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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

小さな猛禽

2006-12-06 12:08:16 | 猛禽類
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All photos by Chishima,J.
オオモズ 2006年11月 北海道中川郡豊頃町)


 ヨシをはじめとする草本から緑が褪せ、木が纏っていた葉を落とすと、雪が白銀の世界に変えてしまうまで、河川敷は褐色の支配する空間となる。日々強くなる北寄りの風も相まって、何とも荒漠たる風景である。そんな褐色の中に、一粒の白点を見つけることがこの時期たまにある。潅木の頂を、雪に先駆けて白く彩ったその点は、近付いて行くにつれ鳥であることがわかる。鋭い眼光がじっと原野を見つめている。オオモズである。
枯野のオオモズ
2006年11月 北海道十勝郡浦幌町
中央やや右よりの枝先に止まっている。
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 北海道では夏の観察例もあるが、大部分は冬鳥として夏鳥がほぼいなくなるのと入れ替わるように渡来する。数は少なく、そうそう出会える鳥ではない。十勝地方では十勝川下流域での記録が多いが、帯広や新得といった内陸部でも記録はある。越冬中は単独かペアでテリトリーを確立するとされるが、私は単独でしか見たことがない。


杭に止まろうとしているオオモズ
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
初列風切基部の白斑は飛翔時に目立つ。
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 潅木の頂上等から周囲を見渡し、獲物を見つけると一直線に飛んで行って捕える。また、堤防に少なからずあるキロポスト等の看板や測量杭も潅木と同じ役割を果たすとみえて、格好の止まり場となっている。十勝川の周辺では主に地面で昆虫等の無脊椎動物を捕食していることが多い。しかし、時にはモズよりも大きな体ならではの「猛禽ぶり」を示すこともある。


格好の止まり場(オオモズ
2006年11月 北海道中川郡豊頃町

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地上から止まり場に戻る(オオモズ
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
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 あれは4年近く前の冬の終わり。十勝川に近い原野でオオモズを観察していたところ、突然密集した潅木の中に飛び込んでいった。すぐに出て来るかと思ったが、なかなか出て来ないので目を凝らして潅木の中を探す。彼(女?)はすぐ目の前にいた。そして、その嘴にはマヒワがくわえられていた。勿論、正に今狩られたばかりのものである。観察を続けていると、オオモズはマヒワを潅木の枝先に突き刺した。最初ははやにえとして貯食するつもりなのかと思ったが、今度はそれを食べ始めた。枝に刺したのは後で食べるためではなく、マヒワを固定して食べやすくするためだったようだ。それから程無くしてマヒワ1羽を食べてしまったように記憶している。図らずも目の前で展開された野生のドラマに、深い感銘を受けたものである。


真下から見たマヒワ
2006年2月 北海道帯広市
細い嘴とM字型の尾羽が、側面から見るより顕著である。
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 そのオオモズが世界的に減少しているという。特にヨーロッパでは、1970年代から1990年代にかけて、主として農業の集約化による生息環境の喪失や農薬の使用により、広範囲で減少したらしい。行動圏が広いために生息地の破壊や分断の影響を受けやすいようだ。そういえば十勝で川の周りでよく見られるのも、そこ以外にはオオモズの好む環境がまとまった面積で残されていないからかもしれない。冬枯れの原野で、季節風に揺られながら睨みを効かせる孤高の野武士的存在である小さな猛禽との出会いを、いつまでも楽しみたいものである。


オオモズ
2006年4月 北海道中川郡池田町
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(2006年12月5日   千嶋 淳)


生命を潤す屍

2006-11-04 11:26:49 | 猛禽類
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All photos by Chishima,J.
オジロワシの亜成鳥 2006年11月 北海道中川郡幕別町)


