人間のフケは頭皮の皮脂が新陳代謝によって、古いものから新しいものに入れ替わる時に、角化して剥離したものです。全身の皮膚に起こる新陳代謝のなかで、毛に覆われた頭皮の場合、フケになっているだけなので、フケが出ることはごく自然なことですね。
全身が被毛に覆われている犬の場合、フケが見られるのは頭部だけじゃありません。普段はそれほど見られないのに、何かのきっかけで、急に飼い犬のフケが目立って分かるようなことがあります。
今朝、河川敷の土手道で10カ月のハイパーなチョコラブ・ジョイ君に会いました。ジョイ君を他の犬に慣れさせたいという飼い主さんのお願いもあって、3頭をジョイ君と一緒に歩かせることにしたのですが、ジョイ君はパンティングも半端じゃないし、絶えず落着きなくうちの犬たちの匂いを嗅ぎまくり、吠えたり、ぶつかってきたり、まだ静かに歩くということができません。
あまりのしつこさにブナやトチが吠えて怒ると、怒られるたびにジョイ君は「キャン」と体には似合わない子犬声を出し、いっとき身を引くのですが、かまってもらいたいあまり、またすぐに吠えたてたり、お尻を嗅ぎまわったりするのです。
慣れさせてあげたいのは山々なのですが、ジョイ君に追い立てられるようにハイペースで歩かされていた14歳のトチがしんどそうだったので、いつも歩いて行く場所まで同行するとジョイ君とは別れて引き返しました。
ジョイ君のヨダレまみれになったブナやトチの被毛を拭いてやろうとしたとき、ブナの首回り、トチの腰回りに大量のフケが浮き上がっていることに気づきました。車から降ろしたときには、そんな大量のフケは見られなかったのに。
犬は急激なストレスがかかったり、緊張や興奮をすると急にフケを出します。正確には急に出るのではなく、今まで毛が寝ていたために見えなかったフケが表面に浮き上がってくるため、急にフケが出たように見えるんですね。どういうことかというと…。
皮下には、脂腺の下を通って毛包下端に結ばれた立毛筋と呼ばれる筋肉があります。この立毛筋は自律神経によって収縮します。
自律神経は交感神経と副交感神経のふたつに分かれていますが、このふたつの神経は反対の働きをしながらバランスを取って体の状態を調節しています。よく耳にするようになった「自律神経失調症」というのは、このふたつの自律神経のバランスが崩れたためにおこる、さまざまな体の不調のことです。
で、立毛筋はどちらの神経に支配されているかというと交感神経です。恐怖や驚き、興奮などのストレスがかかると、この交感神経の働きによって、ストレス反応の中心的役割を果たす神経伝達物質であるアドレナリンが血中に放出されます。アドレナリンが放出されると心拍数や血圧、血糖値が上がったり、筋肉の活動も高まります。
そこで立毛筋も収縮するというわけです。犬や猫が相手を威嚇するときも、この筋肉が収縮して毛を直立させているのです。毛を立てて体を大きく見せようとする自衛反応ですね。
犬の場合、急にフケが出たように見えるのは、ストレス反応によって立毛筋が収縮し、フケが表面化したということがいえます。今朝のジョイ君との散歩は、ブナやトチにとってフケを表面化させるほど「いい加減にせ~よ」という状態だったらしいです。