
All Photos by Chishima,J.
(小雨降る河川敷のノゴマ・オス 2007年6月 北海道中川郡幕別町)
小雨に煙る河川敷の草原で、1羽のノゴマの雄に出会った。水滴が与えた艶が草々の瑞々しさを引き立て、その中に打ち込まれた測量杭を赤く染める塗料や巻かれたピンクテープの蛍光色さえも飲み込もうとしている朝、1羽のノゴマの雄に出会った。彼の体は濡れていたがそこにみすぼらしさは無く、彼も今の自分の状態に不自由を感じている風ではなかった。つい先頃、雨が降り出すまでは力強く囀っていたようだが、今は囀るでもなく、かといって近くの潅木に引っ込むでもなく、この弱い雨に打たれている。晴天時なら青空や土埃に掻き消されそうなボディの褐色が、喉のルビー色や眉、喉の白線、目先の黒色に劣ることなく、背後の緑に映えて優しい対比を成していたのが印象的だった。
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「ケケシ、ケケ」、近くでオオヨシキリが弱々しく鳴いた。日本の多くの水辺で代表的な夏の小鳥である本種も、十勝地方では分布の辺縁であるせいか数が少なく、出会いの機会は少ない。もっとも、十勝川が直線化され、背後の湖沼や湿原が埋め立てや乾燥化される以前の数十年前には、少なからぬ数がいたようであるが。それはともかく、本州の草いきれに噎せ返る真夏のヨシ原であっても力強く、そしてけたたましく自己主張する本種を見て育ってきた私にとって、十勝のオオヨシキリが何とも自信無さげに、かつ途切れ途切れに囀るのがいたく不思議である。周囲に同類が少なく不安なのか、あるいは替わって近縁種のコヨシキリが多くて遠慮しているのか…。そんな思いに捉われていると、件のオオヨシキリは去年の枯れ草を伝って姿を現してくれた。本州でなら毒々しいほど鮮やかな目一杯に開いた口中の赤も、半開きの口中では中途半端な赤に感じた。
オオヨシキリ
2007年6月 北海道中川郡幕別町

コヨシキリ
2007年6月 北海道中川郡池田町
こちらは晴れた朝に撮影したもの。白い眉斑上の黒線が特徴。歌はオオヨシキリより軽快でリズミカル。

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本州以南の各地から梅雨入りや大雨の報が聞こえてくる今日この頃だが、梅雨とは無縁と思われている北海道でも6月後半から7月前半にかけて雨や曇天が続き、「蝦夷梅雨」などと呼ばれたりもする。
雨が降ると、自身や機材が濡れるのを避けてつい野外に出なくなりがちだが、実は雨の日は雨の日なりの魅力がある。上記ノゴマのように晴天の乾燥した時より周囲の緑をはじめとした風景が優しいタッチになることにくわえ、猛禽類など天敵が不活発になっていることから来る寛容さによるのか、鳥がこちらの接近を許してくれる。またこの時期、晴天時には午前中の早い時間に活動を停止してしまうか、少なくとも人間の目には付きにくくなる多くの小鳥が日中でも観察可能なのも雨天時の魅力の一つといえる。
正面顔(ノゴマ・オス)
2007年6月 北海道中川郡幕別町

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雨に濡れてその美しさを増すのは、何も鳥だけではない。これからの時期原野や湿原を彩るヒオウギアヤメやノハナショウブといったアヤメ類の青は、雨や霧の雫に濡れ、暗雲を背後にしてより映える気がする。アヤメに限らず、フウロの類やツユクサ等青~紫系の花は、雨と結びついた時に美しさの真価を発揮すると感じるのは私だけだろうか。
ノゴマやオオヨシキリを観察した日の午後、いよいよ本格的に降り始めた雨の中、海岸の原生花園へ出かけた。予想通り、ぽつぽつ咲き始めたアヤメ類の紫は生き生きとしていたが、いざ写真を撮ろうという段になって、花用のレンズを持って来ていないことに気付いた。自分のドジさに苦笑しながら、一方で肩の荷が下りたような気もして、誰もいない原生花園での昼寝を楽しんだ。
ヒオウギアヤメ
2006年6月 北海道中川郡豊頃町

6月中・下旬の花4点
カラマツソウ
2007年6月 北海道帯広市

サイハイラン
2007年6月 北海道帯広市

コケイラン(黄色の花)
2006年6月 北海道中川郡幕別町
右側にはピンク色のサイハイランの姿も見える。

エゾノハナシノブ
2007年6月 北海道帯広市

(2007年6月20日 千嶋 淳)