 すっかり遅くなった朝の陽が、漆黒から群青へその色を変えようとしている深みから、黒っぽい塊が水飛沫と「ビチビチビチ…」という音を伴って、浅瀬へ乗り上げてきた。60cmはあろうかという大きな塊はよく見ると魚で、緑黒色がかった体の側面にはくすんだ赤紫の班が染みのように滲んでいる。海で獲れる全身銀色の「ギンケ」とは、「ブナケ」と呼ばれて区別される、婚姻色の出たサケである。アリューシャン列島周辺など北洋での4、5年の回遊生活を終え、十勝川を中流まで遡上してきた。体の3分の2ほどが水面上に出てしまっているが、体をくねらし水飛沫を撒き散らしながら勢いよく浅瀬を上ってゆく。これを繰り返すこと数回、無事浅瀬を通過したサケは、流れの中でひしめく多くの仲間たちと合流した。
浅瀬を猛進するサケ
2006年11月 北海道十勝川中流域
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流れを上るサケの群れ
2006年11月 北海道十勝川中流域
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 しかし、これらのサケたちが子孫を残すことはない。ここは十勝川中流域に現在建設中の人工水路。サケが泳ぐ流れのすぐ上で、マンホールを通して地中を通過する水路は、金網によってそれより上流や本流との交流が遮断されている。サケはこれ以上上流へ進むことができないのだ。川を上ってきたサケは大抵傷だらけなものだが、ここでは頭部に傷を負っている個体が多い。おそらく、金網を突破しようと何度も突進した結果だろう。金網につき刺さった状態で死んでいる個体もいる。そして、周囲の川原には力尽きたサケの死体が、累々と打ち上げられている。


命燃え尽きたサケたち
2006年11月 北海道十勝川中流域
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 環境問題が流行るようになってからの建造物の御他聞に漏れず、この水路にも魚道は併設されている。さらに、1億円の工費をかけて魚道を観察する施設の建設も計画されている。ただ、来年の通水を目前に急ピッチで工事の進む現在の水路では、それは機能していないらしい。来年だったら無事通過できただろうに、今年のサケは運が悪かったとしか言いようがない。もっとも、この水路に入り込まなかったところで、堰堤や捕獲場で大部分捕えられてしまうし、自然産卵できるような環境も非常に限られているのではあるが…。


浅瀬のサケ
2006年11月 北海道十勝川中流域
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 力尽き、川原に打ち上げられたサケの屍が、このまま朽ち果ててゆくだけかというと、そうでもない。鳥だけを考えてみても実に多くの生命を養っている。
 その筆頭はオオセグロカモメだろうか。サケ遡上の走りとともに姿を現し、盛期の10月頃には50羽を越えることもあり、その眺めはここが河川中流域であることを忘れさせてくれるほどである。季節が進むと、少数だがセグロカモメやシロカモメ、カモメなども姿を見せる。また、カラス類も多く、方々でサケの領有権をめぐってカモメ類といざこざを起こしている。カラスは、単独では体の大きなカモメ類と張り合えないが、数羽で割り込んでみたり、そうした割り込みに対してカモメ類が威嚇している隙にサケをつついたりと、あの手この手でこの魅力的な餌にありつこうとしている。秋晴れの青空を映し出した水路ではこの時期、カラスとカモメ類の喧嘩の声や、カモメ類が同種や他種を威嚇する声が絶えることがない。


サケを食べるオオセグロカモメ(成鳥)とそれを窺うハシボソガラス
2006年11月 北海道十勝川中流域
カラスの前にもサケの死体はあるのだが、なぜかカモメが気になるようだ。
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サケの屍を前に周囲を威嚇するオオセグロカモメの成鳥
2006年11月 北海道十勝川中流域
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 止水域の凍結が始まる11月後半から12月頃には、水路を賑わせていたカモメ類、カラス類、それにトビは徐々に姿を消し、代わりにオジロワシやオオワシの姿が目立つようになる。サケの死体が減ってきたことにくわえて、ワシのように強靭な嘴や爪を持ったものだけが、凍ったサケを上手に食べることができるためだろう。この頃には、概ね孵化場ではあるがサケの孵化がさかんになる。また新たな生命の環が回り始める。


