昨日、天竜茶を栽培している農家さんと話をした。この方、太田昌孝さんは洞爺湖サミットで供されたお茶を栽培した方で、以前、うかがった時に飲ませてもらったお茶の味は衝撃的だった。
あんなに「旨い」お茶は飲んだことがない。ほぼ透明に近い浅緑で、口に含むと昆布や鰹節からひいた出汁のような濃厚な旨味が口いっぱいに広がったのだ。品評会入賞茶の味は幸福感に浸れる味だった。
太田さんはお茶を「娘より可愛いぞ」と言って、大事に大事に育ててきた。
「子どもが寒がれば親が肌掛けをかけてやるように、お茶の木にだって、健康に育つように風避けもしてやれば、上にネットも張ってやるだよ。布団代わりに敷き草も敷いてやっているさ」
母が静岡出身なので、私には馴染みのある田舎言葉で太田さんはそう言った。
一緒に歩いた茶畑の中は木の根元まで敷き草が敷き詰められていて、ふかふかで暖かかった。この敷き草が有機肥料とともに、お茶の木に栄養を与える豊かな土壌を作り出すのである。
手摘みの極意である「一芯二葉」という言葉を教えてくれたのも太田さんだ。
それが今回の原発事故で今、太田さんたち静岡のお茶農家も大変な目に遭っている。
「俺らはな~んにも悪いことはしてねえぞ。なのに、なんだ? 出荷してくれと言っている農家はまるで悪者扱いだ。おかしくねえか? 俺らだって被害者だよ」
静岡県の場合、私は県知事の初動がよろしくなかったと思っている。荒茶の検査を拒否したり、飲む時は薄まるので大丈夫と言ったり、ガタついて、逆に不信感を煽ってしまったのではないかと思う。
20日にパリの空港で、静岡茶から暫定規制値を上回る放射性セシウムが検出されたと発表され、農水省は輸出用の静岡の玄米茶であるとしたが、翌日別の新茶だったと訂正した。そんなこともさらに不信感を募らせる結果となった。
輸出事業者の在庫分を調査したら、やはり暫定規制値を上回る放射性セシウムが検出されたため、お茶の生産者、輸出事業者に出荷自粛と自主回収を要請している。それも追い打ちをかけて、静岡茶も厳しい状況に陥っている。
まだ福島原発からひょろひょろと放射性物質が放出されているのだから、低線量でもそこら中に拡散しているのだろう。
汚染水の処理は思うように進んでいない。取ってつけたような各国の混成チームじゃ、足並みも技術も不揃いなのだ。汚染水処理が追い付かず、梅雨時期の降雨で溢れ出す危険性も拭い切れない。
太田さんに「応援しています」と言ったけど、どうしようもない……、農家さんたちを慰めようもない。どうしたらいい?
子どもを放射能から守りたいと福島からどこかへ移転したいと願う母親に「福島に嫁いだ嫁なら福島へ帰ってこい」と迫る義父母やダンナがいると聞く。あまりの辛さに離婚も考えているそうだ。
被害者なのに悪者扱い。政治家の皆さん、官僚の皆さん、東電幹部の皆さん、日本国の皆さん、この状況、どう思う?