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ピッツァ探偵

 
 俺か、俺は探偵さ。探偵といってもあんたが想像しているような探偵じゃない。たまに来る仕事のほとんどは夫の浮気調査か妻の不倫調査だ。
 え、かっては県警のこわもてデカだった俺がなんでこんなことしてるかって。俺がバカであいつがかしこかっただけさ。
 今日は依頼人が来ることになっている。だから日曜にもかかわらず事務所にいてるってわけ。神戸の春日野道商店街のはずれにある古い小さな雑居ビル。1階の一番日当たりが悪い部屋が俺の事務所だ。隣はなにやら怪しげなビデオを作っている連中らしい。時々はすっぱな女の子が出入りしている。スタイルはいいが、あたしバカです、と顔に書いてある女の子だ。
 おっと、もう11時半か。外にメシを食いに行くのは面倒だ。何か作って食おう。何があるか机の上に並べてみた。
 強力粉、薄力粉、ドライイースト、牛乳、マッシュルーム、しめじ、まいたけ、鶏ミンチ、にんにく、オレガノ、パセリ、チーズ。あまりたいしたものはないな。ピッツァでも焼くか。
 ぬるま湯でドライイーストを溶かす。オリーブ油を入れ、粉を加えてこねる。いつもは手でこねるが今日は依頼人が来るかも知れないのでフードプロセッサでかき混ぜる。20秒ほど回したら、ボールに入れて軽くこねる。
 30分ほど発酵させる。バーボンでも飲んでいよう。ワイルドターキーが少し残っていた。ストレートでちびちびやっていたら30分たった。
 生地を薄く延ばす。俺は手でクルクル回したりしない。曲芸は嫌いだ。生地にオリーブ油を塗りみじん切りのにんにくを散らす。炒めた鶏ミンチ、きのこをのせ、オレガノ、パセリをパラパラ。チーズをかぶせて、300度のオーブンで10分焼く。
 ピッツァが焼けた。食おうとした時チャイムが鳴った。まだ12時15分だ。約束は午後1時のはずだ。
 ドアを開ける。女が立っていた。
「約束は1時のはずだ。俺は食事中だ。ちょっと待ってくれ」
「なにバカなこといってんのよ。またアホなハードボイルド小説でも読んでたのでしょう。ピッツァあたしの分もあるでしょうね」

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