雫石鉄也の
とつぜんブログ
父、替える
「もう、おとうさん、そこどいてよ」
父がわたしの通り道にねそべっている。トイレに行こうとしてるのだけれど、じゃまなんだよ。6畳間のこっち側がわたしの部屋。6畳間の向こうが台所。その横に風呂とトイレがある。トイレに行くには6畳間を横切らなくてはならない。その部屋にはテレビがあって、父はいつもそこでハンシンの野球を見ている。ウチにはテレビはそれ1台。わたしはテレビなんか見ないけれど、母はいつもハンシンに邪魔されて見たいテレビが見れないとブツブツいってる。
「これ、前を横切るな。いまチャンスでゴメスなんだぞ」
「ふん、知るか」
父の前を通り過ぎるとき、お尻をさわられた。
「きゃ、なにすんのよ」
「お前もええケツになってきたな」
「おとうさん、エリはもう中学生なんですよ。セクハラよ」
「ふん、ゴメスのホームラン見逃し代がお前のケツじゃ安いもんだ」
父は会社から帰ると、立のモノを横にもしない。お風呂に入って、ご飯を食べると、ごろりんとテレビの前にねそべってハンシンを見始めたら、寝るまでなんにもしない。
昔は残業して夜遅く帰って来たが、リストラされ今の会社になってから残業しない。毎日、ハンでついたように午後6時に帰ってくる。
「おとうさん、エリの高校のことなんですが」
「ああ、あとにして。ワダのアホめ、なんでピッチャーかえへんねや。フジナミはもう限界なんがわからへんのか」
「エリの高校・・・」
「え、ああ、打たれたやないか」
トイレから出た。父の前を通るのはいやだ。またごう。
「よっこらせ」
「こら、親をまたぐやつがあるか」
「だって、前を通るとお尻さわるでしょ」
「娘のケツはオヤジのもんだ」
「くっそ。ワダのボケが。おおい。もうないぞ」
父はハンシンが負けるとヤケ酒やといって飲む。勝つと祝杯やゆうて飲む。きょうはヤケ酒。バーボンをロックで3杯飲んだ。
「もうありませんよ」
「エリ、そこのコンビニで買って来い」
「いやよ」
「ゆうこと聞かん娘やな。もうええ。ワシが買ってくる」
そういうと出かけた。
「エリ、ちょっとこれ見て」
「なあに」
母がカタログをテーブルの上に開いた。
「ファザー&ハズバンド・カタログ」
表紙にはそう印刷してある。
「付箋をつけといたけど。見てくれる?25ページのFの45番なんてどう」
「ううん。これ、お母さんの好みじゃないの。お母さん、こんなチョイワルオヤジがいいの」
「ダメかな」
「浮気しそうじゃない」
「稼ぎは良いようよ」
「わたしはこっちがいいな」
「ただいま」
父が帰って来た。
「お帰りなさいあなた。お風呂にします夕飯にします?」
「先に風呂に入ろうか」
父は風呂から上がって食事をすませると、6畳間に行った。書類を見始めた。会社が購入する新しいレーザータイプのNCマシンの見積もり書とのこと。購買課長の父が機種を選定して、重役会議でOKが出れば新機種導入とのこと。億の買物。父の仕事は重要なのだ。
「ちょっとトイレ。前、ごめん」
「エリ、意中の高校はあるのか」
「そのことで、お父さん、お話が」
「わかった。3人で話し合おう」
「家族カタログ」
そう印刷されたカタログをさっきからずっとにらんでいる。きょうは月曜日だナイターはない。新しい家族を選定しよう。前は生意気ざかりの娘と、口うるさい女房だった。今度は息子がいいな。女房はどれがいいかな。
海野久実さんが、矢菱虎犇さんの「父、カエル」「父、還る」「父、帰る」に触発されて「父、孵る」を書かれました。というわけで、私もいっちょかみで「父、替える」を書きました。この企画面白いですね。(勝ってに企画にしてしまいました)りんさんどうですか?
