雫石鉄也の
とつぜんブログ
戦死者
この基地から戦死者が出るのは20××年以来3年ぶりである。戦死者は出したが任務完了。5機の機体は帰還しつつある。4人のパイロットがヘッドギアを外した。4人ともホッとした顔をしている。ところがパイロット室に鳴り響くベルの音を聞いて顔を青ざめた。モニターに映る2号機を示す光点が赤に変わっている。2号機は被弾していることになっている。
五つ並んだコクピット。そのうちの2号機のナカノ中尉が立ち上がらない。ヘッドギアには赤いLEDが点灯している。ナカノ中尉は戦死だ。軍医が中尉の首筋を見た。首筋の、いわゆる「ぼんのくぼ」に小さな赤い斑点が一つできている。これが致命傷だ。こうなればいかなる名医が手当てをしても蘇生しない。
担当する機体が「被弾」して、損害がパイロットに生命を奪うとコンピュータが判断すれば、ヘッドギアに収納された鋭利な針が、パイロットの首筋に突き刺さる。延髄のツボを突き刺して呼吸中枢を破壊する。即死だ。さらに確実を期するために、針は注射針となっていて、致死量の毒物が注射される。「被弾」した機体を担当したパイロットは確実に「戦死」しなくてはならない。
生き残った4人は、基地を出て自宅に急ぐ。ナカノ中尉の葬儀が近日中に行われる。
「いま帰った。ナカノが戦死した」
「え、ナカノさんが。しかし、戦場は地球の裏側なのに、『戦死』しなくてはならないの」
無人攻撃機。パイロットは戦場に行かなくていい。本国の安全な基地から、遠隔操作で機体を操縦して、敵を攻撃する。戦死者を出さずに戦争ができる。合理的で、実にきれいな戦争ができる。戦争はゲームとなった。戦果はモニターに表示される。血みどろになって死ぬ人は見えない。画面の光る点の色が変わるだけ。
あまりに非人道的だ。無人攻撃機を禁止しようという声が各国から上がった。禁止できなかった。代わりに戦争にもフェアプレーの精神を取り入れることになった。パイロットが安全では不公平だ。
「故ナカノ大尉は軍人の鑑でありました。志願して最も危険な戦場を担当して、このたび名誉の戦死を遂げられました」
盛大な葬儀であった。国は最大限の丁重さでナカノの死を悼んだ。葬儀には国防大臣が参列し、大統領から弔電が来た。遺体は国立墓苑の一等地に葬られた。遺族には莫大な弔慰金が支給された。
この葬儀の模様がネットで公開された。
「不公平だ。楽に戦死し、盛大な葬式を挙げてもらって、丁重に葬られ、遺族は手厚く遇される」
「父はナパーム弾にやられた。重いやけどを負って8日間苦しみぬいて死んだ」
「あの家は家族全滅だ。家族5人の遺体は、弔う人もなく放置され白骨化した」
「兄は爆弾の破片が腹に突き刺さり、手当てを受けることなく三日後に死んだ」
突然、4号機のパイロットの首が飛んだ。胴体だけで葬儀を行った。次の日、3号機のオオバ大尉のベルトに仕込まれたブレードが作動した。計算された動作のブレードは、大尉の肝臓を7センチ切った。大尉は5日後に死んだ。その間、治療は施されなかった。
作戦終了後、ヤタベ中尉は逮捕された。中尉は「クジに当たった」のだ。ただちに銃殺された。遺族には遺体の引き渡しさえなかった。
戦争は公平なものとなった。結局、無人攻撃機は廃止された。だれも戦争に行かなくなった。戦争のない世界が訪れた。
五つ並んだコクピット。そのうちの2号機のナカノ中尉が立ち上がらない。ヘッドギアには赤いLEDが点灯している。ナカノ中尉は戦死だ。軍医が中尉の首筋を見た。首筋の、いわゆる「ぼんのくぼ」に小さな赤い斑点が一つできている。これが致命傷だ。こうなればいかなる名医が手当てをしても蘇生しない。
担当する機体が「被弾」して、損害がパイロットに生命を奪うとコンピュータが判断すれば、ヘッドギアに収納された鋭利な針が、パイロットの首筋に突き刺さる。延髄のツボを突き刺して呼吸中枢を破壊する。即死だ。さらに確実を期するために、針は注射針となっていて、致死量の毒物が注射される。「被弾」した機体を担当したパイロットは確実に「戦死」しなくてはならない。
生き残った4人は、基地を出て自宅に急ぐ。ナカノ中尉の葬儀が近日中に行われる。
「いま帰った。ナカノが戦死した」
「え、ナカノさんが。しかし、戦場は地球の裏側なのに、『戦死』しなくてはならないの」
無人攻撃機。パイロットは戦場に行かなくていい。本国の安全な基地から、遠隔操作で機体を操縦して、敵を攻撃する。戦死者を出さずに戦争ができる。合理的で、実にきれいな戦争ができる。戦争はゲームとなった。戦果はモニターに表示される。血みどろになって死ぬ人は見えない。画面の光る点の色が変わるだけ。
あまりに非人道的だ。無人攻撃機を禁止しようという声が各国から上がった。禁止できなかった。代わりに戦争にもフェアプレーの精神を取り入れることになった。パイロットが安全では不公平だ。
「故ナカノ大尉は軍人の鑑でありました。志願して最も危険な戦場を担当して、このたび名誉の戦死を遂げられました」
盛大な葬儀であった。国は最大限の丁重さでナカノの死を悼んだ。葬儀には国防大臣が参列し、大統領から弔電が来た。遺体は国立墓苑の一等地に葬られた。遺族には莫大な弔慰金が支給された。
この葬儀の模様がネットで公開された。
「不公平だ。楽に戦死し、盛大な葬式を挙げてもらって、丁重に葬られ、遺族は手厚く遇される」
「父はナパーム弾にやられた。重いやけどを負って8日間苦しみぬいて死んだ」
「あの家は家族全滅だ。家族5人の遺体は、弔う人もなく放置され白骨化した」
「兄は爆弾の破片が腹に突き刺さり、手当てを受けることなく三日後に死んだ」
突然、4号機のパイロットの首が飛んだ。胴体だけで葬儀を行った。次の日、3号機のオオバ大尉のベルトに仕込まれたブレードが作動した。計算された動作のブレードは、大尉の肝臓を7センチ切った。大尉は5日後に死んだ。その間、治療は施されなかった。
作戦終了後、ヤタベ中尉は逮捕された。中尉は「クジに当たった」のだ。ただちに銃殺された。遺族には遺体の引き渡しさえなかった。
戦争は公平なものとなった。結局、無人攻撃機は廃止された。だれも戦争に行かなくなった。戦争のない世界が訪れた。
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