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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

アビ(その1) <em>Gavia stellata </em>1

2012-02-07 22:12:16 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像のシロエリオオハムを除きすべて アビ 2011年12月29日 北海道十勝郡浦幌町)


 アビ類は北海道近海の海上や海岸では普通に出現する。グループとしてのアビ類を他と区別するのは、独特のシルエットや飛翔行動によって比較的容易だが、グループ内での識別となると話はまた別である。割と警戒心が強く、遠くの海上を飛ぶのを見ることが多いため得られる情報が限られて来る上、どのような光線や背景に対して見るかで印象が変わって来るからだ。

 アビ類中最もスリムな本種は総じて小さい印象だが、大きさにはかなりの個体差があり、大型個体はシロエリオオハムと重複する。翼開長は91~116cm。飛翔中の本種に特徴的なのは瘤状に盛り上がった背中と、下方へ向けられた頭と首が作り出す独特の外観である。「Flight Identification of European Seabirds」(ヨーロッパの海鳥飛翔図鑑)では、「木のハンガー、あるいは首を伸ばして地面で寝ているヒトコブラクダのよう」と表現している。本記事中のアビは同一個体。曇天下とはいえ全体に褐色みがあり、顔から首にかけての暗色部は割と下方まで達し、背や肩羽の白色斑も少なく不明瞭なことから第1回冬羽の若鳥かもしれない。


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 翼下面は白い部分が多く、これは他のアビ類でも同じ。翼先は尖る。羽ばたき速度は他のアビ類よりいくらか速いが、それ単独で識別の助けになるほどではない。脚は尾の延長のように後方へ突き出す。首から頭にかけては平らだが腮から喉にかけて下方へ膨らんで見えることがあり、上方に反った嘴はその印象を強める。


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 暗色の上面と白っぽい下面のパターンは他のアビ類の冬羽タイプと一緒だが、本種はオオハム類ほどその境界がシャープではない。成鳥冬羽では顔の白色部は目の上まで達するため、目が暗色斑のように浮き上がるが画像の個体では暗色部が広く、目は不明瞭。


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 シロエリオオハムとの頭部の比較。シロエリオオハムは5月の第1回夏羽で時期、羽衣が異なるため羽色の比較はできないが、頭部の形態の違いは見てとれる。アビは頭を下げて飛ぶことが多いが、オオハム類も時にこの姿勢を取るので注意が必要。シロエリオオハムでは上嘴が下方に向かって湾曲し、下嘴はまっすぐなので嘴全体は直線的に見える。一方アビでは上嘴は直線的で下嘴が上に向かって膨らみを帯びるため、嘴は上に反って見える。アビで顕著な喉周辺の下方への膨らみはシロエリオオハムでは認められず、首は上下ともまっすぐに見える。
 道東へは主に冬鳥として10月以降渡来し、秋の渡りピークは11月中・下旬。オオハム類のような大群での渡りは見られないが、渡り、越冬期とも1ヶ所に数十羽以上集まることはある。砂質海岸の海上を好み、十勝地方沿岸部では優占種。春の渡りは5月いっぱい続き、夏期に観察されることもあるがその数、頻度はオオハム類に比べるとはるかに少ない。


(2012年2月7日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。


ミコアイサ(その1) <em>Mergus albellus</em> 1

2012-02-06 23:01:06 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ミコアイサ 2012年1月 北海道十勝川中流域)


 本種は湖沼や河川といった淡水環境に主に生息するが、時に漁港や波の穏やかな海上で観察され、渡り時期には沖合に出現する可能性もあることから本カテゴリで扱う。道東では夏期の観察記録もあるが大部分は旅鳥、冬鳥として10月中旬以降渡来し、厳冬期は更に南下するものと思われ少なくなる。春の渡りでは秋よりはるかに多く、十勝川下流域やその周辺の湖沼では3月下旬から4月上旬にかけて一ヶ所で大群は形成しないものの、総数はかなりのものになる。多くのアイサ族と同様飛び立ちは助走を経るのが普通であるが、体が軽いためか危険を感じた時等には淡水ガモ類のようにまっすぐ飛び上がることもできる(「例外」の記事も参照)。

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 翼開長は56~69cmでカモ類としては小さい方。アイサ類とホオジロガモの中間的な外観を呈し、アイサ類にしては丸っこいがホオジロガモと比べると細長い。嘴はカワアイサやウミアイサの、ウ類に似た鉤型の細長いものでなく、よりカモ類に近い。画像はメスタイプ。


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 オスはバードウオッチャーから「パンダガモ」と称されるだけあって、白黒の独特の配色をしており、遠くからでもよく目立つ。嘴基部から目後方にかけて目の周囲が黒い以外、顔や体下面は白い。上面は背と翼の大部分が黒く、翼には中・小雨覆から内側次列風切に及ぶ、ヒドリガモのオスを連想させる広い白斑があり、大雨覆、外側次列風切の羽先も白いが、後者は近距離でないと分かりづらい。肩羽にも明瞭な白線が現れ、(そこだけに注目すると)翼上面と共にホオジロガモのような印象を与えることがある。本画像のように首を伸ばすとアイサ類に近いシルエットになる。


