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悪人


監督 李相日
出演 妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、柄本明、樹木希林

 悪意に満ち満ちた映画である。哀しみに満ち満ちた映画でもある。未曾有の大災害に見舞われ、放射能を振りまいている壊れた原発をかかえ、今、日本国中が陰鬱な雰囲気に包まれている。そういう時に観ようと思うような映画ではない。でも観てしまった。
 陰鬱な気分で陰鬱な映画を観たが、満足した。傑作といえよう。優れた脚本、妻夫木、深津の主役二人と満島、柄本、樹木の助演陣の演技、さらには、余貴美子、松尾スズキ、宮崎美子といった芸達者がまわりを固めている。優れた映画はどんな気分で観ても優れているのだ。
 母に捨てられた男と、国道から離れられない女。最低のバカ女と、女を車から蹴り出すバカ大学生。バカな娘でも、かわいい娘。娘を殺された恨みを、真犯人でない男にぶつける父。出会い系サイトで女を得る孫を育てる祖母。その祖母にインチキ漢方薬を売りつける悪徳商人。みんな悪人か?
 スカイラインGT-Rに乗る土木作業員の男は、出会い系サイトで、洋服量販店店員の女と知り合う。メールのやり取り。お互い本気のメールだった。男は幼い頃、母に捨てられて祖母に育てられている。女は、小学校、中学、高校、そして今の勤務先も、同じ国道沿い。狭い土地から出たことがない。二人は求め合い、SEXする。
 男は女に告白する。「ぼくは殺人者だ」孤独な男女の逃避行。人里離れた岬の灯台に逃げ込む。警察が来る。男は女の首をしめる。この終盤の首をしめるシーンをどう解釈するか。
 男は母に捨てられた。これがトラウマとなっている。自分から去っていった女は2度と自分の元に帰ってこない。永遠にこの女を自分のモノにするために首をしめる。
 自分は殺人者。犯罪者だ。このまま警察に捕まれば、彼女は殺人犯の逃亡幇助の犯罪者になってしまう。共犯だ。警察の目の前で彼女の首をしめる。これで彼女は犯罪者ではなく、被害者となる。
 どう解釈するかは観る人に委ねられている。
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