トビ
2006年10月 北海道十勝川中流域
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オジロワシ(幼鳥)
2006年10月 北海道十勝川中流域
十勝川中流域ではオオワシより早くから見られる。
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オオワシ(亜成鳥)
2006年3月 北海道十勝郡浦幌町
10月末に渡来し、12月頃から内陸にも少数が飛来する。
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(2006年11月3日   千嶋 淳)


小競り合い

2006-10-30 22:39:25 | 猛禽類
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All photos by Chishima,J.
トビ(左)に追われるミサゴ 2006年10月 北海道中川郡豊頃町)


 そよ風が青空を映した水面を渡り、ヨシの穂やヤナギの枝先をはらはらと、かすかに震わせた。その水面の真ん中から突き出した枯れ木の頂では、先ほどから渡り途中のミサゴが1羽、30cmは優にあろうかという大型の魚をついばんでいる。上空からは、タヒバリやカワラヒワの群れが移動してゆく声が聞こえる。10月下旬の昼下がり、十勝川下流域にあるこの小さな沼には、初秋とも晩秋とも異なる、中秋独特の穏やかな時間が流れていた。
ミサゴのいる風景
2006年10月 北海道中川郡豊頃町
写真では小さいが、沼中央の水面から出た枯れ木に止まっている。
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 突然、1羽のトビが急降下しながら、ミサゴに突っかかってきた。ミサゴは慌てて飛び立ったが、トビは執拗に追いかけてくる。ミサゴの持っている魚を狙っている雰囲気だが、ミサゴも苦労して捕えたであろう大物をみすみす奪われたくはないようで、しっかり掴んだまま重そうに飛んでいる。逃げ回りながら、「キュン キュン」とおよそ猛禽類らしくない可愛く細い声で鳴いている。低空で魚を掴んだまま、小回りの利くトビを回避するのは困難と判断したのか、ミサゴは旋回・上昇を始めた。トビもその後を追う。どこから出てきたのかミサゴがもう1羽旋回・上昇に加わり、3羽の猛禽類はどんどん中空の一点へと、ゴマ粒のように小さくなってゆく。


追いかけるトビ・逃げるミサゴ
2006年10月 北海道中川郡豊頃町
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 ミサゴはその精悍な容姿とは裏腹に気は弱いらしく、しばしばトビやカラスに追い回されながら例の情けない声を出している。そういえば、これは関東での話だが、やはり30cm強の大魚を仕留めたミサゴがそのまま旋回・上昇し、ついには目視困難なほどになってしまったことがあった。繁殖期なら巣に運ぶのかと考えるところだが、11月の出来事だったので、これもしつこいトビやカラスをかわそうということなのかもしれない。


ミサゴの汎翔
2006年10月 北海道中川郡豊頃町
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 そのトビはオジロワシが現われると、追う側から今度は追われる側へ転ずることが多い。もっともそのオジロワシは、いつもカラスにちょっかいを出されて逃げ回っているのだから、大きければ強いというわけでもない。猛禽類の中だけで考えても、ツミなんかは一番小さいながら気性は激しいようで、テリトリーとは無縁な渡り途中でもオオタカやサシバなど自らより大型の猛禽につっかかってゆくのを見ることがある。


トビを追うオジロワシの若鳥
2006年4月 北海道中川郡豊頃町

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ハシブトガラスに攻撃されるオジロワシ
2006年4月 北海道十勝郡浦幌町
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 そんなことを考えていると、トビの追跡を振り切ったらしいミサゴが、無事魚を持ったまま、再び件の枯れ木に止まった。先ほどまで3羽が鎬を削っていた秋空には、今度はノスリが1羽、ゆっくりと円を描いている。その上をこれまたタヒバリの小群がぱらぱらと通過してゆく。長い冬へのカウントダウンを束の間忘れさせてくれる、秋の小春日和に私は鳥たちとともに今しばし酔いしれることを決めた。


魚を掴んで飛ぶミサゴ
2006年10月 北海道中川郡豊頃町
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ノスリ
2006年10月 北海道厚岸郡浜中町
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タヒバリ(冬羽)
2006年10月 北海道中川郡豊頃町
秋の道東ではものすごい数が通過する。
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(2006年10月30日   千嶋 淳)


あぁ驚いた!