星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。
父がわたしの通り道にねそべっている。トイレに行こうとしてるのだけれど、じゃまなんだよ。6畳間のこっち側がわたしの部屋。6畳間の向こうが台所。その横に風呂とトイレがある。トイレに行くには6畳間を横切らなくてはならない。その部屋にはテレビがあって、父はいつもそこでハンシンの野球を見ている。ウチにはテレビはそれ1台。わたしはテレビなんか見ないけれど、母はいつもハンシンに邪魔されて見たいテレビが見れないとブツブツいってる。
「これ、前を横切るな。いまチャンスでゴメスなんだぞ」
「ふん、知るか」
父の前を通り過ぎるとき、お尻をさわられた。
「きゃ、なにすんのよ」
「お前もええケツになってきたな」
「おとうさん、エリはもう中学生なんですよ。セクハラよ」
「ふん、ゴメスのホームラン見逃し代がお前のケツじゃ安いもんだ」
父は会社から帰ると、立のモノを横にもしない。お風呂に入って、ご飯を食べると、ごろりんとテレビの前にねそべってハンシンを見始めたら、寝るまでなんにもしない。
昔は残業して夜遅く帰って来たが、リストラされ今の会社になってから残業しない。毎日、ハンでついたように午後6時に帰ってくる。
「おとうさん、エリの高校のことなんですが」
「ああ、あとにして。ワダのアホめ、なんでピッチャーかえへんねや。フジナミはもう限界なんがわからへんのか」
「エリの高校・・・」
「え、ああ、打たれたやないか」
トイレから出た。父の前を通るのはいやだ。またごう。
「よっこらせ」
「こら、親をまたぐやつがあるか」
「だって、前を通るとお尻さわるでしょ」
「娘のケツはオヤジのもんだ」
「くっそ。ワダのボケが。おおい。もうないぞ」
父はハンシンが負けるとヤケ酒やといって飲む。勝つと祝杯やゆうて飲む。きょうはヤケ酒。バーボンをロックで3杯飲んだ。
「もうありませんよ」
「エリ、そこのコンビニで買って来い」
「いやよ」
「ゆうこと聞かん娘やな。もうええ。ワシが買ってくる」
そういうと出かけた。
「エリ、ちょっとこれ見て」
「なあに」
母がカタログをテーブルの上に開いた。
「ファザー&ハズバンド・カタログ」
表紙にはそう印刷してある。
「付箋をつけといたけど。見てくれる?25ページのFの45番なんてどう」
「ううん。これ、お母さんの好みじゃないの。お母さん、こんなチョイワルオヤジがいいの」
「ダメかな」
「浮気しそうじゃない」
「稼ぎは良いようよ」
「わたしはこっちがいいな」
「ただいま」
父が帰って来た。
「お帰りなさいあなた。お風呂にします夕飯にします?」
「先に風呂に入ろうか」
父は風呂から上がって食事をすませると、6畳間に行った。書類を見始めた。会社が購入する新しいレーザータイプのNCマシンの見積もり書とのこと。購買課長の父が機種を選定して、重役会議でOKが出れば新機種導入とのこと。億の買物。父の仕事は重要なのだ。
「ちょっとトイレ。前、ごめん」
「エリ、意中の高校はあるのか」
「そのことで、お父さん、お話が」
「わかった。3人で話し合おう」
「家族カタログ」
そう印刷されたカタログをさっきからずっとにらんでいる。きょうは月曜日だナイターはない。新しい家族を選定しよう。前は生意気ざかりの娘と、口うるさい女房だった。今度は息子がいいな。女房はどれがいいかな。
海野久実さんが、矢菱虎犇さんの「父、カエル」「父、還る」「父、帰る」に触発されて「父、孵る」を書かれました。というわけで、私もいっちょかみで「父、替える」を書きました。この企画面白いですね。(勝ってに企画にしてしまいました)りんさんどうですか?
星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。
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