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 オス。翼下面の大部分は灰黒色で、中・小雨覆と腋羽は白く、前者の白色部を分断するように暗色部が食い込む。胸の上部には上面から達する2本の黒線が見える。主に春先に胸から腹が赤錆色の個体を見ることがあり、これは水中の鉄分が付着したものと思われる。


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 メス(タイプ)。背や胸の大部分が暗灰色なため、暗色な印象を受ける。顔は目先の黒、頭頂から後頚の赤褐色が下部の白色とコントラストを成す。そのパターンはクロガモのメスを彷彿とさせるが、境界線はより明瞭で色彩は異なる。翼上面は黒く、中・小雨覆から内側次列風切にかけてはオス同様の白斑があり、大雨覆、外側次列風切先端も同様に白い。通常この白色部はオスより狭く不明瞭なものだが、画像の個体では広く顕著で、肩羽もうっすらと白みがかる。老齢なメスか若いオスなのかもしれない。


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 メス(タイプ)。翼下面のパターンはオスにほぼ等しい。体は上面の暗灰色が胸まで達し、顔の上部も色があるためオスより暗色に感じる。次列風切や下大雨覆の羽先は白く、初列風切や下初列雨覆の内弁は淡色だが、近距離でしか分からないだろう。


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 本種メス(左)とホオジロガモのメス。丸っこくコンパクトな外観は一見似るが、ホオジロガモの大きい頭部がその太さを保って胸以降に達しているのに対し、本種は首が細長くアイサらしい。胸から腹にかけての膨らみもホオジロガモの方が大きい。両種はしばしば一緒に見られ、雑種の形成も知られている。


(2012年2月6日   千嶋 淳)


ウミアイサ(その1) <em>Mergus serrator </em>1

2012-01-29 20:34:43 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像のカワアイサを除きすべて ウミアイサ 2012年1月17日 北海道厚岸郡浜中町)


 翼開長は69~82cmで、サイズ的にはビロードキンクロに近く、マガモよりは少し小さい。一緒にいればカワアイサより明らかに小さいが、単独でいるとわからないことも多い。アイサ類は潜水して魚類を捕食することに特化した結果、細長くて流線型の体、細くて先が鉤型の嘴、体の後半に位置する翼等、ウ類やアビ類、カイツブリ類と共通した特徴を多く持つ。ただし、羽ばたきはカモ類に特有の速いものであり、羽衣と合わせて良い条件で観察できれば見誤ることは殆ど無い。道東へは冬鳥として10月に渡来し、翌5月まで滞在する。漁港や岸近くの海上で見られることが多いが貝類食性のクロガモ類等とは異なり、かなり沖合へも群れで出現する。また、十勝地方海岸部の海跡湖では4月から5月初めにかけて、日によっては100羽を超える大群が入る。また、渡りの時期には内陸部の河川や湖沼で観察されることもある。


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 オスは赤く細長い嘴と、黒色で光線によっては緑色の光沢を放つ顔を持つ点はカワアイサと共通するが、その後方にある白い首輪と褐色の胸部が異なる。背の前半は黒く、後半は灰色。翼上面は暗色だが次列風切から雨覆に及ぶ広い白色部があり、大雨覆、中雨覆先端の黒色部が作る2本の暗色線によって分断される。翼下面は白色部が広く、腹と合わせて翼を打ち上げた状態では全体的に白っぽい印象を作る。


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 メスは顔が赤褐色で上面が灰色、下面が白色で、上面から見た時は暗色の印象。次列風切が白色のため、中~大型カイツブリ類、特にアカエリカイツブリのように見えることがある。最も紛らわしいのはカワアイサのメスで識別点は後述するが、頭部の褐色が首や背の灰色と明瞭な境界を持たず、漸次的に変化してゆくコントラストの無さ、一様感は本種の特徴である。


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 カワアイサとの比較画像(オス)。基本的に生息環境が異なるが、漁港や内湾では同所的に観察されることがあり、渡りの時には両種ともあらゆる環境で観察されうる。頭部の黒緑色は共通するが、その後ろの白い首輪、胸の栗色はウミアイサに特有で、カワアイサは首から胸まで一様に白い。カワアイサの下面の白色は、初冬の前後にうっすらと桃色を帯びる。カワアイサでは、翼上面の白色部はウミアイサより広く、より前縁に達し、暗色線によって分断されない。


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 カワアイサとの比較画像(メス)。非常によく似るが、カワアイサの頭部の褐色はより赤みを帯び、背や翼上面の灰色はより明るい。カワアイサでは、頭部の赤褐色と首や喉の白色との境界が明瞭で、全体的にコントラストの強い雰囲気を作り出す。翼上面のパターンも微妙に異なるが、本種の場合は顔から胸に着目した方が識別は容易。水面に浮いている状態ではウミアイサの嘴がやや反っているように見える点も重要な識別点であるが、飛翔時にはわからない場合が多い。


(2012年1月29日   千嶋 淳)



コオリガモ(その1) <em>Clangula hyemalis </em>1

2012-01-22 17:09:58 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて コオリガモ 2011年2月17日 北海道十勝郡浦幌町)


