雫石鉄也の
とつぜんブログ
鮪の鮨
「ワシはもう充分生きた。なにも望みはない」 その通りだ。老人は充分生きた。八〇歳で冷凍睡眠に入り、100年経って目覚めた。目覚めてから50年生きた。230年も生きたわけだ。
80歳という高齢での冷凍睡眠も異例なら、目覚めてから50年も生きたのも異例だ。 老人は大富豪である。冷凍睡眠希望者は多い。施設は若い希望者を優先する。老人は自費で、自分一人のために施設をまるごと造った。スタッフも最高の医者、技術者が彼のために集められた。
彼が眠っている間は、彼の子供、孫たちが彼の財産を管理運用し、彼が創った企業を経営し、そして彼の眠る施設を最高の状態を維持した。
100年経って目覚めた。この間老化は止まっている。80歳で眠って80歳で目覚めた。健康診断を受け、屋敷に帰った後、老人が最初にしたこと。
ダイニングに座った老人の前に一本のワインが置かれた。ワイングラスに注ぎ、老人が愛しむように飲む。ふー、大きなため息をつき、ワイングラスを置いた。
「100年待ったかいがあった」
100年前、老人は二本のワインを手に入れた。二本で豪壮な邸宅が土地つきで新築できるほどのお金を使った。
一本飲んだ。
「まだまだじゃ。あと100年たてば飲み頃じゃろう。ワシは100年待つぞ」
老人は一本のワインのために、冷凍睡眠で100年眠った。80年の人生で、金で買えるあらゆる幸せを手に入れてきた。
老人の子供や孫たちは大変に優秀だった。100年の間に、老人の会社は世界一の大企業となり、彼の財産は天文学的は数字となった。
80歳の老人は、ありあまる金を使って、自分自身の健康保持と快楽の追求に使った。 男の三道楽。飲む、打つ、買う。飲む=100年かけて一本のワインを飲む男だ。金にあかせて世界中の名酒珍酒を集めて飲んだ。世界中の酒を飲みつくした。打つ=地球を丸ごと買えるほどの男がギャンブルをやっても意味はない。買う=さすがに80だ。そんなことは、とうに卒業した。
80年、冷凍睡眠時間を入れると180年、目覚めてから50年生きた。さすがに死期を迎えた。
この50年、老人は食うことに快楽を求めた。歯から始まり肛門まで、胃、腸など消化器系すべてを移植した。食べる楽しみのためである。
「いや、待て。死ぬ前に、もう一度だけ食べたいモノがある」
老人が最後の食事に選んだ食べ物。それはスシだった。
老人の話によれば、若いころ、彼の故郷のニッポンの首都トーキョーで食べた鮪の鮨が、彼の長い人生で食べた食べ物の中で最高の食べ物だったそうだ。
「マグロのスシですね。おやすいご用です。明日にでも持ってきます」
「なんだこれは」
「マグロのスシです」
「バカ。こんなものが鮪の鮨といえるか。米はインディカ米を使ってるからパラパラなメシを無理やり固めている。鮪は養殖したマグロだ。しかも、ワサビは山葵じゃないホースラディシュだ。しかもだれが握った」
「握ったのロボットです。米は今はジャポニカ米は絶滅寸前です。天然のクロマグロは絶滅しました」
「ワシが若いころトーキョーは銀座というところの鮨屋で食べた鮨を食わなきゃ死にきれん」
「200年以上前ですよ。本物の鮨職人は世界で数えるほどです」
「金はなんぼ使ってもかまわん」
米はニッポンの農林水産省が種もみを保管していた。農水省の幹部に多額のまいないを贈って入手した。土地を購入し、古文書を解読する研究者、栽培技術者を雇った。稲を栽培して、老人のためだけに収穫した。
マグロは、やはりニッポンのK大学がクロマグロの受精卵を冷凍保存していた。大学に天文学的な数字の金額を寄付して、成魚にまで育ててもらった。
最も困難だったのは鮨職人だった。2000年代、ニッポン最高の鮨職人といわれる男がいた。鮨職人でただひとり三つ星を持っていた男だ。その男の曾孫から細胞をもらい、クローン人間を創った。そのクローンは生まれた時から、鮨を握ることだけを教えられた。彼が曾祖父と同じ鮨を握れるまで30年かかった。
「うん。この鮨だ。ワシはこれで思い残すことはない」
二カンの鮪の鮨に30年かかった。
80歳という高齢での冷凍睡眠も異例なら、目覚めてから50年も生きたのも異例だ。 老人は大富豪である。冷凍睡眠希望者は多い。施設は若い希望者を優先する。老人は自費で、自分一人のために施設をまるごと造った。スタッフも最高の医者、技術者が彼のために集められた。
彼が眠っている間は、彼の子供、孫たちが彼の財産を管理運用し、彼が創った企業を経営し、そして彼の眠る施設を最高の状態を維持した。
100年経って目覚めた。この間老化は止まっている。80歳で眠って80歳で目覚めた。健康診断を受け、屋敷に帰った後、老人が最初にしたこと。
ダイニングに座った老人の前に一本のワインが置かれた。ワイングラスに注ぎ、老人が愛しむように飲む。ふー、大きなため息をつき、ワイングラスを置いた。
「100年待ったかいがあった」
100年前、老人は二本のワインを手に入れた。二本で豪壮な邸宅が土地つきで新築できるほどのお金を使った。
一本飲んだ。
「まだまだじゃ。あと100年たてば飲み頃じゃろう。ワシは100年待つぞ」