2006-05-11 23:00:03 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J. 
アカアシチョウゲンボウのメス 2006年5月 北海道十勝川流域)

 晴れた5月の十勝川の堤防は、それは快適な場所である。河川敷のヤナギ林は褐色の寒々した景観から一転して瑞々しい新緑に覆われ、その合間からは空の蒼を映した川面が悠然と流れている。陽炎に揺れる農耕地や丘陵の奥には、遠く残雪を頂いた大雪や日高の山並みを一望できる。そして、一日中ほぼ止むことなく天空から降り注ぐヒバリの囀りは、これらの風景を引き立てる、格好のBGMとなる。
 このままここで発泡性の麦の飲料を…という強い衝動を抑え、堤防を進んでいると前方から小型の猛禽類が飛び立った。昼前からやや強くなり始めた日高おろしに煽られながらひらひらと飛んだその鳥は、中空の一点で停空飛翔(ホバリング)を始めた。「チョウゲン!」チョウゲンボウは本州以南ではありふれた猛禽類だが、十勝では主に渡りの時期に少数が通過する程度で、年によってはコチョウゲンボウより少なかったりもする。折角の機会なのでと望遠レンズを覗くと、ファインダー越しに見る鳥の上面は灰黒色であった。顔にはハヤブサ髭も見える。「ありゃ、チゴハヤか。」チゴハヤブサは春夏の十勝ではもっとも普通のハヤブサ類であり、ちょうど5月上・中旬にかけて渡来する。「チゴハヤとチョウゲンを間違えるとは、己の目も腐ったか…。」苦笑しながら前方の猛禽類に目を向ける。しかし、よく考えるとチゴハヤブサがホバリングというのも珍しい。アマツバメ類のような鎌型の翼を持った本種は、空中を飛翔する昆虫を巧みに捕食するのはよく観察されるが、ホバリングを見たのは初めてである。

チョウゲンボウ
2006年2月 群馬県伊勢崎市
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チゴハヤブサ(幼鳥)
2005年9月 北海道中川郡幕別町
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 風が強くて上空に昆虫がいないのだろうか。そんな想像を巡らせながら撮影していると鳥は少し遠ざかったので、カメラの液晶画面で出来を確認する。何枚か見ているうちにおかしなことに気が付いた。チゴハヤブサにしては蝋膜(嘴の基部)が赤すぎるのである。それに胸から下の模様も、チゴハヤブサのような縦斑ではなく、ハート型をしている。「これは、ひょっとしてアレでないかい?」。「落ち着け、いいか落ち着け…まずは証拠写真だ」と自分に言い聞かせながら写真を撮る。言葉とは裏腹にシャッターを切る手は震え、顔面からは脂汗が噴出している。数分後、前方から勢いよく飛んで来て背後の杭に止まったその猛禽は、まぎれもないアカアシチョウゲンボウの雌であった。

停空飛翔するアカアシチョウゲンボウ
2006年5月 北海道十勝川流域

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アカアシチョウゲンボウの飛翔
2006年5月 北海道十勝川流域
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 アカアシチョウゲンボウはロシア沿海州などのアジア東部で繁殖し、冬はインドを経由してアフリカ大陸まで渡る長距離旅行者である。何らかの間違いで、本来の生息域である大陸から外れて日本列島にやって来てしまったのだろう。北海道では根室や道北の天塩町、また十勝でも記録があり、私自身も1994年11月に浜中町で幼鳥1羽を観察している。それでも、たいへん珍しい鳥であることに変わりはない。
 珍鳥・迷鳥との出会いは、その個体の境遇とは反対に嬉しいものであるが、自分のフィールドでの出会いは格別である。特に今回は、この連休も道東にアザラシ調査へ出たくらいで終わってしまい、各地の珍鳥情報を恨めしく聞いていた自分に天からご褒美を頂いたようで喜びもひとしおであった。こういうことがあるから鳥見は止められない。
追記:帰宅した自分が発泡性の麦の飲料を大量に呑んだのは、言うまでもない。

ハヤブサ科の仲間たち

ハヤブサ(成鳥)
2006年4月 北海道十勝川下流域
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コチョウゲンボウ(メスか幼鳥)
2006年4月 北海道十勝川下流域
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(2006年5月11日   千嶋 淳)


海ワシ?山ワシ?

