鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

或る秋の朝~展望台にて(10月21日)

2011-10-22 17:48:48 | 鳥・秋
Photo
All Photos byChishima,J.
マミチャジナイ 以下すべて 2011年10月 北海道中川郡池田町)


 午前8時10分、自宅から10分足らずの丘にある展望台へ到着。道中は道東の夏の海岸線を思わせる濃霧で車を運転するのも怖いくらいだったが、丘の頂に近付くにつれ青空が覗いてきた。展望台から俯瞰すると山頂から3分の1くらいまでは晴天で木々の紅・黄葉や枯色が空の青に映えている。それより下は真っ白なガスに覆われ一面の雲海。雲海の広がりを追って行くとF山やT丘等の丘陵地帯がその頂のみ姿を現し、更に遠くの海からは日高山脈の青い山並みが、やはり上部だけを見せて連なっている。一見青い山並みも双眼鏡を通すと、その幾つかは既に雪化粧を施している。空気は凛として冷たく、麓まで続く放牧地は霜で白い。


十勝平野を覆う雲海
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 「クィクィ…」、幾つものツグミの声が上空から降り注ぐ。「ツッ」と鳴くのはカシラダカ。イスカや大型ツグミ類の声も聞こえる。かなり高くを飛んでいるようで姿が見えないが、ツグミは群れが続々通過しているようだ。今年は冬鳥、特に小鳥類の渡来が遅く、カシラダカも前日に隣町のT展望台でようやく声を確認したばかりだが、ここ数日の寒さは確実に鳥たちを動かしているものと思われる。8時28分、漸く20羽前後のツグミが頭上を飛ぶのを目視。
 8時35分、下方より上昇してきた霧が展望台周辺も乳白色の世界に塗り替えた。林縁の樹上にマミチャジナイのような、それでいて眉斑が短い気もする大型ツグミを見付けたが、すぐ霧のベールに隠されてしまった。
 9時7分、霧の中からイカルの囀り。この鳥は繁殖期以外にも、その朗らかな囀りを聞かせることがある。道央や道南では普通の鳥だが十勝では分布は局地的であまり多くなく、釧路地方の白糠丘陵より東にはほとんど分布していない。その後、イカルは徐々に集まり、何ヶ所もから囀りや、「キョッ」とキツツキ類を弱くしたような地鳴きが聞かれた。
 9時19分。展望台横の木から大空へ飛び出した4、5羽のエナガがすぐに戻って来たと思ったら、1羽のツミ幼鳥が低空を飛んで行った。ツミは渡り風で、エナガには目もくれず行き過ぎたが、小鳥たちは樹林というシェルターの無い状況での自分たちの無防備さを十分認識しているのだろう。ツミも十勝では少ない鳥で、特に繁殖期の生息状況のよくわかっていない種だが、どういうわけか秋の渡り時期には幼鳥を見る機会が多い。


ツミ幼鳥
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 9時25分、下界は相変わらずの雲海。展望台周辺も青空と濃霧を周期的に繰り返す。エナガの群れがいくつも行き来し、その一部は飛び出してゆく。賑やかで、周囲はエナガの声に満ち溢れている感じだ。シジュウカラやヒガラの姿も多く、やはり時折小群が空へ打ち出される。留鳥といえどこの時期には相当数が移動しているのだ。北海道北端の宗谷岬付近では、サハリンから一朝に数千羽渡って来るヒガラと出会ったこともある(「宗谷丘陵」の記事も参照)。


秋色を背景にエナガ(亜種シマエナガ)
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 9時49分、5分ほど前から丘陵の中腹で声のしていたクマゲラが動き出したようだ。声がどんどん近付いて来る。そして霧の中から姿を現した。頭部全体の赤いオスだ。飛び方以外はキツツキというよりカラスのようである。本種が繁殖するには巣を作れる大木のある森林が必要で、この周辺におそらくそうした林は無いが、秋から冬には平野部にも姿を現す。10日近く前にも自宅近くの公園で声を聞いた。こうした思いがけない出会いも、渡り時期の楽しみである。
 10時10分頃から視界が急速に回復してきた。川沿いの一部を除き霧は晴れ、十勝平野の一大眺望が広がり始めている。平野部は夏の名残りの緑と秋の黄色とがモザイク状に入り混じっている。同時に気温も上がり始め、落ち着き無げにうろうろしていた同伴の犬も気持ちよさそうに地べたに横になっている。
 10時25分、ノスリが1羽、遠くを東から西に滑空してゆく。明らかに渡りぽい動きだ。2㎞以上離れ、スコープをもってしても羽ばたいた時にかろうじてノスリとわかる程度だが。
 10時29分。ヒヨドリと一緒に飛び出して林内に戻った同大の鳥に違和感を覚えたので慌てて数カット撮影すると、白い眉斑と灰色の頭、下面の橙色の顕著なマミチャジナイであった。日本海側では割と普通らしいが、北海道の太平洋側では少ない鳥だ。それにしても、飛び出した鳥を咄嗟に撮影して後で検証できるのだから、まったく便利な時代になったものである。海鳥同様、鳥の飛翔識別においてもデジタルカメラは強みを発揮するだろう。


マミチャジナイの飛翔
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 10時55分、ノスリ2羽が東から西へ滑空。途中からのコースは10時25分のものとほぼ同じで、これも渡りだろう。風が少々出て、高くからの太陽が揺らす大気は昼の雰囲気を帯びてきた。
 11時40分。時折カケスが行き交うくらいで、鳥の動きはほとんど止まった。日向ぼっこを楽しんでいた犬も、寝床を日蔭へ移している。そろそろ撤収しても良い時間であろう。この3時間半で確認できた鳥は、以下の33種であった。


東大雪の峰を背に飛ぶカケス(亜種ミヤマカケス)
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トビ ツミ ノスリ クマゲラ アカゲラ コゲラ ビンズイ タヒバリ ヒヨドリ マミチャジナイ ツグミ エナガ ハシブトガラ コガラ ヒガラ シジュウカラ ゴジュウカラ キバシリ メジロ ホオジロ カシラダカ アオジ オオジュリン カワラヒワ マヒワ イスカ ベニマシコ イカル シメ スズメまたはニュウナイスズメ カケス ハシボソガラス ハシブトガラス


霧の中を飛ぶアカゲラのオス
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(2011年10月22日   千嶋 淳)


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2 コメント

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マミチヤジナイが見られたんですね。 (ちょんぱぱ)
2011-10-22 22:43:30
マミチヤジナイが見られたんですね。
札幌の鳥友が普通に観察していて羨ましいと思っていましたが、十勝で観察できるとは思ってもいませんでした。

いくらカメラが良くなったとしても、飛翔する個体を鮮明に撮影するのは至難の業です。

素晴らしい記録と写真、見せていただきありがとうございます。
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こんにちは。 (ちしま)
2011-10-23 16:05:57
こんにちは。
僕も道東では久しぶりに見ました。
標識調査では時々捕れているようなので、この時期少数は通過しているんだと思います。
ただ、この時期の大型ツグミ類は、
①夜明け前後に活発に動く
②樹冠部にいることが多い
③警戒心が強い
という観察しづらい条件を満たしているので、なかなか観察記録が出てこないのでしょう。月末前後までは公園や丘陵等身近な場所でも出会いのチャンスはあると思いますので、探してみてはいかがでしょう。
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