鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝の自然22 生物多様性の日

2015-07-02 09:21:33 | 十勝の自然


Photo by Chishima, J.
ハマシギの夏羽 2015年4月 北海道中川郡豊頃町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年5月27日放送)


 5月22日は国際生物多様性の日でした。1992年の同日に採択された生物多様性条約にちなんで国連が制定したもので、世界中で生物多様性の保全を考えるのがねらいです。生物多様性という言葉はご存知でしょうか?2010年、名古屋で生物多様性条約の締約国会議(通称COP10)が開催された時はマスコミでも頻繁に取り上げられましたが、昨年の調査では「聞いたこともない」という人が半数を超え、3年前より増えていました。

 40億年前の生命誕生以来、地球上の生物は進化を重ね、現在では3000万種ともいわれる多様な生き物のほか、未発見の新種もたくさんいると考えられています。多様性は種だけでなく、森林、湿原など生態系や、地域による遺伝子の違いにも見られます。

 生態系や遺伝子というと難しく思われるかもしれませんが、私たちの身近でも多様性を実感するのは難しくありません。野鳥を例にすれば、市街地ではスズメやカラス、森や林ではシジュウカラの仲間やキビタキ、沼や川ではカモ、海岸ではカモメやシギ、とそれぞれの環境で様々な種類が暮らしている、それが生物多様性なのです。

 環境破壊や乱獲、地球環境の変化などで危機に瀕している生物多様性。初夏を迎え、多くの生物が活動的な十勝で野外におもむいて自分の目で多様性を実感し、その保全に思いをめぐらせてみませんか。


(2015年5月22日   千嶋 淳)


十勝の自然21 オオイタドリ

2015-07-02 09:10:00 | 十勝の自然


Photo by Chishima, J.
伸長中のオオイタドリ 2015年5月 北海道中川郡池田町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年5月26日放送)


 つい先日までの厳しい冬が嘘のように、初夏を感じさせる自然の風物が増えて来ました。日ごとに背丈を伸ばすオオイタドリもその一つでしょう。私の住む池田町では5月22日現在、大きなもので1mほどまで伸びています。この後も茎は天に向かって成長を続け、最終的には2~3mと、大人の身長より高くなります。
 イタドリとは漢字で痛みを取ると書き、地下茎(ちかけい)や葉には痛みを取る作用があるそうで、実際にオオイタドリを原料とした関節痛のサプリなども販売されています。地下茎を干したものは、抗菌や咳止めにも効果があるとされます。また、葉が開く前の若い芽は和え物や酢の物、若い茎は煮物や天ぷらなど、食用にもなります。
 住宅地内の空き地や川の堤防といった身近な場所にも生え、しばしば大群落を作ります。丈が高くなって来ると、先端はベニマシコなど小鳥がさえずりを奏でるソングポストとして利用され、コガネムシなどの昆虫が葉を食べに集まります。大人の身長を越える7月から8月には白い花を咲かせ、秋の終わりには枯れますが、杖にもなる丈夫な茎は冬もしばしば立ったまま残り、コアカゲラという小型のキツツキが、茎の中で冬を越す虫を探していることもあります。


(2015年5月22日   千嶋 淳)


十勝の自然20 タンチョウ撮影で気を付けたいこと

2015-07-02 09:02:54 | 十勝の自然


Photo by Chishima, J.
タンチョウの親子 2009年5月 北海道十勝川下流域)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年5月25日放送)

 およそ1500羽まで増えた国の特別天然記念物タンチョウ。十勝でも現在は50つがい以上が繁殖しています。釧路へ向かう国道38号線などを通った時に、十勝川沿いでご覧になった方もいるのではないでしょうか。
 畑で人や車を恐れず餌を食べていたり、農家の庭先に現れたりと、人に慣れて来た面もあります。しかし、そのタンチョウが驚くほど神経質になるのが4月から6月くらい、繁殖期の前半です。巣で卵を抱き、あるいはまだ幼いヒナを連れているからです。
 優雅な姿からカメラマンにも人気の高いタンチョウ。畑などで人に慣れた姿を目にしているせいか、巣や親子に過剰に接近して撮影する人が後を立ちません。親鳥が大声で警戒しているのに長時間追いかける人もいます。
卵を抱いている巣に近付けば、親鳥は巣を放棄してしまうかもしれません。また、小さなヒナを連れた家族に接近すると、逃げるのに長距離を歩き、体力のないヒナは弱ってしまいます。近付きすぎた場合、親鳥はヒナを隠して自身は飛んで逃げますが、ヒナがひとりの時間が長くなればキツネなどの天敵に襲われる、また、親と合流できなくなる危険が高まります。
 春から夏は年に一度の大切な繁殖の季節。いつまでもツルの舞う十勝であるよう、撮影や観察の際には気遣いを忘れないようにしましょう。


(2015年5月22日   千嶋 淳)

十勝の自然19 国見山

2015-07-02 08:54:10 | 十勝の自然


Photo by Chishima, J.
国見山の遊歩道 2015年5月 北海道河西郡芽室町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年5月20日放送)


 十勝にいくつもある自然観察スポットの中でも、新緑が目に眩しいこの時期、特にオススメしたいのが音更町と芽室町にまたがる国見山。帯広市街からは北西に約10km、平原大橋を渡った西側にある低い丘陵です。十勝を拓いた依田勉三らがこの山から十勝平野を見下ろし、開拓の情熱を燃やして国見山の名を付けたとされます。アイヌは、「豊かな食料をもたらしてくれる大切な場所」を意味するオソルシ山と呼びました。

 自然観察教育林として、いくつもの観察路やあずま屋が整備されていて、手軽に散策を楽しむことができます。カシワやミズナラなど在来の広葉樹から成る林と、カラマツ、ストローブマツといった外来の針葉樹が中心の林が混在し、それぞれに特有の生態系が形成されています。

 この時期であれば、芽室側の駐車場から奥へ向かう道が傾斜も緩やかで歩きやすいでしょう。クロツグミが複雑な囀りを奏でる道の足元にはスミレの仲間やオオバナノエンレイソウが咲き誇り、オオルリなど夏鳥が鮮やかな姿を披露してくれるかもしれません。水辺ではエゾアカガエル、エゾサンショウウオの卵やオタマジャクシも見られます。

 山頂方面を目指せばツバメオモトの白くて可憐な花や、十勝では珍しいヤマガラ、イカルなど南方系の鳥といった、また違った自然との出会いが待っています。


(2015年5月17日   千嶋 淳)