
All photos by Chishima,J.
(オオモズ 2006年11月 北海道中川郡豊頃町)
ヨシをはじめとする草本から緑が褪せ、木が纏っていた葉を落とすと、雪が白銀の世界に変えてしまうまで、河川敷は褐色の支配する空間となる。日々強くなる北寄りの風も相まって、何とも荒漠たる風景である。そんな褐色の中に、一粒の白点を見つけることがこの時期たまにある。潅木の頂を、雪に先駆けて白く彩ったその点は、近付いて行くにつれ鳥であることがわかる。鋭い眼光がじっと原野を見つめている。オオモズである。
枯野のオオモズ
2006年11月 北海道十勝郡浦幌町
中央やや右よりの枝先に止まっている。

北海道では夏の観察例もあるが、大部分は冬鳥として夏鳥がほぼいなくなるのと入れ替わるように渡来する。数は少なく、そうそう出会える鳥ではない。十勝地方では十勝川下流域での記録が多いが、帯広や新得といった内陸部でも記録はある。越冬中は単独かペアでテリトリーを確立するとされるが、私は単独でしか見たことがない。
杭に止まろうとしているオオモズ
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
初列風切基部の白斑は飛翔時に目立つ。

潅木の頂上等から周囲を見渡し、獲物を見つけると一直線に飛んで行って捕える。また、堤防に少なからずあるキロポスト等の看板や測量杭も潅木と同じ役割を果たすとみえて、格好の止まり場となっている。十勝川の周辺では主に地面で昆虫等の無脊椎動物を捕食していることが多い。しかし、時にはモズよりも大きな体ならではの「猛禽ぶり」を示すこともある。
格好の止まり場(オオモズ)
2006年11月 北海道中川郡豊頃町


地上から止まり場に戻る(オオモズ)
2006年11月 北海道中川郡豊頃町

あれは4年近く前の冬の終わり。十勝川に近い原野でオオモズを観察していたところ、突然密集した潅木の中に飛び込んでいった。すぐに出て来るかと思ったが、なかなか出て来ないので目を凝らして潅木の中を探す。彼(女?)はすぐ目の前にいた。そして、その嘴にはマヒワがくわえられていた。勿論、正に今狩られたばかりのものである。観察を続けていると、オオモズはマヒワを潅木の枝先に突き刺した。最初ははやにえとして貯食するつもりなのかと思ったが、今度はそれを食べ始めた。枝に刺したのは後で食べるためではなく、マヒワを固定して食べやすくするためだったようだ。それから程無くしてマヒワ1羽を食べてしまったように記憶している。図らずも目の前で展開された野生のドラマに、深い感銘を受けたものである。
真下から見たマヒワ
2006年2月 北海道帯広市
細い嘴とM字型の尾羽が、側面から見るより顕著である。

そのオオモズが世界的に減少しているという。特にヨーロッパでは、1970年代から1990年代にかけて、主として農業の集約化による生息環境の喪失や農薬の使用により、広範囲で減少したらしい。行動圏が広いために生息地の破壊や分断の影響を受けやすいようだ。そういえば十勝で川の周りでよく見られるのも、そこ以外にはオオモズの好む環境がまとまった面積で残されていないからかもしれない。冬枯れの原野で、季節風に揺られながら睨みを効かせる孤高の野武士的存在である小さな猛禽との出会いを、いつまでも楽しみたいものである。
オオモズ
2006年4月 北海道中川郡池田町

(2006年12月5日 千嶋 淳)