老人は一本のワインのために、冷凍睡眠で100年眠った。80年の人生で、金で買えるあらゆる幸せを手に入れてきた。
老人の子供や孫たちは大変に優秀だった。100年の間に、老人の会社は世界一の大企業となり、彼の財産は天文学的は数字となった。
80歳の老人は、ありあまる金を使って、自分自身の健康保持と快楽の追求に使った。 男の三道楽。飲む、打つ、買う。飲む=100年かけて一本のワインを飲む男だ。金にあかせて世界中の名酒珍酒を集めて飲んだ。世界中の酒を飲みつくした。打つ=地球を丸ごと買えるほどの男がギャンブルをやっても意味はない。買う=さすがに80だ。そんなことは、とうに卒業した。
80年、冷凍睡眠時間を入れると180年、目覚めてから50年生きた。さすがに死期を迎えた。
この50年、老人は食うことに快楽を求めた。歯から始まり肛門まで、胃、腸など消化器系すべてを移植した。食べる楽しみのためである。
「いや、待て。死ぬ前に、もう一度だけ食べたいモノがある」
老人が最後の食事に選んだ食べ物。それはスシだった。
老人の話によれば、若いころ、彼の故郷のニッポンの首都トーキョーで食べた鮪の鮨が、彼の長い人生で食べた食べ物の中で最高の食べ物だったそうだ。
「マグロのスシですね。おやすいご用です。明日にでも持ってきます」
「なんだこれは」
「マグロのスシです」
「バカ。こんなものが鮪の鮨といえるか。米はインディカ米を使ってるからパラパラなメシを無理やり固めている。鮪は養殖したマグロだ。しかも、ワサビは山葵じゃないホースラディシュだ。しかもだれが握った」
「握ったのロボットです。米は今はジャポニカ米は絶滅寸前です。天然のクロマグロは絶滅しました」
「ワシが若いころトーキョーは銀座というところの鮨屋で食べた鮨を食わなきゃ死にきれん」
「200年以上前ですよ。本物の鮨職人は世界で数えるほどです」
「金はなんぼ使ってもかまわん」
米はニッポンの農林水産省が種もみを保管していた。農水省の幹部に多額のまいないを贈って入手した。土地を購入し、古文書を解読する研究者、栽培技術者を雇った。稲を栽培して、老人のためだけに収穫した。
マグロは、やはりニッポンのK大学がクロマグロの受精卵を冷凍保存していた。大学に天文学的な数字の金額を寄付して、成魚にまで育ててもらった。
最も困難だったのは鮨職人だった。2000年代、ニッポン最高の鮨職人といわれる男がいた。鮨職人でただひとり三つ星を持っていた男だ。その男の曾孫から細胞をもらい、クローン人間を創った。そのクローンは生まれた時から、鮨を握ることだけを教えられた。彼が曾祖父と同じ鮨を握れるまで30年かかった。
「うん。この鮨だ。ワシはこれで思い残すことはない」
二カンの鮪の鮨に30年かかった。
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今日も勝てへんかったけど、そのウチ勝つやろ
う~ん勝てまへんなあ。ゴールデンウィークの9連戦になって、いっこも勝てへんな。なんで勝てへんのんか、こりゃ判ってまんがな。点取らへんからや。野球はピッチャーやゆうけど、ピッチャーがなんぼがんばっても、点取らへんかったら、勝てへん。ようて引き分けや。
こんな阪神見て、ワシは暗黒時代に戻ったとは思わん。みんなようやっとると思うな。なんでやゆうとな、引き分けが多いちゅうこっちゃ。阪神の引き分け数5ちゅうのは12球団中最多やな。
長いシーズン、ええ時もあるし悪い時もある。ええ時はほっといても、おもろいように勝てる。悪い時はなにしても負ける。今の阪神は悪い時や。もっと負けがこんでもええとこを、なんとかがばって引き分けにしとるんちゃうか。最多の引き分け数がその表われとちゃうやろか。
ピッチャーはようがんばっとうのはご存じの通りや。前任者と違うて和田さんも手をうっとる。オーダーを変えスタメンを変え。それに鉄壁の2遊間や。和田さんのゆう「守り勝つ」野球が実践されとるんとちゃうか。それが「守り負けへん野球」になっとるから、勝たへんけど、負けへん試合が多いんや。
今は辛抱の時とちゃうやろか。そのうち調子ようなると思うなワシは。
こんな阪神見て、ワシは暗黒時代に戻ったとは思わん。みんなようやっとると思うな。なんでやゆうとな、引き分けが多いちゅうこっちゃ。阪神の引き分け数5ちゅうのは12球団中最多やな。
長いシーズン、ええ時もあるし悪い時もある。ええ時はほっといても、おもろいように勝てる。悪い時はなにしても負ける。今の阪神は悪い時や。もっと負けがこんでもええとこを、なんとかがばって引き分けにしとるんちゃうか。最多の引き分け数がその表われとちゃうやろか。
ピッチャーはようがんばっとうのはご存じの通りや。前任者と違うて和田さんも手をうっとる。オーダーを変えスタメンを変え。それに鉄壁の2遊間や。和田さんのゆう「守り勝つ」野球が実践されとるんとちゃうか。それが「守り負けへん野球」になっとるから、勝たへんけど、負けへん試合が多いんや。
今は辛抱の時とちゃうやろか。そのうち調子ようなると思うなワシは。
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