンリー五世の宮廷に、フランスの使節が訪れる。先ごろヘンリーの曽祖父エドワード三世の
権利に基づき要求した公爵領への返事を、フランス皇太子が遣わしたのだ。そこにはヘンリーの要求への拒否だけでなく、贈呈として
宝箱が添えられていた。中身は、一杯に詰められたテニスボール。それは若き日のヘンリーの放埒に対する皮肉と侮蔑だった。
それを見たヘンリーは、ただちにフランスへの進軍を開始する。
「ヘンリー四世」で、放蕩息子から比類なき王へと目覚めたハル王子(浦井健治)は、ヘンリー五世となった今、かねてよりの懸案
であったフランス遠征へと乗り出す。

日本では滅多に上演されない歴史劇だが、英国ではナショナリズム高揚の内容もあって愛されてきたらしい。
他の歴史劇より地味ではあるが、フランスの王女キャサリン(カトリーヌ?)が侍女に英語を習うシーンとか、フランス兵とイギリス兵との
噛み合わない会話とか、面白いシーンが結構ある。

床が四角く切られているところに格子がはまっていて、3人の謀反人は、そこに落とされる。
イギリス軍の兵士たちは白に赤の服(旗と同じ色)。
フランス軍側は青に金の飾り。
当時、テニスボールは白でなく、濃緑色のようなくすんだ色だったらしい。

当初フランス側の皇太子はじめ貴族たちは、イギリス軍を見くびり、のんびり互いに自分の馬の自慢話をしたりしている。
イギリス側はと言うと、無理やり駆り出された庶民は厭戦気分、貴族たちも圧倒的な兵力の差に、絶望的。ところが、それが覆る。

ウェールズ出身の騎士フルーエリン役の横田栄司の演技が楽しい。
小田島雄志はアイルランド出身の兵士に東北弁を、スコットランド出身の兵士に薩摩弁を、そしてウエールズ出身の彼にはどこ弁だか分からない
が、サ行がシャシュショになるような訛り(佐賀弁か?)を話させるという風に、訳し分けているのが効果的で、客席も大いに沸く。
ピストル役の岡本健一は、「ヘンリー四世」の時に引き続いてこの役。今ではあの居酒屋の女将で元クイックリー夫人のネル(那須佐代子)と
結婚しているが、この戦いでフランスへ出征。
所々アドリブを入れたり補足したり、もちろんカットもある。
後半は戦いの背景に、小さな音量で宗教(教会)音楽風の曲が流れる。
今回、音楽は幸い芝居の邪魔をしていなかった。
何しろイギリス人たちがフランスに攻め込む話なので、フランス語もたくさん出てくる。
ピストルが戦場でフランス兵と戦って勝ち、身代金を取ろうとするシーンでは、英語とフランス語の噛み合わない会話が続くが、らちが開かず、
小姓に通訳を頼んで、ようやく談判成立(この小姓というのは亡きフォールスタッフの小姓だった少年)。
戦いに勝利した王はフランスの王女(中嶋朋子)に求婚しようとするが、王女もやはり英語がほとんど分からない。そこで仕方なくフランス語で
話そうとして四苦八苦する。この二人の会話がおかしい。
ラスト、フランスの侍女役と王妃役と王女役の3人が、締めのセリフを分担する。
主役の浦井健治君はいつもながら爽やかな好青年だが、王の膨大なセリフの中には、ここぞという肝心な部分がある。他のところはいいが、
そこだけは、意識的に、意味がしっかり響き渡るように語ってほしい。

かつてケネス・ブラナー主演の映画を見たことがある。
戦いの直前の彼の演説が、忘れ難い。数では圧倒的に劣るイギリス軍の兵士たちの心に火をつけた名演説だ。
この戦いは防衛の必要から始まったものではなく、単に彼の野心を満たすための侵略戦争だったので、好戦的な王という批判があるのは当然
だし仕方ないが、芝居として楽しむ分には許されるのではないだろうか。
とにかくこの日、王の言葉が、勝利を諦めていた兵士たちの心をつかみ、この人のために戦おう、と思わせた。
おれたちはきっと勝つ、勝って故郷に帰り、年を取ってから、今日の戦いを懐かしみ、手柄を自慢し合う日が、きっと来る!
今母国にいて、この戦いに加わらなかった男たちは、その時どんなに悔しがることだろう・・・。
言葉の持つ力の大きさが感じられるシーンだ。

2009年のヘンリー六世、2012年のリチャード三世、2016年のヘンリー四世と続いた新国立劇場版のシェイクスピア歴史劇シリーズ
が、これでひとまず完結したわけだ。
またいつか、今度は実際の歴史の時系列に沿って上演してほしい・・・いや、そうすると「リチャード三世」で終わることになり、後味が
悪いか。やはり、今回の十年がかりの企画はよく考えられていたということか。

この作品は来年2月に吉田鋼太郎演出、松坂桃李主演で埼玉でも上演される予定とか。それもまた楽しみだ。







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