2006-03-19 03:08:44 | 猛禽類
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Photo by Chishima,J. 
オオワシ亜成鳥の飛び立ち 2006年3月 北海道根室市)

 少数のオジロワシは北海道で繁殖・越夏するが、大部分の個体とオオワシは冬期に北方より飛来する。流氷の根室海峡でスケトウダラ漁船団のおこぼれに群がったり、海辺で海ガモ類を捕らえたりしている姿は、これらの鳥を「海ワシ」と呼ばせるのにふさわしい光景といえる。
オジロワシ(成鳥)の飛翔
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

 ところが最近、風蓮湖など氷下漁業が盛んでその恩恵に預かれるような地域を除くと海の近くで見られる海ワシ類の数が少ないような気がする。十勝でも渡来後しばらくは海岸部や十勝川下流域で力尽きたサケなどに付いているが、それらが減ってくる冬の後半にさしかかると、ワシに出会う機会もぐっと少なくなる。

オジロワシ(若鳥)
2006年3月 北海道十勝川中流域
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Photo by Chishima,J. 

 その一方で、同じ時期に山間部で見かける「海ワシ」の数はずいぶん増えてきたようだ。流氷や砂丘海岸ではなく、針広混交林やダム湖を背景に飛ぶオオワシやオジロワシの姿に、最初は違和感を覚えたものだが、近年では当たり前の風景になってきた。こうなるとこれらは海ワシなのか、それとも山ワシということになるのか少々複雑だが、これらの個体の主要な餌資源はエゾシカである。

山間を飛ぶオオワシ(若鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

エゾシカ
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

 エゾシカは急激な個体数の増加による林業や農業への被害が各地で問題となっているが、それらを反映した狩猟・有害獣駆除による残滓や越冬中の餓死個体の増加は、ワシたちに厳しい冬の間の食糧を提供することになる。厳冬期にも関わらず豊富に供給される動物性タンパク質に目をつけたのは海ワシ類だけではないようで、ワタリガラスも山間部へ多数飛来しているし、土着のクマタカもシカ残滓を利用しているそうである。

ワタリガラス
2006年3月 北海道
「コア…」、甲高い声が谷間に響くと2羽のくさび形の尾をしたカラスが現れた。
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Photo by Chishima,J. 

クマタカ(成鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

 これだけで終わってくれれば、ふんだんに利用可能な餌生物をめざとく見つけ、習性を変化させた野生動物の逞しさともいえるのだが、残念ながらそうはいかなかった。有名な鉛中毒の問題である。すなわち、残滓の中に残留している銃弾の鉛により、ワシたちが中毒を起こし、無視できない数が死んでいる問題である。鉛弾の使用規制や残滓の回収強化などの策が講じられてはいるが、根本的な解決にはまだ時間と努力が必要なようだ。
 1980年代には知床のスケトウダラ漁業という人間活動に依存していた海ワシたちは、1990年代の水揚げ量減少という人間側の都合によって各地に分散するようになり、その過程で山間部の越冬地においてやはり人間活動によって生じたシカ残滓を発見し、結果鉛弾という人間側の事情により死亡する事態に至っている。その精悍な顔つきから、自然界における孤高の存在的なイメージで見られることがあるオオワシやオジロワシも、現代の日本では人間の動きに大きく影響されながら冬を越している。

オオワシ(成鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

オジロワシ(若鳥)
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月19日   千嶋 淳)