 北極圏を囲むように分布し、冬もあまり南下しない海ガモ類。道東へは冬鳥として11月上・中旬に渡来し、翌5月上旬まで滞在する。釧路以東では多く、漁港や岸近くの海上でも普通に観察される。十勝では、陸からは1~数羽が稀に観察される程度であるが、船を用いた調査では沿岸域でやや普通に観察される。それ以南でも室蘭港や青森県大湊周辺では群れを見ることがあり、局所的に分布するものと思われるが、東北地方中部以南では稀である。越夏記録はあるものの、数、頻度とも他の海ガモ類よりは少ない。
 本種は3ステージの複雑な換羽様式を示すが、越夏個体や渡去直前を除き、観察される個体の多くは冬羽である。冬期のオス成鳥は、上の画像のように著しく長い中央尾羽(英語ではsteramer(吹き流し)と称される)をはじめ、全体的な体色や体型、嘴先端部のピンク色、首や頭部側面の暗色斑等、光線や距離に問題が無ければ容易に判別できる特徴を多く持つ。
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 オスだが中央尾羽は短く、嘴先端のピンク色を欠き、顔は白色。換羽が遅いか若い個体と思われる。渡り時には水平線高くを飛ぶことも多いが、越冬中の移動や逃避にはこのように海面近くを飛ぶ傾向がある。すべての羽衣において、翼の上下面とも暗色なのは本種の特徴。ただし、近距離では羽軸が白っぽく光ることがあり、また雨覆の先端はやや淡色。


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 メス。中央尾羽の突出を欠くためオスより寸胴な体型に見える。全体的な体色も、特に翼を打ち下ろした時には暗色な印象を受ける。首の側面にはオス同様暗色斑があり、その上部もやや暗色がかるので、首の下方はそれより後方の暗色部とのコントラストで首輪状に見える。胸を除く体下面は白っぽく、顔と同様、順光や暗い背景に対してはよく目立つ。両性とも首は短くて太めで、例えばシノリガモのような首から頭部にかけての顕著な膨らみは認められない。


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 海上を飛ぶオス(左)とメス。低い飛翔高度や速い羽ばたき、丸みのある体型、白黒の体色、特に腰の両側まで下面の白色が及ぶ点等から、メスや若鳥はウミガラス類やケイマフリ類といった中型以上のウミスズメ類のように見えることがある。これは海上に浮いている時も同様。
 英国と米国で鳥名が異なるのは、アビ類、コクガン、トウゾクカモメ類、ハシブトウミガラス等海鳥の世界でも多く見られるが、本種も同様で英名はLong-tailed Duck、米名はOldsquaw。前者はオスの見たままの命名で、後者は白と褐色の混じる体を「老女」に見立てたものである。


(2012年1月22日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。



ホオジロガモ(その2) <em>Bucephala clangula </em>2

2012-01-19 23:55:32 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ホオジロガモ 2012年1月14日 北海道十勝川中流域)


 先の記事に引き続き、厳冬の十勝川中流で撮影した飛翔画像を紹介する。オス成鳥はこのように上面がはっきり見える角度であれば、翼上面の広い白色部と合わせて肩羽の細長い白線もよく目立つ。首が短く、胸から腹にかけて膨らみのある独特の体型も本種の重要な特徴。「Flight Identification of European Seabirds」(ヨーロッパの海鳥の飛翔識別図鑑)では、本種の総合的な印象をcompact and chubby(ぎっしり詰まって、丸々と太った)と表現しているが、実に的確といえる。
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 オス(上)とメスの飛翔。オスでは首から腹にかけての下半身が純白で非常に白っぽい印象を受けるのに対して、メスは上面の暗灰色が胸まで広がり、全体的に暗色な感じがする。オスほどではないが肩羽には白っぽいラインが入る。メスの翼上面の白色部は2本の暗色横帯によって分断されるが、前方(中雨覆)のラインの方が太い。


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 メス成鳥の斜め下からの外観。頭部の褐色と胸の暗灰色との間にある白い「首輪」は、この角度からも顕著。翼下面はすべての羽衣で次列風切以外は暗色で、このように光がよく当たっても黒っぽく見える。


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 メスの成鳥(左)と幼鳥。幼鳥は上面や虹彩が暗色で、「首輪」は不明瞭。翼上面は中雨覆がやや暗色なため白色部が狭く、それを分断する暗色線も1本のように見える。


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 逆光気味の下方からのメス2羽。光が透過する次列風切以外の白色は目立たず、順光下よりも更に暗色な印象を与える。このような条件では、色そのものよりシルエットが識別の手がかりとなる場合もある。


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 オス成鳥(最左)とカワアイサのオス3羽。大きめの河川中・下流部や湖沼、漁港等では同所的に見られることがあり、飛翔時の全体的な配色にやや類似点はあるものの、大きさや体型、嘴の形状等が大きく異なるため、混同することは少ないだろう。カワアイサはアイサ類特有の全体的に、特に首が細長い体型と鉤状の細長い嘴を持つ。


(2012年1月19日   千嶋 淳)